中山太郎の発言 (憲法調査会)
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○中山会長 これより会議を開きます。
報告書に関する件について議事を進めます。
御承知のとおり、憲法調査会は、衆議院憲法調査会規程第二条第一項に基づきまして、調査の経過及び結果を記載した報告書を作成し、会長からこれを議長に提出するものとされております。
本件につきまして、先般来の幹事会等における協議に基づきまして、お手元に配付のとおり、報告書案を作成いたしました。
この際、本報告書案を議題といたします。
本報告書案の趣旨及び内容について御説明を申し上げます。
本調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的な調査を行うため、第百四十七回国会の召集の日である平成十二年一月二十日に衆議院に設置されました。調査会の任務は、この設置の趣旨に従ってその調査を行い、調査の経過及び結果を記載した報告書を作成し、議長に提出することであります。
調査会は、この任務に従って、総計四百五十時間を超える精力的な調査を行ってまいりました。
具体的には、日本国憲法の制定経緯に関する調査から開始し、戦後の主な違憲判決に関する調査を経て、二十一世紀の日本のあるべき姿に関する調査を実施いたしました。
その後、調査会のもとに小委員会を設置して、前文を含む全百三カ条の憲法全体についての専門的かつ効果的な調査を遂げた後、最後にその全体を通じた締めくくりの調査を行ったのであります。
この間、合計五日間にわたる公聴会、及び全国九カ所で地方公聴会を開催して、国民から憲法に関する意見を求めるとともに、憲法調査会委員で構成された憲法調査議員団による海外調査を通じて、比較憲法的な観点から諸外国の憲法事情についても調査を行ってまいりました。
調査会の調査期間は、議院運営委員会理事会の申し合わせにより「概ね五年程度を目途とする。」こととされていますが、その期間の半ばが経過したことを受け、平成十四年十一月一日に中間報告書を作成し、同日、議長に提出したものでありますが、ここに今般、報告書を取りまとめ、これを議長に提出しようとするものであります。
本報告書案の構成は、第一編「憲法調査会の設置の経緯」、第二編「憲法調査会の設置の趣旨とその組織及び運営」、第三編「憲法調査会の調査の経過及びその内容」、第四編「資料」から成っております。調査の内容をまとめました第三編第二章及び第三章がその中核的な内容をなしております。
第三編第二章の「調査の概要」では、調査会及び小委員会、中央、地方の公聴会、そして海外調査に分類しながら、これらを時系列的に整理、要約したものであります。その上で、第三編第三章では、この五年余りの調査の中で表明された委員及び参考人等の多様な発言を、基本的に日本国憲法の各条章に沿いながらそれぞれの論点ごとに分類、整理しつつ、特定の立場に偏ることなく公平に要約するとともに、多く述べられた意見については、その旨を記しております。これは、調査会の意思決定としての多数を意味するものではなく、あくまでも、あるテーマについておおむね意見がどのように分布したかをあらわそうとしたものでありますが、このような整理は、この五年余りの間の調査会の議論がどのようなものであったかを、国民に対し、正確かつ平易に説明する責任を全うする観点から、極めて適切かつ必要なことであると考える次第でございます。
さて、本報告書案に記した議論の中から幾つかの特徴について申し上げるならば、その特徴の一つに科学技術の進歩と憲法があります。
戦後の目覚ましい科学技術の進歩が、国家の法制度に重大な影響を及ぼす可能性のあることが明確になったと存じます。例えば、クローン技術が乱用された場合の倫理面や環境面への弊害は予測できないものがあり、これは翻って、日本国憲法の最高価値である個人の尊厳に重大な影響を与えかねない問題であります。また、ユビキタス社会における個人のプライバシーの保護が従前にも増して緊要性を増すとともに、国民の情報アクセス権が議論されるようになるなど、情報通信技術の進展が社会や法制度に及ぼす影響もはかり知れないものがあります。
