2003-07-01
衆議院
池田明史
イラク人道復興支援並びに国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会
池田明史の発言 (イラク人道復興支援並びに国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会)
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○池田参考人 池田でございます。
私は、国際政治を専攻する研究者でありまして、とりわけ、これまでは、中東における紛争問題及び紛争解決のプロセス、あるいは我が国の中東政策の変遷といったものを主たる研究のテーマとして取り組んできた者でございます。その立場から、今回のイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法案の審議に際して、若干の意見を陳述いたしたいと考えます。
何よりも、私は、イラク戦争後のこの地域の安定と復興という問題に我が国が最大限の関心を寄せているというこの事実を、広く国際社会に、そして、とりわけイラクの人々及び中東地域の諸国に対して、明確かつ具体的な形で示す必要があろうかと考えております。
振り返ってみますと、一九九一年の湾岸戦争を境といたしまして、我が国の中東政治情勢に対する基本的な姿勢は、非常にドラマチックな、劇的な転換を遂げたように思われるわけであります。
それまでは、要するに、パレスチナ問題とかアラブ・イスラエル紛争、あるいはイラン・イラク戦争など、さまざまな紛争やあつれきを抱えているこの地域の政治情勢に対して、我が国の対応というのはどちらかといえば受動的なものでありました。すなわち、中東が我が国の主たるエネルギーの供給源である、こういう事実を踏まえながらも、そうした経済的な権益を保全するために、政治的には努めて目立たない、ロープロファイルという姿勢を保っていたわけであります。ありていに言えば、要するに、余計な面倒に巻き込まれたくないというような態度に見られても仕方がないような我が国の姿がそこにはあったわけであります。
これが、冷戦構造の崩壊と湾岸戦争という極めて大きな国際政治上の状況変化によりまして、大きく方向を変えて、我が国はより積極的にこの地域の平和と安定の実現のためにみずからかかわっていくのだ、こういう姿勢を高く掲げるようになったのであります。それまでとは逆に、政治的にできるだけ目立つこと、ハイプロファイルということを心がけるようになったわけです。
例えば、マドリード会議あるいはオスロ合意以降のいわゆる中東和平プロセスというものにおいて、今や我が国はアメリカとかヨーロッパと並んで欠くことのできない和平支援勢力とみなされるようになっておりますし、このことは、当事者であるパレスチナやイスラエルの人々、あるいはその周辺のアラブ諸国からも大きな評価や期待を寄せられる立場になっているように思えるわけです。
また、例えばアメリカが悪の枢軸の片割れに位置づけているようなイラン・イスラム共和国に対しても、我が国は、アメリカの敵視政策とは明らかに異なる姿勢、対話と説得、この路線を維持して、アメリカやほかの西側諸国との橋渡しの可能性を持つ相手として、イランからも一定の評価を受けているということであります。
このように、湾岸戦争以降、我が国は中東地域の政治情勢の中で、従前のいわば透明な存在という状況から一転して、それなりの存在感を積み上げてきている、こういうことが言えるように思えるわけです。しかしながら、一方において中東の安定と平和とを求める我が国の積極的な関与というものを是認して、これを多としつつも、他方ではなおこの地域の人々の胸の中に、我が国の腰が必ずしも本当には定まっていないのではないかという猜疑あるいは不安といったものが残っているような印象もまたぬぐえないわけであります。
これまでの我が国のかかわりは、事柄の性質上、目に見える部分では資金援助とか財政支援、ODAといったような、いわばお金の面でのかかわりというものがどうしても前面に出てきていたわけですね。技術協力とかNGOの展開といったようなものも確かにあったわけですけれども、しかし、そのような活動というのはどうしても目に見えにくい。したがって、我々が実際に流しているところの汗という部分が一般民衆のレベルでは非常に伝わりにくいというようなところがございました。
