2003-04-03
衆議院
高見勝利
憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会
高見勝利の発言 (憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会)
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○高見参考人 本日は、貴小委員会において報告の機会を賜りまして、まことに光栄でございます。
私に依頼されたテーマは、諸外国の憲法改正の規定の紹介ということでございます。二週間ほど前のことでありまして、ほとんど時間がございませんでしたが、今回調査の対象としてできましたのは、約六十ほどの国と地域の憲法規定でございました。現在、世界には百九十余りの国がございますので、全体の三分の一程度の数の憲法規定でしかございませんけれども、しかし、大まかな傾向は本日お示しすることができるのではないかというふうに考えております。
お手元の配付資料「硬性憲法としての改正手続に関する基礎的資料」の三十三ページ以下に、国立国会図書館作成の「憲法改正手続の類型」と題する文書をとじ込んでいただきました。この資料は、今回調査対象とした六十余りの憲法について、私のレジュメの内容にほぼ沿った形でその改正規定の整理、分類をしたものでございます。
憲法の改正規定は、どの国の場合もそうでございますけれども、複数の手続ないし要件の組み合わせでできておりますので、そのうちのどの部分に焦点を合わせるかということで分類先が決まってまいります。そこで、その場合に必ず、分類した分類先からはみ出る部分が出てまいります。そこで、今回作成いたしました資料では、それぞれの分類、配置した先からはみ出した部分でございますけれども、その手続、要件を国名の後ろに括弧書きで付記しておきました。
今回調査いたしました六十余りの憲法規定について、ここでそのすべてをお話しするだけの時間がございませんので、各項目について典型的な例をそれぞれ一つだけ紹介しながら話を進めてまいります。
なお、日本国憲法九十六条の沿革につきましても、もし時間的な余裕がございましたら、最後に、今回の報告との関連で若干その特徴的なことを御紹介し、本委員会の調査の参考に供したいというふうに考えております。
なお、急いでレジュメを作成したものですから、ミスが出てしまいました。レジュメ二ページ目の上から九行目に、国民会議、アサンブレ・ナシオナルというふうに表記しておりますけれども、このアサンブレのアクセント記号の方向が逆向きになっております。おわびして訂正いたします。
それでは、レジュメに沿ってお話しすることにいたします。
今回対象といたしました六十ほどの国と地域の憲法が規定する憲法の改正手続規定だけをざっと概観しただけでございますけれども、その内容は極めて多種多様でございまして、それらの規定手続を一つの原理原則で説明することは困難でございます。ただ、これまでにも学説の上ではさまざまな概念ないし類型論を用いた説明が行われておりますので、それを参考にしながらここで話を進めてまいりますと、憲法改正手続の規定は、一般に、次のような二つの基本的な要請を満たすように仕組まれているというふうに考えることができるかと思います。
一つは、国法秩序の根幹をなす憲法の改正には慎重であるべきであるという、憲法の安定性に由来するある種の要請であります。通常の法律の議決に比べまして、総じて、憲法改正の議会議決に特別の要件が加重されているのはこのためでございます。
もう一つは、憲法改正について国民に十分な意思表明の機会を与えなければいけないという、国民主権の原理に由来する、これもある種の要請でございます。多くの憲法で、民意を問うための解散・総選挙や国民投票などが改正手続に組み込まれているというのはこのためでございます。
以上、二つの要請は、それぞれ、その国の憲法の特質に応じましてさまざまな形をとってあらわれておりますが、憲法改正の最終的な決定主体、その主体に着目した場合には、次の四つの改正方式にほぼ大別することができるのではないかというふうに思いました。すなわち、レジュメに列記いたしました一番目に議会でございまして、二番目は国民、三番目は特別の会議、これは普通、憲法会議というふうに称しております、それから四番目は連邦を構成する支邦、連邦構成国でございますけれども、この四つがこの主体として考えることができようかと思います。
まず初めに、(1)の議会による憲法改正の方式でございますけれども、この方式は、改正手続の要件を通常の立法手続の要件よりも厳しくするというものでございまして、憲法の安定性の要請を、これもどの程度認めるかによって、次のような各種の方式に分けることができるかと考えています。
