小島朋之の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(小島朋之君) 小島でございます。
それでは、座って発言させていただきます。
私、一枚レジュメを用意させていただきました。これに沿いながら、三点お話しさせていただきます。一点目は、最近拡大している中国における反日デモ、これについてどう見るのかということについて発言させていただきます。二点目は、この反日デモ、反日騒動、これに向けての日本政府の対応ということについて簡単に整理させていただきます。そして、三点目に、この委員会のテーマである我が国のアジア外交について若干の提案をさせていただきます。
それでは、早速最初のところにまいりたいと思います。
中国における反日デモということでありますが、この具体的な展開については日本のメディアも報道しておりますので、ここで詳しく説明する必要はなかろうと思います。この反日デモというのは一体全体これまでとどんなところが違うのかという点についてだけ最初にお話しさせていただきます。
私は、大きく三つ、これまでと異なる特徴が今回のデモには見えると思っております。
第一点は、半ば自発的な反日デモ。官製の反日デモは、一九四九年の建国以来かなりの大きさで行われてまいりました。例えば、五〇年代末の長崎国旗事件。見本市で右翼が中国の国旗を燃やしたということで日中関係が大きく揺らぎますが、このときには反日デモというのが中国全土で一千万規模で行われたと。これは官製であります。半ば自発的な反日デモとしては私、これ過去最大ではないかと思っております。
二点目。四月初めにデモが始まって、既に三週間続いております。これがこのまま続く、そういう可能性も大きいという点、これもまた今回の一つの特徴であろうと思います。そして、こういった規模と時間と、これに大きくかかわってきているのがいわゆる情報革命、インターネット、一言で言えばネット革命と、これがこういった特徴をもたらしてきたということであろうと思います。この点についても既に日本のメディアでも報じられておりますので、ここまでにしておきたいと思います。
この動き、これがこのまま拡大していくというのは、中国の内政にとっても、日中関係にとっても、東アジアということから見ても、これかなり深刻であります。ということを受けて、中国政府もやっとこのデモというのの抑え込みに掛かってきたというふうに思われます。
一つには、二日前に行われた中国共産党の宣伝部、それ以外の部と委員会、六つの委員会と部を集めた情勢報告会というのを北京で開いて、ここで日中関係がいかに重要であるのか、冷静に対応すべしと、こういった方針が打ち出され、さらにはそれを受けて、今中国の全国各地に日中関係の工作者、前の、元の日本大使などもひっくるめて宣伝報告会というのをやっております。こういった方向で抑え込めるのかどうなのか、なかなか予測が難しいところであります。
その一つ、それを占う一つは、この二十二日に開かれるバンドンでのアジア・アフリカ会議五十周年で両国の首脳、胡錦濤・小泉会談が行われるのか、行われてどういう結果が出てくるのか、これが一つであろうと思いますし、もう一つは、時期で見ていけば五月四日、ここのところまでこういったデモが続くのかどうかということであろうと思います。
五月四日というのは、一九一九年、第一次世界大戦の終戦を受けて行われたベルサイユ講和会議、ここでの、ドイツが確保していた山東半島の権益を日本が引き継ぐという、こういった決定が下され、これに対して北京を中心とした学生たちが反日デモを行い、それが反政府に拡大し、それが一九四九年の中国革命につながると、言わば中国革命の原点としての反日愛国運動のときであります。ここまで来ると、これは大変なことになるのではないかということであります。ちなみに、五月四日というのは、中国においてはちょうど日本と同じようにゴールデンウイーク、一週間の休みでありますので、この休みのときどう動くのかというのが問題になってこようと思います。
こういった特徴を持った反日デモ、その背景はどういったところにあるのか。
一つは、最近の日中関係であろうと思います。経済的には熱いけれども政治的には冷却化していると。正に、ここに書きましたような二〇〇一年以降の小泉総理の靖国神社参拝問題、台湾問題、東シナ海のガス・石油開発問題等々、様々な問題が浮上し、そして今回の場合には、国連改革に関連して常任理事国、安全保障理事会常任理事国入りの可能性が出てきたという報道、そして教科書に対する検定合格の報道、こういったことが重なってきたということであります。
そういった最近の日中関係で、なぜ若い世代を中心とした反日デモが起こったのか。その背景にあるのはやはり若い世代の反日感情と、こういうことであろうと思います。
こういった反日感情をもたらしてきたのは、中国政府による歴史を中心とした愛国主義教育にあることは、これはもう明らかであろうと思います。その愛国主義の歴史教育とその目的というのは、ここにも書きましたように、中国共産党政権の正統性を若い世代に植え込むということでありまして、そこで扱われる歴史というのは、当然のことながら、党の過去の栄光というものを象徴的に示す歴史であり、それは抗日愛国戦争、ここに共産党が勝利したと、ここに集中するということであろうと思います。一九九五年に指定された愛国主義教育基地、これが二百五。現在は更にそれが増加しておりますが、その多くが抗日戦争関連であるというところにそれは見て取ることができようかと思います。
