市来治海の発言 (国会等の移転に関する特別委員会)
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○参考人(市来治海君) 住友生命総合研究所の市来と申します。
今日は意見を述べる機会を与えていただいてありがとうございました。
私の方は、平成二年にこの問題が始まって現在平成十五年、全く金融、経済の日本の状況が変わったということで、なぜそれが変わったのか、それからそれを元に戻すにはどうしたらいいか、こういう観点からお話をするということでやってまいりました。
私がお配りいたしました「日本経済・金融の現状と問題の核心」というこの資料に沿いましてお話をしたいと思います。このレジュメのほかに私の書いた論文が二つございますので、適宜御参照いただきながらお話ししたいと思います。
まず、私は、現在の日本の経済、金融についての診断でございますが、日銀にインフレターゲットを導入させなさいとかあるいは補正予算をしなさいとか、いろいろな議論が出ておりまして、その根底に需要不足によるデフレが始まっていると、こういうことがあるんですが、私はまずこのデフレ論議に非常に誤解があるのではないか。だから、今の日銀の問題とか財政拡大をやっても、どうもちゃんとこれは肝心の問題に対してターゲットを外しているのでどうもうまくいかないのではないか。私の認識は、真の問題は資産デフレである。土地、株式価格の下落、データも先ほどのにございますが、これは極端に下がっております。
したがいまして、これによって何が起こったかということが、三つぐらいそこに挙げましたけれども、第一に、銀行が土地、株式をベースに信用創造していた。ここが特にアメリカとか欧米諸国と全く違う点でありまして、アメリカとかヨーロッパでも多かれ少なかれ資産デフレの、起こっているんですけれども、銀行がそれをベースに信用創造をしていたということは、日本と外国との全く根本的な違いであります。
価格下落によって金融システムが大打撃を受けてしまった。まず、不動産の方については銀行の不良債権が膨大に積み上がった、こういうことがあります。それから、株式の方は、これは銀行が大量に株式を保有している、現在でも約三十兆、全国銀行で三十兆保有しておりますが、この株式が大体ピーク時の四割、三割ぐらいになっておりますので、銀行がその損を埋めるために自己資本が非常に毀損されてしまった。この二つによって金融システムが大打撃を受けたことが非常に日本の経済、金融がいまだに低迷している一番大きな理由なんだと。結局、それによりましてお金がスムーズに回らなくなった。経済の心臓が金融機関であって、お金が血液ですから、心臓の具合が悪くなればこれは経済というのは非常にうまくいかなくなるというのが第一に指摘したい点でございます。
それから第二に、企業のバランスシート。企業はたくさん不動産も持っておりますし、一時は投機をしなければ経営者ではないというような評論もございまして、大分企業も不動産とか株式投資をたくさんした。これが非常にバランスシートの面で大きな打撃を受けた。それから、個人も、これはバランスシートございませんけれども、もちろん大きな打撃を受けたために、企業の投資意欲、個人の消費意欲が非常に極端に低下したということがございます。企業は本来、投資超過であって貯蓄超過ではいけないんですが、現在、企業は収益が上がるとそれでどんどん負債を返すということになっておりまして、企業も個人も貯蓄超過になっておる、需要不足が恒常化している、これが第二の問題であります。
それから、もう一つは、後で出てまいりますが、個人は特にこのバランスシート、個人バランスシートの毀損のほかに社会保障制度への将来不安、これが非常に加わっておる。要するに、人口構造がこの十二年で激変いたしまして、高齢者が増えて若い方が減ったという中で、社会保障制度の抜本改革がなされていないために非常に将来不安が加わっている、これが個人の消費意欲を更に低下させているというのが第二点でございます。
それから、こうした状況の中でグローバライゼーションと世界的技術革新による一般物価デフレが加わったというのが現状だというふうに私どもは理解しております。
