跡田直澄の発言 (郵政民営化に関する特別委員会)

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○跡田参考人 慶応大学の跡田でございます。
 本日は、一経済学者、財政学者として、なぜ郵政民営化が必要かを多少理論的に、理屈っぽく解説させていただき、それを踏まえまして、民営化法案に対する私の評価を述べさせていただきたいと思います。
 では、まず、郵政民営化が必要となります三つの理由につきましてお話しさせていただきたいと思います。
 まず第一の理由でございますが、これは、政府が何をすべきかという経済学の最も基本的な考え方から導き出されるものでございます。
 つまり、経済学の基本定理というものがございまして、そこが教えるところでは、政府がすべきことというのは、一つは資源配分の効率化を図るということと、それから所得分配の公正化ということ、非常に基本的なお話でございますが、この二つになるというふうに考えられております。
 この基本的な考え方の中にありますものというのは、営利企業が自由な市場で正しい競争を行えば、国民の生活は向上し、福利も向上する、政府がなくてもそういうことが成り立つというのが、まず、この基本的な考え方のところにございます。
 ここで言う正しい競争という言葉でございますが、これは、協調しながら競争して、土光会長がかつておっしゃられたように、社会の公器として国民のために切磋琢磨するということが競争ということの本質でございます。ですから、経済学が教える競争というのは、弱肉強食というような短絡的な考え方とは全く違っております。ですから、こういうふうに考えていただくのは経済学を専攻しておる我々としては非常に困ることでございまして、もちろん間違っても株式会社を否定するというようなことがあっても困る。我々は資本主義国家の中で生きておりまして、そういう自由な資本主義国家の中で生きていくためには株式会社を否定しないでいただきたいと、あえて申し上げておきたいと思います。
 第二の所得分配の公正化という点につきましては、これは個人間の問題でございますので、本日のテーマとは直接関係ありませんので、本題であります第一の資源配分の効率化と政府の関係にお話を限定させていただきたいと思います。
 では、第一の資源配分の効率化から、政府のすべきことというのは何か、つまり、政府の役割というものをまとめさせていただきたいと思います。この側面から考えますと、市場が成立していない、市場がないという場合と、市場が既に存在しているときとで、政府の役割が違ってまいります。
 もちろん、市場が存在しているときでも、市場をモニターするということは政府の役割と考えられます。また、市場がうまく機能していない、存在していてもうまく機能していないようなときには、介入したりルールをつくったりすることも政府の役割として正当化されます。しかし、市場が存在しているとき、市場が存在するというのは民間企業が存在しているということでございますが、そういう場合に、政府がプレーヤーとしてその市場に直接参入するということは経済学の論理としては正当化されないということでございます。
 他方、市場が成立していないとき、民間企業がいないときには、政府がプレーヤーとして参入し、みずから財やサービスを提供するということも許容されます。明治期に郵便事業とか郵便貯金事業を始めたということはまさにこれに当たるということでございまして、明治政府は正しく認識をされていたというふうに考えていいのではないかと思います。
 しかし、公益性の高いサービスでない限り、いつまでも政府が独占的に供給していくということがいいわけではございません。むしろできる限り民間事業者を育てて市場をつくり出し、政府は撤退していくということが政府の役割であります。
 健全な資本主義国家における政府のすべきことというのは、以上のように論理的にはまとめられます。これらの点から考えますと、郵政公社の持っている四つの機能、これを民間事業者がどういうふうに供給しているかというふうに調べてみますと、サービス供給が全く行われていないというものはございません。
 特に、貯金事業と保険事業は民間により、十分と言うと言い過ぎかもしれませんが、かなり供給されております。それから、郵便事業につきましても、小包については民間がかなり育ってきております。それから、ネットワーク事業につきましても民間で供給され始めております。したがって、どの機能につきましてもかなり市場が発達してきている、民間企業が出てきているというふうに解釈できるわけでして、もはや政府が直接参入する必要性というのはほとんどなくなってきているというふうに私自身としては考えております。
 この辺が第一の、政府の、論理的に考えたときに持っている役割から民営化ということが考え出されるということでございます。
 民営化の第二の理由といたしましては、やはり公社経営の限界という点にあると思われます。
 郵便貯金、簡易保険は、その資金運用面での制約もありますので、このまま続ければ、〇・二%の上乗せ金利という優遇措置を既に廃止しておりますので、こういう点も加わりまして、収支状況が悪化しまして、近い将来、かなり行き詰まりが予想されると計算上も出てまいります。また、郵便事業につきましても、Eメールの普及や宅配事業の発達によりかなり苦戦を強いられることになると予想されております。
