宇賀克也の発言 (個人情報の保護に関する特別委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○宇賀参考人 東京大学の宇賀でございます。
本日は、参考人として意見を述べる機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
私は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法制度を中心に意見を述べさせていただきます。
一九八八年に行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律が制定されております。以下、この法律を現行法と呼ぶことといたします。
本年三月、政府が提出しました行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案は、現行法を全部改正して、多くの点で個人情報保護を充実強化するものであり、行政機関の保有する個人情報の取り扱いに不安を抱く国民も、現行法の早期の改正を期待しているものと思います。
以下、本法案を読んで私が評価している主要な点について述べさせていただきます。
第一に、内閣官房、内閣法制局、安全保障会議等法律の規定に基づき内閣に置かれる機関、そして内閣から独立している会計検査院が対象に追加され、個人情報を保有するすべての行政機関に対象機関が拡大しております。
第二に、個人情報の識別可能性の点に関して、他の情報との照合の容易性の要件が削除されたため、保護される個人情報の範囲が拡大しております。
第三に、対象とする個人情報の面で大きな改善が見られます。現行法は、個人情報のうち、電子計算機処理に係るもののみを対象としています。これに対して本法案は、手作業による文書にまで対象を拡大することとしています。これにより対象情報は飛躍的に拡大することになります。
第四に、特別な保護措置がとられる個人情報ファイルが電子計算機処理されたものに限られなくなり、その範囲が拡大したことが挙げられます。
第五に、現行法においては、利用目的の変更が可能な範囲が明記されておらず、所掌事務の範囲内であれば変更可能と解されてきましたが、本法案は、たとえ所掌事務の範囲内であっても、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならないこととされ、利用目的変更の範囲が限定されました。もっとも、「相当の関連性」という要件は不明確であり、恣意的な運用を許すのではないかという懸念も示されています。この点についての私の意見は、後ほど述べさせていただきます。
第六に、行政機関は、本人から直接書面に記録された当該本人の個人情報を取得する場合には、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならないことを原則とする規定が本法案に置かれていますが、これは現行法にはないものであります。
第七に、安全確保措置について、現行法では責務規定、努力義務の規定であったものが、本法案では義務規定に強化されております。
第八に、保有個人情報の提供を受ける者に対する措置要求につきまして、現行法では、措置要求に当たって、情報の提供を受ける者の事務または事業の遂行を不当に阻害することのないよう留意する旨規定されていますが、本法案では、保有個人情報の安全確保を重視する観点から、この配慮規定が削除されております。
第九に、個人情報ファイル簿に対してインターネットによるアクセスが可能になることは、個人情報ファイルに関する情報へのアクセスを容易にするものであり、歓迎されます。
第十に、開示請求権の充実強化がなされている点が評価されます。現行法は、個人情報ファイル簿に掲載され公表された処理情報のみを対象とする開示請求制度を設けております。これに対して、本法案は、行政機関が保有する情報の開示を可能な限り拡大する観点から、開示請求の対象情報を行政機関情報公開法の行政文書に記録されている個人情報としています。
また、現行法が開示請求の適用除外としている教育情報、医療情報についても開示請求の対象としています。行政機関情報公開法の要綱案を作成した行政改革委員会は、個人情報保護法制の整備によって自己情報の開示の要望にこたえることを政府に要望していました。本法案は、行政改革委員会の課したこの宿題にこたえるという意味を持つものと言えます。
第十一に、訂正等の請求権が認められたことの意義は大きいと思います。また、訂正等がなされても、それ以前に他の行政機関等に不正確な個人情報が提供されてしまっており、提供先で誤った個人情報が利用されてしまう危険がありますが、本法案においては、訂正等がなされた旨の通知に関する規定も置かれています。
第十二に、利用停止等の請求権が保障されたことは、非常に重要です。これによって、保有個人情報の違法な取得、利用目的を超えた保有、利用目的以外の利用・提供の禁止の実効性が高まることが期待できます。
第十三に、本法案は、開示、訂正等、利用停止等の決定等は、行政処分として、行政不服審査法、行政事件訴訟法を適用することとし、行政不服審査法による不服申し立てがあったときは、裁決または決定をすべき行政機関の長は、第三者機関である情報公開・個人情報保護審査会に諮問することを原則としています。既に、情報公開法に関して、情報公開審査会が救済制度のかなめとして重要な役割を果たしていることが明らかになっていますが、個人情報保護についても、第三者機関である審査会への諮問が義務づけられることの意義は極めて大きいと言えます。
第十四に、請求者に対象情報の特定等に資する情報提供を行う責務を行政機関の長に課していることも、運用上重要な意味を持つと思われます。
その他、施行状況調査の規定が置かれている点や総合的な案内所を整備する規定が置かれている点も、現行法より改善していると言えます。
