井堀利宏の発言 (予算委員会公聴会)

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○井堀公述人 東京大学の井堀です。よろしくお願いします。
 私のきょうお話しする主要なテーマは、平成十七年度の予算でも定率減税の一部廃止縮減の話が出ていまして少し増税の動きもありますが、これからの中期的な財政再建を考えたときに、どの程度の増税が必要不可欠なのかということを中心にお話しさせていただきたいと思います。
 財政状況は非常に厳しいわけですけれども、今の政府の公式の目標ですと、二〇一〇年代初頭にプライマリーバランス、いわゆる基礎的収支の均衡化あるいは黒字化を図るというのが量的な財政再建目標として掲げられているわけです。
 この目標の意味するところというのは、御存じのように、公債残高の対GDP比が二〇一〇年代初頭になると発散しない、つまり、時間がたってもGDPと同じ割合でしか公債残高がふえない。そういう意味で、必要最小限の財政再建を量的に進めるときの目標としてプライマリーバランスの均衡化あるいは黒字化ということを目標として掲げているわけですが、実はこの目標は、公債残高の対GDP比を安定化させるには、私のレジュメのところにも最初に書いてありますように、金利と経済成長率が等しいというのが前提になります。
 この予算委員会でも一月に内閣府の方から展望の試算が出たと思いますけれども、その試算でも、二〇一〇年代初頭に金利と経済成長率は等しい、そういう想定を置いて、その想定のもとでは、プライマリーバランスを均衡化、あるいは黒字化といってもほとんどゼロですけれども、そこまで持っていけば公債残高の対GDP比は発散しないで一五〇とか六〇ぐらいで安定化する、そういうことなんです。ただし、これは金利と成長率の関係次第でかなり動き得る数字で、現実を見ますと、成長率よりも名目金利の方が高い状況の方がよりもっともらしいだろうと思います。
 したがって、今の政府目標というのは相当楽観的な、あるいはこれを改革がうまくいくというぐあいに表現することもできると思うんですが、逆に言うと、相当楽観的なケースを前提にして、そのもとでの必要最小限の財政再建としてプライマリーバランスの均衡化を掲げているということになります。
 しかし、もしも金利の方が経済成長率よりも高い状況が今後中期的に続いていくとすると、プライマリーバランスを均衡化しただけでは、依然として現在と同じように公債残高の対GDP比はどんどん上昇し続けるままで、財政再建の量的な見通しが立たないままに二〇一〇年代に入ってしまう、こういう状況を迎えることになります。
 したがって、金利と経済成長率が等しいというある意味で楽観的なケースだけに頼って、余りにも財政再建を量的なところに対して楽観的な数字だけで、必要な歳出削減なり増税への努力を怠ったままこれから五、六年あるいは七、八年たってしまいますと、その後で財政状況が予想以上に相当厳しくなったときに、大幅に財政歳出を削減したり、あるいは大幅に増税をせざるを得ないような状況に追い込まれることになりますので、その方が、将来、国民経済にとっても非常にマイナスの影響が出てくることになります。
 したがって、より慎重な見通しのもとに、多少金利が経済成長率よりも高くなってもある程度量的な財政再建が中長期的に達成可能であるような、そういうシナリオを現在からきちんと示して、そのもとで歳出削減を進めると同時に、必要不可欠な増税がどの程度あり得るのかについてももう少し真剣に議論する時期に既に来ているのではないかと思います。
 具体的にはどの程度の量的な引き締めが必要かといいますと、現在の政府目標というのは対GDP比で見て四%ポイントぐらいの財政収支の引き締めを想定しているんですけれども、金利が経済成長率よりも多少、一%か二%ぐらい高いという状況、これは、一九八〇年代以降の平均的な数字を当てはめると大体金利の方が経済成長率よりも一%から二%高い状況が続いているわけですけれども、その状況が今後も続くと想定しますと、実際には三%から四%ぐらいのプライマリーバランスの黒字に持っていかないと公債残高の対GDP比は発散する状況が依然として続いてしまう、こういう状況になります。
