吉川春子の発言 (憲法調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○吉川春子君 日本共産党の吉川春子です。
 日本国憲法前文と九条について私の見解を述べます。
 憲法前文は、政府の行為によって戦争の惨禍の起きることのないようにすることを決意し、過去の侵略戦争に対する反省が日本国憲法制定の動機であるとしています。
 私は、戦争の犠牲になった人々に対するいわゆる戦後補償問題について取り組んできました。民主、共産、社民、野党三党共同提出の戦時性的強制被害者問題、いわゆる慰安婦問題解決促進法案の提案者です。内容は、日本が慰安婦とした七万とも二十万とも推測されるアジア地域の女性たちに対して謝罪と補償を行うというものです。
 二〇〇二年三月に提案されたこの法案は、参議院内閣委員会で二回審議されました。同法案の提案理由は、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的行為の強制が行われたことにより、これらの女性の尊厳と名誉が著しく害されたこと、このことに対して我が国が十分な対応を行ってきたとは言えない状況を踏まえて、我が国が誠意を持ってこの問題解決に取り組むことが緊要な課題になっていることにかんがみ、被害を受けた女性への謝罪と償いの意を表するための措置を我が国政府の責任によって講ずるためと述べています。
 政府がさきに行ったアジア女性基金の償い事業がとりわけ韓国や台湾から激しい批判を受けましたので、私たち野党の法案が関係諸国にどう受け入れられるのか、民主、社民の議員の方々と一緒にそれらの国を訪問し、慰安婦被害者の皆さんやNGO、そして大臣や政府高官、国会議員にお目に掛かり、法案の内容の説明と意見交換を行いました。
 韓国国会では、私たちの帰国後、常任委員会である女性委員会、林委員長が提案者となって私たちの法案の制定促進決議が提案され、本会議で全会一致で可決されるなど、各国から歓迎を受けたことは喜ばしいことでした。
 しかし、同時に、私が訪問した各国では日本の残した戦争の傷跡が今なおいえていないことも実感しました。
 オランダはインドネシアを植民地支配しているときに日本に占領され、多くの人々が収容所に入れられ、二、三百人の若い女性たちは慰安婦にさせられました。
 一昨年、私は、日本の裁判所に提訴しているオランダ・ハーグにある対日道義請求財団を訪ねましたが、日本政府の対応には厳しい批判を浴びせられました。
 彼らの案内で日本との戦いの犠牲者の碑、インデヒモニュメントに献花をしました。私は記者のインタビューを受け、私の写真と記事が現地で報道されました。それを見た市民から、NGOの事務所に、なぜ日本人に献花をさせたのかと抗議の電話が入りました。私のオランダ訪問の目的を説明したら納得したそうですが、ここは十数年前、日本の総理大臣も訪れ、花輪がすぐに投げ捨てられたと言われる場所で、事前に私も日本人は近づけない場所とは聞いていました。
 私は、この経験を通じて、日本国憲法と九条の今日的大切さを痛感しました。憲法は、日本の侵略戦争におけるアジア二千万人の犠牲、日本国民三百十万人の犠牲の上に、日本の侵略戦争への反省を示し、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないとし、二度と再び戦争はしないと世界に宣言し、国際紛争の平和的解決の方向を人類の取るべき道として示しました。利己的、独善的な国家主義に対し決別の意思を表しています。この憲法の基本原則に沿った政治、外交が行われることが国際社会において名誉ある地位を占める道ではないでしょうか。
 慰安婦問題等は早急に解決されなければなりません。しかし、強制連行や毒ガス問題などを含め多くの戦後処理問題は裁判に持ち込まれましたが、敗訴し、いまだに解決をしていません。そればかりかかえって、侵略戦争の精神的バックボーンでありA級戦犯が合祀されている靖国神社へ総理が毎年参拝することに対し、日本へのアジア諸国の批判は増幅しています。靖国神社への参拝は、裁判所も言うとおり憲法違反です。侵略戦争への反省が不十分という批判がアジア諸国に抜き難くあるのが現実です。
 一昨年、ソウルの青瓦台の反対側にある西大門刑務所を訪れたとき、日本語のできるガイドの説明を受けました。植民地時代に独立戦争をする朝鮮の人々を投獄した場所ですが、私は日本人として正視に堪えませんでした。ここは、日本の植民地支配についての学習の場として毎年大勢の学生生徒が見学に来ます。日本支配はいまだに韓国国民のぬぐい難い記憶であることを私は痛切に感じたのです。
 韓国の国会議員は日本をどう見ているか。雑誌「世界」八月号の青木理氏の記事によると、今年四月の総選挙で圧勝した与党ウリ党の新議員の学習会で、今後最も重点を置くべき外交通商の相手はどこかという質問に対して百三十人が回答しました。第一位が中国、六三%、次はアメリカ、二六%、三位はASEAN、四位はEU、そして日本はわずか二%で最下位でした。
 さらに、日本の首相の靖国神社参拝についてどう考えるかとの設問に、外交摩擦を避けつつ遺憾表明によって立場を明らかにするが四三%ですが、外交問題が生じても日本に強力に抗議して断固たる措置を取るべきという回答も四〇%だということです。
 憲法前文は、いずれの国家も、自国のことのみに専念し他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なもの、この法則に従うことが各国の義務としています。この文言に込められた侵略戦争への反省を二度と再び繰り返さないとの決意を忠実に実現していくことが、戦争で犠牲を強いた諸外国の人々と友好関係を築く道であり、アジアで日本が信頼をかち得る方法であると思います。
