ベルンハルド・ツェプターの発言 (憲法調査会安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会)

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○ツェプター参考人(通訳) 中山会長、近藤小委員長、このように、欧州統合プロセスと欧州憲法草案についてお話しする機会をいただき、心から感謝を申し上げます。本日、このような高名な憲法調査会並びに調査小委員会の皆様にお目にかかることができ、大変光栄に思います。
 私は、法の支配に基づく議会制民主主義が、私たちの自由と繁栄の基礎を形成していることをかたく信じております。また、欧州と日本とは、互いに学ぶべきことが多くあり、着実にグローバル化が進む世界にあって、パートナーとして協力し合うべきであると確信しております。
 二〇〇一年十二月の日本・EU首脳協議において、日本とEUの首脳は「日・EU協力のための行動計画」を採択し、世界的な平和並びに繁栄に貢献するという共通の責任の表明として、「日欧協力の十年」を開始することを決定いたしました。この調査会で行う本日の私の意見陳述も、この行動計画の精神及び意図にこたえるものとなるよう切に願っております。私の心からの願いは、統合のプロセスを形成してきた欧州の経験が、ほかの地域に住む人々がみずからの地域において同様な協力のあり方を見出す上でお役に立つこと、そして、国会による日本の憲法に関する広範にわたる調査に欧州連合が貢献できることにあります。
 この広範な調査との関連で、皆様の御関心は次のような点にあると理解しております。
 まず、欧州統合プロセスの歴史的背景。さらには、欧州統合プロセスの成果。また、そのような成果を得るために、EUは制度上どのように機能してきたのか。また、憲法上、EU加盟国はこのプロセスにどう取り組んできたのか。また、EUはどこに向かっているのか。とりわけ、欧州安全保障・防衛政策、拡大並びに欧州憲法草案の方向性について。そして最後に、日本にとっての欧州統合プロセスの意味するところと理解しております。
 本日の意見陳述は、以上のような議題項目に沿って行いたいと思います。
 二度と私たちの間で戦争を起こさない。これが、二十世紀に起きた二つの世界大戦からヨーロッパ人が学んだ主たる教訓であり、欧州統合プロジェクトの創始者たちがその大胆な構想を練り上げていく上での指針でありました。この過程での決定的な出発点が、フランス外相のロベール・シューマンが一九五〇年五月九日に行った次のような宣言でした。引用させていただきます。
  ヨーロッパは一日にして成らず、また、単一の構想によって成り立つものでもない。事実上の結束をまず生み出すという具体的な実績を積み上げることによって築かれるものだ。ヨーロッパの国々が結束するためには、フランスとドイツの積年の敵対関係が解消されなくてはならない。この目標を念頭に、フランス政府は限定的ながら極めて重要な一つの分野で直ちに行動がとられるように提案する。すなわちヨーロッパの他の国々が自由に参加できる一つの機構の枠組みにおいて、フランスとドイツの石炭及び鉄鋼の生産をすべて共通の最高機関の管理下に置くことを提案する。
 ここで注目に値すると思われるのは、欧州統合が、欧州石炭鉄鋼共同体という機構を通じて、侵略行為に必ず必要となる基本的資源及び戦略的に重要な生産を管理する計画から始まったということです。
 一九五三年の発足当時、この欧州石炭鉄鋼共同体は、欧州六カ国、すなわち、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダによって構成されていました。しかし、欧州防衛共同体の創設という六カ国による一層野心的な試みは、一九五四年にフランスの議会がこの条約の批准を否決したため、失敗に帰しました。
 欧州統合のプロセスは、動機としては政治同盟を目指してはいましたが、実際に採用された手段は、経済的であり分野限定的であったと言えるでしょう。しかしながら、法的、制度的な意味でのかぎは、欧州六カ国が国家主権の一部を超国家機関に移譲し、これが自国にかわって行動することを進んで受け入れたということでした。
 このECSC、すなわち欧州石炭鉄鋼共同体の成功に勇気づけられた加盟国六カ国は、政治同盟に関する合意に失敗したことも踏まえ、EEC、欧州経済共同体及びユーラトム、欧州原子力共同体を創設しました。これらの共同体は一九五八年に活動を開始しました。
 一九六七年に、この三つの共同体は、それぞれの法人格を保ちながらも執行機関を統合し、EC、当時はECと呼ばれていたんですが、誕生いたしました。一九六八年に、ECは加盟国間の関税同盟を完成させ、対外通商政策の責任は加盟国からECに移されました。その結果、ECの執行機関であった欧州委員会が、統合された政策、特に国際貿易について、加盟国を対外的に代表するということになりました。