 したがって、現在想定している歳出削減よりもある意味ではその二倍程度の量的引き締め、増税と歳出削減の両方の組み合わせで今の想定の二倍程度の引き締めが今後七、八年の間に必要になり得る、そういう慎重な見通しのもとに、もう少し真剣に歳出削減の努力と増収を図る努力について具体的に考える必要があるのだろうと思います。
 歳出削減ですけれども、御存じのように、日本が相当少子高齢化が進んでいますので、社会保障費は自然のままでほっておいてもかなり伸びますので、これを対GDP比と同じ割合に落とすだけでも相当大変ですけれども、それをさらに四%ポイントも下げるとなると、大幅な社会保障の制度改革なしにはある意味で実現不可能な数字なわけですね。
 さらに、自然増収を考えますと、確かに景気がよくなれば税収はふえますけれども、そうはいっても名目の経済成長率はそれほどふえませんから、今現在、ほぼデフレかインフレかぎりぎりの、物価水準はほぼゼロの状況ですから、この物価水準が多少上がったとしても、高度成長期のように名目経済成長率が一〇%を超える状況は非現実的だろうと思います。
 したがって、仮に経済が好調になってデフレから脱却したとしても、それほど極端に自然増収は期待できない。さらに、高齢化の圧力で歳出削減に対しては相当厳しい制度的な課題があるということを考えますと、四%ポイント程度削減するのであっても、相当厳しい歳出削減と経済の活性化を前提にしているわけですね。さらにそれに加えてプラスの、残りの三から四%ぐらいの量的な引き締めが必要だとなると、これはどう見ても裁量的に増税せざるを得ないだろうと思います。
 今、裁量的な増税というのは、ある意味で税率を変えたりあるいは課税ベースを変えるという形で税制改正をするということですけれども、そういった裁量的な増税をしないままいきますと、これから四、五年たった後で、逆に言うと極端な増税をその時点になって初めて検討せざるを得ないとなりますと、これは国民にとっても非常に大きなマイナスのショックになりますので、そういった増税に対する不安感を解消するためにも、必要最小限の増税がどのくらいなのかということについてもう少し国民にきちんとした情報を開示して、それなりの協力を求める必要があると思います。
 仮に、それを消費税の増税だけでやるとしますと、四%ポイントぐらいの裁量的な増税というのは消費税に直しますと八%ぐらいの消費税の税率の引き上げにほぼ相当します。これを、一つの試算ですけれども、毎年一%ポイントずつ消費税を上げるとすれば、現在から八年間で今の五%の消費税を一三%ぐらいに上げればほぼ四%ポイントぐらいの税収の増加が確保されますので、それが裁量的な増税の一つの大きさになります。
 ただ、消費税を一三%まで上げるかわりに、消費税を例えば一〇%ぐらいの上げ幅に抑えて、残りの三%ポイントぐらいを別の形で増税するということも当然選択肢になるわけで、例えば、レジュメに書きましたように、住民税の税収をもう少し大幅に確保する。一つの案としては、均等割を今の数千円のオーダーから数万円のオーダーにするだけでもこれは数兆円規模の増収効果がありますし、あるいは、国税としての所得税の人的控除を、特に配偶者に関しての人的控除を大幅に削減する、これは女性の社会進出にとってもプラスだと思いますが。そうした効果でもやり方次第では兆単位の税収増が確保できるわけですけれども、そういった具体的な税収の増加についてある程度の議論をするべきであると思います。
 ただし、増税する場合は、きちんと税金を取る人から取っているんだ、そういう増税に関する負担に関しての公平感を確保する必要がありますので、納税者番号制度をきちんと入れて、だれがどういった形で特に資産を形成しているのか、蓄積しているのかの情報を長期的にきちんと税務当局が把握しておくというのは、所得税の捕捉を間接的に補強するものとして有効だろうと思います。
 それからもう一つは、増税という形で税収が入ったとしても、それがむだに使われるということであれば国民は、あるいは納税者は納得しないわけですから、やはり税金がきちんと使われるということの担保をする必要があると思います。
