逢見直人の発言 (法務委員会)
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○参考人(逢見直人君) UIゼンセン同盟の逢見です。本日は、意見陳述の機会を与えていただきまして、感謝申し上げます。
UIゼンセン同盟は、昨年九月に統合された産業別組織でございまして、組合員七十八万名の労働組合でございます。UIゼンセン同盟は、製造業、流通サービス業を中心に、個人消費に密接にかかわりのある生活関連産業をカバーしております。私は、そこで企業倒産や合理化の問題の担当の責任者をしておりますが、昨今のデフレ経済あるいは長期不況の下で企業倒産あるいは合理化問題が多発しております。私は、そこで経験したことから、倒産法制の見直しの必要性を痛感しておりましたが、その意味で、現在、国会におきまして一連の倒産法制見直しが行われていることにつきまして強い関心を持ち、また法制審議会等におきましても、連合を通じまして、各種意見を申し述べてきたところでございます。今回の担保物権及び民事執行制度改善のための民法等改正案につきましても、大きな関心を持って見てまいりました。本日は、こうした観点から、主として労働債権の先取特権の問題について絞りまして意見を申し上げてみたいと思います。
まず第一は、雇人給料の先取特権の範囲の拡大についてでございます。
改正法案は、民法三百八条の先取特権の範囲を商法二百九十五条と同一とするという内容でありますが、この考え方については賛成であり、その成立を希望するものであります。我が国における企業倒産の現状は、法的整理が最近やや増加傾向にあるとはいえ、依然としてその三分の二は任意整理であります。任意整理においては早い者勝ちの処理になることが少なくないとされ、債権者会議の招集などの任意整理の手続が行われる場合であっても、不公平な配当が行われている等の問題が指摘されております。零細企業に働く労働者にとっては、法的知識に乏しいこともございまして、任意整理の場合は労働債権の弁済の程度が相当程度低くなっているというふうに言われております。
こうした任意整理における各種債権間の優先順位は、民法、商法及び国税徴収法等の一般実体法によっております。労働債権については、御承知のように、民法等により一般先取特権が認められ、一般の債権者に先立って弁済を受けることができることとされておりますが、優先順位としては抵当権等の被担保権や租税債権の後に位置付けられております。また、一般先取特権の範囲についても、現行法では商法等が適用される労働者は全額であるのに対し、民法が適用される労働者は最後の六か月に限定されていたため、公平、公正という見地から見て、これは望ましいものでなく、民法と商法の同一化を図るべきことがかねてより指摘されておりました。今回、ようやく民法の規定を商法に合わせるという形で同一化が図られることは、私たちにとりまして長年の懸案の一つが解決されることになると思います。
ただ、残された問題として、事実上は労働債権でありながら、先取特権の扱いがなされないものが存在するということであります。例えば、請負契約に基づく労務の提供であります。建設業等では多層的な請負契約によって労務を提供する例が多く見受けられます。また、製造業におきましても、生産ラインの一部を請負契約にしているものが見られます。また、今般の労働者派遣法の改正によりまして、物の製造についても派遣が認められるようになるなど、派遣労働が今後一層増加することが予想されます。また、製造業だけでなく、営業外務員等でも雇用契約ではなくて請負契約になっているケースもございます。
こうした請負や委任により労務を提供する者であって、労働組合法三条に該当する労働者とされる者の労働債権についても先取特権の範囲に加えるべきであります。また、労働者派遣契約によって労働に従事していた者が派遣先の経営破綻によって賃金の未払が生じたケースにつきましては、これも労働債権の先取特権の範囲に加えるべきであります。今後、これらの点の改善を求めてまいりたいと思いますので、御理解をお願いしたいと思います。
次に、労働債権が抵当権等の非担保権や租税債権よりも劣位に置かれているという問題であります。
最近の倒産事例では、労働債権が担保抵当権より劣位にあるために労働債権に充当できず、支払われないというケースもあります。労働債権は労働を提供して初めて発生するものであり、あらかじめ担保権等の設定が困難であるという性質を持っております。賃金等の労働債権は労働者にとって生活費であり、家族を含めましてそれが得られなくなると直ちに日常生活に支障を来すものであります。労働債権のうち、一定限度は抵当権等の担保権や租税債権より優先すべきものとすべきであります。