 この統合プロジェクトの成功は目覚ましいものでした。欧州の中心に平和と政治的安定の領域をつくり出すとともに、経済的繁栄も促しました。ECが、政府間協力というより伝統的な形態に参加している域外の欧州諸国に比べ、はるかに効率的であるということが明らかとなりました。
 したがって、一九七三年には、EFTA、欧州自由貿易連合加盟国であった英国、アイルランド並びにデンマークの三カ国もECの加盟を決定いたしました。引き続き、一九八一年にはギリシャ、八六年にはスペインとポルトガル、そして、九五年にはオーストリア、フィンランド並びにスウェーデンが加盟しました。こうして、いわゆる共同体方式の長所や魅力が証明されたのです。
 ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦も解体した現在、EU拡大が欧州大陸の安定にとって重要な要素となっているということです。二〇〇四年五月一日には、新たに十カ国、チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、マルタ、キプロス及びスロベニアがEUに加盟します。そして、加盟候補国として公式に認められている三カ国、ブルガリア、ルーマニア、トルコが加盟を心待ちにしております。
 欧州統合の深化と拡大という課題に対応するため、法律や制度面で多くの適合化と条約改正が要求されました。一九八七年の単一欧州議定書により、一九九二年までに域内市場を完成させるロードマップが設定されました。また、この議定書では、共通外交・安全保障政策の確立に向けた最初の試みがなされ、また、ECの制度的構造の強化が図られました。また、単一議定書の直後、この議定書と関連する形で、当時の欧州委員会委員長であったジャック・ドロールは、複数年に適用される財政パッケージを設けることを提案し、これを実現させました。それにより、EC、そして現在ではEUのよりどころとなる確固たる財政基盤が確立されたのです。
 一九九三年にはマーストリヒト条約が締結され、ECは欧州連合、EUとなり、単一通貨ユーロの導入のスケジュールが設定されました。一九九九年にはアムステルダム条約、二〇〇三年にはニース条約が批准されましたが、これは、拡大に向けてEUの制度的な仕組みを強化することを目的とした条約改正でありました。現在、EUは、二〇〇二年から二〇〇三年の間に欧州の将来に関するコンベンションが起草した憲法草案の採択をめぐる討議の最中にあります。
 今日、EUの活動は、合計三万三千人の職員と一千億ユーロを超える年間予算によって支えられています。これはEDF、欧州開発基金を含みます。これは日本円で約十三兆円に当たります。また、言語の障壁を乗り越えるため、四千人の通訳者と翻訳者がEUのさまざまな機関で働いております。EUの行政機関である欧州委員会だけでも二万二千五百人の職員が働いております。
 欧州連合、EUの現在及び将来の政策についてお話しする前に、ここで手短に欧州統合の五十年を振り返り、その主な成果についてまとめてみたいと思います。
 EUの発展全体のかなめとなったのは、物、人、サービス、資本の自由移動に障害のない域内市場の完成です。これにより、政治的安定と経済的繁栄がもたらされ、加盟国間の社会的結束が向上いたしました。
 単一市場と同様に、あるいはそれ以上に重要であり、また単一市場と密接に結びついているものとして、EMU、経済通貨同盟及びユーロの導入が挙げられます。
 同様に、共通通商政策もしっかりと確立されています。これにより、EUは、国際的に一つの声で発言し、第三国との間で自由貿易協定、FTAや関税同盟を締結することが可能になります。
 共通農業政策によって、食料の安全、農家の生活の安定及び均衡のとれた農村開発が保証されました。
 豊かな地域と貧しい地域の間の連帯感を強化する必要にこたえるために、財源の割り当てが行われております。そのために、地域基金や構造基金、社会基金などが創設されました。これらの基金を補完するものとして、特別な結束基金や農村地域を対象とした財政援助があります。
 共通外交・安全保障政策の分野においても、比較的高度な協力が達成されなければなりません。欧州委員会が運営する欧州開発基金を通じて、EUとその加盟国は世界最大の開発援助を提供しています。
 EUはまた、自由、安全、司法の領域において高レベルの安全をEUの市民に提供すべく、警察・司法協力を大幅に強化しました。これは、テロや人身売買、子供に対する犯罪、不法入国、麻薬の密売、兵器の売買、汚職、詐欺等の対策について、加盟国間で共同行動を展開することによって実現されます。現在、欧州連合条約に取り込まれているシェンゲン協定によって、EU域内における人の自由な移動が可能となっています。
