中山太郎の発言 (憲法調査会)
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○中山会長 この際、EU憲法及びスウェーデン・フィンランド憲法調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。
私どもは、去る九月五日から十七日まで、スウェーデン及びフィンランドにおいて両国の憲法事情について、また、ベルギーのブラッセル及びフランスのストラスブールにおいてEU憲法条約等について調査をいたしてまいりましたので、その概要につきまして口頭で御報告をし、委員各位の調査の参考に供したいと存じます。
議員団の構成は、私を団長に、自由民主党から船田元君、保岡興治君、中谷元君、近藤基彦君が、また、民主党から枝野幸男君及び仙谷由人君がそれぞれ参加され、合計七名の議員をもって構成されました。なお、この議員団には、憲法調査会事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員のほか、三名の記者団が同行いたしました。
私ども一行は、最初の訪問地であるスウェーデンのストックホルムにおいて、調査初日の九月六日に、世界の平和、安全保障に関する国際的な研究機関として有名なストックホルム国際平和研究所のベイルズ所長初め四人の研究員から、最近の安全保障をめぐる諸問題について、国会のEU諮問委員会のヴァイデリッヒ委員長から、スウェーデンから見たEU拡大、EU憲法条約の意義と問題点について、また、ヴェステルベリ国会第一副議長から、二院制から一院制に移行した背景等について、そして、元国会オンブズマンで現在も副国会オンブズマンを務めているペンレヴ氏から、スウェーデンにおける国会オンブズマンの権限と機能等について、それぞれ説明を聴取するとともに、意見の交換を行いました。
また、翌七日は、ケンベリ元保健・社会保障大臣及びヴァルストローム議員から、スウェーデンの社会保障制度、特に年金制度及び移民政策の概要について、また、スウェーデンの憲法に当たる四つの基本法を所管するボードストローム法務大臣から、女性の王位継承問題などをめぐる議論等について、それぞれ説明を聴取するとともに、意見の交換を行いました。
以下、その調査の概要について御報告をいたしますと、まず、SIPRIにおきましては、冒頭、ベイルズ所長から、SIPRIは、一九六六年にスウェーデン政府が世界平和のために設立した独立した研究機関であるが、スウェーデン政府は金は出すが口は出さないとの原則のもと、独立した理事会において研究テーマを設定しながら調査研究を進めていること。その調査研究は、単に理論的な研究にとどまらず、具体的、実際的な政治的テーマにも及んでおり、その成果はSIPRI年鑑として公表されていること。また、研究員の構成も国際的で、現にベイルズ所長御本人はイギリス人であることなど、組織及び活動の概要について説明を受けた後、同席した他の研究員の説明も交えながら、安全保障に関する諸問題について、予定の時間を超えて実に熱心な意見の交換が行われました。
その意見交換の中で私が特に印象に残っている幾つかの発言を挙げれば、次のようなものでございます。
その意見交換の中で、一つは、中谷議員の問題提起に関する応答ですが、中谷議員は、テロや少数民族に対する国家の態度、例えばチェチェンに対するロシアの態度、パレスチナに対するイスラエルの態度、イラクに対するアメリカの態度、チベットに対する中国の態度などについてどのような見解をお持ちかとの質問をされました。
これに対してベイルズ所長は、九・一一以後、テロリズムの国際化やイデオロギー化の中でアメリカがこれに強い態度をとろうとしていることを指摘された上で、大部分のテロや地域紛争はそれぞれ社会的、政治的、経済的背景を持っているものであり、その解決はその社会的、政治的、経済的状況の改善によってのみ可能となるものである、イギリス人の私からいえば、北アイルランドの問題の解決は、テロリストを殺すことによってではなく、北アイルランドに対してより一層の政治的権利の付与や経済状況の改善によって得られるものであるとの意見を述べられました。