連合では、一定限度の労働債権、これは生活費として欠かせない範囲のものという意味でございますが、これをスーパー債権として担保権よりも優先すべきという考え方を提示してまいりましたけれども、他の債権者間の利害にかかわる問題であることもございまして、関係者の理解を得ることができず、今回の改正に盛り込むことができませんでした。私どもとしては、これからもこうした点を主張してまいりたいと思っております。
第三に、先取特権の行使要件の緩和についてでございます。
企業倒産時における労働債権の確保は、スピードと公平性が求められます。任意整理の場合は正に早い者勝ちであり、他の債権者に先んじて行動しなければ労働債権も確保できないことになります。いざ倒産となったときに、労働者個人個人の行動には限界があり、我々の経験では、労働組合が重要な役割を担っております。先取特権の行使をするのは債権者である労働者個人ですが、個人で未払債権額を確定し、その差押手続をすることは事実上困難であります。当該労働者を組織する労働組合が弁護人に依頼して委任手続を取って、先取特権に基づく差押手続をすることになるわけですが、五人、十人の零細企業ならすぐに委任手続が取れますけれども、従業員数が数十人、数百人となりますと、委任手続だけで時間が掛かってしまいます。労働組合が当該企業に働く労働者の労働債権の先取特権を一括して行使できる、そのようにすべきだと思います。
労働債権の先取特権に基づく差押えについては、手続上求められる証明書類、例えば担保権の存在を証明する文書、あるいは一般の先取特権の存在を証明する文書、これらを労働者が執行裁判所に提出しなければなりません。最近は、裁判所の運用はかつてに比べるとある程度柔軟に改善されてきていると言われてはおりますが、証明文書として何が必要かを例示するなどして、通常の労働者であれば特段の努力を必要とすることなく差押えが可能な要件とすべきであります。
また、一般先取特権行使に時間が掛かり過ぎるという問題がございます。これは裁判所の運用にかかわる問題でございますが、事件が多過ぎて担当する裁判官がなかなか記録を検討できないという問題もあるようですが、一刻を争う企業倒産時において差押命令が出るまでに何日も掛かっているということであれば有効に機能するはずがありません。運用の改善を求めたいと思います。
第四に、ILO百七十三号条約、これは労働者債権の保護に関する条約ですが、日本はこれがまだ未批准でございます。この批准の点に触れたいと思います。
このことは国内法において労働債権の租税公課からの優先を定めることを意味するものであります。最近の倒産事例では、公租公課以外に弁済できる財源がなかったため労働債権が払えなかったというものもあります。ILO百七十三号条約の第二部第八条では、国内法令は労働者債権に他の大部分の優先的債権、特に国及び社会保障制度より高い順位の優先権を与えるということが定められています。つまり、国税や社会保険料よりも労働債権が優先的に扱われることを義務付けているわけであります。日本はまだこの条約を批准しておりませんが、早期に国内法、すなわち国税徴収法を見直して、労働債権を租税公課より優先したものとすべきであります。
以上、幾つか意見を申し上げてまいりましたが、最後に強調しておきたいことは、企業倒産の実態からすれば、公租公課あるいは担保抵当に入っている物件を除きますと、労働者が未払労働債権として確保できるものは在庫品あるいは売掛金等であります。在庫品は、いったん倒産するとその価値は著しく低いものとなります。そのために、未払労働債権が支払われなかったという例も少なくありません。そういう場合には未払賃金の立替払制度があるではないかという指摘もあるかと思いますが、この未払債権の立替払制度は対象とする労働債権の範囲が狭く、またその上限金額が低いこともありまして、全額保証されるということにはなっておりません。実体法上の優先権が幾ら認められるといいましても、その実現手続が困難を伴うものであればその実効性はなきに等しいものと言わざるを得ず、とりわけ、その実現に迅速性を要する労働債権については、より使いやすい手法が取られるべきであります。市場競争激化の時代にあって、労働債権の先取特権といいますのは、正にこれからはセーフティーネットとして使うべき制度、より使える制度でなければならないというふうに思います。
この問題についてより一層の御理解をいただくことをお願いして、私の意見とさせていただきます。
ありがとうございました。