 交通、エネルギー、環境保護、社会労働権、消費者保護、保健医療、産業政策等の域内政策及び対外政策の多くは、今日、少なくとも部分的に欧州共同体の権限下にあります。
 それでは、EUの機構的枠組みの基本的な性格とは何でしょうか。
 まず最初に理解が必要なのは、欧州の建設、欧州をつくり上げるということが、その本質からしてユニークなものであり、伝統的な意味での国民国家を模倣したものでもなく、政府間制度の枠組みを定めるだけの国際機関をもはるかに超えるものであるということです。EUは、両者のハイブリッド、混成体と言えるもので、ある分野では各国の国家主権の一部をプールし、他の分野では単純に政府間協力を行うものです。この種の統治機構の出現は、連合の概念に部分的に対応しているにすぎず、国際法上の扱いが困難なものです。それは、中央よりも地方にはるかに大きな重きを置く、特別な権力配分を伴う特殊な連邦主義の原則に基づく独特な概念なのであります。
 二番目に重要な点は、欧州を建設するということには、事前に設定された青写真は存在しないということです。先ほど引用いたしました宣言の中で、ロベール・シューマンはこのことを明確に述べております。EUの発展は、一定の政策分野における加盟国間の共通利益の上に構築されるプロセスです。それは、トップダウンではなくボトムアップのプロセスであり、加盟国は、国家の安全保障や市場経済、環境の保護等の個別の問題を取り上げ、これらの政策に共同で対応するための枠組みに合意するわけであります。
 したがって、EUの機構的枠組みは、問題に対して主権国家として取り組むことの利益と効率性や生産的な域内交渉の必要性との間で均衡をとるという合意の結果なのです。EUの柱の構造は、このような現実的及び政治的要求に機構的構造を合致させるという姿勢の結果にほかなりません。
 今日、EUは、基本的に次の三本の柱で築かれています。
 統合された政策。これは共同体政策とも呼ばれますが、国家主権が共通のEU諸機関に移譲された分野です。これが第一の柱です。
 共通外交・安全保障政策。これは政府間の制度であり、加盟国間の緊密な協力を通じて共通の基盤の確立を目指し、非常に精巧な規則を持ちます。これを第二の柱と呼んでいます。
 警察並びに司法の協力。これは、域内市場の機能に関する部分はすべて部分的に統合されており、部分的には政府間で協力を行う制度であります。これは第三の柱であります。
 欧州憲法の草案は、この三つの柱という構造を廃止し、すべてのEUの活動を一つの法的枠組みに統合しています。また、それは、共通外交・安全保障政策の政府間主義的な要素を広く温存する一方、警察・司法協力全体に共同体方式を適用させています。
 三番目に理解が必要なのは、欧州を構築するということの成功と効率が、いわゆる共同体方式に基づいているということです。
 これは、明らかに複雑な法的手続ではありますが、欧州議会並びに理事会、すなわち加盟国の利益の代表者としての理事会、及び欧州委員会という三つの主要な政治機関の間に適切な権限の均衡を見出そうという、欧州統合の創始者たちの試みであると言いかえることもできます。
 共同体方式というのは、これらの機関のいずれも、EU法を策定する際、他の機関の支援なしに行動することができないということを意味します。共同体方式により共通政策を打ち出す際に、それぞれの加盟国の国益だけではなく、明確に定義されたEUの利益が担保されるということが保証されます。また、共同体方式は、共通政策が決定され、それを実施に移したり、さらに発展させたりする必要がある際も重要であります。欧州委員会が唯一発議権を持ち、基本条約の守護者としての役割を果たしていることも、この脈絡で触れなければならない点です。最後に、欧州司法裁判所の存在と権限も、共同体方式の重要な構成要素です。
 では、EUのさまざまな機関の間の作業分担はどのように行われるのでしょうか。わかりやすく申し上げるために、ここでは最も目に見える活動をしている欧州議会、理事会、そして欧州委員会及び欧州司法裁判所の四つの機関に焦点を当ててお話をいたします。これらの機関の相互の関係については、添付資料の二を御笑覧いただければと思います。
 これらの機関の間の権限の均衡は、欧州統合の深化と拡大の帰結です。EUの権限が拡大するにつれ、より直接的な民主主義的正統性、意思決定手続にEU市民をより参画させる必要性、そして欧州を建設するというさらなる進化における市民社会の役割が盛んに論議されるに至りました。これにこたえるため、時の経過とともに欧州議会の権限は大幅に拡大されてきました。欧州司法裁判所も、相互承認や加盟国法に対するEU法の優位、EU法の直接適用性、男女平等にかかわる事例に見られるような、独創的な判決を下す形で、欧州統合における重要な役割を果たしてきました。
