堀部政男の発言 (個人情報の保護に関する特別委員会)
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○堀部参考人 中央大学法学部の堀部政男です。
個人情報の保護に関する特別委員会におきまして個人情報保護法案について意見を述べる機会を与えられましたことを、大変光栄に存じます。
私は、四十年以上にわたりまして、プライバシー、個人情報の保護のあり方について研究してきたばかりでなく、地方自治体や国における個人情報保護の制度化にもかかわってきております。また、プライバシー、個人情報の保護に関する国際会議などにもしばしば出席いたしまして、スピーチや討論を行ってきています。情報のセキュリティーやプライバシーについて検討をしていますOECD、経済協力開発機構のワーキングパーティー、作業部会がございますが、その副議長も一九九六年から務めております。そうした側面とともに、表現の自由、情報の自由な流れ、情報公開などについても、理論的、実践的に議論してきています。そのような研究、経験などを五つに分けて意見を述べさせていただきたいと思います。
まず第一に、プライバシー・個人情報保護法制定の国際的潮流であります。
プライバシー・個人情報保護法制定の国際的な動きというのは、非常に大きなものとなってきております。欧米諸国では、一九七〇年代初めから、プライバシーないし個人情報を保護することを目的とする法律が制定されるようになりまして、現在、約四十の国と地域で法律が制定されております。お配りいただいているかと思いますが、私の資料の五ページ、六ページ、七ページにそのことを記しておきました。
日本では、国レベルにおきましては、一九八八年に、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律が制定されましたが、民間部門をも対象とするものは、現在、ようやく審議されるようになったというところでして、一九七〇年代に法律を制定した先進国と比べますと、残念ながら二十年以上おくれていると言わざるを得ません。
各国の立法方式を分類しますと、これも資料の七ページから八ページにかけて記したところでありますが、第一に、一つの法律で公的部門、民間部門双方を対象にするオムニバス方式のもの、統合方式とでもいいましょうか、それから第二に、公的部門と民間部門とをそれぞれ別の法律で対象とするセグメント方式、分離方式とに分けることができます。また、第三に、それぞれの部門、公的部門、民間部門につきまして、特定の分野で保護措置を講じますセクトラル方式、個別分野方式があります。オムニバス方式の立法例はヨーロッパ諸国に多く見られますし、特にセクトラル方式、個別方式の立法例はアメリカに見られます。
第二に、日本における個人情報保護への対応についてです。
プライバシー・個人情報保護法制定の世界的潮流という状況の中で、日本としてこれにどう対応するのか、かなり議論をしてまいりました。一九七〇年代には、幾つかの法律が外国で制定される、こういう状況もありまして、日本でも同じように情報化が進んできている中で法律の必要性を提唱したことがありましたが、ほとんど関心を寄せられないような状況でした。日本で意識が変わる契機となったのは、OECD、経済協力開発機構の一九八〇年の九月二十三日に採択されましたプライバシーガイドラインであったと見ております。
これは当時、OECD理事会プライバシー保護勧告などと呼ばれていましたが、この勧告を受けて、一九八一年一月から当時の行政管理庁でプライバシー保護研究会が開かれるようになりました。私は、メンバーの中では最年少でしたが、最近では、この種の研究会、委員会に出ますと、最古参といいますか最年長になっているわけでありまして、私の研究生活からしますと、非常に若いといいますか、その時期から今日にかけてこの問題を論じている、そういう感が強くいたします。
このプライバシー保護研究会は、一九八二年に報告をまとめました。これも、資料のところでいいますと、二ページの一番上のところに、行政管理庁当時、プライバシー保護研究会、個人データの処理に伴うプライバシー保護対策ということで書いておきました。
これは、先ほど申し上げましたように、OECDの理事会勧告を受けたものでありまして、OECD理事会勧告の八原則もつぶさに検討いたしまして、どうも八つというのは日本人の息の長さからしますと必ずしもうまく入ってこないというところもありまして、これを五つの原則に要約したことがあります。それが、その後、今度の法案でも五原則ということで、日本人の性格にはその方が合っているのかもしれませんが、そうした議論は既に二十年以上前に行ってきたところであります。
この段階では、公的部門、民間部門も対象とする法律制定の必要性を打ち出しましたが、その後、政府におきましては、一九八三年の臨時行政調査会最終報告で、行政に対する国民の信頼を確保するための方策の一つとして、個人情報保護の必要性が強調されました。そのため、一九八五年には、行政機関に限りまして個人情報の保護に関する研究会が開かれるようになりまして、その報告が八六年の十二月に出ております。これも資料の二ページに記してあるとおりであります。
これをもとに政府におきまして立案したものが一九八八年の法律となったものでありまして、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律であります。この法案を審議しました内閣委員会にも参考人として意見を述べましたが、その内閣委員会では附帯決議で、「個人情報保護対策は、国の行政機関等の公的部門のみならず、民間部門にも必要な共通課題となっている現状にかんがみ、政府は早急に検討を進めること。」という項目がありました。