 これはもちろん、この場のように予算委員会できちんとした予算が審議されて納税者の意向に沿った形で予算が執行されるというのが本来ですし、それが望ましいわけですし、そういった形で日本の現状が進んでいることを私も期待しますけれども、同時に、それを補完する意味で、納税者が何らかの形で税金の使い道についてある程度指定できるような、そういう制度も間接的に考えてもいいのではないか。それで、レジュメのところで納税者投票というのも書きましたけれども、これは、所得税の使い道についてある程度納税者がその使途を指定できるような、そういう仕組みも入れると、税金がきちんと使われるということに関する納税者の理解もより得やすいのではないかと思います。
 それから、税金を取る場合の大きな論点はやはり消費税になるわけですけれども、消費税に関しては公平性の観点からいろいろな反対意見があって、なかなかこれをクリアするのは難しいと思いますが、ただ、公平性の観点からいいますと、消費税はそれほど不公平な税ではないんだろうと思います。
 なぜかといいますと、人々の経済的な格差というのは何に反映されるかというと、その人がどれだけ消費をたくさんしているか、あるいはたくさんできないかという消費行動の格差に反映されるんだろう。つまり、お金をたくさん稼いでもそれを使わないまま資産として残して死んだ人はそれほど経済的には豊かな生活をしているとは言えないわけですね。たくさん使って初めてその人が経済的に高い生活を享受しているということになりますから、逆に言うと、消費水準の高さというのはその人の経済力を反映する一番有力な指標になります。ということは、消費に対して課税するわけですから、消費をたくさんしている人からたくさん税金を取るのはそれほど不公平な税ではないわけですね。
 消費税で一番公平的な税というのはいわゆる直接税タイプの消費税で、つまり消費額に対して累進的に税金をかけるという税ですが、これは、一年間のその人の消費額が実際上捕捉できませんから、なかなかできない。そのかわりに、間接税タイプの消費税というのはその都度その都度消費に対して比例的に税金がかかるわけですから、直接税タイプの支出税に比べると累進税が適用できないという分だけ再分配効果はないんですけれども、だからといって逆進的でもないということですね。
 その意味で、消費税はそれほど不公平ではないので、消費税の税率が二けたに上がったからといって特に消費税に関して再分配を是正するような、例えば複数税率の導入というのは余り望ましいことではないと思います。
 複数税率を入れる場合によく議論されるのは、食料に関する非課税とか軽減税率を入れるケースがあるんですけれども、日本の場合、データで見ても、特に低所得者の人が集中的に食料だけを多く消費しているということはありませんので、食料に関して軽減税率を入れたとしても再分配効果は余り期待できない。そのかわりに、むしろ複数税率が入ることによるいろいろな攪乱効果が大きくて、メリットが余りないばかりか、デメリットの方が大きいだろうと思います。
 それから、消費税と所得税とは、つまり一般的な税と考えるとほとんど同じようなものでして、ここはテクニカルになりますので時間の関係で省略しますけれども、要するに、使う段階でかかるのが消費税で稼ぐ段階でかかるのが所得税ですけれども、消費する以上はその所得として稼いでいるわけですから、長い目で見れば、所得として稼いだものは基本的にはすべて使われるはずなわけですね。もちろん貯蓄もするわけですけれども、最終的には使い切るのが合理的な、経済的な行動になります。遺産を入れると多少この話は違ってくるんですけれども、遺産の場合は、もらう遺産と残す遺産がほぼ同じであれば相殺できますから。
 その意味で、消費と所得はほぼ同じなので、消費にかける消費税と所得にかける所得税というのは、経済的な効果というのはそれほど違いがないんですね。つまり、例えば二〇%の所得税をかけるということと二五%の消費税をかけるというのは、ともにフラットな比例税だということで考えれば、ほぼ同じ経済的な効果を持っています。逆に言いますと、例えば北欧諸国は二五%の消費税を入れているわけですけれども、これは、二五%の消費税を入れているという見返りに二〇%のフラットな所得税、労働所得税を入れているんだ、こういうぐあいに考えることもできるわけですね。
