田岡俊次の発言 (憲法調査会)

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○参考人(田岡俊次君) 朝日新聞の田岡でございます。
 時間が限られておりますので、できる限り簡潔に存念を申し上げます。
 現在、集団的自衛権問題は、元々アメリカの方から、憲法、日本の憲法上集団的自衛権を行使できないというのは非常に日米協力上不都合であるから、それは解釈若しくは憲法を改正すべきであろうという議論が出まして、日本でもそれに呼応する方々が少なからざる、おられるわけですけれども、しかし、現実に考えてみて、日本が集団的自衛権を行使することを憲法改正若しくは憲法解釈の変更で認めるとしても、アメリカ人が期待しておりますように、アメリカの軍隊がどこか別の国に出掛けていってそれに日本が助力をする、これが集団的自衛権に当たるかどうかということは、また別の検討を要するものだろうというふうに考えます。
 ブッシュも、これ、まずは日本の、日米安保条約の第五条は、日本国の施政の下にある領域に対する武力攻撃、これに対する共同対処を決めておりまして、国際関係の基本は基本的には相互主義でありますから、ですからそれを適用しますと、アメリカ合衆国の施政の下における領域、アメリカの本土でありますとかハワイとかグアムとか、それがやられた場合に日本が助けようというのであれば、これは集団的自衛権になることはまず疑いがない。
 ところが、現在アメリカが行っております例えばイラクとか、そういった場合にはアメリカ本国に対する武力攻撃が発生しておらないと。ところが、アメリカが第三国の防衛とか報復とか将来の脅威の未然防止とか、そういった目的で軍事行動に出ると、こういう場合に日本が共同防衛、それに共同行動をすると、それは集団的自衛ではなくて、実は憲法の禁じておる国際紛争解決の手段としての武力行使、しかも、それは憲法のみならず、実はサンフランシスコで対日平和条約でも日本が国際紛争を解決するための武力行使はしてはならないということが書いてございますし、安保条約の一条にも同じことが書いてある。だから、この問題を除去すればすべて海外で勝手に日本が武力行使をできるというのは間違いであって、そもそも憲法を変えたところで、まず対日講和条約で日本はそのことをのんでおるので、対日講和条約の破棄でもしない限りは、実はそうそう簡単に海外で武力行使はできるものじゃないということは一つ記憶にとどめておいていただきたいというふうに考えておるわけです。
 具体的に考えまして、例えば韓国が攻撃を受けた場合、韓国はアメリカの同盟国でありますから、ですから、アメリカが韓国を守ることは、これは集団的自衛であることは疑いがない。日本は韓国と防衛、同盟関係がない、また日本の日米安保条約も日本は韓国の防衛の義務を負っているわけではないですから、だから日本が、アメリカ軍が韓国におる、それを支援することがこれは集団的自衛だろうかということは、直ちにそうは言い難いわけでして、ただ、その集団的自衛権の行使に、先ほど佐瀬先生がおっしゃいましたとおり、その同盟関係、密接な関係が存在を是非、絶対に必要とするかどうかということは議論の分かれるところでありまして、私は、仮に同盟関係がなくても、その当該、他国に対する武力行使が起きて、それが自国の安全にとって明白、重大な脅威をもたらすと、それゆえに、その当該国が要請をしてくるという場合にその国の防衛を手伝うことは、これは集団的自衛に当たるんだろうと思います。
 しかし現実には、韓国がそのような要請を日本にしてくるということは余り考え難い。なぜかといいますと、北朝鮮と韓国では元々GDPが三十倍以上の差があり、アメリカとメキシコ以上の実は差がありまして、軍事的にも圧倒的に韓国が優勢。ですから、作戦計画五〇二七号という米韓合同作戦計画でも、もしも北朝鮮が手を出すんであれば、ソウルの北側で捕捉、撃滅をして、そのまま追撃をしてピョンヤンに迫り、更に中国国境の百キロほど手前の清川江岸まで前進して、そこで停戦、一時止まって、中国と話をして統一するというのが韓国の今の作戦計画の基本であって、もうとにかく韓国としては北朝鮮の脅威というのは余り感じておりません。ですからこそ、例えば最近でも原子力潜水艦を韓国は建造すると。それは何のためかというと、日本との戦争に備えるんだと。もう事あるごとに韓国軍は日本日本と議会で言わざるを得ない。なぜかというと、国民が北朝鮮と言ったってだれも聞いてくれない。