日本はもともと余計な面倒には巻き込まれたくないといったような態度をとってきた国であるというのが、彼らのイメージとして残っているわけですね。だから、積極的な関与と今言っているけれども、今度も結局、簡単に手を出したり引いたりできるところ、つまり経済面とか金銭面での援助でお茶を濁しているだけではないのか、いざとなったら腰が引けてしまうのではないのかといったような疑念というのがどうしても払拭できない、そういう歯がゆい状況が現在あるように思えるわけであります。
このように考えますと、今回のイラクに対する復興支援活動、こういうものへの主体的な参加というものは、我が国にとってはむしろ非常に大きなチャンスと見るべきであろうと考えているのであります。とりわけ、自衛隊という我が国の国権の究極的な発動を担う組織の派出というものを射程に入れることで、中東地域の安定と平和とを希求する我が国の意思を明確かつ具体的な形でこの中東の地域の内外に示すことができるということの意味は、極めて大きいと言わなければなりません。
もとより、現実に派出するに際しては、隊員の安全確保とか任務の実現可能性とか、さまざまな要件を細心の注意を払って検討して、その可否を決定する必要があることは言うまでもないわけでありますが、しかし、現時点で何よりも重要なことは、国際社会に対し、あるいは中東地域に対し、とりわけイラクとその周辺の人々に対して、我が国がイラクの復興と安定に本気で取り組む覚悟があるんだ、こういうメッセージを速やかに伝えるというところにあるんだというふうに考えるわけであります。安全なところからお題目のように平和とか安定といったものを唱えているのではないんだ、それなりのリスクを冒しながらも、日本は国家としてこの地域の混乱の収拾に具体的な役割を果たすんだ、こういう強い意思を表明することが大事なんだと考えているわけであります。
そのことによって、中東和平交渉へのかかわりを初めとする我が国のこれまでの中東地域に対する積極的な姿勢が、単なる技術的、戦術的な政策の集積ではなくて、はっきりとした戦略的な決断に基づく外交路線である、そういうことの裏づけにもなるように思うわけであります。
もちろん、自衛隊の派出の重要性というものは、その象徴性にとどまるものではないわけですね。私はこれまでに、中東におけるさまざま平和維持活動といったものを検分してまいりました。レバノンのUNIFIL、あるいはゴラン高原のUNDOF、シナイ半島のMNFなどであります。そこではっきりと認識したことは、こうした活動を担える組織というのは軍隊ないしこれと同等の組織以外には考えられないという点であります。
自衛隊にせよ、他の諸国の軍隊にせよ、もともとはこのような活動を本務として編成されたものではない、これは確かです。その意味では、国際的な平和協力あるいは戦災復興を担う組織としては、細かい部分で数々のふぐあい、あるいは不適合も出てくる、これはしようがないわけであります。にもかかわらず、言葉の本来の意味での自己完結性を備えた軍隊もしくはこれに準ずる体系的な軍事組織のみがこうした任務を担えるということは動かない。他のどのような組織も、実効性という点でこれに及ぶことは不可能であると考えるに至りました。期待される任務への実際的な適合性とか、あるいは具体的な遂行可能性という面において、自衛隊という組織の関与というものが最も合理的であると考えざるを得ないわけです。
最後に、期待される任務という観点から一言つけ加えて、私の意見陳述を終わりたいと思います。
今回の特別措置法案の審議において想定されている自衛隊の任務は、主として輸送及び補給にかかわるものであるというふうに理解しておりますが、このうち補給、とりわけ水にかかわる補給問題については、今後の我が国の中東への関与を考えるときに、非常に大きな意味を持ってくるように思われるわけです。
御承知のように、中東というのは、水資源というものが著しく偏在、偏って存在している地域であります。将来的には、この水の問題が中東における紛争の主要な要因になり得る、これが我々の懸念でもあるわけです。自衛隊を初めとする我が国の復興支援組織あるいは個人が、イラクの現地において水の浄化とか、あるいはその浄化された水の補給とか配給の実務にかかわって、そのノウハウを蓄積するということは、今後の我が国の中東地域における平和協力あるいは安定化への協力といったものを進める上で、大きな財産を手に入れることを意味します。
任務計画の検討や策定に当たっては、こうした点を十分に踏まえて、より実質的な成果が上げられるような計画が実現することを切に望みますし、また、我々研究者の間においても、中東における長期的な水資源問題への対処という視点から、将来的な我が国の中東地域へのかかわりの幅を広げていく方向で議論を深めていくことが肝要であると痛感しているところであります。(拍手)