 だから、日本の所得税の税制が相当フラット化している現状ですと、所得税と消費税というのはそれほど大きな効果はないわけですから、その意味で、課税、徴税の面での透明性、つまり所得よりも消費の方がいろいろな意味でわかりやすいという面からしますと、消費税をもう少し活用するというのはそれほどおかしいことではないんだろうと思います。
 ただし、消費税を活用する場合の一つの大きな懸念は、いわゆる社会保障に関する福祉目的税という形でこれから高齢者がどんどんふえるときに社会保障の受給と消費税とが完全にリンクがなされてしまいますと、受給世代というのはこれから政治的な発言力が非常に強くなるわけですから、その人たちの財源として消費税が活用されますと、社会保障の財源が足りなくなると消費税を上げればいいという形で、ある意味ではむだな、大きな政府になりやすい。そういうインセンティブを消費税を福祉目的税化すると持ちますので、やはり消費税というのは一般税源のもとで有効に活用されるという前提のもとで、必要最小限の財源として消費税を活用するんだという方向で、足りなければ消費税で何とか福祉財源をやればいいんだ、そういう方向で消費税は活用すべきではないだろうと思います。
 それから、最後ですけれども、定率減税の縮減、廃止等も含めて増税をこれから多少ともやっていきますと、マクロ経済に与える効果あるいは景気回復との関係でどうなんだという疑問なり不安感も当然出てくると思うんですが、問題は、増税する場合にその財源がどこに行くのかというところが問題で、増税してそれを歳出の拡大に使ってしまうのでは、当然、国民、納税者にとってみれば税金が取られっ放しですから、可処分所得が減りますので、消費は落ち込みます。
 ただし、増税しても歳出がふえないで、それが過去の借金の返済に充てられる、つまり、増税した分だけそうでない場合に比べると国債の残高が相対的に減って、それも将来の増税要因が相殺されるということであれば、必ずしも増税というのは長期的に見た増税につながっていないということですね。つまり、現在増税するということは将来の増税要因を消しているわけですから、中長期的に増税要因にならない以上、それほど消費を抑制する効果もないんだろうと思います。
 それで、レジュメ三ページの最後の方に書きましたけれども、マクロ経済の安定化にとって一番重要なのは、財政面からいうと、いわゆる自動安定化効果に期待する。つまり、景気がよくなれば何もしなくても税収はふえるわけですね。景気が悪くなれば何もしなくても税収は減りますから、その分だけマクロ経済にとっての安定化効果があるわけで、裁量的に増税したり減税したりすることによってマクロ経済を活性化するということはあえて必要ないんだろう。その意味で、マクロ経済の動向と並行して、余り景気のよしあし等に一喜一憂しないで、中長期的に必要な増税に関しては粛々とやる方が望ましい。
 これは、課税の平準化あるいは負担の平準化という観点から、経済的には一番もっともらしいやり方で、つまり、一時期に集中的に増税するよりは、どうせ増税するのであればなだらかに増税する方が国民経済にとっての負担は小さくなりますので、その意味で、これから中長期的にある程度の増税が避けられないということであれば、それを先送りするのではなくて、現在から少しずつ増税していく方が国民にとっても負担感も少なくなりますし、結果としてマクロ経済にもプラスになる。だから、景気がいいから、あるいは景気が悪いからといって増税を先送りしてしまいますと、結果として将来重い負担を残すという意味で、まずいのではないかと思います。
 大体時間になりましたので、もし質問があれば後で聞かせていただきます。
 以上です。(拍手)

発言情報

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発言者: 井堀利宏

speaker_id: 34508

日付: 2005-02-23

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会