このグローバライゼーションと世界的技術革新による一般物価デフレというのは、榊原英資先生の「構造デフレの世紀」等々、あるいは水野和夫さんの「百年デフレ」等々で指摘されておりますが、①、②に加えて世界的な構造デフレが起こっているということで、現在の日本の状況というのは、一般物価では消費者物価は一%前後しか下がっていないということでありまして、これはどうも資産デフレ、資産デフレーションであって、一般物価デフレーションというのは必ずしもそれほど深刻なものではない。主にそれは③の世界的な傾向であって、これは相当続くだろう。こういった面でのデフレ傾向というのは日本だけじゃなくて、欧州でもアメリカでも現実に起こっております。これが第一の現状認識でございます。
これに対してどのような政策対応をしたらいいのかということで、二つ、私どもの研究所で政策提言をしております。第一は資産デフレ対策であり、第二は社会保障の抜本改革であります。
第一に、資産デフレをストップするために株式市場に思い切った介入をしたらどうかというのが私どもの提言でございます。
このお配りしました論文の最初の方、「銀行保有株式を国は全額買い上げよ」というのがございます。これについて、ちょっと一枚めくっていただきまして、そこに「新機構設立による「窮極の不良債権処理策」」というのがございますけれども、これに沿ってちょっと説明をいたしますと、現在、いろいろな株式取得機構がありますが、それから現在出ている話としては、民間でかつての共同証券保有機構等のようなものを作ったらどうかという話もございますが、私どもはどうもそういうことでは駄目であると。一番問題は、銀行が株式の値段が上がったり下がったりするために経営がぐらついたりバブル化したりすることをなくさなければいけない。つまり、銀行と株式、銀行経営と株式保有を遮断しなければいけない、ここが最大のポイントだというふうに私どもは認識しております。
アメリカの株式市場がなぜ現在のように効率的な大マーケットになっておるかというのは、一九三三年のグラス・スティーガル法により銀行の株式保有を全面的に禁止したために今日のような非常に立派な株式市場ができておる。ところが、日本は戦後の金融行政の中でなぜか銀行に株式保有を独禁法の制限以外には無制限に認めた、ここに非常に大きな誤りがあったというのが私どもの認識でございます。
したがいまして、国が、これ民間も一緒になって設立してもいいんですが、新しく銀行保有株式処理機構というのを作りまして、私どものみそは、国がここに永久国債を交付する、そして機構が永久国債でもって銀行の保有株式三十兆余りを一挙に買い上げてしまう。そうすると、銀行の資産というのは株式から永久国債に変わります。後は機構が相場を見ながら株式を徐々に売却していって、そしてその売却したお金でもって永久国債を期限前償還する。
こういうことにいたしますと、永久国債でありますから、これは償還の必要がなく、株が売れたときだけ償還すればいいということになりますので国民負担は発生しない。それから、銀行の株式相場によっての経営のぐらつきというものがなくなる。それから、将来もし機構が買い取った株式が下がったらどうなるのかというのを御懸念になると思いますが、これは永久国債で償還の必要がないので、ずっと国がそれを持っていればそれで一向に差し支えない、こういうふうに私どもは考えております。
したがって、だれにも損が発生せず、しかも銀行の経営が非常に安定する。それからもう一つは、株式市場が、日本の株式市場がゆがんだのは銀行が非常に大きな株式保有をしていたためだと思いますので、それがなくなりますので非常に株式市場が効率的で正常なものになっていくのではないか、これが私どもの第一の提言でございます。
それから、第二の提言といたしまして、社会保障につきまして、個人が社会保障制度へ非常に将来不安を持っているということで、これに対してどういう抜本改革をしたらいいかということで、そこのレジュメにありますように、国民に将来へのコンフィデンスを取り戻させる必要があるのだということでございます。
この二つ目の論文の二ページ目を開けていただきますと、「財政維新プラン」と私どもで名付けたものがございますが、これはどういうことかといいますと、今の社会保障制度の一番の問題というのは、私どもの理解では、ナショナルミニマムである高齢者保健、基礎年金、介護保険、これが非常に大きな部分が保険によって運営されているというのはどうも問題ではないかというのが私どもの認識でございます。