第一に、原則として表決数だけを加重する型でございます。これには、資料の三十三ページから三十五ページに記載いたしましたように、五分の三、六五%、三分の二、四分の三といった形に分かれておりますけれども、その大半は三分の二を議決の要件として採用しているわけでございます。
この手続的に非常に単純で素朴な方法でありますけれども、しかし、この手続だけで完結する例はむしろまれでございまして、多くの場合、この議決要件の加重に加えて、国民投票の制度が併用されているのが通例というか、かなり多いことがおわかりいただけるかと思います。これは、安定性の要請に加えて国民主権の原理の要請が働いているためでございますけれども、この併用型の場合には、法的には議会だけで憲法改正の手続が完結しないのでございまして、議会の改正議決というのが国民に対する改正の発議、提案という性質を帯びるということは言うまでもないことでございます。
ここでは、議会完結型の憲法改正方式としてドイツの例を挙げておきたいと思います。
ドイツの場合には、通常の法律は原則として各議院表決数の過半数の賛成で成立するということになっておりますけれども、憲法に当たる基本法を変更、補充する法律につきましては、各議院の表決の三分の二に加重され、専ら加重された議会の議決だけで改正手続を完結させることができる仕組みをとっているということでございます。
第二は、議会において再度の議決、つまり都合二回の議決でございますけれども、この二回目の議決をここでは再議決というふうに一応呼んでおきますが、この再議決が行われる型でございます。これも憲法の安定性の要請に基づくものでありますけれども、この型につきましては、さらに次の二つのものに分けた上でその内容を説明するのがわかりやすいと思いますので、御説明申し上げます。
その一つは、人的に同じ構成の議会によって再議決を行う、要求するという形でございます。この形には、再議決に一定の期間を置くものと、それから一たん会期を閉じまして、次の会期で再議決を行うという二つの方式がございます。
イタリアが前者の代表例でございまして、それは、各議院において、少なくとも三カ月の間隔を置いて、二回の審議、議決を行うという形で、期間を置いた上で採決を行うという仕組みをとっております。ウクライナが後者の例でございまして、それはまず、会期中に一度、単純多数による議決がございまして、一たん閉会されまして、次の会期で議員三分の二の多数によって承認するということで、憲法改正が成立するという方式でございます。
それから、もう一方でございますけれども、今度は人的構成を変えて、異なる人的構成の議会によって再議決を要請するという型のものでございます。これは、最初の議決と再議決との間で、議会の人的構成を一新するというものでございまして、十九世紀以来、学説の上でフランス式とベルギー・デラウェア式というふうに分けて説かれてきたものでございます。
このうち、フランス式というのは一八七五年の第三共和制で採用された方式でございまして、再議決を両院の合同会議で行うという方式でございます。つまり、最初は両議院がおのおの別々に議決いたしまして、次いで両議院の合同の会議で議決するという方式で、議員の構成を変えるというわけです。
第三共和制のフランスでは、この後者の両院合同会議を国民会議というふうに呼びまして、両院を構成いたします上下各議院と区別していたわけでございます。このフランス式の国民会議の方式と名称をそのままそっくり現在でも使用しているのがハイチの憲法の改正方式ということでございます。
また、ベルギー・デラウェア式の方でございますけれども、ベルギー・デラウェア方式というのは、一八三一年のベルギー憲法と一八九七年のアメリカのデラウェア州の憲法で採用されて、現在に至るまでとっている方式でございます。これは、両議院または下院を解散して選挙を実施した後で、新たに組織された議会で再議決を行うという方式でございます。
この場合、第一回目の議決、これは憲法改正の宣言を行う議決でございますけれども、その宣言を行った議決の後で直ちに両議院を解散、これは上院下院両方とも解散いたしまして、選挙を実施するという形をとっております。これがベルギーの方式でございます。
そうではなくて、すぐには解散しなくて、次の下院議員の選挙まで一たん手続を停止いたしまして、選挙の後に新たに組織された議会において第二回目の議決を行うというのがデラウェア方式と言われているものでございます。
このように、憲法改正案が議会に提出された後で選挙を実施して民意を問うという方式というのは、憲法の安定性の要請というよりは、もちろんそういう要請も入っておりますけれども、むしろ、憲法改正の提案について、国民に対して意思表明の機会を与えるという国民主権の要請に基づくものというふうに言えようかと思います。