もう一つは、船田議員の問題提起に関する応答ですが、船田議員は、EUへのトルコの加盟問題とイスラム世界に対する理解についてどのような見解をお持ちかとの質問をされました。
これに対してベイルズ所長は、EUはキリスト教文化を基盤にするものであり、トルコ加盟問題はそれを一歩踏み出すものだと言われることがあるが、私は決してそうではないと考えている、なぜならば、現在EU内には三千万人のイスラム教徒がいると報じられており、既に現時点において、EUは、キリスト教徒、ギリシャ正教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒などが混在する地域になっているからであるとの意見を述べられました。
さらに、保岡議員の日本国憲法第九条に関するヨーロッパ人の見方に関する質問に対する応答も興味深いものでございました。保岡議員は、集団的自衛権の行使を認めないなど非常に抑制的に解釈されてきた日本国憲法の第九条について、国際安全保障と平和構築の観点からどのように考えるかとの質問をされました。
これに対してベイルズ所長は、非常にデリケートな質問であると断りながらも、抽象的にお答えをすれば幾つかの違った方向から議論ができるとして、まず、日本が過去六十年にわたってとってきた抑制的な政策は地域の安定と平和に貢献してきたと評価できること、しかし、それは同時に、この地域にアメリカを導き入れるという間接的な影響をももたらしたこと、そして、この日本の抑制的な政策がもし変更されるのであれば、それは単なる国内的な問題ではなく、アジア地域全体の問題であり、かつ、全世界的な問題と考えるべきであろうと述べられました。
他方、最近の国際情勢のもとにおける各国の防衛政策を見ると、幾つかの一般的な変化が生じており、中立国であるスウェーデンですらその中立政策を再考しなければならなくなってきていることに象徴されるように、国境を越えて発生するテロなど内外を問わない新しい敵に対抗するためには、軍隊は国境を守るものという従来の観念では対処できなくなっていること、すなわち、軍事力の持つ役割として、紛争をとめるだけではなくて、平和を構築するという役割があるのではないか、もちろん、平和構築の努力は、軍事的なものだけではなくて、日本が行ってきたような経済的、政治的援助と組み合わせることが必要であると述べられました。
さらには、アメリカは、機動性を重視する観点からもはや友好国や同盟国の領土を守ることにはそれほど関心はなくなってきており、軍事力を次々とヨーロッパから引き揚げている、これはアジアにおいても同様であること、したがって、ヨーロッパやアジアの民主主義国家は、もはや今までのようにアメリカに頼ることはできず、自分たちの安全保障政策を再構築しなければならないとも述べられました。
ヨーロッパ人から見た一つの貴重な御意見として、深く印象に残った次第であります。
次に、国会EU諮問委員会のヴァイデリッヒ委員長と懇談いたしました。
ヴァイデリッヒ委員長は、長らく中立政策を堅持してきたスウェーデンがEUに加盟した理由について、一九九〇年前後のワルシャワ条約機構の崩壊とベルリンの壁の崩壊によって安全保障の状況は一変し、もはやEUは西側陣営の組織ではなくなったことを挙げておられました。しかし、他方では、スウェーデンとEUの関係は複雑で、御承知のように、いまだ欧州通貨連盟には加盟しておらず統一通貨は採用していない、これは、余りに急速にスウェーデン国会の持つ権限がEUに移譲されることに対して国民の懸念があるからであり、当分はユーロには移行しないだろうとも述べておられたのが印象的でした。
また、EU憲法条約については、従来のさまざまなEU、EC条約を整理したものであり、また、その政策決定過程をよりオープンなものにしようとするものであるから、国民投票に付することなく国会の議決のみで批准する予定であるとも述べておられました。
次に、ヴェステルベリ国会第一副議長及びペンレヴ元国会オンブズマンとの懇談の概要ですが、まず、ヴェステルベリ国会第一副議長との懇談では、同氏から、スウェーデン議会の歴史にさかのぼって国会の組織について説明を伺いました。そして、かつての二院制のもとでは、国民の直接選挙で選ばれる下院に対して、上院は県議会による間接選挙であり、また、任期八年の議員を毎年八分の一ずつ改選するという制度であったことから、民主主義を徹底し、民意の変化がすぐに議会の構成に反映するような制度にするため、一九七一年に一院制に移行しましたと述べられました。
