岩本康志の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(岩本康志君) 岩本でございます。本日はこのような機会を与えていただき、大変ありがとうございました。
 まず、平成十五年度予算の成立前に当たりまして私から申し上げたいことは、我が国の財政の状況は極めて深刻なものであるということでございます。十五年度の一般会計の予算ですと、歳出総額は八十一・八兆円なのですが、その中で租税及びそのほかの、印紙収入が占めるものが四十一・八兆円と約半分程度にすぎないということでございます。支出の約半分ほどしか収入がなく、残りを借入れに頼っているという状態といいますのは、家計や企業であればとっくにもう破産しているような状態でございまして、このような深刻な状態をこのまま続けていきますと財政の持続可能性というものの信認が失われて、やがて国債の暴落、最悪の場合にはデフォルトにつながりかねないという、そういう懸念があるということでございます。
 しかしながら、現在の経済状況をかんがみれば、財政としてできる限りのことをするということで、このような財政の収支ギャップというものが容認されるということになろうかと思いますけれども、これからの議論の中で大事なことは、現在は非常に困難な状態にあるんですけれども、これをいかに脱却して、将来、財政を健全な姿に戻していくかという、そういう中長期的なシナリオというものをしっかりと検討して、それを説得的な形で国民に示し、さらには、その国債の購入者に示すということが必要であろうかというふうに考えております。
 そのために政府が用意した文書といたしましては、今年の一月に出されました「改革と展望」というものがございまして、その中で、財政の今後の運営につきましては二〇一〇年代初頭にプライマリーバランスの黒字化を目指すということが書かれております。これをどのように実行するのか、そのためには歳出と税制をどうするのかということにつきましては、やはりまだ文書の説明が足りないのではないかということが、私は懸念しております。したがいまして、これからその財政をどのようにして健全な姿に戻していくのかということにつきましてもっと議論を深めていくことが必要ではないかというふうに考えております。
 当面の状況に戻りますと、現在、日本の経済は非常に長期の低迷を続けているわけなんですけれども、私は、その原因は構造問題に大きなものがあるというふうに考えております。とりわけ二つの問題が重要であるというふうに考えております。
 第一番目の問題といいますのは、今、日本では長期的なトレンドとして産業構造の変化というものが起こっており、それに対応していかなければいけないということでございます。
 お手元の資料の二ページのところに資料1といたしまして我が国の就業者数を産業別に示したグラフを用意いたしました。右側の方が最近の事情に当たるんですけれども、これを見ますと、九〇年代といいますのは製造業の就業者が持続的に低下しているということが表れております。これは言うまでもなく経済の空洞化現象でございまして、すなわち、製造業の生産拠点が海外の方に移り、日本でこれまで製造業に従事した人たちが職をなくしていっているという状態でございます。このような長期的なトレンドというものはもはや止めることはできないものであろうというふうに私は考えております。したがいまして、いかにして、こうやって失われた、製造業で失われた雇用というものを別の場所、恐らく成長産業として考えられるのはサービス業の中に含まれるものなんですけれども、それに転換していくかということが必要であろうかというふうに考えております。
 しかしながら、この転換、非常に困難な構造問題でありまして、政府が何を、政府が何ができるかということからいきますと、かなり対応策としては限られたものになるだろうというふうに考えております。すなわち、新しい雇用の創出なんですけれども、これについて今まで政府が何をしてきたかといいますと、公共事業を増やしまして雇用を支えてきたという側面があります。これは、このグラフの中で建設業の就業人口が九〇年代にずっと上昇していたということが表われております。
 しかしながら、これは後ろ向きの対策でありまして、本来は日本経済を牽引していくような強い産業に労働力をシフトさせていくということが必要でございます。しかしながら、そういう強い産業を見付け出し育成するということは必ずしも政府が得意とするものではございません。むしろ、強い産業というものは政府が手取り足取り育てなくても自ら育っていくものでなければいけないということでございます。ですから、政府が積極的に雇用のところに貢献する余地というのは私はかなり小さい、政府ができることは民間経済の活力の足を引っ張らないことであろうというふうに思います。その中で、持続的な失業者の発生というものは避けられないわけでありますけれども、それについては冷静に構造問題として対処していく必要があろうかと思います。
 もう一つは、経済が成長速度が九〇年代に入って鈍化しているということでございまして、これからの日本経済の成長の巡航速度といいますのは、専門家の見解ですと大体二%程度だろうと、年間成長率で二%程度だろういうふうに言われております。