第三に、民間部門の個人情報保護についてであります。
このような中で、民間部門をどうするのかということが当時議論になっておりましたが、関係の省庁におきまして保護の必要性が認識されるようになりました。
例えば、当時の通産省から依頼されまして、一九八五年には個人情報保護のあり方について検討をするようになりました。その成果は、資料二ページの一九八八年のところにあります財団法人日本情報処理開発協会のガイドラインであります。
また、大蔵省でも重要性を認識しまして、財団法人金融情報システムセンターで検討するようになりました。大蔵省の関係の方が通産省よりも早く、一九八七年には「取扱指針」をまとめております。
この一九八〇年代中葉には、当時の経済企画庁でも、民間部門における個人情報保護をどうするのかということで検討が始まりまして、その成果をもとに国民生活審議会消費者政策部会の報告がまとめられております。
その後、通産省ではさらに八九年に、この資料に記しておきましたが、報告書、通達、規則を出しております。九〇年には、当時の郵政省で電気通信事業における個人情報保護について検討するようになりまして、九一年にはガイドラインをまとめております。
このように、行政機関は、それぞれの所掌する事業における個人情報保護について、早いところでは二十年近く前から取り組んできております。その経験は、個人情報保護を図る上で重要な意味を持っていると考えております。
これらの検討に委員長とか座長とか、責任者としてかかわってきた立場からしまして、当時、民間部門で、法律がないところにこの種の自主的な対応をする、これはむしろ法よりも高いレベルの保護措置を講ずべきではないか、そういうことを大分主張してまいりました。というのは、法は最低限の道徳、倫理にすぎないものでありまして、自主的な規制というのは、むしろ法よりも厳しいものでなければならないと考えているからであります。
第四に、地方公共団体における検討でありますが、これについても随所に記しておきましたけれども、この地方公共団体における先進的な取り組みが我が国における個人情報保護の議論の上で大きな役割を果たしていることを指摘するにとどめさせていただきたいと思います。
第五に、最近の高度情報通信社会推進本部、IT戦略本部に変わってまいりましたが、そこにおける個人情報保護の検討に直接かかわってまいりましたので、若干触れさせていただきたいと思います。
この個人情報保護検討部会の座長として、どのような保護システムを我が国において構想すべきか、これまでの経験、研究に基づきましていろいろと考えました。
一九九九年の十月二十日に座長私案というのを出しまして、それが十一月十九日にまとめられております。四ページの図一をごらんいただきますと、ここでは、基本法というものを基礎にしまして、あるいは、これを傘といいますかアンブレラということで上に持ってきてもいいんですが、インフラストラクチャー、基盤としてこの図では下に持ってきまして、その上に、公的部門については、行政機関個人情報保護法、電算処理のものでありますが、これ等の見直しを図る。先ほど申し上げましたように、この法案の策定過程にもかかわってまいりましたので、長所も短所もみずから知っております。
それから、民間部門につきましては、既にその前から、ここに掲げました信用情報とか医療とか電気通信分野につきましては、それぞれの省庁で検討するのにかかわってまいりましたので、個別法を制定してはどうかということを既に出してきたものですから、それを具体的に、この段階でも、基本法の上にそうした個別法の制定をすべきではないだろうか。それとともに、これまで述べてきたところで明らかなように、自主規制には民間としても十分取り組んできたところでもあります。
もちろんそうでない分野もあるわけでありますが、それを法の上に乗せる。この九九年の検討部会の段階におきましても、基本原則を基本法に定めるとなりますと、表現の自由等との関係で問題が出てまいりますので、それとの調整を図るということをそこで明らかにいたしました。
その後、基本法部分につきましては、専門的に検討していただくということで、法制化専門委員会で検討されるようになりまして、五ページにあります図でごらんいただきますと、検討部会での構想に加えまして、そこの赤の部分ですが、済みません、それは白黒ですね、一般法的条項というところが加わりました。これをどの程度の厚みのものにするのかということはありますが、これが加わったのが、個人情報保護法制化専門委員会が二〇〇〇年の十月十一日に出しました大綱の考え方であります。
こうしたことでいろいろと議論をしてまいりまして、この間にも、個人情報保護と表現の自由との関係などどうするのかということはいろいろ議論をしてまいりました。でもやはり、基本的人権としての表現の自由を強調する一方で、基本的人権として同様に保護されなければならないプライバシー、個人情報保護、この調整をどうするのか、これには随分多くの議論を費やしてきたところであります。
このようなこれまでの経緯、経験からしますと、日本で議論されてきています個人情報にかかわる問題につきましては、三月七日に閣議決定されました政府法案で当面は対応することができるのではないかと考えています。
以上で、私の意見表明を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)