こういった社会保障の基礎部分は、これはどうも税金でやるべきではないかというのが私どもの認識でありまして、保険の論理と税金の論理というのは非常に混然一体として混乱をしておる。したがいまして、ナショナルミニマムはすべて税金で賄う。こういうことにすれば、今の日本の社会保障というのは、若い世代から高齢世代への所得移転、世代間の助け合いという理念で構成されておりまして、それがこういったナショナルミニマム部分にまで、非常にたくさん社会保険制度で運営されておりますので、そこにどうも問題があるのではないか。
したがいまして、ナショナルミニマムの部分をすべて税金で賄うことにいたしますと、私どもの計算ですと、現状ですぐそれをしようとしますと十六兆円掛かる。これはなかなか財源がないということでいつも挫折してしまうんですが、私どもは、そこに書いてあるのは、公共事業を八年かけて三分の一削減し、GDP比で国際水準へ近づけると。こういうことをすれば、八年間で年間二兆円ずつで十六兆円の財源というのが捻出できるのである。それによってナショナルミニマム部分をすべて税金で賄う。
こういたしますと、公共事業を減らすと緊縮財政で景気が悪くなるとおっしゃいますが、これはそうはならない。つまり、ナショナルミニマム部分の社会保険料、これが相殺されるということになります。ナショナルミニマムの中の社会保険の部分の社会保険料がすべて税金になりますので、我々サラリーマンからいいますと社会保険料が大幅に減る。したがいまして、これは恒久減税と同じになる。サラリーマンからいいますと社会保険料というのは税金と同じでありますから、これが恒久減税と同じになるので、十六兆円の公共事業は減るけれども、その分十六兆円の可処分所得が増えるということで、これはほぼ相殺されて緊縮財政にはならない。その上で、国民が非常に将来、ナショナルミニマム部分が税金化されまして所得移転、強制的な所得移転がなくなりますので、国民が将来に対する社会保障制度への不安がなくなる。これによって景気が本格回復する。そこで、課税最低限引下げ、消費税率引上げ等によって財政再建が成るというのが私どもの第二の政策提言でございます。
第三といたしまして、今私が申し上げましたように、まず、銀行の株式保有を切断するということによりまして資産デフレはストップできる、こういうふうに考えております。それから、国民が社会保障の将来にコンフィデンスを取り戻す。過大な現役世代から高齢世代への所得移転がなくなり、かつナショナルミニマム部分は国が税金でもって将来とも完全に保障してくれるということであれば、今のように徐々に社会保障の給付を減らし、社会保険料の負担を増やすというような形で国民が将来に不安を感じているということが一掃されるのではないかというふうに思います。
それからもう一つ、今までは全然申し上げませんでしたが、為替レートでございまして、これが私の認識では非常に割高ではないのかと。今、一ドル百二十円というのは、ちょうどバブルのピークの一九八九年、九〇年、このころのレートと実はほぼ同じでございまして、当時はユーロというのがなかったんですが、これはどうも異常に割高ではないか。
なぜ円がそんなに割高なのかというと、私の認識では、個人資産千四百兆円が海外に流れていかないから。今の個人金融資産千四百兆のうち、海外、外貨建て資産はわずか一%でございます。これはやはり異常ではないか。年間二千万人近い国民が海外旅行をしておる、つまり二割近い国民が海外旅行をしているのに、その保有資産が外貨が一%しかない。これは異様に日本の中で貯蓄過剰になり、それが外国に流れていっていないのだということでございまして、これがもし一〇%、二〇%流れ出すようなことになりますと、今の円の異様な為替レートというのは修正される。
つまり、資産デフレがストップし、国民が社会保障の将来にコンフィデンスを取り戻し、円の割高な為替レートが国民が正しいポートフォリオ認識、正しい将来への投資スタンスを取り戻すことによって是正されること、この三つが実現すれば、実質二、三%の成長は十分可能なのだというのが私の分析でございます。