 より具体的に、そして憲法草案が採択される可能性が高いということを考慮に入れつつ、EUの主要な四つの機関を取り巻く状況は次のように説明できるでしょう。
 まず、欧州議会でありますが、一九七九年以来、直接普通選挙によって選出されており、議員の総数は現在六百二十六名であります。活動は国単位ではなく政治グループ単位で行われます。三億七千万人の市民を代表する欧州議会の主な役割は、欧州委員会委員の任命を監督し、法的手続を通じてこれを承認することであり、また、必要な場合には、三分の二以上の多数決による不信任決議をもって欧州委員会を罷免する権限も持ちます。欧州議会は、年次予算の採択を理事会とともに議決し、その権限の程度は支出が義務的であるか非義務的であるかによって異なります、また、会計監査院が作成する年次報告をもとに、予算の消化に関して欧州委員会に承認を与えます。欧州議会は、基本条約により付与された権限の範囲内で、理事会と立法権を共有いたします。
 憲法草案では、欧州議会の議席数は二〇〇九年より七百三十六議席となることが定められております。これは、小国にとって有利な逓減比例の原則に基づいて配分されます。憲法草案では、義務的支出と非義務的支出との区別が撤廃され、理事会との共同決定手続が原則適用されることになっており、欧州議会の権限はさらに拡大します。欧州議会は欧州委員会の委員長を選出することとなり、EUの行政機関への影響力を大幅に拡大します。そして、欧州委員会の活動との間で明確な政治的共同責任とアカウンタビリティーの連鎖を確立することになります。
 次に、理事会でありますが、各加盟国を代表する閣僚によって構成されます。共同体の権限が問題となる場合、理事会は、基本条約に規定された目標が達成されることを確実にする責任があります。そのために、理事会は加盟国の一般経済政策を調整し、欧州委員会の提案について、多くの場合は欧州議会と共同でとなりますが、決定を行い、欧州委員会に法を実施、執行する権限を与えます。欧州理事会は加盟国の元首と首脳で構成される集まりで、EUを政治的に推進し、一般的な政治的方向性を設定します。
 理事会での採決における各加盟国の持ち票は、加盟一カ国が単独で拒否権を行使できる可能性が次第に減少してきたため、常に特別な注目を集めています。現時点では、理事会の主たる議決方式は、特定多数決と、手続上の問題に適用される単純多数決であります。欧州憲法の草案では、各加盟国の持ち票に関して重要な改革が行われることを想定しています。この問題は、現在進行中の憲法に関する政府間会議での交渉において大きな障害の一つとなっています。
 また、憲法の草案には、そのほかにも、理事会に関する、より微妙な意味合いを含んだ改革が盛り込まれています。欧州理事会は、特定多数決で議長を選出し、その任期は二年半、更新一回とされています。外相理事会は、EU外務大臣が議長を務めることとなっています。EU外務大臣は、その分野における理事会の代表と欧州委員会の副委員長の職を兼務することとなっています。
 欧州委員会は、EUの行政機関であります。活動には、基本条約の特定条項を実施するための政策の提案や法案の策定、EUの行動や政策のために配分された予算の管理が含まれます。欧州委員会は、基本条約の守護者の役割を果たします。欧州委員会は、中立的な組織で、条約の規定や条約に基づく決定が適切に適用されていることを確実にします。欧州委員会は、加盟国を相手に違反手続を起こすことができ、必要な場合、こういった事例を欧州司法裁判所に提訴することができます。欧州委員会は、個人や企業に対して、特にEUの競争規則に違反した場合に罰金を科すことができます。欧州委員会の委員は、その任務を遂行する上で、出身国政府の意向にいささかも左右されてはならず、EUの利益のためだけに行動することを条約によって義務づけられています。現在、欧州委員会は委員長と二名の副委員長とその他の十七名の委員によって構成されています。
 欧州委員会委員長が欧州議会の絶対多数決により選出されることにより、欧州委員会の民主主義的正統性が明らかに向上し、それにより政治的透明性も増します。憲法草案では、特に共通外交・安全保障政策や警察・司法協力の分野において、現在よりもより制限的な形でではありますが、例外を維持する一方、欧州委員会がEUの法案に関して排他的発議権を持つという原則を確認しています。また、憲法草案では、将来的に欧州委員会委員の数を制限するとしております。しかし、加盟国の多くはEU行政府機関に少なくとも一名の委員を送り出すことを強く希望しており、依然として調整が必要な問題となっています。