 一部には、我が国の歴史、伝統、文化、日本のアイデンティティーを憲法前文に盛り込むべきとの見解がありますが、この見解は基本的人権の制限や過去の国家主義的考えに基づくものであるならば時代錯誤です。
 憲法九条と参議院の自衛隊を海外に出さざる決議により、第二次大戦後九〇年代初めまで海外派兵は行わず、平和国家としてアラブ、アジアなど、世界で一定の信頼を日本は得てきました。しかし、今イラクでは、悲しいことに日本人も標的になっています。イラクのほぼ全土に非常事態宣言が出され、米軍が病院や橋まで攻撃し、ファルージャ総攻撃を行って死傷者が多く出ています。イラク戦争は泥沼化しており、武力行使が何の解決にもなっていないことを改めて示しています。
 国際紛争を解決する手段として、武力による威嚇ではなく外交など平和的手段で行うとの憲法原則に立ち返り、自衛隊はイラクから直ちに撤退すべきです。
 日本の憲法九条は海外からどう見られているのでしょうか。
 国際民主法律家のロラン・ベイユ氏は、日本憲法を歴史的にとらえれば、第二次大戦と結び付いて軍国主義の復活に予防線を張った条文だが、第二次大戦後の世界の思想の進歩に照らせば、憲法の条文は今日全く違った永続的かつ基本的な意義がある、九条と日本を世界の進歩の最先端に立たせることになったと語っており、私も同感します。
 憲法九条を変えて実態に合わせようとの動き、中でもアメリカからの度々の要請に呼応し、国際社会との協力を明文として集団的自衛権行使を明記する動きには同意できません。歴代政府は、日米軍事同盟の強化で日本を戦争のできる国にするための法体制、周辺事態安全確保法、武力攻撃対処法、武力攻撃事態対処法を次々に成立させました。
 憲法九条を変えることは、文字どおり戦争ができる普通の国に日本を変えていくことです。アジア諸国はそれを望んでいるでしょうか。
 タイのチュラロンコン大学のチャイワット・カムチュー部長は、改憲にアジアは反対する、もし九条が変わったらアジアに衝撃が走ると述べています。私は、これによって日本と世界が失うものは極めて大きいと思います。
 集団的自衛権の行使、自衛のための戦力の保持、国の防衛及び非常事態における国民の協力義務を設けるとの主張は、徴兵制の道につながるおそれがあります。
 私が毎年訪問する上田市の無言館には、戦死した東京美術学校、現芸大の画学生がかいた遺品の絵が展示されています。彼らが生きていたらどんなにすばらしい画家になっていたでしょうか。
 俳優の三國連太郎さんは、戦前、日本にいなきゃ軍事教練もしなくていいし、戦争に行かなくて済むと思い、中国大陸と朝鮮半島を放浪したそうです。二度目の放浪のとき母親に出した手紙で、お母さんが警察に届け、消印で三國さんは捕まりました。僕みたいな子供がいると世間からつまはじきにされる、弟妹がかわいそうだということか、母親を恨んだことはないと赤旗インタビューに答えています。
 徴兵制で若者を戦争に駆り立てる歴史を繰り返してはなりません。核保有国が増え、核兵器の小型化がアメリカによって進められ、イラク戦争でもアメリカは劣化ウラン弾を使用しています。
 政府の安全保障と防衛に関する懇談会で武器輸出三原則の見直しも言われています。ミサイル防衛、MD構想に参画する上で武器輸出三原則が邪魔になってきた、武器の共同開発、生産、核兵器の製造、輸出につながりかねない圧力が武器商人から掛けられています。
 しかし、核兵器廃絶は世界の願いです。今年も原水爆禁止世界大会へ各国首相からメッセージが寄せられています。ニュージーランドのヘレン・クラーク首相は、「いま、核兵器の廃絶を」というメッセージは明快で説得力を持っています。この目標は重要であり、ニュージーランド政府は強く支持します。また、バングラデシュのイアンジュディン・アハメド大統領は、核軍縮の前進は、世界の平和と安定を達成するため、より強固なものに強化されなくてはならない。スウェーデンのヨーラン・ペンション首相は、時の経過とともに長崎、広島の恐ろしい経験は忘却のかなたに消えてしまう可能性がある、それを決して容認してはならない。ラオスの人民民主共和国カムタイ・シハンド大統領は、ラオス国民は戦争を拒否するとともに、平和でどのような大量破壊兵器もない世界のために協力していくことを誠実に望んでいると述べています。
 日本の核兵器廃絶運動への期待は大変高いものがあります。憲法九条の歯止めを取れば、広島、長崎の被害を負う我が国が核兵器製造、核武装へと進んでいくと思います。それは日本の戦後の歴史を一挙に無にするに等しい暴挙です。
 最後に私は、九条の会のアピールの一節を引用します。
 二十世紀の教訓を踏まえ、二十一世紀の進路が問われている今、改めて憲法九条を外交の基本に据えることの大切さがはっきりしています。日本と世界の平和な未来のため、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、改憲の企てを阻むために一人一人ができるあらゆる努力を今すぐ始めることを訴えます。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 116114184X00320041110_011

発言者: 吉川春子

speaker_id: 26901

日付: 2004-11-10

院: 参議院

会議名: 憲法調査会