2004-06-11
参議院
西井正弘
イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会
西井正弘の発言 (イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会)
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○参考人(西井正弘君) ただいま紹介していただきました京都大学の西井正弘でございます。
本日は、四点につきまして参考人としての意見を述べさせていただきたいと思います。
第一点は、大規模テロ攻撃のような緊急対処事態について国際法からのとらえ方に関して意見を申し上げます。第二点は、去る五月二十日、緊急事態基本法(仮称)について、自由民主党、民主党、公明党の三党の合意を見ました点についての意見でございます。第三点は、武力攻撃事態における外国軍用品等の海上運送の規制に関する法律案、以下海上輸送規制法案と略します、についての意見でございます。第四点は、武力攻撃事態などの国家緊急事態が発生した場合の人権の制約に関する問題です。
まず第一に、大規模テロ攻撃に対する国際法からのとらえ方について意見を申し上げます。
御承知のように、二〇〇一年九月十一日の同時多発テロは、国家以外の行為者、アクターが国家に対して仕掛けた大規模なテロでありました。国家による軍事力の行使がこれに対して許されるかという点について議論がございますが、以下のように私の意見を申し上げます。
国連憲章で規定された武力による威嚇及び武力行使の禁止の原則は確立されており、憲章に規定された例外的な場合、すなわち第五十一条の自衛権の行使と第四十二条による軍事的強制措置を除いては武力の行使は許されないとする見解がございます。その見解によれば、戦争が違法化された現代においては、それら以外の武力行使は国際法違反という結論になります。
しかし、国家の実際の行動を見ますと、一九七六年に、ハイジャックされた航空機がウガンダに着陸し、それに対してイスラエル特殊部隊が強行着陸し人質を救出したエンテベ空港事件では、イスラエルは、ウガンダ政府が外国人を保護しなかったこと及び自衛権を根拠としてその軍事行動を正当化しました。その他のテロ事件でも、テロに武力で対抗する国家の側は、自衛権の行使であるとして正当化を図ることが多いと言えます。
九・一一事件後採択された安保理決議の前文において、個別的又は集団的自衛の固有の権利を、行使の対象を明記することなく再確認しております。国際の平和及び安全に対する脅威を構成する大規模テロを実行した集団に対して、被害国が武力の行使を行っても国際法に違反しないとする事例が認められたと私は認識しております。
このような武力の行使について、国際法的な根拠を自衛権概念の拡張に置くのか、あるいは復仇に置くのかの立論は、いずれも理論的には可能ですが、国家以外のアクターに対する武力の行使が国際社会においてあり得ることは認識しておく必要があるかと思います。
次に、第二の意見として、三党合意に基づき次期通常国会で審議されることになる緊急事態基本法についての考えを述べたいと思います。
合意された骨子によれば、法案の対象とする国家緊急事態には、一、我が国に対する外部からの武力攻撃、二、テロリストによる大規模な攻撃、三、大規模な自然災害等、国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態とされています。
衆議院におきます武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案、以下国民保護法案と略します、の修正により、武力攻撃事態と武力攻撃予測事態に加えて、大規模テロ行為のような緊急対処事態に関する規定を武力攻撃事態対処法に設けようと修正された点は、法的な整合性の点から考えましても適切であると考えます。
すなわち、広い意味での国家緊急事態に対する基本法を来年整備され、その下に武力攻撃事態と武力攻撃予測事態、さらに緊急対処事態に対処するための基本方針、対策本部や事態に対処するための法制整備を実施することを規定した武力攻撃事態対処法と災害対策基本法とが対処方針の作成、必要な法的整備の枠組みといったレベルの法律として存在することになります。さらに、事態に対する対処のための保護措置の実施といった第三レベルの法律として、現在、当院が審議されておられます国民保護法案を始めとする七法案が全体的な整合性を保ちつつ法制度として位置付けられることになると考えます。
アメリカ合衆国では、ロースクールでの授業科目に安全保障法、ナショナル・セキュリティー・ローといった学問領域が存在しておりますが、我が国でも国家・国民安全保障法制が整備されることになれば、法治主義の原則から申しましても好ましい状態になるものと考えております。
