佐々淳行の発言 (憲法調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(佐々淳行君) 本日はお招きいただきまして、大変光栄に存じます。
 憲法と緊急事態対処法令というのが私のいただきましたテーマでございまして、二十分間、基本的な問題提起をさせていただき、あと細かい問題は後の質疑応答でできる限りお答えいたしたいと考えております。お手元にチャートみたいなのをお配りしてございますので、それを御参考にしながらお聞きいただきたいと存じます。
 私、昭和二十五年、東京大学法学部、旧制に入学をいたしまして、憲法の先生は宮沢俊義先生でいらっしゃいました。そして、宮沢先生のみがほとんどあのときの憲法そのものでございまして、宮沢俊義学説以外、法制局見解もなければ政府統一見解も国会決議も何にもないという状態で始まった、昭和二十五年の話をいたします。
 その講義を伺っておりまして私、疑問に思いましたのは、憲法第九条、これと憲法第九十八条の二項、九十八条の二項と申しますのは、九十八条というのが、第一項が憲法は最高法規であると書いてございますが、これに反するいかなる法律も政令も閣議決定も効力を有さないと書いてあります。そして第二項が、日本国政府が締結した条約と確立された国際慣行は、誠実にこれを遵守すると書いてあるんですね。
 それで、講義を伺っております間、あのころまだ朝鮮戦争が始まる直前だったと思いますけれども、日本国は当然、マッカーサー、GHQの占領下にございまして、主権国家ではございませんでした。オキュパイド・ジャパンというのが国際社会における名称でございまして、占領下の日本、そして、いわゆる国家非常大権のようなものはマッカーサー元帥が握っておる、こういう状況のときに憲法の講義が行われました。
 私、伺っておりまして、いつかある日、日本が独立をするであろう日が来るだろう、そうして条約を結ぶ日もあるだろう、そうすると、憲法九十八条の一項、憲法、最高機関だよと言っている一項と、国際条約はこれを誠実に遵守するというのがぶつかる日が来るんじゃないかと疑問を持ちました。更に大きく言うと、憲法九条と九十八条の二項、これがぶつかるんじゃないのかなと。手を挙げて質問をいたしました、条約と憲法とどちらが上位なんですかと。そうしたら、君は大変不勉強である、憲法と条約は同格である、というのが今でも明確に覚えている宮沢先生のお答えでございました。
 あのときの抽象論としてはそれでよろしいんでございます。日本は、条約一つも持っておりません、独立主権国家でないんだからね。九条と九十八条二項。国連のメンバーでもございませんでした。だから、これはそれなりに法学部の憲法の答案としては同格であると書けば良かったわけでありますけれども、だんだんだんだん安全保障行政三十五年有余やりまして、その後もやっておりまして、これで五十年たちまして、やっぱり心配していたとおり九条と九十八条二項がぶつかり始めている。
 九十八条の中でも、九十八条二項の結んだ条約、国連憲章という条約、これも国際条約でございますから、これに加盟をしておる国連憲章第四十二条、例えば、国連警察軍による、各国が兵力を出し合って侵略国に対する陸海空、武力による制裁を行うと書いてある。これに対しては、それぞれ挙兵義務を加盟国は負っておると。これと日米安保条約とがまたぶつかってきちゃうと。こういうような、果たせるかな、私の心配しておったような九条対九十八条、これが衝突をし始めておるということが今日の問題点の第一でございます。
 すなわち、憲法は、御承知のように昭和二十二年の五月の三日に制定、公布をされたわけでありますが、その前の年の二十一年の十一月の三日にはもうほとんど完成しておったと。終戦後、一年と二か月ぐらいで国家基本法である憲法ができ上がり、しかもこれが憲法改正手続、九十六条によって、国会の衆議院三分の二、参議院三分の二、更に国民投票の過半数の同意、それが駄目な場合には最寄りの国政選挙において国民投票に代わるものを行うと、こういうことになっておりますね。これが憲法九十七条、改正手続なんでございますけれども。
 国連は、できたときには日本は、国連は御承知、昭和四十五年の六月にでき上がっておるわけですが、我が国は沖縄でもって神風特攻隊の壮絶なる戦争をまだやっておるんですね。だから、六月二十三日に沖縄戦終わりますけれども、当然のことながら日本は国連憲章上、敵性国家という位置付けになりました。敵性国家条項、御存じのとおり、枢軸国、日独伊と、それにブルガリア、ハンガリア、ルーマニア、かわいそうにフィンランド。フィンランドのマンネルハイムがスターリンの侵略に対抗するためにドイツと組んだために、これは敵性国家になったんですね。この七か国の敵性国家というのは、国連憲章上、依然として日本の国際的な地位であると。
