茂田宏の発言 (国際問題に関する調査会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(茂田宏君) 茂田でございます。よろしくお願いします。
参議院の国際問題に関する調査会が中東問題について、かつイスラムとの関係について関心を持たれるというのは大変意義深いことだと思います。従来、この中東に対する関心というのが日本国内で全体として低くて、かつその低さが中東が日本に対して持つ意味との間で釣り合っていないというふうに感じておりましたので、大変いいことだと思います。
私、今日申し上げたいのは中東和平、中東和平について私の意見を申し述べたいと思いますけれども、レジュメをお配りしましたが、中東和平問題は二千年以上に及ぶユダヤ人とアラブ人の対立の問題だというようなことがよく言われます。しかし、これはそういうものではありません。二十世紀初頭、更にさかのぼっても十九世紀の末から起こったユダヤ人のナショナリズムとその後で起こってきたアラブ人のナショナリズム、このナショナリズムが対決している問題だということであります。したがって、何か大変深い宗教的な根があって解決が不可能だと、不可能に近いような問題であるというふうにはお考えいただかない方がいいのではないかというふうに思います。宗教的要素がこの紛争に全くないわけではありませんけれども、本来はそういう問題ではないということであります。
それから、この問題の解決の在り方ですけれども、解決の在り方についても大筋は大体もう分かっていると言えるかと思います。今、イスラエルが西岸・ガザを占領して占領行政をしいているわけですけれども、この占領を終わらせると、その終わらせた後にパレスチナ国家をつくると、それからそれに見合いましてアラブ諸国がイスラエルの存在を認めるということで、この二つの国家の間で平和共存を成立させるというのが解決策です。イランとか、それからパレスチナ内での過激派、イスラエル内での過激派がこういう解決策に反対していますけれども、これはほんの少数にすぎないと。大多数はこういう解決策を望んでいるということであります。国際社会もほとんどがそうだということです。
そういう状況でありながら、なぜこの問題が解決を見ないのかということなんですけれども、それは幾つかの点で双方が譲歩できない、譲歩しないということで、和平の努力、今言ったような和平の形ができる状況が頓挫すると。その頓挫の中で一方が暴力を行使する、それに対して他方がやり返すということで、暴力の悪循環に陥りがちであるというのがこの問題が解決しない原因だと思います。
私は、日本のイスラエル大使というのは、イスラエルに対する大使であると同時にパレスチナに対する大使なんです。したがって、アラファトさんともしょっちゅう会っておりましたけれども、とにかく今の暴力の悪循環というのは、イスラエル、パレスチナ双方にとって大変不幸な事態であるということです。これを終結するために努力をしていくということが求められていると思います。
パレスチナ国家ができる、パレスチナ国家をつくっていく過程においてどういう問題があるかということを少しお話ししたいと思います。
これは、もう皆さん方よく御存じの話であろうかと思いますけれども、幾つかの大きな問題があります。一番難しい問題というのは難民問題です。難民問題というのは、イスラエルが成立したときにパレスチナ人がいろいろ逃げたり追い出されたりして難民が発生したわけですけれども、難民が今も難民としているということです。パレスチナ民族運動の非常に大きな眼目というのは、この難民を帰還させるというのがその眼目でした。ただいまこの難民の数は三百万から三百五十万人になっております。イスラエルは現在六百万の国ですけれども、五百万がユダヤ人、百万がパレスチナ人です。イスラエル国内でパレスチナ人の人口増加率というのは大変大きいんです。ユダヤ人の人口はそれほど増えておりません。したがって、この難民がもしイスラエルに帰ってきた場合には、これはイスラエルがユダヤ人の国家として存続することができなくなるという問題がございます。異民族の国家になってしまうということで、この難民の帰還はイスラエル側から見るとユダヤ国家としての自殺行為ということになります。この問題をどうするかということがございます。
国連では、今でも国連総会決議一九四という決議がありますけれども、それを再確認しております。再確認することによって難民が帰還できるんじゃないかという希望をパレスチナ難民に与え続けているんです。そういうことが果たしていいのかどうかという問題が一つございます。
二番目の非常に難しい問題、これがエルサレムの問題でございます。お配りした資料の最後のページを開いていただきたいと思いますけれども、これはエルサレムの中心部の神殿の丘の写真であります。こちら側に出ている壁のところで小さく写っているのがユダヤ人がお参りしている図であります。そこに黄金のドームを持ったモスクがありますけれども、これが岩のドームです。その一番この写真の右側にあるのがアル・アクサ・モスクというイスラム教のモスクであります。このエルサレムに対してユダヤ人、イスラム教徒、それぞれが大変な思い入れを持っているということがございます。
実は嘆きの壁に向かってユダヤ人が祈っているんですけれども、私、イスラエル、ユダヤ人になぜこの遺跡の壁に向かって祈るのかということを質問しましたら、大使は全く分かっていない、ここは神殿の跡なんだ、神殿というのは神がいるところなんだ、ローマはこの神殿を壊したけれども神を引っ越しさせたわけじゃないんだと、したがって、ここに神様がいるので、神様に向かって祈っているんだという話で、ユダヤ人にとってはこの部分は大変聖なる場所です。
ユダヤ人の過越の祭りというのがありますけれども、そこに行きますと、出エジプトの話などがずっと続くんですけれども、その晩さん会の最後には必ず、来年はエルサレムでと、来年はエルサレムでということでその晩さん会を終えるんです。これをユダヤ人というのは二千年くらい続けてきたということがございます。