なお、一院制にしたことで議案審査の時間が短縮したかとの質問に対して、二院制のときでも議案は両院で並行して審査してきたので特に短縮したということではないが、二院制下での多数派形成の複雑さがなくなったことから議案の議決は容易になったとのことでした。
次いで懇談した元国会オンブズマンのペンレヴ氏からは、二百年に及ぶ長い伝統を有するスウェーデンの国会オンブズマン制度について説明を伺いました。
スウェーデンでは、行政に対する監視はこの国会オンブズマンと国会の憲法委員会がそれぞれ担当しているが、憲法委員会は専ら内閣や大臣に対する監視を、また、国会オンブズマンは地方自治体を含むありとあらゆる行政機関の職員、裁判所や軍事関係の機関の職員への監視を行っていること。国会オンブズマンは四人いるが、分担を決めながらもそれぞれに独立して職務を執行し、一般国民からの不服申し立てを契機とした調査のほか、みずから地方に出向いて地方自治体の職務の適正さを監査するようなことも行っていること。監視の結果、不当な業務執行を発見したときは、これに対して是正勧告をするほか、検察官と同様の起訴権限をも認められているとのことでした。
ケンベリ元保健・社会保障大臣及びヴァルストローム議員との懇談においては、年金制度を中心とするスウェーデンの社会保障制度の具体的な仕組み、及び外国人の移民に対する教育や犯罪率などを含めた移民政策について説明を伺いました。また、私からは、平均寿命や出生率の変遷、国民負担率の問題などに関して具体的なデータを挙げながら我が国の社会保障を取り巻く諸問題についても説明し、両国に共通する諸問題について意見の交換を行いました。
さらには、短時間ではありましたが、スウェーデンの憲法に当たる四つの基本法を所管するボードストローム法務大臣とも懇談し、同大臣及び同席した政府高官との間で、女性の王位継承問題をめぐる議論やインターネット犯罪などが話題になりました。
そのうち、女性の王位継承の問題については、スウェーデンでは、一九七七年誕生した現国王の第一子が女子であったという事情や両性の平等等の観点から、一九七九年に王位継承法が改正され、欧州の王制諸国で初めて男性、女性を問わず第一子優先の王位継承が定められております。その後王子が誕生してもヴィクトリア王女が王位継承権を有しているのですが、その継承順位や女王の夫の法的地位に関して、ボードストローム大臣と近藤議員及び枝野議員との間で若干突っ込んだ意見交換が行われました。
特に、当方の、日本では女性の天皇を認めた場合その夫になる人はなかなかいないのではないだろうかというようなことも議論になっているが、スウェーデンではどうであったかとの発言に対して、そんなことはない、スウェーデンでは多くの人が女王の夫という地位に興味を持っており、なりたい人はたくさんいるとの答えが返ってきたのは驚きました。
改めて、皇室というものはその国の歴史や伝統の中で位置づけられていくものだと痛感した次第です。
次に訪れたフィンランドのヘルシンキでは、九月八日、国会行政委員会のヴァイスト委員長及びポフヨ副委員長から、フィンランドにおける情報公開、個人情報の保護に絡む諸問題について説明を聴取するとともに、意見の交換を行いました。
また、翌九日は、国会雇用・男女平等委員会のグスタフソン委員長ほか三名の委員から、フィンランドにおける男女共同参画社会の実情等について、また、国会憲法委員会のサトネン議員らから、憲法委員会の役割について、そして、EU憲法条約の草案を作成したコンベンションという特別の会議、これは御承知のようにジスカールデスタン元フランス大統領が議長をされた会議ですが、この会議にフィンランド国会の代表として参加されたキルユネン議員から、フィンランドから見たEUの拡大、EU憲法条約の意義と課題についてそれぞれ説明を聴取するとともに、意見の交換を行いました。
