福井秀夫の発言 (国会等の移転に関する特別委員会)

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○参考人(福井秀夫君) 福井でございます。
 本日は、意見を述べる機会を与えていただきましたことを大変光栄に存じております。
 私からは、最近の経済社会状況の変化を踏まえた国会移転の在り方について意見を申し上げたいと存じます。
 まず第一点、経済社会状況の変化についての認識でありますが、首都機能移転に大きくかかわります経済社会状況の変化は次の三つと思われます。
 第一は、人口の伸びの鈍化であります。これは社会の高齢化を意味いたします。日本全体として住宅や都市基盤施設等に対する需要の伸びが鈍化すると予想されます。
 第二は、経済成長の伸びの鈍化であります。中長期的には経済の安定成長が見込まれるため、特に政府部門の投資には、費用に対して効果が十分存在するものから優先順位を付けて行うということがますます求められると思われます。かつてのように、大きな成長からもたらされるパイを十分な吟味を経ないでもろもろの利害集団に気前よく再分配するという構造は終えんを迎えたと思われます。
 第三は、集中と選択の必要性の高まりであります。従来の国土政策のスローガンでありましたいわゆる国土の均衡ある発展といった言葉に象徴される政策は、経済社会構造に余力がある時代の産物ではあり得ても、現在の状況には必ずしもそぐわないと思われます。人的資源やあるいは経済余力が減じつつある現在、健全な国民経済の基盤を確立していくためには、人口、産業、都市基盤施設を始めとして、集中に伴う利益を追求するとともに、その際にはより効率的な選択を行っていく、それが国家全体のパイを増大させていく上でも必須となると思われます。
 二点目に、首都機能移転の意義の再検証であります。
 以上の諸情勢の変化を踏まえて、九九年に国会等移転審議会答申がございましたが、それを踏まえた次の三つの目的、すなわち東京一極集中の是正、防災対応力の強化、国政全般の変革という、これらについてそれぞれ検証してみたいと存じます。
 まず第一は、東京一極集中の是正という目的あるいは論拠でございます。
 東京圏への人口や企業本社の集積によって、交通混雑、環境悪化など、集中に伴う弊害が発生してきたことは事実であります。しかし、企業の取引などには集中に伴う規模の利益もございます。フェース・ツー・フェース、すなわち対面のコミュニケーションが容易であることに伴って、集積がかえって混雑や移動時間の浪費という無駄を節約するという側面もあります。集積は文化や芸術の営みに関しても多種多様な選択肢を市民に提供し、雇用の面でも東京圏の就業機会の多様さや求人量は際立っております。集中そのものを規制、排除するとプラスの側面を捨て去ることになりかねません。一極集中対策とは、集中そのものの排除ではなく、混雑への対処たるべきだと考えます。例えば、虫歯になるのは歯があるからだとして、あらかじめ歯を抜く治療がかつて存在しましたが、現在は消滅しております。
 現在の首都機能は、企業、国民、自治体を様々な援助組織、規制、許認可等によって人為的に呼び寄せているという意味で、混雑の発生原因であります。ほかの地域にその発生原因が移転するだけでありましたら、今度はそちらで集中の弊害が発生するだけのことになってしまいます。一方、東京における集中の便益は確実に低下します。
 すなわち、ほどほどの集中をもたらすことはほどほどの便益とほどほどの弊害を発生させるだけであります。一極集中の是正のためには混雑そのものをコントロールする、例えば混雑税や環境税などの独立の手段を講じますとともに、国家機関の権限等を民間や自治体に基本的に移譲していくという試みが本質的な対策だと考えます。
 第二に、防災対応力の強化という論拠であります。
 この目的のためには、東京と比べて明白に安全性を備えた地域を移転先として想定することが一つの選択肢となります。もう一つは、リスクの分散のため何か所もの地域への機能の分散を図ることであります。
 しかし、前者については、地震に関して安全な地域の選定を確定的に行うことは現時点では技術的、学問的に困難であります。後者につきましては、首都機能の中の同一の機能を複数地域に分散するのでなければバックアップの機能を果たせないことから考えますと、膨大な分散投資を行うメリットとそのデメリットとの比較考量が不可欠となります。更に言えば、いずれの場合も、既存のブロックの中枢都市などが首都機能の一部を受け持つことでは足りず、白地から新首都の構築を考えなければならないという必然性はございません。
 以上を総合的に勘案いたしますと、防災対応力を強化するという首都機能移転の目的には必ずしも合理性がないと考えます。
 第三は、国政全般の変革という論拠であります。
 国政の課題としての官から民へ、国から地方へといった権限移譲は長年にわたる潮流となってきております。しかし、本来は国政上の課題の実現と首都機能の配置とは独立の論点であるという批判も存在します。ところが一方で、長年にわたって官と民又は国と地方との特殊な関係が濃密に繰り広げられてきた東京では望ましい関係の再構築が困難と考える余地もあります。首都機能移転とは、言わば強制的な東京からの人為的な集中発生源の離別であり、新首都を訪問するに際して障壁があることによって、官と民、あるいは国と地方との間、それぞれの間に一定の距離を置くことができて、これによって権力的な構造が緩和されると考える余地もあります。