 二%の経済成長といいますのは、すべての企業が二%で成長するということではございません。厳しい市場競争がございますので、うまくいっている企業は四%で成長するかもしれませんけれども、普通の企業はそのまま横ばい、ゼロ%成長かもしれないし、運が悪い企業はマイナス成長になるかもしれない。そういった形で、二%で経済が成長する中ではいわゆる負け組企業というものが現れてきて、そこから失業者が発生するということも避けられないわけでございます。したがいまして、持続的な失業者の新規発生というものは、日本経済としてはこれからは避けられない問題であろうというふうに思います。そのことは、今失業率が五%台に上昇しておりますけれども、これは循環的な問題だけではなくて、そういった構造的な問題が多く含まれているだろうというふうに私は考えております。
 もう一つ大きな問題といいますのは、銀行が巨額の不良債権を抱えておりまして、それによって金融の仲介機能というものが損なわれておりまして、資金がうまく回っていないという状況がございます。これは不良債権問題というふうに言われますけれども、英語ではバンククライシスというふうにもう呼ばれるのが一般的でありまして、これは銀行の経営問題でございます。この銀行の経営問題、小泉政権発足当初は不良債権の処理というものを政策課題の最重要課題として掲げたわけでございますけれども、不良債権オフバランス化、不良債権をオフバランス化するということを加速化させて、できるだけ早期に金融仲介機能の健全化を図るということが必要であろうというふうに考えます。この部分に関しては、非常に重要な構造問題なんですけれども、政府はそれを積極的に進めなければいけないというふうに考えております。
 次に、財政の方に戻りますけれども、この十五年度の予算の編成に向けました議論をいろいろと見ておりましたところ、私が感じたことは、歳出の削減の努力ということを幾つかやっておりましたけれども、どうもその削減の努力、削減の議論の方が前に出過ぎて、財政の本質的な問題というものが余り議論されていないではないかというふうに感じております。
 我々が目指さなければいけないのは、財政を健全な姿に持っていくということなんですけれども、そのための距離というのがどれだけあるかということを考えますと、プライマリーバランス、黒字化の前にプライマリーバランスを取りあえず均衡に持っていくというふうにしますと、この十五年度予算の数値を見ますと、財政の収支を二十兆円ほど改善しなければいけないという、そういう数字になるわけでございます。すなわち、収入を増やすなり支出を減らすなりして収支改善を二十兆円図らなければいけないということでございます。
 既に増税の話ということも出ておりまして、財界が消費税一六%といった具体的な数字の提言を出されておりますけれども、増税も必要なんですけれども、歳出削減というのもその前に必要だろうというふうに考えられます。これはいろいろと見方によって分かれるんですけれども、粗い数字でざっと申し上げますと、十兆円規模の歳出削減というのがこのプライマリーバランスの均衡に向けて必要ではないかというふうに考えております。
 そうしますと、十兆円を歳出削減するといった場合に、これから取っていくべき戦略というのは二つあります。一つは、今すぐにでも十兆円削減するという、そういう用意はあるんですけれども、もしそういうことをしてしまえば経済に大きな負の影響を与えてしまうだろうと。だから、激変緩和措置として、二〇一〇年代初頭にかけて徐々に歳出を減らしていくという考え方が一つございます。もう一つは、どうやって十兆円減らしていいか今のところ全然見当が付かない。したがいまして、毎年毎年いろいろ苦労して、何とか二〇一〇年代初頭にはその削減に結び付けようという、そういう考え方でございます。私は、前の方に述べた考え方の方が整合的な形で財政再建を進められるというふうに思うんですけれども、どうも現状は後者の方であるというふうな気がいたしております。
 したがいまして、本来議論すべき、ですから、この問題につきましては、財政を最終的に健全な姿に戻すということであれば、とりあえず足元のこの十五年度予算を眺めてみて、どこをどのように刈り取っていって、そして健全な財政歳出の姿に戻していくかというふうなことをやはりきっちりと検討していった方がいいと。毎年毎年場当たり的に対応するということは必ずしもいい結果を生まないだろうというふうに考えております。
 一つ実例を御紹介いたします。
 十五年度予算の編成の中で義務教育費国庫負担の問題が随分取り上げられました。これは補助金の議論の中でこれがやり玉に上がったんですけれども、補助金の中でこの義務教育費国庫負担金というのが最大の金額になっております。それである意味で目が付けられて、それでいろいろ騒いで、結局、約五千億円ほどこの負担金を減らすということで決着が付いてきたわけなのでございますけれども、この国庫負担金の問題といいますのは、後ろには国と地方の関係という大きな問題が実は隠れているわけでございまして、これは、小中学校の先生の給料を半分が国が、半分が地方が負担しているという問題、そういう構造になっております。
 しかしながら、この地方の半分の負担に関しましては地方交付税の方で措置されるという、そういう構造になっているわけでありますけれども、同じような、何といいますか、給料の補助といたしましては、給料の使い方といたしましては警察官あるいは消防士の給料があるわけなんですけれども、これにつきましては全額地方負担ということになっておりますが、地方交付税で手当てされるという構造になっております。したがいまして、最終的には地方交付税で国が財源の手当てをしているんですけれども、たまたま半分が国庫負担、義務教育職員に関しましては国庫負担金という形で出ていたがためにやり玉に上がって、結局、それでいろいろ議論して削ったということなんですけれども、やはりそういう構造的な問題、本質的な問題には議論が行かず、いろいろ騒いで、大きなところの予算を少しずつ削っていくという、そういう、矮小化と言ってはちょっと言葉はきついかもしれませんけれども、そういった議論にどうしてもなってしまうということでございます。