以下、その調査の概要について御報告をいたしますと、まず、国会行政委員会のヴァイスト委員長及びポフヨ副委員長との懇談では、二〇〇〇年に全面改定されたフィンランド憲法の中には、公共機関の有する情報に対するアクセス権の規定とともに、青少年の健全育成のために必要な映像番組の規制に関する規定が設けられていることや、携帯電話で世界最大のシェアを有するノキア社などのハイテク産業の国であることなどを念頭に、情報公開の基本的な制度の概要から凶悪犯罪等の捜査のための通信傍受に至るまで、幅広い意見交換を行いました。
次いで行われた国会雇用・男女平等委員会のグスタフソン委員長ほか三名の委員との昼食会を兼ねた懇談では、少子高齢化の問題から男女共同参画社会の実情、そして教育問題に至るまで、和やかな、かつ熱心な意見交換が行われました。
その中で特に印象に残ったものは、OECDが行った学力の国際比較でフィンランドが国語と数学で世界一位を達成したとの発言をめぐる質疑応答でした。私どもの、その成功の理由は何だと考えているかとの質問に対して、グスタフソン委員長らは、教師を目指す人間に優秀な学生が多く、また教員育成の面もすぐれていることを挙げ、その背景には、子供に対する教育についてはあらゆる事項に優先して努力していこうといった与野党を超えた国民的なコンセンサスがあることだという趣旨の発言をされたことでした。
教育問題は国家のありようの根本問題であることを改めて痛感した次第であります。
国会憲法委員会におけるサトネン議員ら三人の議員及び同席した二人の国会職員との懇談では、まず、憲法委員会の役割について、同委員会は法律が憲法に適合するかどうかを議会内で審査する機関であると同時に、行政府の行為に対する監視、そして、同じく行政監視機関である司法長官や議会オンブズマンに対するチェックも行っている等の説明を伺いました。
引き続く質疑応答では、司法長官と議会オンブズマンの相違点やフィンランド憲法における国会の位置づけなどが話題になりましたが、特に司法長官と議会オンブズマンの相違に関しては、司法長官は閣議にも出席して内閣の内部から行政執行の合法性等を独立して監視、監督する機関であるのに対し、議会オンブズマンは議会の側から行政執行の合法性や人権の遵守状況を監視する機関であり、両者の権限は重なり合うところもあるが、長い歴史の中でうまく機能しているとのことでした。
また、この懇談の際に、フィンランドには国家の将来について常に大所高所から考える未来委員会なる委員会があるとのことで、その詳細な権限と組織について伺う時間的な余裕はありませんでしたが、興味深く感じた次第であります。
EU憲法条約の草案を作成したコンベンションにフィンランド国会の代表として参加したキルユネン議員との懇談において、同議員は、まず、フィンランドと比較して隣国のスウェーデンはEUに対してやや慎重な人々が多いことを指摘し、その理由として、スウェーデン人はEUを経済的な機関として損得勘定で見ているのに対し、フィンランド人はEUは経済的な機関であると同時に安全保障の機関としても重視していること。これは、日本と同様に第二次世界大戦はフィンランドにとってもトラウマになっており、東の大国であるロシアの存在が大きい、その意味でも今回の旧東欧へのEUの拡大の意義は大変に大きいといった趣旨の発言がなされました。
また、キルユネン議員は、EU憲法条約の意義について、その政策決定過程の透明化、強化によってEUの民主化が進むものと積極的に評価した上で、今後EUがどのような方向に進んでいくのかについて、次のような興味深い発言をされました。すなわち、自分の理解では、EU憲法条約はアメリカのような連邦国家を目指そうとするものではない、ヨーロッパはアメリカ合衆国から二百年おくれて進んでいるわけではないのであり、我々はヨーロッパのアメリカをつくろうとしているわけではなく、新しい問題に対して新しいやり方で解決していこうとしているのだということを繰り返し強調されておられた点であります。
今回の大きな調査のテーマの一つであるEU憲法条約に関しましては、九月十日から土日を除いた十六日までの五日間にわたって、EU憲法条約の草案を作成した特別の会議であるコンベンションの関係者のほか、EU理事会、欧州委員会、欧州議会というEUの三つの枢要な機関と、EUの特別の機関の一つである欧州オンブズマン、そして、EUとは別個の機関ではありますが、欧州における人権保障に関して重要な役割を果たしている欧州人権裁判所を訪問して、それぞれの関係者合計十三人及び同席した事務局の方々と精力的に懇談をし、説明聴取及び意見交換を行いました。