 この三つの事業、個々の事業のリスクというものが他の事業に波及するおそれがかなりございます。金融が赤字を出し郵便事業の方の足を引っ張るということも考えられますし、郵便事業が赤字を出して金融業の足を引っ張るというような、金融業にとっては非常に問題のあることが起こる可能性があります。ですから、そうしたリスクを遮断するためにも、これまでの政府保証つきの郵便貯金や簡易保険というものは分離し、新たに四機能に応じたそれぞれの新会社を株式会社として設立するという現在の法案というのは、合理性がかなりあるというふうに考えております。
 もちろん、民営化して、各会社の経営にできる限り自由度を与え、できる限り他企業とのイコールフッティングを実現して、最初に申し上げたような正しい競争を市場で展開させようということをこの法案の中では考えているというふうに私自身は考えておりますし、競争ということをやはり我々自身がもう少し日本の中で正しく認識する必要があるんじゃないかと思っております。
 最後に、ただし、窓口ネットワーク会社につきましては、巨大なネットワークというものを保有しております。これは、今はやりの言葉で申し上げるならソーシャルキャピタル、社会資本として、むしろいろいろなところから活用していく方がいいのではないかということも考えるべきであると思いまして、思い切って民間に開放するということも今後の事業展開の中では検討していくべきではないかと思っております。
 基本的な公社経営というものを、うまく公社の形ではできないということで、民営化ということが必要ではないかというのが第二の理由でございます。
 そして、第三の理由といたしましては、私どもがここ十数年の間、いろいろな形で研究してきた中で一番問題として指摘したいのが、資金の流れというものを官から民に変えるためという点で必要だと。
 状況としましては、一九九〇年代に、家計から百七十兆円ほど郵貯、簡保に資金が流れ込みました。民間の金融機関にも百六十兆ほど流れておりますけれども、民間以上にこの間資金が流れ込むということが起こっております。そして、この資金が政府の財政赤字を補てんしたり、財投システムを通じて政策金融や特殊法人に投入されてまいりました。
 結果論ではありますが、民から官への資金の流れを郵貯、簡保が助長したというふうに言えます。もちろん政府全体の構造改革を進めることが必要なわけでございますが、民から官への資金の流れの最大の窓口であった従来型の郵貯、簡保というものをここで閉じるということは、避けて通ることのできない道ではないかと考えております。
 民営化後の新会社は当然、今までに比べて小さくなりますし、しかも、経営の自由度をかなり高めたものにしておくことがこれからの経営の上では重要ではないかと考えております。民営化の理由としての資金の流れを官から民に変えるという点で、郵政民営化ということも一つの役割が担えるのではないかと考えているということでございます。
 では、最後に、民営化法案について若干のコメントをさせていただきたいと思います。
 今回の民営化法案の最大のポイントは、民営化によって経営の自由度を発揮させるということと、従来から公社が担ってきた公共性というものを担保すること、この二つの点をいかにバランスさせるかという点にあるというふうに私自身は考えております。
 そういうバランスをとるという点におきまして、今回の法案の中では、旧勘定の分離とか、新郵貯会社それから新簡易保険会社という形の、完全に民営化を一たんするという株式の売却、こういうこともやはり想定している。民営化という本質的なところをまずこの辺できちんとやろうという点。
 それから、郵便事業会社、窓口ネットワーク会社を、民営化とは言っておりますけれども、まず株式に関しては持ち株会社が全部持っておくということで、一たん、完全な民営化にはまだ進まずに、ある意味では、特殊法人という形で政府の中に置きながら公共性の担保ということを少し考慮しているということ。
 さらに、その安全性といいますか、窓口ネットワーク会社の問題として、基金の設立による過疎地域での郵便局の維持というような点などにも配慮をされておりまして、政府案は、私から見ますと、かなりよく考えられた案だと高く評価しております。修正という形で若干の部分は入ると思いますけれども、基本路線としては、民営化ということでこういう評価をしているということでございます。
 あえて再度申し上げたい点は、健全な資本主義国家でも市場をいかにうまく機能させるかが政府の重要な仕事でありますから、市場が存在するならば、モニターすることは重要でございますが、政府がいろいろなことに口を挟んだり、いろいろなことを決め過ぎてはいけない。自由な資本主義国家であるということを基本にお考えいただきたいということでございます。
 持ち株会社の株主として、政府が結果責任として経営者にそれを問うということは将来的にも当然あり得ると思います。しかし、枠組みとして、経営者がむしろ自由に判断できるようなものをつくっておくことがまずは重要であります。つまり、政府は個々の問題についての経営判断に立ち入るべきではない。これは普通の資本主義国家ならごく当たり前のことでございますけれども、そういう点はきっちりとお考えいただきたい。
 一番最後に申し上げたい点としては、これだけ巨大な公的企業の民営化というのは世界史上にも例のない初の試みであります。そういう点で、ぜひこの法案をもって成功させていただき、世界に範を示していただきたいと申し上げて、少し早いようですけれども、私の陳述を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 116205259X02320050704_006

発言者: 跡田直澄

speaker_id: 3573

日付: 2005-07-04

院: 衆議院

会議名: 郵政民営化に関する特別委員会