ユダヤ人の結婚式に行きますと、結婚式の最後にはグラスを踏みつぶすんです、新郎が。それは、なぜそういうことをするかといいますと、この結婚という楽しいときにもエルサレムの神殿が破壊されたということを忘れるなというために結婚式の後で新郎がグラスを踏みつぶすんです。そういう思い入れがユダヤ人にありまして、永遠の不可分の首都、イスラエルの永遠の不可分の首都エルサレムというのがユダヤ人の頭の中にかなりしっかりとこびり付いているという、そういう思い入れがございます。
他方で、イスラム教徒については、ムハンマドが天国に行ったときに最後にけった岩というのがこの黄金のドームの下にあるんです。そこには馬のひづめの跡があるというような話がありますけれども、私もよく見てみましたが、しわが寄っていますけれどもどうもよく分かりませんでしたが、そういうことになっている。ムハンマドの時代にももう既にエルサレムというのは聖地としての意味がありまして、ムハンマドがメッカから、メッカ、メディナから天国に直行してもよかったんですけれども、直行しないでエルサレムでトランジットしなきゃならないと考えたんですね。それでエルサレムに必ず寄る。その結果としてこのエルサレムはイスラム教徒にとってもメッカ、メディナに次ぐ第三の聖地になっているという問題がございます。この問題をどう扱っていくかということが大変難しい問題としてございます。
それから、国家をつくるためには国境線を決めなければいけませんけれども、その国境線をどこにするかということで、お配りした資料の中に国連の分割決議、その後の独立戦争の後の地図、一九六七年の戦争の後の地図というのをお配りしてありますけれども、国境線をどうするかという問題がございます。この一九六七年の戦争が始まる前の線が大体国境線となるべき線なんですけれども、それをどこまで尊重するかという問題がございます。
それから第四点としまして、パレスチナ国家、樹立されるパレスチナ国家の軍事力をどうするかという問題がございます。私は、パレスチナ人には、日本国も憲法第九条というのがあるんだけれども自衛隊も存在していますよというような話をしておりましたが、このパレスチナ側に軍事力を持たせたくないというのがイスラエル側の考え方であります。それからもう一つは、パレスチナに対して軍事同盟を結ばせたくないということがございます。これはパレスチナが国家として独立した後、イラン、イラクと、今はイラクは変わりましたけれども、イラン、イラクと軍事同盟を結ばれてはかなわないということで、そういうことでのいわゆる安全保障措置の問題がございます。
それから入植地の問題というのがございます。これはイスラエルがこの西岸・ガザにいろいろな入植地を造ってきたということで、その入植地を撤去する問題というのがあります。こういう点が問題になりましてこの和平の問題が進んでいないということであります。
最近はイスラエル側が一方的な分離ということを主張しまして、分離するための壁というのを造っております。ただ、この壁が一九六七年の国境線には沿っておりません。西岸・ガザの側のパレスチナ側の領土をイスラエル側に囲い込むような形で壁を造っているという問題がございます。
私は、この中東和平問題というのは、イスラエルとパレスチナ側が話し合って双方が納得できる、そういう解決策が出てくるのが一番いいのだろうと思います。しかし、この問題はもう何年間もそういうことを目指して努力をしてきたということなんですけれども、和平が実現しない。最近の暴力の応酬の結果、私はますますイスラエル側のパレスチナに対する、またパレスチナ側のイスラエルに対する不信というのが深まっていると思います。これはもう既に不信というものを通り越して相互憎悪、憎悪にまでなってきているというような感じがいたします。私はこうなってきている段階では、アメリカを始めとする国際社会が介入をして双方に解決策を、言葉は悪いんですけれども、押し付けるぐらいのことでこの和平を進めていかないとこの中東和平は実現しないのではないかというふうに思います。
日本の役割ということに関しては、和平の当事者に努力を促す、米国を始めとする関係国に努力を促すということをしていくということですし、その努力を促していく内容というのは、国連決議二四二というのがありますけれども、それに基づいて和平をということを促していくということかと思います。ただ、そういう努力を日本がしていくためには、一方ではイスラエルに日本が信用されなきゃなりません。パレスチナ側からも日本が信頼を得なきゃなりません。それから、アメリカに対しても原則に基づいたきちっとした意見を言うということが必要だろうと思います。ただ、私はイスラエル大使をしておりまして、率直に言って日本の影響力、日本の力というのには限界があるということも自覚させられました。したがって、そういう力の限界も自覚しながらこれをやっていくということかと思います。
中東和平の問題としましては、パレスチナの問題に加えましてシリア、レバノンとの和平の問題がございます。ただ、これは私はパレスチナ問題と比較しますと簡単な問題であるというように思います。ゴラン高原をイスラエルがシリアに返還する、それに伴って安全保障上の措置を取るというのがこのシリアとイスラエルの和平の内容になると思いますけれども、これはパレスチナ問題よりはずっと解決が容易であると思います。レバノンというのは今、シリアの支配下にあると言っても差し支えありません。したがって、イスラエルとシリアの和平が片付けばレバノンとイスラエルの和平が片付くということであります。
それから、今日の議題に即して言いますと、この中東和平との関係で日本がやってきたことというのは、パレスチナが国家として成立してくるのを手助けする、パレスチナ人の今の現状に対する不満を緩和するというような趣旨で、中東和平の下支えということでパレスチナ支援というのをやってきました。このパレスチナ支援というのは、ODAのことが、削減される中でいろいろな問題が提起されておりますけれども、私は、このパレスチナ支援というのはアラブ世界と日本との関係という意味で大変大きな意味がある、大変大きな評価を得ているということを最後に申し上げたいと思います。
以上でございます。