 私は、その本質の問題が議論されていないというふうに言いましたけれども、財政のところで構造改革ということが言われていますけれども、財政の構造改革として本質的な問題として議論しなければいけないことは、私は一点に尽きるだろうと思います。それは補助金に依存する体質というものをなくしていくということでございます。
 補助金といいますのはいろいろありまして、いい補助金、筋のいい補助金、それから筋の悪い補助金というのがありまして、筋のいい補助金といいますのは、これは配分のルールが決まっていて、あまねく人々に行き渡るような、そういった補助金でございます。これはどうしても政府が財政を、手当てをするということで必要だということで取られた、仕組みとしては取られたものでありまして、それがその筋のいい方に入ります。
 筋の悪い補助金といいますのは、奨励的補助金という言葉が使われますけれども、選択的に一部の人に与えられる、しかもその配分が官庁の裁量に任されている、あるいはいろいろな圧力が入ったりするということでございます。そうすると、そういう補助金に依存して活動を行ってくる民間部門、補助金頼りの民間部門あるいは地方自治体という、そういう甘えの構造が生まれてきます。ここの根を断ち切るということを本当はしなければいけない。
 財政というものは、国民からの税金を集めて、すなわち広く国民一般から薄く負担を集めて、それをある特定のところに厚く給付をすると、受益を与えるという、そういう構造になっているわけです。ですから、基本的に利益誘導が起こりやすい仕組みでございます。ですから、このことにつきましては、利益誘導を起こさないような形で、できるだけ起こさないような仕組みを入れていなければいけないということでございます。
 最後に、小泉政権の構造改革の評価について一点触れておきたいと思います。
 お手元の資料の三ページのところに用意しましたのは、中期展望というものを毎年一月に発表されますが、そこで示されましたその参考、それに関連しました参考資料で示された実質成長率、物価上昇率、完全失業率の数値でございます。
 で、まず上に、上段にありますのは、これ二〇〇一と書いていますのは二〇〇一年度、ですから、これは昨年の一月に示された展望なんですけれども、このときは集中調整期間ということで取りあえずは痛みを生じてもいいと、それによって生じても構造改革をするということでございまして、二〇〇二年度の成長率はゼロ%というものを想定した。その後、V字型でもないんですけれども、回復軌道に乗せるという構想であったわけでございます。しかしながら、構造改革というものは十分に進んでいないという形が、一向に進んでいないというのが国民一般の評価ではないかというふうに思います。
 そのことが実はその数字にも表れておりまして、この改定されました今年の一月に出されました展望では、二〇〇二年度の経済成長率は〇・九%というわけです。見通しよりはいいんですけれども、これは構造改革しなかったがためにこういう痛みを出さなかったということでございます。しかも、それで構造改革を結局一年間、集中調整期間を先送りするということをいたしまして、網掛けで示していますのは集中調整期間なんですけれども、全体に構造改革のスピードが一年間遅れるということでございます。
 こういうふうに遅れたことがなぜ生じたかと。いろいろな理由があるかと思いますけれども、やはり今、与党の皆さんの考え方を聞いてみますと、政府の考え方とかなり違ったものが表れてきているというふうな印象を受けております。
 これは、アメリカのような大統領制で、大統領と議会は別々の選挙で選ばれるということがあれば大統領を支持する政党と大統領が食い違うということが起こり得るんですけれども、議院内閣制の下では、政府と与党、政府といいますのはこれは内閣と政治任用の部分なんですけれども、政府と与党というのはやはり一体になって政策運営をしていただきたいなというふうに考えております。
 今、財政がこういうふうな状況で進んでいくということが許されるのは、構造改革の期間中は痛みをできるだけ和らげる緩和措置を取るということだろうというふうに考えております。しかしながら、そうやって一年間巨額の財政赤字を作りますと、それは国債の累増という形で後に残ります。したがいまして、猶予期間というのは非常に限られているというふうに考えられます。
 したがいまして、本当はこの二〇〇二年度の改定のところでも、こういうことなく、集中調整期間を延長することなく構造改革を迅速に進めていただきたいというふうに考えておりましたけれども、もうこれ以上の延長といいますか、構造改革の遅れというものは許されないのではないかというふうに私は考えております。
 以上でございます。

発言情報

speech_id: 115615262X00120030320_002

発言者: 岩本康志

speaker_id: 17930

日付: 2003-03-20

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会