 第四に、欧州司法裁判所でありますが、EUの基本条約がEU法に基づいて解釈及び適用されていることを確保することにあります。欧州司法裁判所は、加盟国が基本条約上の義務を履行していないと判断することができ、当該加盟国がその判断に従わない場合には違約金や罰金を科すことができます。欧州司法裁判所は、EUの諸機関による措置の無効を求める裁判で措置の合法性を判断します。また、欧州司法裁判所は、加盟国の国内の裁判所がEU法を適用した場合について、その解釈や論点の有効性について先行判決を下します。憲法草案は、控訴権や欧州司法裁判所のさまざまな活動における規則を明確化しておりますが、現在の基本条約の内容を大きく修正するものではありません。
 では、ここで、特定の政策分野におけるEUの政治的、法的構造の主な特徴と、現在進行中の欧州建設の方向性についてお話ししたいと思います。
 そのために、まず、欧州統合プロセスに横たわる基本原則を手短に説明したいと思います。
 単一議定書の準備に当たって、ドロール委員長は、欧州統合の推進力となる三原則に言及しました。すなわち、欧州の建設と枠組みを強化する協力、二つ目として効率を促進する競争、そして加盟国間の一体性を強化する連帯です。実際にこれらは何を意味するのでしょうか。
 まず第一に、協力の主要メカニズムについて申し上げます。
 さきに触れたEUの三本柱構造の中で、EU基本条約は、協力を異なるレベルで区別しています。
 まず、通商政策や競争政策のように、完全に統合された排他的な共同体権限が一つです。
 二つ目として、個別の政策分野に関する条約の規定に従い、EUと加盟国が権限を共有する場合の権限です。混合権限と呼ばれております。
 次に、分野として政府間協力の形態をとるが、共通した行動のためにとる異なる度合いの協力であります。経済政策を調和させるための協力、共通外交・安全保障政策、それから裁量的政策調整に至るまで広範囲でありまして、これは、政治的な意味では、どちらかと言えば一般的な取り組みにすぎません。
 EUには、欧州委員会が運営し、二〇〇〇年から二〇〇五年で百七十五億ユーロの予算を持つ独自の研究開発プログラムがあります。
 完全に統合された政策の数はわずかであります。ユーロや通商政策のように、それが存在する分野においては、経済的にも政治的にも大変有力な手段となっています。非常に多くの政策が混合権限で行われており、共同体と加盟国の双方によって実施されていますが、共同ではなく、それぞれの権限の範囲内で行われています。基本条約はしばしば、特定の政策分野について言及し、それを完全に、または特定の側面において共通政策にする必要性を規定しております。また、欧州委員会が理事会と欧州議会による採択のために提案を行います。こうして採択された規則が発効すると同時に、その政策分野は共同体権限事項となります。
 EU立法は重要な法原則に基づいており、これらの原則は憲法草案において非常に明確に説明されております。ここでは、皆様の調査活動に最も関係の深いものに焦点を当ててお話ししたいと思います。また、基本的な原則については、添付資料七に載っております。
 まず最初に挙げられるのは、加盟国の国内法に対するEU法の優位であります。
 これは、加盟国憲法においても周知の原則であり、国際法は、その性格からして、国内法に優先されるものであることが認められております。憲法草案にはこの原則が明示的に示されており、それによって欧州司法裁判所の裁判権も確認されております。正規のEU法が加盟国において直接適用されなくてはならないのに対して、いわゆる枠組み法は国内法に置換されなくてはいけません。加盟国がそれを怠った場合には、欧州委員会は当該加盟国を欧州司法裁判所に提訴いたします。もし司法裁判所が欧州委員会の主張を認めた場合には、当該加盟国には司法裁判所の判断に従う法的義務が生まれます。もし従わなければ、加盟国は罰則の対象となります。このように蓄積されたEU法の集積、これは、EUに加盟する上での基準となります。
 二番目に挙げられるのは、補完性の原則及び比例性の原則です。
 これらの原則は、意思決定ができるだけ市民に近いところで行われるとともに、共同体レベルの活動が正当なものであるのか、それとも加盟国レベルもしくは地域、地方レベルで行われる方が適切なのであるか、常に検証されることを確実にするものです。比例性の原則は、EUのいかなる活動も基本条約の目標を達成するのに必要な程度を超えないことを要求します。憲法草案では、この二つの原則が確認されており、また、補完性の原則を適用する責任の所在を明らかにしております。したがって、この原則はEU内での権限分担の土台となるものであります。