これは、憲法制定時には想像もつかなかった国内外の情勢の変化の一つにすぎません。安全保障の分野について見るならば、冷戦終結後、民族紛争や国際テロが頻発する状況となっており、我が国を取り巻く安全保障環境も大きく変化しております。こうした中で、安全保障の概念が、国家の安全保障から地域の安全保障、人間の安全保障と大きく変貌しておりますが、我が国も、安全保障及び国際協力の両面において、多様な取り組みが求められております。一九九〇年以後の湾岸危機を契機として国際協力の問題について突っ込んだ議論がなされるようになり、一九九二年のいわゆるPKO法以後、我が国では、憲法のもとで実施し得る国際協力の範囲に関して、九条の解釈論が繰り返し議論されてまいりました。この点について、報告書案においてもさまざまな意見を示しております。
国内の変化に目を向けるならば、近年における少年犯罪の増加や、学力水準の国際比較における低下が見られます。これを受けて、憲法の精神を教育を通じて具現するという教育基本法の見直しを強く求める声があると承知しております。また、少子高齢化社会の進展のもと、社会保障の負担と給付の問題や海外からの外国人労働者の流入による外国人の人権保障の問題が切実なものとなってまいりますが、これらの点に関する議論もございました。
このような内外の変化に対応して、我が国は、国の将来のあり方を真剣に検討しなければなりません。調査会においては、法の支配のもと、我が国がなし得ること、なし得ないことの基本を、国家の基本法において疑義のないように明確に規定していくべきではないか、そのような議論が活発に行われてまいりました。
事の是非に関する立場の違いを超えて、この憲法規範に基づく政治という立憲民主主義の要請については、委員各位とも共通の認識を持たれたものと存じます。
また、憲法に関する議論の特徴のもう一つとして、憲法規範と現実との乖離をどのように考えるかということがございました。
これまで論じられてきた九条の問題や私学助成と憲法八十九条の公の支配に属しない慈善、教育、博愛の事業に対する公金の支出等の禁止規定の関係だけでなく、裁判官報酬の引き下げと憲法七十九条、八十条の裁判官報酬の減額禁止規定の関係はその典型的な事例でありましょうし、憲法の規定が現実に生かされていない種々の問題も挙げられましょう。これらを憲法上問題ないとするのは、主権者である国民にわかりやすい解釈とは言えないと思います。
最高裁判所が行政にかかわる違憲訴訟について憲法判断に消極的で、憲法上の争点について公権的判断が的確に得られていないこともまた、国民にわかりにくい法の解釈、運用を許す原因となっているものと思います。国民にわかりづらい法の解釈、運用は、法治国家、立憲国家の観点から問題であるのみならず、憲法に対する国民の信頼の喪失ももたらしかねない、それこそが最も重大な問題ではないかと考えております。
また、これまで五度にわたり実施いたしました海外調査では、諸外国においては幾たびかの憲法改正が行われていることを、相手国から説明を受けてまいりました。中でも、昨年の海外調査の際、欧州の法律家が欧州憲法条約の制定理由の一つが市民にもっと密接に向かい合うことにあるとしておられたことは、印象的でした。これは、私が常に申し上げてきたように、憲法は国民のものということに通ずるものがあると存じます。
この点、五日間にわたる中央公聴会及び全国九カ所における地方公聴会においても、憲法は国民のものという考え方に基づき、一般公募を含む公述人や意見陳述者の方々から、我が国がいかにあるべきか、憲法はいかにあるべきかということについて、国民の考えを積極的に酌み取るように心がけてまいりました。昭和四十七年の本土復帰を迎えるまで日本国憲法の実効的な適用がなされてこなかった沖縄において開催した地方公聴会は、特に感慨深いものがございます。
以上、本報告書案の趣旨及びその内容を御説明申し上げましたが、これまで五年余りの間、人権の尊重、主権在民、そして、再び侵略国家とはならないとの理念を堅持しつつ、新しい日本の国家像について、全国民的見地に立って、憲法に関する広範かつ総合的な調査を進めてきたものと自負しております。
本報告書案は、これまでの調査の集大成であり、報告書の提出をもって我が国における憲法論議の新たな段階を迎えることになるものと考えております。
以上でございます。
これにて趣旨の説明は終わりました。
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