第三に問題があると思いますのは、憲法と海上輸送規制法案との関係です。
現行憲法の第九条第二項、「国の交戦権は、これを認めない。」との規定から、外国軍用品等に対する停船検査などを武力攻撃事態の発生に対する自衛権の行使として実施すると考えられている点であります。衆議院の特別委員会におきまして、石破防衛庁長官が本年四月十四日、二十二日にそのように答弁されておられます。
国際法上、他国による武力攻撃に対して自衛権の発動は当然認められますが、海上輸送規制法案の適用上、第三国との間で摩擦を生じる可能性があるように思います。海上輸送規制法案が適用される事態は、国際法上の通説に従いますと、平時国際法に一元化された現代においてはいわゆる戦時国際法の範疇に入る事態ではないとしている点であります。
法案では、臨検、拿捕という用語を用いず、停船検査、第十六条、積荷の検査、第二十二条、回航措置、二十七条から三十四条、などの規定を置き、外国軍用品審判所における審判手続、三十九条から六十条、などを規定しております。
戦時国際法、戦争法において認められてきた海上捕獲、マリタイムキャプチャーといかなる点が異なるのかに関心が向くところでございます。海上捕獲とは、武力紛争時に敵国の海上交通を妨害し、その戦争遂行能力を奪うための手段であり、交戦国軍艦、軍用機が公海上又は交戦国領海で敵国や中立国の船舶、航空機やそれらの積荷を拿捕し没収することを言います。
確かに、本法案で規定されている内容は幾つかの点において海上封鎖と異なります、海上捕獲とは異なっております。第一に、停船検査を実施する区域、実施区域、第四条二項、が我が国の領海と我が国周辺の公海に限定され、武力紛争相手国の領海を含まない点が挙げられます。第二に、実施主体が海上自衛隊の部隊、第四条一項、であって、航空機に対する措置を含まない点があります。
しかし、海上捕獲の手続は、臨検、捜索、引致及び捕獲審検所での審検から構成されるのであって、停船命令、第十七条、船上検査の実施、第十八条、船舶書類の検査、第二十条、積荷の検査、第二十二条、回航措置、外国軍用品審検所での審検手続は国際法上は海上捕獲の一形態とみなされるでありましょう。海上捕獲であるか否かの認識の相違は、憲法規定にある交戦権の行使に該当するか否かの結論が先にあって導き出された苦肉の策であるように思われます。
最後に、第四として、国民保護法案第五条において基本的人権の尊重がうたわれていることは極めて重要であり、かつ好ましいことと思います。しかし、次期通常国会で緊急事態基本法が審議される際に留意いただきたい点がございます。我が国も条約当事国となっております政治的及び市民的権利に関する国際規約、以下自由権規約と略します、の第四条との関連について配慮が必要だと考えます。
自由権規約第四条は、第一項で、「国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合においてその緊急事態の存在が公式に宣言されているときは、この規約の締約国は、事態の緊急性が真に必要とする限度において、この規約に基づく義務に違反する措置をとることができる。」と規定しております。国家緊急事態のうち、いかなる事態が人権の制限をもたらすのか、あらかじめ研究しておく必要があるかと思います。
また、同条第三項で、義務に違反する措置を取る権利を行使するこの規約の締約国は、違反した理由を国連事務総長を通じてこの規約の他の締約国に直ちに通知するとされています。
同条第二項で、生命権に関する第六条、拷問、残虐な刑罰の禁止の第七条、奴隷、隷属状態に置かれないとする第八条一項、二項、遡及処罰の禁止、第十五条、思想、良心、宗教の自由を規定した第十八条など、公の緊急事態においても制限できない権利があることも重要であります。
自由権規約の人権委員会は各国の政府報告書を定期的に審査し、当該国家に勧告を行います。過去にも、戒厳令などの国家緊急事態を国内的に宣言していながら、自由権規約で制限される権利について国連事務総長に通知していなかった国家が、自由権規約の義務を履行していないと委員会によって指摘されたケースが存在しております。
我が国も、万一緊急事態が発生し、自由権規約に規定される権利の一部、例えば移動及び居住の自由を定めた第十二条に該当する国内法規定に関して制限が課される場合には、速やかに通知しておく必要があります。その手続なども立法化に当たって考慮しておくべき事項ではないかと思います。
いずれにせよ、今回の法案におきましては、武力紛争事態や緊急対処事態など、非常事態においても国民の権利義務の制限や剥奪を極力少なくするよう十分な配慮がなされているという印象を持ちます。当院において一層慎重な検討がなされることを期待して、参考人の意見陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。