すなわち、コンベンション関係では、元フランス大統領であるジスカールデスタン議長を補佐した元ベルギー首相でもあるデハーネ副議長と、EU理事会関係では、その法律顧問であるピーリス氏と、欧州委員会関係では、司法内務担当のヴィトリーノ欧州委員会委員及びEU憲法条約の作成過程に欧州委員会の事務局高官として深く関与されたバレンズエラ対外関係総局次長、欧州の将来タスクフォースのファン・ヌッフェル課長と、欧州議会関係では、さきに述べたコンベンションに欧州議会代表団として参加されたメンデス団長及びヘンシュ、ダフの両副団長のほか、欧州議会の憲法問題委員会のライネン委員長、外交委員会のブローク委員長、そして対日交流議員団のヤルツェンボウスキー団長、そして、欧州オンブズマンのディアマンドロス氏と、欧州人権裁判所のヴィルトハーバー長官であります。
それぞれの関係者との懇談時間が三十分から一時間と若干細切れであったため、突っ込んだ意見交換ができた懇談と表敬的な意味合いにとどまった懇談とが混在することになってしまいましたが、しかし、EU憲法条約の憲法的、政治的意味という一つのテーマに絞って多数の関係者からヒアリングをしたので、かえって、EU憲法条約の持つ意味合いやEU統合の今後の姿などが、関係者の発言の微妙なニュアンスの違いとともに、陰影を持って立体的に浮かび上がってきたようにも思います。
そのすべてをここで御報告することはできませんので、以下では私が特に印象に残った点をかいつまんで御報告し、足らざるところは、後ほどの各派遣議員からの御発言で補充していただくとともに、詳細は後日配付させていただく調査報告書を御参照していただければと存じます。
まず、何といっても最大の関心事項は、このEU憲法条約は憲法なのか条約なのかという点であります。
この点については、懇談した関係者は口をそろえて、EU憲法条約は各主権国家によって締結される国際条約であると言っておられました。しかしながら、同時に、その内容はとなると、従来の国際条約とは異なり、EUの専管的領域とされる分野、具体的には共通通商政策の分野等において、EUの特定多数決による決定が各国政府の政策を拘束するとか、一国の憲法の人権宣言に当たる基本権憲章がこの憲法条約に盛り込まれ法的拘束力を持つようになったとか、通常の国際条約と異なる特徴を有することを強調されておりました。
この問題は、EU統合の将来像として、連邦制国家を目指すのか、それともあくまでも主権国家の連合体を目指すのかという点とも関連するものであります。
この点についても、前述したフィンランドのキルユネン議員が、ヨーロッパはアメリカ合衆国から二百年おくれて進んでいるわけではないと述べたのと同じように、多くの関係者が、欧州連合は国家ではなく、将来においても国家というステータスを用いることにはならないと断言される一方、EU内部には、できるだけ早く連邦制的枠組みをつくるべきであるとするフェデラリストと、あくまでも政府間の関係の枠内で連携を密接にしていくべきであるとするインターガバメンタリストの二つの思想があり、憲法条約を積極的に推進してきたのはフェデラリストたちであったことを率直に認める発言もされていました。
ちなみに、EU憲法条約によってEUは独立した法人格を有することになり、また常設のEU大統領とEU外務大臣を持つことになっています。
他方、コンベンションに欧州議会代表団の副団長として参加されたイギリスのダフ副団長によれば、イギリス議会の立場は、EUの拡大には賛成だが、その深化には反対だというものであると述べられておりましたが、これなどはさまざまな意見があることを示唆するものであろうと思います。
昨年、ロンドンで、EUは連邦国家的なものになるかどうかを議論する会議があったようでありますが、そこで報告をしたEU理事会のピーリス法律顧問は、EUは連邦国家になるとは思わないが、連邦的な要素を持つものとなっていくのではないかとの報告をしたそうであります。