この愛国主義教育はいつから始まったのかということでありますが、中国、中華人民共和国は、これは中国共産党、共産党が建国した国でありまして、その意味で建国当初においては愛国主義よりもむしろ国際主義、国際的な連帯というのが強調されましたが、話ははしょりますけれども、日本における終戦四十周年、中国における抗日戦争勝利四十周年、このとき以降、愛国教育というのが強調されるようになります。そして、一九八九年、天安門事件直後にもまたこの愛国教育というのが強調され、特に現在我々が見ている教科書における愛国主義教育というのは、一九九四年の愛国主義教育大綱、ここで定められ、翌年、九五年、抗日戦争勝利五十周年以降、極めて本格的に展開されることになる。正に、そうした教育を受けた十年後に、今騒いでいる学生たち、その反日感情というのがそこからもたらされたということであります。
その意味で、中国の政府にとって、こういった反日感情の発露である反日デモ、これを全面的に抑え込むということは、自らの教育の成果を否定するということにつながります。なかなか難しいと。その意味で、ディレンマの中に今回の場合、中国の政権はあるというふうに私は見ております。
ディレンマは、二つの意味でのディレンマであります。
一つは、国内向けと国際向け。国際向けに、こういった反日デモ、それはよろしいが、デモが大使館を攻撃する、日本人経営のレストランを破壊する、日本人を傷付ける、これは許すことはできないわけであります。それが続けば、二〇〇八年の北京オリンピック、これをやっていけるのかと、こういう声を国際社会で高まらせ、それだけでなく、中国政府は現在でもなお対日関係、日本との協力というのは重要であるという認識は依然として持っているわけで、その意味での両国関係の全面的な後退のおそれというのをもたらしてくる。
さはさりながら、国内向けでいけば、今申し上げたように、反日デモは全面規制はとてもできない。規制をすると自らが進めてきた教育そのものを否定することになり、まして、そうした反日感情の下でデモをしている学生たちを拘束する、捕まえる、そういうことになったときに、デモの矛先は政府に向かいかねない。これが一つのディレンマであります。
もう一つのディレンマは、反日の効用と危機誘発のはざまに揺れるというディレンマであります。
効用というのは、これまでも中国は、こういった歴史問題、反日感情、こういった問題を対日外交のカードとして使ってまいりました。なお、有効性については捨て切れないところがあろうと思います。しかも、その次にお話ししますように、ここ最近、一、二年、中国社会の中には不満がマグマのように充満しております。この不満のガス抜きという点の効用もあるということであります。
その意味で、この反日の効用というのを考えると、そう簡単にこうした一連の動きを抑え込むことはできない。しかし、こういった反日デモが、反日騒動、こういうことになってくると、今申し上げた最近顕著になってきている社会内部の不満、これが反政府につながりかねない。こういった状況に対する言わば危機意識というのがございます。
昨年、停刊処分を受けた中国の雑誌の「戦略と管理」という最後の号に北京大学の社会学者が書いておりましたが、二〇一〇年前後に中国には危機多発の時代が到来すると、そういった深刻な状況認識というのは、こういった専門家だけでなく指導者の中にも私はあるのではないかと思っております。一言で言えば、改革・開放は経済の発展をもたらし国民生活の全般的な水準の向上をもたらしたが、同時に、豊かな層は更に豊かになり貧しい層は更に貧しくなる、この「「富有」層VS「弱勢群体」」と書きましたが、正にこういった状況が今深刻になっております。
中国の政権は、胡錦濤政権はこれに対応しようとしておりますが、対応し切れるかどうか、今時間との勝負と、こういう状況に入っているのではないかと。こういった二重のディレンマの中で、私が今一番注目し憂慮しているのは中国の政権の意思統一、これがなかなか取れていないのではないのかと。ある種の政治、ガバナンスの脆弱化というのが見られるということであります。
町村外務大臣と李肇星外交部長が会談を行いましたが、李肇星外交部長が、中国はこれまで日本に対して謝らなければならない行為は一切していないと、こういうことを言いました。この言葉を聞いて、私はもう本当にあきれ返りました。ちょっと見たって、昨年の十一月の中国海軍の日本領海侵犯、あれ遺憾の意を表したはずなんですが、一切謝らなければならない行為をしていないということは、あれは中国の領海だったのかなと、こういうふうに思うわけでありますが。しかし、それは分かっている、中国側も分かっているけれども、そう発言せざるを得ない。そこまで発言するしかない、なかなか苦しい状況にある。それは、政権の中でこの問題にどう対処するのか、意思統一がなかなか図れない、そういう状況があるからなのではないかというふうに考えております。
