森本敏の発言 (憲法調査会安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会)

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○森本参考人 委員長、憲法調査会安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会にお招きをいただき、大変光栄に存じます。安全保障を専門としている者として、当小委員会において、非常事態と憲法、特にテロ等への対処を中心として所見を述べたいと考えます。
 まず、与えられた表題のうち、非常事態という言葉の取り扱い方についてでございます。
 必ずしもこの非常事態という言葉には明確な定義があると理解しておりませんが、去る昭和三十九年七月に提出されました憲法調査会の報告書には、既に昭和三十年代、この問題について当時の憲法調査会で議論が行われ、そのときには、非常事態と緊急事態という二つの概念を討議し、その際、非常事態というのがむしろ広い概念であり、それには、いわゆる戦争、つまり有事以外に、内乱ないし大規模な暴動、あるいは大恐慌などの経済的混乱、自然災害、伝染病の蔓延等いろいろな、いわゆる一般の言葉で言う緊急事態に含むすべての事態を非常事態、すなわち平常ならざる事態と概念し、非常事態の方が緊急事態よりも広い概念として扱っているという議論が行われています。
 しかし、もう一つ物の考え方があって、そうではなく、非常事態というのは、緊急事態という広い概念の中で特に重大かつ深刻な事態を非常事態というのであって、むしろ緊急事態という概念の方が広い意味であるという議論もあり、この二つの概念の取り扱いについては、この報告書では両論が併記されているというふうに考えられます。
 いずれにせよ、その事態に対して憲法上の規定があるかないか、あるいは必要であるかどうかということについても、この種の非常事態あるいは緊急事態に関する基本的な法規定が現行憲法の中にないことが憲法上の欠陥であるとの指摘が行われている一方、そうでは必ずしもなく、本来、かかる事態に対する国家のありようは憲法上の規定を必要とはせず、国家として存続する限り当然国家がなすべき義務であって、そのような規定を設けることによって、むしろ国家が強権を発動し、あるべき姿から逸脱するという懸念が表明されていることから、緊急事態あるいは非常事態に関する憲法上の規定は必要がないという議論がともにあり、この両論が併記されているということであります。
 このことは、今日においてもいずれにせよ未解決の問題であり、非常事態という概念と緊急事態という概念と、さらに有事法制が議論されるに至って有事という概念と、三つの概念をどのように整理をするのかということと、いずれにしても、このような各種の事態に関する憲法上の規定が真に必要であるかどうか、あるいは、必要であればどのような規定が設けられるべきかということについても、我々は今後十分議論する必要があるのではないかと考えます。
 したがって、きょう与えられた命題であるこの非常事態というのを申し上げる際、以下の議論は、非常事態を平常ならざる事態、すなわちこの憲法調査会で言う非常に広い概念であると考え、非常事態の中には緊急事態及び緊急事態以外の有事、すなわち戦争あるいは内乱のような事態を包括的に考える説明として非常事態を取り上げ、理解し、その非常事態というものに憲法がいかなるかかわり方をしているのか、あるいはするべきなのかということについて議論を申し上げたいと思います。
 さて、一方において、憲法とは別に、既にある既存の国内法、特に自衛隊関係法、あるいは治安関係法、災害関係法等の中には、有事というものと緊急事態とを区別し、緊急事態というのは、有事ではないその他の国家の緊急事態として、例えば災害やテロというものを含むように既にある法律は説明されております。このことは、この言葉の概念として、あくまで有事というものと緊急事態とを区別し、緊急事態には有事が入らない、すなわち緊急事態とは、有事ではないその他の国の緊急な事態を緊急事態といって、そこは一線を画して法律ができているのではないかと考えます。
 いずれにしても、この二つの概念についても法律の中で明確にされているわけではありませんが、安全保障会議設置法を見る限り、少なくとも緊急事態と有事とは区別されて概念されているのではないかと考えます。
 明確なことは、このような有事であれ非常事態であれ緊急事態であれ、現在の憲法に基本的な規定がないということが国内法の整備をおくらせてきたということにあると考えますので、私個人は、かかる事態における基本的な国のあり方について憲法に条文がないことは、現在の憲法の基本的な欠陥の一つではないかと考えます。
 恐らく、想像でありますが、この憲法が発布された時点、すなわちアメリカがこの憲法の草案にかかわった時点でアメリカも国家安全保障法がなかったわけでありまして、したがって、戦後の日本に、有事であれ緊急事態であれ、しかるべき、国家もしくは内閣総理大臣に権限が集中することを排除しようとして、憲法にかかる条文を明記しなかったのではないかと推察します。しかし、このことについては、個人的推察であり、何ら実証できる証拠があるということではありません。
 さて、このように非常事態と憲法については、繰り返しになりますが、非常事態という概念が必ずしも明確でないにせよ、いずれにしても、非常事態というのは相当に広い概念であり、平常でない事態、すなわち平時でない事態を包括的に概念する言葉であるとした場合、その場合の憲法のあり方については今申し上げたとおりであります。