 補完性及び比例性の原則は、統合によってEUの諸機関が、加盟国や加盟国の下にある地方組織を犠牲にしてみずからの役割を強化することを防止する意味があり、欧州建築の連邦的な性格を確認するものであります。憲法草案が、権限付与の原則を確立し、EU諸機関に対し、権限は加盟国に由来するもので、その逆ではないと念押しをしているのも、そのためであります。
 三番目に挙げられるのは、EUと加盟国の間の忠実な協力の原則です。
 これは、理事会であろうと加盟国であろうと、またその他の機関であろうと、欧州を舞台とするすべての当事者が誠実に共働しなくてはならないことを明らかにしている法的な基盤です。加盟国は、基本条約やそれを実施するための法律に由来する義務履行を確実にするために、すべての適切な処置を講じなくてはいけません。憲法草案では、以前は加盟国に一方的に求められていたEUに対する忠誠が双方向のものとされ、ここでもまた、EUの連邦的な構造が強調されております。
 四番目として、憲法草案がEUに法人格を付与していることは注目に値いたします。
 これは、今まで欧州共同体のみにそれが認められてきたというわかりにくい状況を解消することになります。この一見単純とも思える変化は、将来のEUの制度的構造に多大な影響を与えるでありましょう。将来のEUは単一の法人格を持つ存在となります。これは、EUの対外活動にも、また非EU諸国に所在する欧州委員会代表部の地位にも影響を及ぼすでありましょう。欧州委員会の代表部は、EUの代表部または大使館となり、現在の輪番制の議長国の活動と欧州委員会の活動の双方を担当することになります。
 五番目として、協力のレベルは、理事会における加盟国の持ち票に大きく依存しているということです。欧州を建設する歴史は、この権利にまつわる展開といった視点からとらえる必要があります。当初は、多数決による決定は、明らかに全会一致の原則に対する例外でありました。
 理事会にかかわる各加盟国の持ち票は、EU内の権限と影響力という基本問題にかかわるものであり、人口という点から見た国の規模と、その主権国民国家としての役割との間に、極めて重要なバランスをとる必要があります。しかし、EUの主たる関心は意思決定プロセスにおける効率性であり、欧州委員会と欧州議会が常に理事会に対し多数決手続を原則として採用するよう求めてきたのもこのためです。
 憲法草案は多数決投票を強化しましたが、欧州委員会の見解では、いまだに全会一致の原則が有効な場合が数多くあり過ぎます。
 六番目の点として、憲法草案は、より強化された協力の可能性を明示的に確認しています。これによって、他の加盟国よりもさらに欧州統合を進めたいと望む加盟国は、厳格な規則や条件のもとでそれを行うことができるようになります。より強化された協力は、EUの目標を促進し、その利益を守り、統合プロセスを強化する場合のみに許容されます。
 次に、域内市場と貿易についてお話し申し上げたいと思います。
 協力の主要分野、そして実際、制度的に最も進展した分野は経済です。広義においては、これは共通農業政策を含む域内市場、単一通貨、そして共通通商政策を包含しております。このような協力の成果や機能を詳述することは本日の陳述の範疇ではありませんが、添付資料四に、通商に関する詳しい情報が示されております。とはいえ、欧州統合も、また、EUが大きく、より競争力のある経済へと発展したことも、経済格差を再均衡化するメカニズムなくしてはあり得なかったということを想起することが大切です。
 相対的に経済発展がおくれている新規加盟国には、追いつくための機会が確保されるべきであります。それらの国が、基盤の整った国や地理的に有利な国にとっての有益な市場というだけの存在であってはなりません。欧州統合の建設に連帯に関する包括的な政策が含まれるのも、この精神を反映しているからです。EUの地域開発を目的とした構造基金や社会基金がその一例です。加盟候補諸国には、過去十年間にわたり、PHAREプログラムや、その他同様の計画を通して、既にかなりの大きな資金援助が行われてまいりました。
 経済後発諸国との貿易協定においては、多くの場合、非対称的譲許が設定されており、EUから当該市場へのアクセスに比べてはるかに有利な対EU市場へのアクセスを提供しております。
 日本のような国に対しては、EU域内の経済的な調和、調整のためのあらゆる施策が、EUの世界じゅうの経済的パートナーに遠大な影響を与え、またこれまで同様、今後も及ぼし続けるということを改めて指摘させていただくことが重要だと思います。
 適正な競争規則、雇用・社会政策分野での協力、数多くの二国間協力と自由貿易協定により整備された巨大な均一市場の創設は、EUの競争力と国際的経済活動に著しい好影響をもたらしてまいりました。それと同時に、我々のパートナー諸国にも追加的な貿易と投資の機会を提供してまいりました。航空宇宙産業などに見られる技術と資金を結集した大規模プロジェクト、欧州横断ネットワークの開発やその他巨大インフラ整備施策は、欧州域内市場から生ずる機会と協力行動があってこそ可能であるわけです。