 例えば、一つ笑い話もありますが、例えば九九年に朝日新聞と韓国東亜日報が共同で世論調査をいたしました。その中に北朝鮮の脅威を感じるかという中に、強く感じるというのは日本で三三%、それで、直接国境を接しています韓国では一一%と実に三対一の開きがあった。これは、韓国にしてみれば、昔から北朝鮮を見ておりますから、だから相手も相当弱くなったもんだと。しかも、中国もロシアもこちらに付いてくれたからもう安心だというのが韓国人の発想ですから、だから現実に戦争になっても、韓国軍、と米軍もおりますから、それはもう別に日本の助力を得ずに勝てることは恐らく明らかで、そういう要請をしてくるということは余り具体的にあるまいというふうに考えます。
 それから次に、台湾に関しましては、これは一九七二年の日中共同声明で、日本はそれが中国の領土の一部であるとの中国の立場を十分理解し尊重するとしております。ですから、これは日本としては、そういうトラブルが起きた場合には、これは内乱と見るしかない。台湾自身が独立を宣言していない。当然、日本もアメリカも台湾を独立国として承認していないわけですから、もしもアメリカが台湾をめぐる紛争に関して軍事行動を取るとする、これはアメリカ軍が内乱に介入しておるんであるというふうに見るしかないのであって、それを助けることは集団的自衛だということがあるわけがない。アメリカの自衛を助けることが集団的自衛なんですから。ですから、もちろん、台湾はしかも国じゃないから、これは助けるわけにいかない。
 よく言われますのは、これは少し、若干一理はあると思いますが、米、アメリカの艦船が日本の防衛の目的で航海中に公海で行動を受けるとすると。この場合、日本がそれと共同防衛を取るのは日本防衛の、集団的自衛に当たるだろうと。だから、それだから集団的自衛を認めることは必要なんであるという議論、これは一理あると思いますが、よく考えてみますと、もしもアメリカの軍艦が日本防衛のための行動を取っている場合に、それを守ることは、これは必ずしも集団的自衛じゃなくて、元々日本の防衛のためなんだから日本の個別的自衛の範囲内であろうと。しかも、これはアメリカの軍艦に限る必要がなくて、実は大事なのは、それ以上に大事なのは、日本はその食糧自給率四〇%の国でありますから、しかも日本の商船を、ほとんどなくなってしまって外航船が、外国船に頼っているわけですから。だから、外国の船が日本の生存、独立の維持に不可欠な物資を運んでくる場合、それが公海上で攻撃されようとする場合、これを守ることは、これは日本の個別的自衛権の発動というふうに考えるしかあるまいというふうには考えております。
 集団的自衛権を認めるということにしますと、アメリカがいろんなところに手伝いに来てくれということをますます言いやすくなるんじゃあるまいかということを考えます。アメリカが純粋に自衛をする場合に、これを手伝うということは構わないとしても、現実には、アメリカはそうでない場合、例えば九九年のユーゴスラビアの爆撃、あれなんかは安保理の決議を得ていない全く法的に怪しいものですし、それから九八年にアフガニスタンに六十六発、スーダンに十三発トマホークを撃ち込んだ事件もございましたし、これもアメリカは自衛権の発動と言っている。それから、パナマの侵攻とかグレナダ侵攻とか、とにかくこういった例はもう無数にありまして、そのたびにおおむね自衛権の発動であると言っているわけですから、これに集団的自衛で日本も出てくれと言われたら非常に迷惑、日本にとって不利だと思います。
 もちろん、集団的自衛権行使を憲法を改定し解釈変えて認めるとしても、日本がきちっと判断ができて、それで出るか出ないか決めるフリーハンドを完全に持っておれば、この問題は生じないと思います。ただ、現実にはどうかといいますと、憲法九条の制定からその後の五〇年の警察予備隊の創設も、今回のイラク派遣に至るまで、もう常に日本の防衛政策はこの半世紀以上アメリカの主導下にあって、その意向をほとんど一〇〇%反映してきたんじゃないかと。
 例えば、一九七八年に思いやり予算というのを金丸さんが六十二億出しました。あれはなぜ思いやりと彼が言ったかというと、地位協定の二十四条は合衆国軍隊の日本駐留に伴う経費はすべて合衆国政府が負担するんだと書いてあると。そこで、彼は根拠を問われて、何が根拠ですかということを防衛庁記者会で問われて、彼困って、いや、知り合いがお金に困っているときは思いやりの気持ちを持つのが人間として当然でありますというようなことを言われたので思いやりになったんだが、結局、そういうふうに協定に反してすらそういうふうに出す。そこでアリの一穴を空けてしまうと、現在のように二千四百六十何億円というふうな、そういった巨額に膨らむわけですから、だから今回でも、またその集団的自衛権を行使できるんだというようなことにすると、またそこでアメリカがどんどんやってくれやってくれと言ってくるかもしれない。