 一方、テロ等への対処という問題については、これは有事法制の審議の過程で議論されたことで明確でありますけれども、テロという事態そのものに国家として対応するための国内法は既に既存の法律の中で明記されているということでありますが、しかし、よく考えてみますと、テロというものの主体は国であるというよりむしろ組織、機構あるいはネットワークであることが多く、そのテロの活動及び様相も極めて複雑化あるいは過激化しておりまして、今後、テロと大量破壊兵器が結びつくという脅威が国際社会のみならず日本にとっても最大の脅威であることは明確であると思います。
 このようなテロに対応するためには、国家は、防衛力だけではなく、国家の産業、社会のシステム、国内の治安、出入国の管理、科学技術、情報、あるいは資金の凍結など、国家として持っておる総合的な機能を一貫した方針のもとで有機的に機能させなければ、テロへの対応を効果的に発揮することはできないわけで、この点についてアメリカは、既に本土安全保障省を新設して、国家の安全保障体制をテロと大量破壊兵器の脅威に対応するものとして包括的に体系づけようとしていることは、御案内のとおりでございます。
 このような国の総合的な活動をさらに機能的に統合するためには、まず何といっても国内法の整備が必要であり、さらにこの法体系に基づいて国のシステム、社会の体制のあり方を確立し、同時に、これに参画する国民の意識を啓発し、国民を訓練し、かつ理解を深めるということが何よりも重要であります。
 このような総合的なテロ対策というものを行うためにはまず国内法をきちっとしたものに整備することが一番重要でありますけれども、その際、国内法の整備という観点からいえば、現在議論されているいわゆる有事法制の中にはテロに対応する法律が必ずしも整備されているというわけではなく、現在の有事法制の中心的課題はあくまで国家に対するいわば武力攻撃というものを中心とする対処法でありまして、したがって、これから我々が考えるべきことは、このような国の有事に対する法制を整備すると同時に、テロや災害等の問題については、既にある国内法を包括的に取りまとめて緊急事態もしくは非常事態であると概念し、これをすべて国家として統一された活動を行うに必要な法体系を整備し直す必要があるのではないかと考えます。
 そのためには、一つは、憲法上の規定があることが望ましいわけですが、しかしそれは期待してもすぐにできるということではありませんので、憲法上の規定ができるまでの間まず取りかかるべきことは、国家として、この種の非常事態に包括的に対応するための安全保障基本法を制定するとともに、この安全保障基本法に基づいて、有事については有事法制、緊急事態については緊急事態法制という二本立ての法体系をつくり、あくまでテロや大規模な自然災害などの問題については、後者に述べました緊急事態もしくは非常事態という事態に対応する国内法制として、既存の法律をその中に包含する形で法整備をもう一度整理し直すという必要があるのではないかと考えます。
 言葉の使い方について言えば、非常事態というのは、非常事態宣言という言葉からくるイメージが非常に国家の強権を発動するかのような印象を一般の国民に与えかねないので、やはり非常事態という言葉で法律をつくることは必ずしも賢明ではなく、したがって、結果としては、緊急事態というものに対応する法体系を有事法制とともにつくり、先ほど申し上げましたように、既存の法律をこの緊急事態法制の中に包含し、有事法制と緊急事態法制の二つの法体系を取りまとめる国家の基本的なあり方として安全保障基本法をつくり、その安全保障基本法には、むしろ、国内外の緊急事態だけではなく、国外の事態に日本としてどのような貢献をし、参画をし、国際協力を行うかという国家の安全保障の基本的なあり方を含めた包括的な法体系をその上につくっていくということがよいのではないかと考えます。
 もちろん、憲法上の規定が新たにできれば、その憲法上の規定に従って、この安全保障基本法並びに基本法に基づく有事法制と緊急事態法を整理し直すということは必要であるかもしれないと考えます。
 いずれにしても、テロへ対応するためには、まず国として法体系を整備することが最も重要でありますが、同時に、法体系だけではなく、情報の機能を強化し、国として、関係諸機関、特に防衛あるいは自治、警察、消防、地方公共団体等が保有する各関係機関を総合的に調整する機能を官邸に持ち、統一された一貫性のある指示のもとに有機的にすべての活動を運用できるよう、国としての体制のシステムをつくり上げるということが必要であると考えます。
 同時に、これらの活動をさらに有効にするためにはどのようにしても国民の全面的な理解と協力が不可欠であり、そのためには、単に国民の協力を求めるだけではなく、国民に必要な協力を求めるための、国民の義務あるいは国民の持っておる権利について現行憲法のもとで明確にするということが法整備を行う際特に必要であると考えます。
 アメリカは、御案内のとおり、テロへの対処については、昨年六月ブッシュ大統領がウエストポイントで行った演説のごとく、先制行動によるプリベンション、すなわち予防という対応によってテロへ対応しようとしていますが、国際法上の考え方からいえば、このような対応の仕方が国際社会の幅広い協力を得られるとは必ずしも思われず、したがって、我が国としては、アメリカに協力をすることは必要でありますけれども、国内におけるこの種のテロへの対処について、従来のような自衛権の概念だけで対応できるとは考えません。
 したがって、まず重要なことは、法整備をするというプロセスを通じて、テロに対応する新たな抑止の戦略を考え直すということもとりわけ必要であると考えます。
 以上が、非常事態と憲法について、特にテロ等への対処を中心とする法体系の整備を課題とする考え方につき、所信を申し述べたつもりでございます。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 森本敏

speaker_id: 34495

日付: 2003-02-06

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会