松本恒雄の発言 (内閣委員会)
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○参考人(松本恒雄君) 松本でございます。
このような発言の機会をお与えいただきましたことに対してお礼を申し上げたいと思います。
まず、今なぜ公益通報者保護の法制化を議論しているのかということでありますが、この議論が行政内部で始まりましたのが二〇〇〇年ぐらいからでありまして、二〇〇一年に内閣府のコンプライアンス研究会の報告書が出ておりまして、その後、国民生活審議会に議論が受け継がれ、現在ほぼ四年間議論をしているということになります。
では、なぜこのような議論が出てきたかということでありますが、日本の、我が国の消費者政策の歴史を考えてみますと、次のような三つの波でとらえることができるというふうに私は考えております。
まず、六〇年代に消費者保護基本法が制定されたわけでありますが、これが一つ目の大きな波でありました。ここでの考え方は、行政中心、つまり行政規制で事業者を規制することによって消費者を守っていくというやり方、それと被害等について行政が相談を受けるということであります。それが、九〇年代になりましてから製造物責任法や消費者契約法等、裁判による消費者保護、司法による消費者保護を図っていこうという考え方が出てまいります。それが、今世紀に入りましてから、法律を直接使って消費者保護ではなくて、もう少し市場の力、マーケットの力を使って消費者に有利な状況を生み出していこうという政策が着目されるようになってまいりまして、コンプライアンス研究会の発想あるいは公益通報者保護の発想といいますのもこの第三の波の流れの一つと位置付けることができます。
それでは、第三の波として考えられている市場を利用した消費者政策の具体的中身でありますが、次の三で述べておりますような、例えば、各企業あるいは事業者団体に自主行動基準を作成してもらってそれを公表し、遵守してもらうとか、あるいは法令を遵守するためのコンプライアンス経営に積極的に取り組んでもらうと、あるいは、そのような事業者がきちんとしているということをしかるべき第三者機関に評価をしてもらう、そしてその評価が消費者に分かるようにマーク等で示すようにしようとか、あるいは、消費者苦情の処理について業界としてきちんと紛争処理のための機関、いわゆるADRと言われているものでありますが、これを作って安価かつ公平な解決を図っていってもらいたい、あるいは、もう少し大きな話になりますが、消費者利益以外の様々な企業を取り巻く利益も考慮した、いわゆる社会的責任に配慮した経営をやっていただきたい、そのような企業を支援する投資を促進していこうというような議論、あるいは、事業者団体と消費者団体が話し合ってしかるべきルールを考えていこうというような流れ、様々なものがここに含まれます。そして、このような考え方が、本委員会の議員の皆様方の御努力で成立いたしました消費者基本法の中に今回取り込まれたということでございます。
それでは、このような流れが出てくれば、従来の、特に第一の波で行政の中心の、行政規制中心の消費者保護が行われていたわけですが、これが全く不要になるかという点であります。
不要になるわけではありません。ただ、消費者政策として様々なツールが出てきたことから、行政の規制のやり方が少し変わってきているということがあります。よく言われておりますのが、事前規制から事後規制中心に変えていこうと。ただ、事後規制といいましても、事前の明確なルールが定められているということが大前提になります。その上で、しかるべくルールを守って自由な競争をしていただきたいということです。
こういうふうな事後規制中心になりますと、事後的にルールが守られているかどうかをきちんとチェックする、モニターする機能が働かないと大変なことになります。かといって、行政がすべての事業者活動を常時監視するというのは不可能でありまして、これは適時にいわゆるピンポイントで監視をしていくということにならざるを得ないだろうと。ほかにも、その事業者がルールを守っているかどうかを監視する主体が考えられて、そのような多様なモニタリングを促進していくような仕組みが必要になってまいります。
消費者に様々な、主務大臣に対する申出権を与える法律が多く整理、整備されておりますが、これは、消費者をモニタリングチャンネルとしようとする発想でありますし、社内の従業員をモニタリングのチャンネルとしようとするのが今回の公益通報者保護法案ということになります。
さらに、取引先にもそのようなチェック、モニタリングの機能を持ってもらおうというのがいわゆるサプライチェーンの発想ということであります。
さらに、事後的なチェックで違反が判明した場合にはしかるべく制裁を加えないと、結局やり得ということになります。その場合の制裁の内容といたしまして、ふだんから日常的に法令遵守のための取組を様々に行っている事業者の内部でたまたま違反があった場合とふだんから野方図な事業者の場合とで制裁に違いを与えるということが非常に重要になってまいります。
そういう点では、独禁法改正案、今回は国会には上程されなかったようでありますが、で、課徴金を強化するという反面、違反を通報した事業者に課徴金減額しようという仕組みを導入するというのは、この点で非常に評価に値することだと思います。
さらに、違法行為によって得た不当な利益を吐き出させるための様々なシステムの導入も考える必要があります。
続きまして、その様々なモニタリングチャンネルの中から、今回特に従業員に焦点を当てて公益通報者保護法が作られて、法案が作成されたわけであります。
この公益通報者保護制度をめぐっては様々な意見があります。法案は公益通報という用語を使っておりますが、一般には内部告発という表現がよく使われております。ここに典型的に表れますように、告発という言葉を積極的に使う場合のイメージと、通報という言葉を使う場合のイメージが違うというところがあります。ここがこの法案に対する対立の大きな原因になっているかと思います。