 そして、日本は、本来ならば危機管理、非常事態対処法令というものを憲法の下でもってちゃんと順序正しく作りゃよかったのでございますけれども、お手元に「日本の防衛戦略における法令等時系列の混乱」という紙が一枚ございますが、これが言わんとしていることは、憲法が一番最初にできてしまいましたねと、そして二十二年の五月の三日に施行されまして、サンフランシスコ平和条約ができたのが二十六年の九月の八日でございます。この間、五十周年記念やっておりました。そして、二十七年の四月二十八日に施行されて独立国になるわけでございますが、このサンフランシスコ平和条約、これはこの段階でまだ日本は国連に加盟を許されておりません。直ちに国連加盟の申請を岡崎勝男外務大臣の名前で行ったのが二十七年の六月二十三日でございますが、ソ連の拒否を受けて、常任理事国の拒否権行使でもってこれは加盟できなかった。
 そして、国連のメンバーにならないうちに朝鮮戦争等がございまして、自衛力を持たなきゃいけないと。警察予備隊ができて、保安隊になって、そして二十九年の六月九日、防衛庁設置法、自衛隊法ができます。ついでに申し上げますと、もう一つの危機管理法である警察法もこのときに成立をしております。しかし、成立の過程は、乱闘国会、そして単独採決でございます。こういう状況で通った。すなわち、自衛隊法というのが憲法のずうっと後になってできております。そして、国連に加盟をしたのが昭和三十一年の十二月十八日でございます。したがって、時系列が逆立ちをしておると。
 日米安保条約に至っては、昭和三十五年の六月二十三日でございますから、これがいわゆる日米安保条約、この前に、サンフランシスコ平和条約のときに旧安保条約というのができております。これは、言うまでもなく、駐留権だけを認めた、日本防衛義務を負っていないという暫定措置だったわけでありますけれども。この国際条約というのが、九十八条の二項、これを遵守しなきゃいけないという国連の加盟が昭和三十一年であり、安保条約が三十五年であると。そして、自衛隊法は二十九年。
 本来ならば、この独立が回復されたサンフランシスコ平和条約の時点において憲法改正考えなきゃいけなかったんだと私は思っております。
 中曽根康弘元総理、当時青年将校でいらしたはずなので、私は、総理時代に、なぜあの独立回復したときに憲法改正をお考えにならなかったんですかと、青年将校としていかがでしたと。いや、当時はとてもそんなことを言える状況じゃなかった、そして独立回復のうれしさに紛れて、それはまた現実の問題じゃなかったから、みんな余り議論しなかったよと、こうおっしゃっておられました。
 それでは次に、三十一年の十二月十八日、国連加盟が許されたときに、岡崎勝男メモというのをごらんになるとお分かりになりますけれども、バイ・オール・ミーンズで加盟国の義務を果たすと。そういう、岡崎勝男は日本国政府を代表してそれを誓約すると言っているんですね。
 これは、もしもそれを、誓約を実行いたしますと、四十二条で軍事行動を、例えばアフガニスタンに対して行う、イラクに対して行う。典型的なやつがあのイラクの湾岸戦争でございますけれども、このときは常任理事会は、ソ連がゴルバチョフ、賛成でございますかね、トウ小平が棄権。これで初めて、常任理事国五か国の賛成若しくは棄権でもって四十二条制裁というのが初めて行われて、二十八多国籍参加しました。本来ならば、あのときに我が国も九十八条の一項と二項の矛盾というのを解決しておかなきゃいけなかったんだけれども、憲法九条を盾に、資金援助によってのみこれに対処をしたと、こういう経緯があるわけでございます。
 したがって、国連という言葉は憲法の前文から最後まで全部読みましても一文字も出てこない。国連というのは想定外だったんですね、憲法ができたときには。そうして、本来ならば三十一年にきちんと国連を組み入れた憲法改正なり解釈の統一なりしておくべきだったやつを、それも先送りしてしまって、この二十一世紀に入ってから、もう正に九条対九十八条二項、これがバッティングをしておると。九十八条二項の中で、国連優先なのか日米安保優先なのかという、そういう議論まで始まっておると。
 こういう混乱が始まったのは、そもそも、私は昭和二十五年の宮沢俊義解釈から始まっちゃっているのかなと。同格ではないんですね。御承知のように三つございます、この学説は。同格論というのは確かにございます。それから憲法上位論というのが、我が国法制局であるとか、あるいは内閣、これはやっぱり国内法優先という立場に立っておりますので、憲法優先論でございます。外務省は、どちらかというと条約優先論と。だから、同格なのか、条約優先なのか、あるいは憲法優先なのかということをそろそろ決めないといけない。どういう形で決めるかはこれから御審議をいただくということになるんだと思いますけれども。