 幸いなことに、今まで、集団的自衛権は行使できないという説、これがやや論理上ちょっと難しいところがあるとしましても、これが有効な防波堤にまでなってきてくれた、これに穴を空けることが要るであろうかと。もしもこの防波堤がなければ、例えばベトナム戦争中に韓国と同じように日本も出ろ出ろと言われて困ったでしょう。もしも出れば韓国のように、韓国、あれは五万二千ほど出しまして、それで五千人以上、五千四百人か何かの戦死者を出し、二万五千の負傷者を出しておりますけれども。だから、ベトナム戦争に引っ張り込まれずに済んだのも、こういったことを何かいろいろ憲法上の制約とかいろんなことを言っておったから何とか引っ張り込まれずに済んだという、非常にそういう点では過去においてこれは有効な防波堤として成功してきたというふうに思います。
 もしも、アメリカ人によく私冗談言うんですが、アメリカ人が片務的だと言うんで、じゃ結構だと、じゃアメリカ軍がもしも、アメリカがこういう本土が攻撃されれば、アメリカの施政権下における領域が攻撃されるんであれば、それは日本はお助けしましょうと、しかしその代わり相互主義ですよと、そうすると自衛隊としては当然アメリカに基地を幾つかいただくと、その維持費はアメリカに負担していただくと、そうなればこれで、全くこれで対等で相互主義ですなどと言うと、彼らはもう困って、いやそれは、いやそんなことは考えているわけじゃないんだといって言うんですけれども。
 つまり、そうでも言わないと、彼らは自分たちが日本にいかに世話になっているかということを思わない。助けることばっかり言って、自己中心的に言って、我々は一方的に任務を負っていると言いながら、片方で、日本が一方的に基地を貸す義務を負い、しかもそれに対して年間いろんな経費まで入れますと六千五百億円の補助金を出しておるということを知らないわけですから。だから、片務性からくる集団的自衛権を認めろという議論は、本当に全く自己中心的な愚劣な議論であろうというふうに思います。
 日本が、日本人が一般に安全保障問題でこういうふうにアメリカの意をどうしてやすやすと迎えるのかということを考えますと、一つはやはり、アメリカ軍が日本を守っておって日本は守られておるんであるという一種の劣等感がある、これからくるんだろうと思います。ただ、現実には日本を守っているのも自衛隊であって、在日米軍で日本を守っている部隊というのは一つもございません。これはアメリカの議会でもそういうことを言っております。
 例えば沖縄の部隊に関しても、なぜ沖縄に兵力を置いて日本を守っているのと。いや、そうじゃありませんと、あれはどこか別のところに派遣するために日本に待機さしておるんであるということを言っておりますし、例えば一番端的な証明は、九七年に九月に改定されました日米防衛協力の指針、この英文では、自衛隊が日本の防空、それから周辺海域における船舶の保護、それから日本に対する着上陸侵攻の阻止、排除、これにプライマリーリスポンシビリティー、一義的責任を有すというふうに書いてございます。
 これですと、じゃ、何のために米軍がおるのかと、何のために思いやり予算を出しているのか分からなくなりますから、そこに疑問が生じるので、日本文では、自衛隊が主体的に対処するという意図的誤訳、若しくは非常にぼかした表現をしておりますけれども、この表現自体、この英語のプライマリーリスポンシビリティーということ自体、これはもう日本、自衛隊が既に成長して、核を除いては日本の防衛に十分な能力を持ち責任を負っているという現状を追認したわけでありまして、ですから、日本がこういったアメリカに不要な劣等感を持ってアメリカの言うことに唯々諾々と従うという必要は全くないのでありまして、日本としては、とにかくアメリカが現在行っているようなとても自衛と言えないような行動、それに引っ張り込まれないということは最も日本としては気を付けるべきことであろうというふうに考えておる次第であります。

発言情報

speech_id: 115914184X00120040218_010

発言者: 田岡俊次

speaker_id: 34704

日付: 2004-02-18

院: 参議院

会議名: 憲法調査会