なお、イギリスの場合でございますけれども、成文憲法は持っておりませんが、しかしながら、実質的憲法という意味では重要な法律が憲法的意味を持っております、そういったものの改廃につきましては、選挙で改めて民意を問うということがほぼ慣例化しているというふうに言われております。
また近年では、民意の問い方として、数年前の分権化の際にも行われましたけれども、改革の是非についていわば諮問的に国民投票を実施するということも行われていますので、単純に不文、軟性の憲法だというふうに割り切ることはできないというふうにも考えることができます。むしろ、今申しました選挙でありますとか、あるいはこれから申します国民投票を介在させた形での実質的な憲法的法律の改正という形で行われているということになるのかもしれません。
次に御紹介申し上げますのは、国民が改正の主役になる、国民が改正の主体になる、そういう方式でございまして、これは、レファレンダムによる憲法改正の方式ということになるかと思います。
これは、憲法改正案について、議会が発議して国民が決定ないし承認するという方式でございまして、憲法改正は憲法制定権力、すなわち主権でございますけれども、この主権を有する国民だけに許されて、憲法によってつくられた単なる立法権を保持するにすぎない通常の議会には最終的な決定権は許されないという思想ないし考え方を具体化した制度でございます。
これに対しまして、最初に紹介いたしました議会の議決だけで憲法改正が完了する型というのは、憲法と法律とは、両方とも国民の一般意思の表明、これはフランスでしばしば使われる表現でございます、または国家意思の表明、これはドイツで使われる表現でございます、こういった一般意思ないし国家意思の表明、両方ともそういう表明であって、憲法と法律とを質的にあるいは価値的に区別することはできないという、これは十九世紀ヨーロッパ大陸に支配的だった考え方でございますけれども、こういう考え方。言ってみますと、立法議会万能の考え方、思想に由来する制度でございます。
このように、国民投票による憲法改正の方式というのは、議会ではなくて、専ら国民のみが、法律と区別される、より高次の憲法を定立し、その定立と同時に、憲法をつくったみずからの権力を今度は憲法改正権として、憲法の中にいわば入り込んでいく、こういう国民の憲法制定権力の形態変化と申しますかメタモルフォーゼと申しますか、そういった理論ないし考え方に基づいて、憲法改正について国民が主役となるという思想ないし発想になっているわけでございます。
この方式にも三つの型がございます。
第一番目は、憲法改正についてすべて国民投票に付さなければならないとする形でございまして、これは必要的あるいは義務的国民投票制というふうに一般に呼ばれているものです。第二番目は、一定の要件に合致するある場合において国民投票に付することができるという、任意的な国民投票制というふうに一般に呼ばれている制度がございます。第三番目は、両者を併用する形でございます。
このうち、日本国憲法九十六条が最初の必要的国民投票制あるいは義務的国民投票制と言われる方式であるということは言うまでもございません。
今回調査した範囲で申しますと、資料の三十六ページから三十七ページに記載されております必要的国民投票制の項目に掲げましたアイルランドからスイスまでの八カ国が我が国と同じ方式に属します。それから、一定の場合に国民投票に付することを義務づけられているパラグアイ以下九カ国でございますけれども、これも我が国とほぼ同じ方式に属する。国民投票に付する範囲が違ってまいりますけれども、いずれにいたしましても方式としては同じということでございます。
それから、第二番目の任意的国民投票制の例でございますけれども、ここではスウェーデンの例を挙げて御説明しておきます。
この国では、憲法に当たる基本法の改正につきまして、議会、これは一院制でございますので一院制議会ということになりますが、これが同じ文面の改正案を二回議決したときに、憲法改正は成立いたします。この第二回目の議決は、原則として、新しく選挙された議会で行われるわけでありまして、その際、議会が独自の判断で、選挙と同時に、選挙の際、あるいは選挙にかわって改正案を国民投票に付するということができる形になっております。これが、任意的というか、議会の判断で国民投票に持っていくことができる、そういう形をとっているということでございます。
それから三番目の併用方式でございますけれども、ここではオーストリアの例で説明いたします。