もう一つ、従来のEU、ECに関連する諸条約を一本化したEU憲法条約という形をとることになった最大の理由は何か。別の言葉で言えば、なぜ今、EU憲法条約を制定するのかということも関心事項の一つでした。
それについて、EU拡大に伴って今後生ずるであろうEU内の政策決定過程の困難性を事前に回避するために、それを透明化し強化するためであるといったことが一般的に言われている点ですが、懇談したすべての関係者が強調された点は、欧州市民にわかりやすいものにするためということでした。憲法は国民のものであり、国民にわかりやすい憲法論議を心がけてきた私どもにとっても、共感できる考え方であったと思います。
このEU憲法条約草案を作成する手法についても、貴重な御意見を伺うことができました。それは、政府間の会合に付される草案を作成したコンベンションという手法であります。
特に特徴的なのは、このコンベンションのメンバー構成のあり方です。各国の政府代表だけではなくそれぞれの国の議会代表も参加したこと、それだけではなくて、EU全体の利益代表ともいうべき欧州議会の代表や欧州委員会からも代表が参加したことであります。さらには、オブザーバーとして大小のNPOやNGOも参加されたとのことです。
コンベンションの副議長を務められたデハーネ元ベルギー首相は、このような構成をとることによって、この新しいコンベンションは欧州全体の健全な基盤に基づくものとなり、その結果、さまざまな課題に直面して活動することが可能になった、特に、その審議プロセスの中で、欧州議会議員と各国議会の代表との関係が密接化し、共通精神に立って物事を進めることができたと述べておられました。
このような手法は、歴史も伝統も文化も異にし、そして経済的な格差も存在する中で、各国の利害が錯綜する地域において共通の理想を実現していこうとすることを考えるとき、私どもにとって大いに参考になるものと存じました。
以上のEU憲法の内容及び手続に関連して、派遣議員のお一人である仙谷議員が、今回のEU憲法条約の採択は、人類の知恵と理性の結晶と評価してもいいのではないか。国境をなくして、ネーションステート相互間で国防軍を廃止しようという理想を、ヨーロッパという部分的な地域であれ実現しようとしていることは、実にすばらしい。そのために、国家主権の移譲とか共同行使という新しい概念をつくり出していることに敬意を表する。そして、民主主義はここまで発展、進化してきたのかと思うと感慨無量のものを覚える旨の発言をされたことは、私どもの認識を端的に表現した発言であったと思います。
しかしながら、同時に、そのような理想に燃えたEU憲法条約の趣旨とその全体像をどのようにして欧州市民に提示、説明し、理解を求めるか、欧州市民の実質的な政治選択を求めるのかという困難が次にやってまいります。
特に、関係者が一同に指摘しておられたことは、今後二年内に各国の批准手続を経なければならないが、二十五カ国のうち国民投票に付するものと見られている国が八、九カ国あり、例えば、ヴィトリーノ欧州委員会委員によれば、フランス、イギリス、アイルランド、デンマーク、スペイン、ポルトガル、オランダなどがあり、その結果は予断を許さない、特に、フランスとイギリスが含まれていることは重要だということです。なぜならば、国民投票となると、EU憲法条約の是非だけではなく、その時々の内政的な問題も含めて、国民はその国の政府に対する賛成、反対を表明することになるのが通例だからとも述べておられました。
政治家として長い経験と高い識見を有するヤルツェンボウスキー議員、彼は対日交流議員団の団長でもありますが、同議員は、国民投票では、EU憲法条約の特徴やその目標とするところを平易にわかりやすく国民に説明する努力を政府が行うことが重要だ、専門家が条文を審査するときのような説明では国民には理解してもらえない。マーストリヒト条約批准の国民投票の際にデンマーク政府は条約の草案そのものを全世帯に配付したというが、そのようなことは全く間違いだ、法律家でも理解できないような生の条文を送りつけて、それで理解を得ようとすることなど不可能であるということを力説しておられました。将来、我が国も憲法を改正しようとするときには、必ず国民投票を経なければならないわけでありますが、参考になる御意見であろうと思います。