すなわち、告発イメージといいますのは、内部から外部への告発を主として考えている。その前提には、企業は悪いことをするんだと。特に企業ぐるみのこと、トップが関与した不正が中心イメージとして抱かれている。あるいは悪徳商法の摘発をこの制度を使ってやりたい。あるいは国民には企業の不祥事を含めて知る権利があるんだという考え方。さらに、行政への通報では役に立たないんだという行政不信というのもここに含まれているかと思います。
他方、通報イメージの背景にありますのは、企業の内部での通報を重視して、その通報を受ければ企業のトップはきちんと対応するはずであるという前提、すなわち誠実な経営を行おうとする企業を主としてイメージしているということになります。そのマネジメントシステムの一環として、企業内部で様々な教育、啓発、あるいはヘルプラインの整備等をやっていただきたい、企業の自主的な取組を促進しようというイメージであります。
それでは、どちらのイメージで法制化を図るのがいいかというところであります。今回提案されております法案は、後者の通報イメージに立っていると考えられます。法案の性格を考える場合には、三つの性格が重層的に出ているというところを十分に御留意いただきたいと思います。
すなわち、この内閣府が出しております案は、公益通報者保護法制を企業の自主的取組を通じて、これが私が言いました第三の波でありますが、規制法令の遵守という第一の波的発想を促進するために通報した労働者を保護するという、ここは正に民事ルールでありまして、これは第二の波ということになります。このような幾つかの異なった目的を一つの法規で実現しようとしている。その中でも、自主的取組促進という部分が一番根底にある法案だということであります。
じゃ、このような法案で所期の成果が達成できるかどうかでありますが、法律が整備、制定されれば当然様々な効果が出てくると思いますが、法案の議論を開始した時点におきまして既にいろいろ効果が出ております。ここにたまたま持ってきておりますが、経営法友会という企業の法務担当者が自主的に組織しております研究会がございまして、そこが「内部通報制度ガイドライン」という、企業内部で通報制度をどういうふうに整備したらいいかということについて非常に優れた指針を既に発表されているところであります。
そして最後に、それではこのような法案が制定された後で各関係者がどのような努力をすべきかということを述べて、私の発言を終わりたいと思います。
まず、行政の課題でありますが、この法案自身が企業のコンプライアンス経営の促進ということを一番根底のねらいとしていることでありますから、これに向けての一層の啓発や環境づくりを行っていく必要があります。
さらに、先ほど述べましたが、きちんとコンプライアンス経営をしないで、かつ違法な行為を行った企業に対しては、めり張りの付いた制裁をきちんと科していく必要があるということであります。
さらに、既に個別の法律におきまして公益通報者の保護を行っている法律がありますが、必要な分野につきましては個別法の制定を積極的に進めていただきたいと思います。
さらに、告発イメージの一つの大きな原因でありますところの、行政は企業と癒着していて頼りにならないという部分に対する一般的な不信感を払拭するための積極的な努力をしていただきたいと思います。
これの一つのやり方といたしましては、従来、行政内部で、企業、業界の振興を担当する部局と業界を規制する部局が、全く同じところが二つの機能を兼ねていたということが多いです。その結果、薬害や食品に関する安全が侵されたという結果が出たわけで、既に幾つかの省庁におきましてこの分離がなされたところでありますが、それ以外の分野におきましても積極的に業育成行政と規制行政を分けるということをやっていただきたいと思います。
企業につきましては、積極的にコンプライアンスの仕組みを作るということ、それから作るだけじゃなくてそれを動かしていくということをやっていただきたいと。これを支援する取組といたしまして、国際標準化機構、ISOにおきましてコンプライアンスについてのマネジメントシステムを国際的な規格として作ろうという動きが出てきております。
それから、内部通報が重視をされるということは、企業としては非常に早い段階で是正が可能になるということで大きなダメージを受けないという非常に大きなメリットがあるわけですが、それがうまくいくと結局企業内部の不祥事が外に出ないで済む、済んでしまうということがあります。これにつきましては、通報者に、通報者個人に対してきちんと結果を告げるということ自身は法案の中に既に記載されているわけですけれども、それ以外の他の、社内の他の従業員に対してもしかるべき時期に知らせるとか、あるいは社外、社外一般に対して、我が社においては過去こういうような問題があったけれども、内部の是正メカニズムがきちんと働いてこういうふうに是正されたんだから信頼してくださいという趣旨の情報公開をきちんと行うことがその企業に対する信頼を一層高めるのではないかと思います。
さらに、経営トップがそれでは不正に関与していた場合には内部通報は全く働かないのかという点でありまして、ここはそうはならないような仕組み、すなわち企業内部におけるチェック・アンド・バランスの仕組みをうまく取り入れるように努力していただきたいと。いわゆるコーポレートガバナンスの問題であります。
最後に、NPOの役割というのは極めて重要であります。とりわけ相談を受けるという機能であります。
ただ、相談機能と、それから告発の受皿としての機能はきちっと分けて議論する必要があると思います。相談が弁護士といった守秘義務をきちんと負っている人との間で行われている限りではまだ通報ではない段階でありますが、告発受皿団体に対して持ち込まれますと、そこで通報ということになりますので、ここの機能をきちんと分けて適切な助言、相談が行われるように期待したいと思います。
以上であります。