オーストリアの憲法は、改正につきましては一部改正と全部改正という、全部改正は新しく憲法をつくりかえることと同じことでございますけれども、二つに厳密に区別しておりまして、このうち、前者の一部改正につきましては、原則として下院の三分の二の多数で成立する仕組みになっておりますが、この点はドイツと同じでございます。ただ、ただしでございまして、大統領が署名というか審署する前に、下院もしくは上院の三分の一の要求があれば、これは国民投票に回さなければいけないということでございますので、これは任意的国民投票というものが併置されているということであります。
他方、後者の全部改正でございますけれども、これはまた一部改正であっても、憲法の基本原則、主権原理でありますとか人権問題でありますとか、基本的な部分でございますが、こういう場合も全部改正と同じ扱いになりまして、国民投票に付さなければいけないという国民投票を義務づけているわけでございまして、こういうふうに、義務的な国民投票制とそれから任意的な国民投票制を二つ併置しているのがオーストリアの型ということでございます。
次に、レジュメの(3)の特別の憲法会議、コンベンションによる憲法改正の方式と、それから(4)の連邦を構成する支邦の多数の同意による方法、この二つについて、あわせて説明いたします。
まず、(3)の方でありますけれども、これは、通常の立法議会とは別に、憲法改正のために特別に設けられた会議体が改正案を審議、議決するという方式でございまして、国民投票による方法と同じく、国民の憲法制定権力という思想ないし考え方に基づいて設計されたものでございます。
それから、(4)の方法でございますけれども、これは、連邦を構成する支邦、連邦構成国にも憲法改正の決定に参加する、そういう機会を与えなければいけないという、これは連邦制固有の原理に基づくものでございます。
アメリカを例にこの二つを簡単に御紹介しておきますと、合衆国憲法では、まず、憲法改正も憲法修正という言葉を使いますけれども、発議につきまして連邦議会が主導力を発揮する仕組みになっておりまして、上下両議院の三分の二の議員が必要と認めた場合には憲法修正の発議を行う、または、三分の二の州の議会からそういう要請があった場合には、憲法改正の発議のための憲法会議を招集しなければいけないというふうにされております。
このいずれの場合にも、憲法改正は連邦議会が選定する二つの承認方法で決定が行われます。すなわち、合衆国を構成する四分の三の州の議会であるか、または四分の三の州における憲法会議、このいずれか一方の方法で承認されたときに、憲法の一部としてその改正部分が効力を発するというふうに定められております。
以上が、レジュメの時計数字Iに書きました憲法改正規定の諸類型の説明でございます。
次に、レジュメの時計数字のIIの方でございますけれども、憲法九十六条の、我が国の憲法改正規定の沿革について、若干コメントしたいと思っております。
ここでは、憲法九十六条の規定が作成されるに至る過程において、これまで、今いろいろな方式を紹介いたしましたけれども、そこに、憲法制定のプロセスにおいてどういう形で顔を出しているというか、議論になっている、話題になっているかということを中心にしながら、お話ししていきたいと思います。
まず、その前提となる明治憲法の改正規定の特徴について、ごく簡単に触れさせていただきます。
明治憲法は、申すまでもなく天皇の欽定憲法でありまして、憲法七十三条によりますと、その改正についても天皇によってのみ発議することができるというふうにされておりました。ただ、憲法の改正には、憲法の制定のときとは違いまして、これは天皇といえども単独でこれを行うことはできないのでありまして、天皇の発議した憲法改正案に対して帝国議会の議決を得ることが必要だというふうにされておりました。そして、議会での改正案の議決にも、これは各院において総議員の三分の二以上の出席、定足数が三分の二ということになっております、三分の二の出席が必要とされまして、その表決も三分の二以上の特別多数ということで要件を定めておりました。
このように、明治憲法では、改正に当たって、天皇の意思といわば議会の意思との一致ということが必要とされたのであります。この場合に、国民はこの過程から全く排除されておりまして、憲法改正については、その請願すら勅令で禁止されていたのであります。これが明治憲法の改正方式でございました。
一九四五年、昭和二十年でございますが、八月以降、日本の統治機構の再編を導いたキーワードというのは、これは言うまでもなく民主主義という言葉であろうかと思います。