以上、EU憲法条約を中心とした調査の概要を御報告いたしましたが、最後に、欧州オンブズマン及び欧州人権裁判所長官を訪問した際の意見交換の概要について簡単に御報告させていただきます。
まず、ディアマンドロス欧州オンブズマンとの懇談では、各国のオンブズマンと欧州オンブズマンとの連携や欧州オンブズマンの活動状況などについて質疑応答及び意見交換がなされましたが、そこでディアマンドロス氏が強調されたのは、オンブズマン制度は、法の支配と民主主義の両方が確立した国家において存在するものであり、国民の遵法精神と独立した強力な司法制度のもとにおいて、それを補完するものとして設置されるということ。そして、司法制度とともに、オンブズマンのような制度を設けることは、ますます多様化していく紛争や不服申し立てに対して、その解決策を多様化することであり、市民の選択権を広げるものであること。そして、オンブズマン制度というのは、必ずしも法的強制力のない勧告をするにとどまるのが通例であるが、だからこそ、その職務の独立性は名目上も実質上も不可欠なものとなります、それは市民の目から見ても独立性が明確に認識されるようになっていて初めて、権威も備わり、かつ、実効的に機能するようになるのであって、その意味からも、オンブズマンのような制度は、国内の上位法、すなわち憲法の中に明文化されていることが望ましいことといった点でございました。
また、欧州人権裁判所のヴィルトハーバー長官との懇談では、各国の裁判所と欧州人権裁判所との関係、欧州人権裁判所の下した判決の実効性、特に各国政府による遵守の状況、さらにはEU司法裁判所と欧州人権裁判所との関係などについて、質疑応答及び意見の交換がなされました。
以上のような極めて多忙な日程ではございましたが、私ども議員団は、無事にこれを消化し、去る九月十七日帰国いたしました。ごく短期間の調査でありましたし、また、各訪問国における調査事項が極めて多岐な問題に及びましたので、ここから何がしか結論めいたことを抽出することはできませんが、しかし、この調査の詳細をまとめた調査報告書は、議長に提出し次第、過去四回の海外調査と同様に、委員各位のお手元にも配付をいたす所存でございますので、残すところわずかとなりました本調査会の今後の議論及び最終報告書の取りまとめに当たっての御参考に供していただければと存じております。
今回を含め五回の海外調査を合わせると、これまでに合計二十八カ国及び国際機関の憲法事情を調査したことになりますが、いずれの国においても、憲法のありようが国のありように直結して国民的な論議がなされていること、しかも、そのような広範な議論は、EUにおいては国を越えた欧州市民の立場、全欧州的な立場からなされていることを、私自身、改めて認識させられた次第であります。
最後に、今回の調査に当たり、種々御協力をいただきました各位に心から感謝を申し上げますとともに、充実した調査日程を消化することができましたことに心からお礼を申し上げたいと思います。特に、三月に本調査会に招致した、EU憲法条約について御意見をお述べいただきました駐日欧州委員会代表部のベルンハルド・ツェプター大使閣下には、先方要人とのアポイントのアレンジを含めて、大変御尽力をいただきました。改めて、厚く御礼申し上げたいと存じます。まことにありがとうございました。
以上、簡単ではありますが、このたびの海外調査の概要を御報告させていただきました。
引き続きまして、調査に参加された委員から海外派遣報告に関連しての発言を認めます。
なお、御発言は、五分以内におまとめをいただくこととし、会長の指名に基づいて、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いいたします。
御発言を希望される方は、お手元のネームプレートをお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。
発言時間の経過につきましては、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らさせていただきます。
それでは、ただいまから御発言をお願いしたいと思います。御発言を希望される方は、お手元のネームプレートをお立てください。
仙谷由人君。