 仮に、濃密なコミュニケーションという従来の関係に一切変化がないまま機能移転が行われるならば、民間や自治体にとっては移動のコストが耐え難いレベルに達します。それにもかかわらず、国政上の諸改革に手が付けられないままでありましたら、負担だけが増大することになります。
 あくまでも構造変革の手段として首都機能移転をとらえるとすれば、移転に積極的意義を見いだすことは十分に可能だと思われます。その場合には、移転によって具体的にもたらされる構造変革の内容や程度についてもあらかじめ明らかにしておくべきだと思われます。
 具体的には、例えば行政運営について情報公開法を超えるレベルでの情報の徹底的な開示、例えば政策の決定過程をガラス張りにすることですとか、行政の権力の源泉となっております許認可、行政指導、補助金交付などにおけるあいまいな裁量権を立法によって明確化、透明化すること、また、国民の権利救済と行政の適法性を確保するために使い勝手の良い行政訴訟制度を構築することなどが必要不可欠と思われます。
 中央政府の権限や財源を必要最小限度に絞って、地方分権を徹底し、自治体や民間が主役となる社会構造に変革することも重要と思われます。さらに、差し当たり新規に建設される首都を対象として、土地利用規制、税制、法規制などに関する様々な社会実験を行うことにも意義があると思われます。
 今般、規制改革特区の制度がスタートいたしましたが、これらについても関連いたしますように、全国一律に適用するには、効果についての実証データが乏しいという制度について、新首都を言わば特区と位置付けて、そこでは全国の先駆けとなる様々な新しい試みを行うということもあり得ると思われます。
 例えば、都市計画、建築規制の容積率規制を撤廃して自由な土地利用を確保する、交通混雑を抑制し都市環境をも向上させる鉄道や道路に関する時間差料金制、いわゆるピークロードプライシングを導入すること、環境税等を導入した循環型社会のモデル都市を構築することなども考えられます。
 財政事情が極めて逼迫しております現在、首都機能移転論に当たっては、構造改革に関する具体的な政策内容をあらかじめ確定し、厳正にその実が上がるような仕組みを構築しておくことが望まれます。
 三点目に、首都機能の規模や形態についてであります。
 国政上の構造変革に具体的に寄与できるような首都機能の移転の規模、形態でなければ、効果を十分に上げることは困難と思われます。
 具体的には、民間や自治体との接点が多く、かつ接触の密度が濃い組織ほど移転の優先順位が高いと考える根拠があります。このような組織の就業人口をその家族、関連サービスの従事者などを具体的に計上する作業を行うならば、人口規模を絞り込むことは可能と思われます。
 移転規模や対応する組織は、中枢的意思決定を行い、対外的な判断や指導の窓口となり得る部局、なかんずく行政庁における組織が中心となるべきだと思われます。もっとも、移転後も同じだけの権限をそれらの組織が発揮し続けるというのでは移転の意味がありません。
 次に、形態については、新首都への機能の移転の後に、特に交通ネットワークが未整備であること等が来訪するための障壁となるような機能こそ移転の必要性が強いとも言えます。
 国家機能の三権の中では、司法、すなわち最高裁は、下級審と異なり、弁論回数も少なく、一般的な国民、企業との接触も少ない組織であります。このような機能には移転の費用に見合う便益はほとんど期待できません。
 一方、中央官庁の行政機能は、現実に多くの自治体が接触拠点として東京事務所を置いていることからも明らかでありますように、権限を背景とした集中の発生原因の筆頭格であり、これらのうち、中枢管理機能、対外的な指導の窓口部局を移転させることには一定の意義があり得ると思われます。
 国会は、立法及び予算の議決がその本来の役割でありますから、対外的な接触の必然性は行政機関よりも小さいということが言えます。しかし、国会が立法や政策に専念する環境を整備するという意味で、また、実質的に議院内閣制の下で密接な関係を持つ行政庁に対して多大な移動のロスを生ぜしめないという点から、行政庁の中枢機能と同じ場所に存在することが望ましいと解する余地もございます。
 堺屋太一氏が先般、二十一日付日経「経済教室」で提唱しておられます対面情報の習慣を切断するための分割移転という提案も、私の考え方と枠組みにおいて同じであります。
 移転費用の軽減策としては、重要なことは、土地買収に当たっての開発利益を公共部門が吸収することと思われます。
 例えば、収用権を背景とした土地の大規模な先買い制度を法制化することを検討すべきと思われます。また、公共部門が本来は比較優位がない不動産経営に乗り出さずに民間活力を活用するため、大規模な単位での敷地において定期借家権等を活用して政府施設、オフィス、住宅等の供給をすることを中心とすべきと思われます。
 最後に、四点ですけれども、東京都と移転先の首都との比較考量の問題であります。
 国政上の構造変革を伴わないまま東京都以外の地域に莫大な建設投資を行うならば、社会的な便益の存在しないまま社会的な損失を拡大させる結果となりかねません。言い換えれば、制度変革のないままの首都機能移転は、現在の首都機能を東京に存続させる選択肢と比べて国民的利益を増進しないものとなることに留意が必要と思われます。
 真に国政の構造改革を伴うこととセットでの首都機能移転を進めていただきたいと念じております。

発言情報

speech_id: 115614298X00220030423_006

発言者: 福井秀夫

speaker_id: 17684

日付: 2003-04-23

院: 参議院

会議名: 国会等の移転に関する特別委員会