明治憲法七十三条の規定もこの民主主義の洗礼を受けることになるのは、これは当然ということでございます。一九四五年十月、政府にいわゆる松本委員会が設置されますけれども、その内部文書を読んでみますと、憲法七十三条の改正につきましても一定の議論がなされております。議員が全員一致した部分が一つございまして、それは議会にも憲法改正の発議権を与えるというものでございました。天皇しかなかったわけですけれども、議会にも発議の権限を与える、そういった議論が、これは全員一致の議論として紹介されておりました。
それから、改正の方式につきましても、これはいろいろな議論がございましたが、国民投票にかけるか、あるいは議会を解散するという形で国民の総意を問うべきだ、それが民主主義の要請に合致するんだ、こういった意見がかなり有力にその中で主張されておりました。しかしながら、こうした意見も、天皇が改正権の主体である、こういう原則は絶対に堅持するという方針でつくられました松本委員会の最終案にこれが盛り込まれなかったのは、これは当然といえば当然のことでございます。
他方、一九四五年の十二月二十六日でございますが、これは在野の知識人で構成しておりました憲法研究会の案でございますけれども、これは憲法草案要綱というふうに呼んでおりますが、それが十二月の暮れに、四五年の年の瀬に公表されております。
この憲法研究会案というのは、そもそも明治憲法にかえて新しい憲法、統治権は国民に由来するものであって、天皇は専ら国家的儀礼、今で言いますと象徴ということになると思いますけれども、国家的儀礼のみを行う、こういった内容の憲法を国民がみずから確定すべきだ、こういう方針でつくられたものでありました。ただ、当時の状況では、一挙に新憲法の制定に持っていくのは難しい、こういうふうに判断いたしまして、明治憲法を一度改正し、その上で新憲法の制定を実現する、こういう方針を採用すべきものと考えた、そういう案でございました。
そこで、この要綱の中には、この憲法、つまり改正憲法でございますけれども、改正憲法の公布後、遅くとも十年以内に国民投票による新憲法の制定をなすべし、こういう一文がこの研究会案の中には盛り込まれておりまして、国民投票という言葉がここに顔を出してまいります。
他方で、当時の総司令部側の動きでございますけれども、日本政府からの憲法改正案の提出に備えまして、ひそかに明治憲法の問題点を調査研究しておりましたラウエル中佐という人物がいましたけれども、このラウエル中佐が、憲法研究会案に示された国民投票の方式に着目いたしまして、松本委員会が提出してくる改正案を認める条件の一つといたしまして、憲法改正には国民の過半数の投票による承認が必要である、こういういわば基準というか方針を打ち出しております。二月八日に日本側が松本案として提出してきた憲法改正規定はもちろんこの要件をクリアするものではなかったということは、これは先ほどお話ししました経緯からして言うまでもございません。
他方で、これも他方でございますけれども、総司令部の内部において、いわば今の憲法の原案になる草案が起草されるわけでございますけれども、その第一次試案がまず注目されます。
この第一次試案というのは、フランス革命期の憲法とかあるいはアメリカ諸州の今の憲法にしばしばその表現が残っておりますけれども、いわゆる世代理論ですね。この世代理論というのは、人民は常にみずからの憲法を精査し、改正する権利を有するものであって、一つの世代はその憲法に将来の世代を服従させることはできない、そういう徹底した考え方でございますけれども、この世代理論の影響を受けておりまして、十年ごとに憲法改正について検討する国会の特別会、これは私の理解では、一種のコンベンションというか憲法会議というものがイメージされていたのかなというふうにも思いますけれども、この特別会を招集することを義務づける、そういう内容の案でございました。
ところが、この試案を精査いたしました、これは民政局の幹部で構成する運営委員会でございますけれども、その幹部の間では、そもそも憲法というのは、相当の永続性を持つ文書でなければならないとともに弾力性を持つ文書でもなければならないけれども、その改正手続というのは複雑なものではなくて単純簡便なものでなくてはいけない、こういう意見が出まして、試案の手続は複雑過ぎるのではないか、こういうような批判がございまして、その簡素化が求められたということでございます。
それから、憲法改正は、国会は当時一院制でございましたけれども、その一院制の国会が総議員の三分の二以上の賛成を得て発議し、選挙民の過半数以上の賛成によって承認される、そういう形での改正案はどうかという御意見がある幹部から述べられております。最終的にはこの幹部の意見が取り入れられまして第二次案が作成されました。それに若干の修正が加えられまして最終案ができるわけでございまして、この最終案には、国会が、これは一院制でございますけれども、総議員の三分の二の賛成で、憲法改正案を発議し、国民の承認を経なければいけない、こういう案となったわけでございます。