 そういう大きな矛盾が、国連という言葉が全然ないところから、国際協力を行うに当たって今度は、別表にチャートを付けてございます、国連憲章、一番上に第七章のことが書いてございます。第七章は三十九条から始まっております、四十条からここに書いてありますけれども。三十九条が調停だとか和解だとか、そういう平和解決のための交渉とか調停ですよね。四十条、紛争拡大防止のための暫定措置と書いてございます。この四十条というのがPKOの根拠であるとデクエヤル事務総長は申しましたよね。
 そして、四十一条が非軍事的な制裁。これは、外交制裁、経済制裁、文化制裁、郵便物届けないとか、飛行機行かないとか、こういうのが第四十一条、非軍事制裁でございまして、四十二条が陸海空、武力による軍事制裁でございまして、四十三条は兵力使用の協定でございます。これは、国連事務局長とそれぞれの政府が個別折衝をすると書いてございます。
 そして、兵種といいますかね、どういう貢献の仕方をするか。コンバタントとノンコンバタントとございます。コンバタントというのは戦闘行動です。ノンコンバタントというのは非戦闘行動、これは非軍事的な協力とまた違う概念なんですね。軍事行動の中における非戦闘任務、後方支援だとか医療だとか輸送だとか通信だとか情報だとか、これがノンコンバタントということになっております。これのどれでやるのということを四十三条でそれぞれ個別折衝をすることになっている。日本は、だから湾岸戦争のときには経済援助、軍事費を持ちましょうと百三十億ドル出したわけですね。そういう協力をあの際は選んだと。
 五十一条が個別的、集団的自衛権。こういう国連憲章の条文のうち、武力の行使というのを認めておるのは四十二条と五十一条だけなんであります。この二つ、武力の行使と武器の使用というのを憲法あるいは法律解釈上きちんと分けなきゃいけないんだけれども、今や日本はめちゃくちゃになっておる。湾岸のときも、十二・七ミリ機関銃一丁持っていくのは武器の使用であって、二丁持っていくと武力の行使になるという信じられないような政府見解でもって十二・七ミリを一丁持っていったという、こういう議論なんですね。
 今またイラク特別支援法でもってどうするのという話になっちゃっている。自爆テロで体当たりしてくるやつを六四式小銃で止まりますかと。だから、もう少し火力の大きいものを持っていかないと任務を果たせませんよと。任務を果たせないどころか、犠牲者が出ちゃいますよ、犠牲者の殉職者に対する弔慰金の制度確立していますかというと全然できていないんですから、死なないことを前提に出すわけですね。非戦闘地域なんというのはありゃせぬですけれども、非戦闘地域に出すから殉職者は出ないという楽観的な前提でもって現在の法律は進行しております。もう二十三日には可決されるんでしょうけれども。
 これに対して私は大変懐疑的でありまして、殉職者に対する、倍額払うんだとか五割増しだとか言っているけれども、戦死するのは曹士ですよ。曹士というのは基本給せいぜい三十万か四十万でしょう。それを五割増しやったって四十五万じゃないですか。それから、退職金の倍やると言ったって、退職金、三年ぐらいしか勤務していないんだからもうせいぜい二百万か三百万でしょう。そうじゃなくて、何千万という、警察官に準じた、総理の弔慰金も加味したものを決める。現在のところ、総理の弔慰金、警察官、消防官には出ますけれども、自衛官には出ません。これを何とかきちんとしてから出さないといけないと私は思っておりますが、いずれにせよ、武器の使用というのは武力の行使でない、警察活動であると、こういうことを一応解釈上きちんとする必要があるんじゃないかなと思っております。
 そこで、憲法が何を受けているかというと、五十一条を受けたのが憲法九条と解されます。これは、個別的自衛権、戦争は放棄する、侵略戦争はやらない、集団自衛権はやらない、だけれども個別的な自衛権だけは行使しますという芦田解釈その他によってこれが現在の防衛政策として確定をしておりますね。そして、集団自衛権はこれを行使しないと。
 自衛隊法にこれが下りております。自衛隊法第三条の任務、直接、間接の侵略に対処するということと、必要に応じ公共の秩序維持のために武器の使用をいたします、これが治安出動と海上警備行動と領空侵犯、これであることは後で御質問があれば詳しく説明します。そして七十六条で防衛出動、これは総理が下令をいたしまして、八十八条で武力の行使が許されます。
 武力の行使と武器の使用はどこが違うかというと、刑事責任ありません。武力の行使は国家の主権行為でありますので、国家が責任を負うということでもって、個人の責任を問う刑法は適用になりません。そういう意味で、物を破壊しても器物毀棄罪にならない、敵兵を殺傷しても殺人にならないというのが武力の行使でありまして、武器の使用の場合は警察官職務執行法の基本に準じて過剰防衛だとかなんとかがあると刑事責任が、警察官が負わなきゃいけない。それが武器の使用と武力の行使の最大の違いでございます。