 明確な達成期限とベストプラクティス、ベンチマーキング、メーンストリーミングなどの現代的なマネジメント手法を基礎にして合意された共通目標をここまで達成できたのも、幾つかの財政パッケージやEU経済の構造改革と近代化を目指した二〇〇〇年のリスボン戦略によって支えられた政策構想の合意があったからにほかなりません。この強さがあったからこそ、EUはこれまで五回の拡大を実現させ、その都度新規加盟国を政治的に安定させ、その経済を強化させてこられたのです。
 地理的に欧州の周辺に存在している昔から経済力が相対的に弱かった国々、アイルランド、フィンランド、ポルトガルは、今ではEUのタイガーとみなされる場合さえあります。このたびEUが中東欧諸国を迎え入れるのは、これまでの統合プロセスの外にあったそれらの諸国と経済的発展と安定を共有することにほかなりません。
 三点目として、共通外交・安全保障政策と共通防衛について申し上げます。
 経済通商政策分野での成功にもかかわらず、EUには政府間レベルでの協力により機能する分野があることも隠しようもない事実であります。これは、共通外交・安全保障政策、CFSPと、それに関連する欧州安全保障・防衛政策について言えることだと思います。この分野を共同体の、今EUとなりましたが、権限領域に移行させるための努力は、欧州統合の歩みと同じくらい古くから続いております。一九七〇年代前半には、欧州政治協力、EPCが純粋な政府間調整の制度として、いかなる法的な拘束力も伴うことのない形で導入されました。
 その後も、外交政策問題に関して共同行動をとるために、加盟国の政治的なコミットメントを拡大する試みが何度も繰り返されました。しかし、極めて重要な国の利害がかかわることとなると、単独行動をとる誘惑に抵抗することが加盟国にとって難しいのが常であります。イラク戦争の際の状況が最も明白な失敗例と言えるでありましょう。
 だからといって、この分野で全く進歩がなかったというわけではありません。少なくとも手続上は、CFSPにおける協力を誘導するためにさまざまな手段が策定され、また試行されてきました。その皮切りは、一九七〇年代にEPC事務局が設置されたことであります。共通の行動と戦略の定義化、外交措置を共同体立法に準ずる形で取り扱うこと、またCFSP担当の上級代表を任命すること、人道援助や復興のための具体的な計画を作成することなど、ブリュッセルのEU諸機関は多忙をきわめたわけであります。危機的な状況が実際に発生した場合には、卓越した交渉術とプロ精神を有する献身的な特別代表が任命されました。しかし、本質的にはCFSPは政府間の協力の域を出ず、EUに確固たる外交政策の側面が育つに至りませんでした。政治的な意思の欠如を、手続、制度に関するルールによって埋めることなどできようもないと思っております。
 欧州の委員会は、明確な多数決によって法的拘束力を有する体制が必要であるとの立場を堅持しております。最も重要な変化は、外交政策における欧州委員会と理事会の権限をあわせ持つEU外務大臣の任命です。幾ら域内各国の経済を統合し、多くの分野で法制度の調和を図ったところで、外交政策となると各国が単独行動をとるのでは意味をなしません。経済的統合と政治的な多様性との溝が大きくなり、ついにはEUを不安定にする危険を生み出す可能性さえあるわけであります。
 真の共通外交政策を発展させる作業は困難に直面していますが、防衛問題に関しては、勇気づけられる前進が見受けられたことも見落としてはなりません。ほとんど気づかれていませんが、憲法草案には連帯条項が盛り込まれておりまして、テロ攻撃、自然災害、人災においてEUと加盟国各国が共同行動をとるとされております。この場合、EUはみずからの裁量で軍事資源を含むあらゆる手段を発動することができるのです。この原則は、外部からの軍事的侵略の際に、より広範な協力を行うための展望を開いております。
 憲法草案は、加盟国が民生と軍事の両面における作戦能力をEUに提供しなくてはならない場合を想定しております。国際連合の原則に沿った形でEU域外において平和維持活動を行うことも可能ですが、EUはまだ自前の手段を保持していないために、加盟国の軍事能力に依存しなくてはなりません。
 憲法草案では、共通外交政策の斬新的な形成が想定されていますが、その目的のためには理事会における全会一致の決定が必要です。NATOへのコミットメントは尊重されなくてはなりません。作戦行動のための要件を特定するために、欧州軍備軍事研究能力開発機関が設置されることになっております。詳しい資料は添付資料を御参照ください。
 四つ目として、加盟国憲法と主権移譲について申し上げます。