ちょうど胡錦濤さんは四月九日、十日、北京で予想外の反日デモと騒動が起こったとき、北京におりませんでした。山東省を視察中でありました。つまり、こういった状況というのをほとんど予想していなかったということであり、その後の対応についてはかなり不思議な対応が見られます。公式の報道から見ても不思議な対応が見られる。
四月十五日に政治局会議を開きます。政治局会議というのは中国共産党の最高意思決定機関でありますが、当然のことながらこの会議ではこの問題が話し合われているはずでありますが、ここに書いたとおり、精神を集中して建設をやり、一心一意、発展に力を注ごうと、こういうことが話し合われたと、とても信じられないわけでありますが。それを受けて、四月十七日の人民日報は、天安門事件直後のトウ小平さんの発言を引用して、中国における問題は、すべてを圧倒するのは安定を求めることであると。安定団結というときは必ず中国においては安定団結がないときであります。こういう状況にあると。そういった点について、若干でありますが対日政策をめぐる揺れというのがどうも見られる。
温家宝総理は三月十四日に、日中関係改善のための三点提案というのを行いました。首脳同士の相互訪問を早期に回復する、日中関係改善のための外交部門による戦略的な共同研究を進め、第三番目にやっと歴史問題と、こう出てきていたわけでありますが、その温家宝総理は、今回の反日デモが騒動に至るそういった段階において、正にそういった動きに火に油を注ぐような発言をしております。インド訪問中に、このような事態は日本に歴史への反省を強いると、良かったと、こういうことであります。今、こういう状況にあると。
まだ、私は、政権の中で今回の事態に対して統一された対応というのがまだ決まっていないのではないか。そうだとすると、二十二日、もうあしたでありますが、日中首脳の会談、どんなことになるのか、そこのところを非常に心配しているということであります。
あと残った時間、我が国の対応という点でありますが、私は出発点は謝罪、賠償、責任者処分、これはやはり要求せざるを得ないだろうと思いますが、しかし同時に、日中関係というのは両国にとっても重要であるのみならず、やはり東アジア地域全体にとっても極めて重要であると。そういった文脈、そういった観点が今回の問題に対する日本の対応にも生かされていくべきであろうと。そして、日本として、政府として反省すべき点というのはやっぱりあるなと思います。中国が言い募るような歴史問題について日本が正視せず、反省せず、何もしてないということはない、正にそういった点についてはきちんと反論すべきであろうが、しかしながら対中外交に、最近の日本の対中外交にその遠因があったことはやはり否定できませんねということであります。
やはり、その最大のものは残念ながら小泉総理の靖国神社参拝であります。参拝自体を問題にしているのではありません。参拝に対する説明不足が余りにも問題であると。中国も理解しているなんということは、この一連の事態を見ても分かるわけでありますが、こういった発言が正に問題であるということであります。なぜそんな発言が出てくるのかと。私は、これもちょっと言い過ぎかもしれませんが、小泉総理の中国に対する、東アジアに対する関心の不足と認識の不足と、それがあると言わざるを得ない。一言で言えば東アジア戦略の欠如、これが最大の問題であろうと。靖国神社参拝の問題も対中政策も、もし明確な東アジア外交戦略があれば、その中で説明していくことができるだろうと。
それを受けて、あと一分で最後に提案をさせていただきますが、第一点は、その意味で、今から、遅いかもしれないけれども、東アジア外交戦略をきちんとつくっていくべきだろう。そしてその中で、先ほど柳井大使の方からも御指摘があった東アジア共同体、こういったこともきちんと、経済だけでない共同体ということを位置付けていくべきだろうと思っております。東アジア共同体が遠い将来の目標であることはそのとおりでありますが、少なくとも東南アジア、東アジアにおいてはその機運が本格化している。そうであるとするならば、日本もまた、難しいとはいえ、やはりそういった流れにきちんとイニシアチブを取っていかなければいけないだろうと思っております。
二つ目は、やはりきちんとした歴史問題に対する反論、これをやる必要がある。現在の事態を見ていると、中国側の日本に対する非難、今の段階では国際社会は何を言うかと、こういう反応でありますが、やはり大きな声で言い募ればそれが事実になっていくと、私はそれを非常に恐れております。
三つ目は、やはり歴史問題に対する共同研究、これをやるべきだと思いますし、提案をし、中国も前向きであるというのは、私はこれは望外の喜びと、こういうふうに受け止めなければいけない。私は、とても中国はこんな歴史問題について共同研究、提案をしても受け入れるとは思っておりませんでした。その意味で、これ積極的に進めていくべきだと思っております。できればこの歴史問題の共同研究は、日中だけでなく、東南アジア、北東アジア、台湾、こういったところもひっくるめて包括的にやっていくべきなのではないかと思っております。
若干時間が過ぎました。私の発言はここで終わりたいと思います。