 そこで、自衛隊法第三条はこの五十一条から来た任務は受けておるんですね。そして、これ以外の、九十八条二項、国際連合の警察活動に伴う武器の使用に関する、これを受皿となっている条文は自衛隊法にもどこにもございません。だから、しようがないから何始めたかというと、国際緊急援助隊法から始まりますPKO法、周辺事態法、テロ特措法、そして武力攻撃事態対処法、今日審議しているイラク支援法と、こういう時限立法、しかも特別法で基本法をいじることなく次々と作ってきちゃったと、こういうやり方。これでまた北朝鮮対策法というのをお作りになる気なんですか、北朝鮮で事態が起これば。
 これは、そういう問題が起こるたびに特別法を作っていくというやり方はそろそろ限界でございます。対決法案であった時代、これは確かに妥協の産物でたくさんへんてこりんな法律ができました。だけれども、先般の有事法制で九〇%の国会議員が賛成をしたと。こういうふうに大きく、ナイン・イレブンあるいは北朝鮮、ノドン、核開発の問題でもって大きく政治・軍事情勢が変わっているわけでありますから、この機会にやはりこの国家基本法というものを考え直す必要があるんではないかなと。
 そして、内閣総理大臣の権限というもの、これもう一度考え直す必要があるんではないかなと。非常大権を現在の憲法はだれにも与えておりません。内閣総理大臣にも非常大権ございません。憲法上は六十六条から六十八条ぐらいで行政のトップであると書いてございますけれども、昭和二十二年法律第五号、これはマッカーサー時代に作った内閣法、これの四条、六条、これをごらんいただきますと、最高の行政の意思決定機関は合議体であるところの閣議であると。そうして、閣議は、六十八条、連帯責任論でもって、法制局の有権解釈だと、一人閣僚が反対をすると成立をしないと、こういう体制になっております。
 したがって、この憲法と緊急事態法を考えるには幾つかの道があると思います。それこそ憲法改正、九条を改正するという、一番これ声高にこのごろ起こってきた議論、昔からある議論でございます。二番目は、明治憲法を新憲法で廃止してしまった最後の条文、明治憲法はこれを廃止するという形で新憲法を制定するという考え方がございましょう。三番目は、憲法はそのままにしておいて、その下の内閣法を変えることによって非常事態対処権限を民主的集中ということで、ある時間、ある条件を限って内閣総理大臣に与えるという、これは国家安全保障基本法とか危機管理基本法とかいろんな言い方を私しておりますけれども、これで対処するか。
 提出してございます資料の中に、私は、憲法改正をあきらめてしまって国家危機管理法でいこうという幾つかの論文かがその中に入っております。こんな膨大な資料の中に、見ましたら私のも入っていて、これを全部読んでから出席せよという御指示だったんですけれども、自分のだけ読んで出てきたんですけれども、その中に提案をしておるそういう第三の選択肢もあると。
 こういうことで、今日の大きな問題点、まだまだございます。八十九条の、靖国神社に公的資金出しちゃいけないというのは分かりますよ。だけれども、どうして慈善、教育、博愛の、公的資金を投入しちゃいけないとこう言っておきながら、私学助成法というので三千五百億円も出しておる。これは違憲・合法なんですよ。赤十字社というのはベネボレンスでしょう。ベネボレンスには補助金出しちゃいけないんだけれども、赤十字社設置法で出していますでしょう。そして、その肝心なNGOだけ国費出しちゃいけないということになっていて、NPO法でカバーしたんだけれども、大蔵省が頑張っちゃって免税しませんからね、お金集まらりゃしないです。ですから、このNPOに対してODAの一%でも割いて、その奉仕の精神と時間と体は若者たちに、あるいはボランティアたちに提供してもらって、お金は国が持つと、こういう体制を憲法八十九条の改正によってやらないといけないんではないかなと。
 二十九条も大問題でございます。公的社会福祉のためには、公的な公共の福祉のために私権を制限することができる、ただし補償せよと書いてございますが、これが空文になっておることが、成田空港の第二滑走路ができないという現状、これでお分かりだと思います。
 幾つかの問題ございますけれども、また後の討議の機会に意見を開陳させていただきたいと思いますが、基本的には、国連という規定が憲法に全くない憲法である、それから非常事態対処の大権、非常大権をだれも持っていない憲法である、この二つの点を指摘して終わりたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 115614184X00920030716_002

発言者: 佐々淳行

speaker_id: 3633

日付: 2003-07-16

院: 参議院

会議名: 憲法調査会