 欧州統合プロセスはどのように加盟国側で取り扱われてきたのでしょうか。いわゆる共同体方式による深化と拡大は、加盟国憲法の適合化という過程を要求いたしました。
 大半の欧州諸国において、EU加盟は国際機関への主権移譲を可能とさせる憲法条文に基づき行われました。すなわち、国際機関に主権を移譲するわけであります。配付資料の中に、明確にこの状況に関して各国別に説明をしておりますので、読むことは時間的にも限られておりますので割愛したいと思います。
 このように、国家主権のEUへの一部移譲を受け入れるという政治社会的文化が存在していたからこそ、欧州統合プロセスの深化と拡大も可能となったと思います。
 では、憲法草案の概観について申し上げたいと思います。
 残念ながら、この場でEU基本憲章を含む憲法草案のすべての内容を概観することは不可能です。したがいまして、EUの基本憲章について、添付資料の八をごらんください。
 欧州の法的枠組みを一つの条約におさめることで、この憲法草案は、より透明で包括的な制度と法体制を望む欧州国民の基本的要求に大いにこたえたことになると思います。
 これにより、従来の法律上の定義に基づく国民国家とは異なり、みずからが法人格を有するというEUの特殊性が確認されたことになります。同時に、立法権と行政権に関して、政治的な共同責任を明確に確立することにより、EUの民主主義的正統性が強化されます。この結果、EU市民の大多数に対する政治的なアカウンタビリティーが強化されるために、EUの性格にも変化がもたらされると思います。
 憲法草案は、その条項の多くにおいて、さらなる統合にとっての礎としてヨーロピアンアイデンティティーの必要性を強調しております。これは、欧州の制度的構図のさらなる発展のためには、このアイデンティティーがより意識される必要があるという考え方を反映しております。
 憲法草案が一たん採択されますと、既存の条約が簡素化され再編されるために、その結果、複雑な三本柱構造が撤廃され、一つの法主体が誕生することになります。これは、EU内外の人々のEUに対する認識を一変させるでありましょう。EU市民はみずからの義務だけではなくて、権利もよりよく理解することになると思います。EUの基礎にある民主主義の原則と価値に対する理解を市民が深めることは、欧州統合プロセスへの信頼を築くための必要条件なのです。
 現時点における最も重要な問題は、憲法草案の行方にほかなりません。昨年十二月の合意失敗は悪い兆候にさえ思えます。
 しかし、私自身は、悲観する理由などはないと思っております。欧州統合への道は常に紆余曲折があり、成功と失望が隣り合わせに並んでいる状態が続きました。この問題は、現議長国のアイルランドの手にゆだねられておりますが、我々は、議長国としての同国が賢明かつ入念に作業を進めると確信しております。
 それでは、結びに入らせていただきます。
 欧州のモデルをそのまま世界のほかの地域におけるモデルとすることは不可能であり、お勧めできることではないと私は思います。欧州統合のプロセスは、欧州大陸の歴史的、地理的、文化的な基盤と密接な関係があるからです。
 しかしながら、得るべき教訓があるかと思います。特に、統合の手法、また斬新的な発展、手続に関しては教訓を見出していただけるのではと思います。
 EUの手法は、一国だけでは十分な対応ができない具体的な問題や課題を特定するということ、また、地域に政治的安定を醸成し安全を確保すること、隣国との協力を進めることにより経済の基盤を広げ競争力を向上させること、さらに、インフラや通信の広範なネットワークを構築することであり、自然環境の破壊という問題に対応することでもあり、また、海洋資源の保存を図ることであります。テロや国際犯罪と戦うことでもあります。また、開発、医療、食料安全保障、社会の高齢化を初めとする多くの課題に対応するための共通の戦略を発展させるということです。
 着実にグローバル化が進展する世界の中で、一国がアクターであり続けるためには、単に外界からの力で受け身的に変わるのではなく、新しく大胆な戦略を持つことが必要です。少なくとも我々欧州人の考えでは、結束をし、また同時に我々の特殊性と文化という本質を守り続けるためには、この方法しかないと考えております。
 この意味において、我々は真の意味で互いに学び合えると感じております。
 御清聴を感謝いたします。(拍手)

発言情報

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発言者: ベルンハルド・ツェプター

speaker_id: 2061

日付: 2004-03-04

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会