このように、本法案は、行政機関の保有する個人情報保護を大幅に拡充する内容になっています。
なお、現行法の対象が限定されているため、情報公開法のもとで本人開示請求を行う例が相当多く、このような本人開示請求は個人情報保護法制のもとで対処すべき問題であるということから、運用上、情報公開法に基づく本人開示が否定されております。自分の情報を知りたいという切実な要望が満たされないという遺憾な状況を可及的速やかに改善するためにも、現行法の改正を先送りすることは許されないと思います。
また、現行法においては、独立行政法人、特殊法人の個人情報保護については責務規定が設けられているにすぎません。今回、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案が提出されており、この法案が可決されれば、行政機関と基本的に同様の法的規制が対象法人に適用されることになり、これらの法人の保有する個人情報保護が大幅に強化されます。
なお、政府の行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案について、目的変更の「相当の関連性」、目的外利用・提供の「相当な理由のあるとき」の要件が不明確で乱用の危険があるのではないかという意見があります。違法な目的変更、目的外利用・提供に対して利用停止請求権が保障されているわけですが、そもそもどのような目的変更、目的外利用・提供が行われているかが明らかでなければ利用停止請求権の実効性が保たれないのではないかという懸念があることと思います。
このような懸念はよく理解できますが、この点については、行政手続における公正の確保と透明性の向上を図るために制定された行政手続法の存在を忘れてはなりません。違法な目的変更、目的外利用・提供の停止を求める請求は、行政手続法で言う申請に該当し、したがって、同法二章の規定が適用されます。そのため、行政機関の長は、目的変更の「相当の関連性」、目的外利用・提供の「相当な理由のあるとき」について、審査基準をできる限り具体的に定め、公にしておく義務が課されることになります。
したがって、事前にどのような目的変更、目的外利用・提供が行われるかを国民は具体的に知り、違法であると思えば利用停止請求を行い、拒否されれば不服申し立てをして情報公開・個人情報保護審査会の判断を得ることも、訴訟を提起して裁判所の判断を得ることもできます。利用停止請求権の創設は、行政手続法による手続保障とリンクしていることに留意する必要があります。したがって、政府には、この面での行政手続法の適正な運用を要望したいと思います。
なお、私は、行政機関の保有する個人情報保護の一般法である現行法の全部改正が早急になされることを希望するものでありますが、それによって法整備が完了すると考えているわけではありません。基本法制である個人情報の保護に関する法律案六条三項にも規定されておりますように、個人情報の性質及び利用方法にかんがみ、特に適正な取り扱いの実施を確保する必要がある個人情報について、個別法において適切な法制上の措置がとられるべきであると考えております。
したがって、一般法である行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案はミニマムスタンダードを定めるものであり、個人情報の性質等に応じた個別法における特別の規制が必要になるということです。
しかし、その場合には、それぞれの分野の専門家等の意見を聴取した深い検討が必要になり、情報の性質に応じたきめ細かい措置が望まれます。実際、各省の中にはそのような検討をする意向のところがありますが、まずミニマムスタンダードを定める一般法の内容が定まってから特別法の検討を開始することになりがちなため、本法案の制定がおくれると、特別法の検討もおくれてしまいます。
また、地方公共団体においては、地方分権の時代であり、本来、国の動向にかかわりなく、みずから充実した個人情報保護条例の制定、改正をすべきであり、現にそのような地方公共団体がふえつつありますが、実際には、本法案が制定されれば、直ちに個人情報保護条例を改正して、よいところは取り入れようとする意向のところが少なくありません。したがって、現行法の改正がおくれますと、地方公共団体における個人情報保護条例の見直しもなかなか進まないという傾向が見られます。
最後に、いかに法律を強化しても、それのみでは個人情報保護の万全を期すことはできないことも申し上げておきたいと思います。
法制度の整備とともに、技術面を中心としたセキュリティーを最大限強化して、外部からも内部からも不正を行うことが困難なシステムを構築することが不可欠です。
さらに、制度を動かすのは人ですから、徹底した研修教育を行うことが欠かせません。その場合、民間以上に高い個人情報保護の意識を行政機関の職員が持たなければならないことは言うまでもありません。したがって、行政機関の職員の研修を大幅に強化する必要があることは言うまでもありませんが、行政機関の職員の個人情報保護の意識は、社会全体の個人情報保護の意識の反映という面もあります。国民全体の個人情報保護の意識が希薄な国で、行政機関の職員についてのみ高い個人情報保護意識を求めることは困難な面があります。
昨年、カナダ・オンタリオ州の情報・プライバシーコミッショナーとお会いしましたときに、同州では、高校生に対して情報公開、プライバシー保護についての教育を始めたというお話を聞き、感銘を受けました。我が国におきましても、学校教育の中で、情報公開や個人情報保護の重要性を若いときから学ばせる必要があります。
法制度、セキュリティー、研修教育の強化充実が三位一体となって推進されなければならず、国会に対して、現行法の可及的速やかな改正をお願いいたしますとともに、政府に対しましても、セキュリティーの最大限の強化と研修教育の徹底を要望して、私の意見陳述を締めくくらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)