この最終案が二月十三日、日本側に交付されまして、現在の憲法九十六条の形に整えられていったのでございますけれども、日本側が行った規定の整備に関連して、ここでは一点だけ指摘しておきたいと思います。
それは、日本側の強い要請で、国会の構成が二院制、両院制になりましたので、その結果、国会の発議が、衆参両院でおのおの総議員の三分の二以上の特別多数の賛成を要する、こういう形になりました。そのために、一院制を採用していた総司令部案と比べまして、国会による憲法改正の発議が相当に厳しくなった、こういうことでございます。
憲法改正案が審議されていました第九十回帝国議会においてでありますけれども、金森徳次郎国務大臣は、憲法九十六条の国民投票制の意義について、当時、次のような説明をしております。お話しいたしますと、こういうことでございます。
改正案の前文にありますように、国の一番基本的な問題を解決する最後のかぎを握っているのは、憲法制定権を有する、保持する国民である。この憲法制定権と通常の立法権とは観念的に区分され、前者は国民がその意思を直接表明し、立法権は国民により選挙された国会によって表明されるものである。その結果、国の制度の一番の基本的なものについては、国民が直接にその意思を表示することで決するのが妥当であるというふうに考えられる。こういった前提から、国会が改正案を発案、発議でございますけれども、発議し、国民が投票でこれを決めるという方式に現行憲法はしたのである。こういう説明を九十六条について述べております。
この答弁は、当時の資料を読んでみますと、法制局が作成しました想定問答集に依拠したものでございまして、その同じ想定問答集には、これは金森さんが議会答弁に使わなかったものでございますけれども、したがって、公式の議事録には残されておりませんが、次のような答弁も準備されておりました。それは、レジュメに書いておきましたように、憲法改正手続はいわゆるリジッドに過ぎないか、余りにも硬性に過ぎないか、こういう問いを立てまして、それに対して、この程度に慎重にせぬと改正が行き過ぎになるおそれがある。国会議員の質をよくし、国民の政治的教養を高めれば必要な改正を行うには支障あるまいから、これを先決問題として実現すべきである。こういう答えを準備しておりました。
つまり、起草にかかわった人たちが憲法九十六条の前提問題をどう考えていたかということを示す一つの資料として、御参考までにお話しした次第でございます。
最後に、現行の憲法九十六条の硬性度と申しますか、厳格度について一言お話しいたしまして、私の報告を終えることにいたします。
昨年の十一月に公表されました本調査会の中間報告の中に、憲法九十六条に関しまして、日本国憲法の改正のハードルというのは世界の中でも一番高いのではないか、こういう意見が表明されておりますのを読みました。しかしながら、今回試みました六十余りの憲法規定の、これは簡易調査でございますけれども、その中のごく大ざっぱな全くの印象からいたしますと、憲法九十六条の国際比較の中で、条文だけで比較して見た場合でございましたが、その硬性度は、もちろん高いレベルにあるということは言えるわけでございますけれども、それが格段に高いあるいは最高レベルにあるということまでは言えないということでございます。
十年ほど前のことでございますけれども、あるアメリカの有名な学術雑誌に、世界の五大陸というか東西南北、世界じゅうということでありますけれども、三十二カ国を選びまして、憲法改正規定の硬性度を調査したデータが公表されております。
その調査結果によりますと、三十二カ国中で最も硬性度が高いのは合衆国憲法の改正規定、スイスがそれに続きますが、その順位で申しますと、日本は第九位に置かれておりました。そして、ドイツに至っては、その三十二カ国中二十一位にランクされておりました。このことは、ドイツの改正手続の多さというのは、主として日本国憲法とは違う基本法の性格、そういう法律的な性格に起因するものであるし、ほかにもいろいろ事情はあるかと思いますけれども、そういったことが言えるということでございます。
それからまた、アメリカに次ぐ硬性国とされているスイスでございますけれども、これは資料の最後、四十ページに諸外国の憲法改正の回数ということで一覧表をつけておきましたけれども、スイスの場合は、全面改正してからでも、ほぼ一年に二回ぐらいの改正を重ねております。これは、スイスに特有の事情によるものでありまして、憲法改正規定の単なる形式的なハードルの高低だけを見て、一国の憲法の改正の難易度あるいはその頻度を論ずるというのは、やや問題があるのかなということを考えた次第でございます。
以上であります。御清聴ありがとうございました。(拍手)