伊藤基隆の発言 (本会議)

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○伊藤基隆君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました郵政民営化関連六法案に対して質問をいたします。
 今、参議院は国民の大きな注目を集めております。日本が今、数多くの難問を抱え、国民が正に苦闘しているときに、国政の最優先課題を郵政民営化問題のみと位置付け、他の課題をほうり投げて平然としている小泉首相の行く末に国民の関心が集まっているのであります。
 本法案の提出をめぐっては、総理と与党の間で長時間の論争が行われてまいりましたが、衆議院を通過した段階で、その対立は何ら解決をしていないことが明白になりました。
 本法案は、国民生活に大きな影響を与える重要な法案です。民主党・新緑風会は、じっくりと論議を行い、問題点を明らかにし、本法案を断固として廃案に追い込んでいく決意であります。その結果、総理が国民の信を問うというのであれば、私たちは正々堂々、これを受けて立つ覚悟であることをまず冒頭に申し上げます。
 本法案は、前島密により日本に近代的な郵便制度が導入された明治以来、国が直接運営してきた郵便、郵便貯金、簡易保険の郵政三事業が、二年前の四月一日から国営の日本郵政公社によって担われるという大幅な制度改正が行われたにもかかわらず、わずか二年後にこの郵政三事業を民営化して、窓口、郵便、貯金、保険の四機能に分解し、六つの会社に切り分け、さらに十年後には郵便貯金銀行、郵便保険会社の株式を完全処分するなど、完全に民間会社の手にゆだねようというものであります。
 御承知のとおり、郵便局は全国津々浦々に二万四千七百局に及ぶネットワークを有し、都市部はもちろん、離島や山間へき地を含めた全国のどこでも、国民のだれもが利用することができます。毎日七千万通もの郵便物が確実に配達され、郵便貯金は便利な金融機関として日々の利用者は一千万件を数え、簡易保険は七千二百万件もの契約が、いざというときの備えとして庶民のささやかな暮らしに安心感を与えています。
 しかも、日本郵政公社は、民間出身の生田総裁の下で民間的経営手法を取り入れ、自律的、弾力的な経営を行う一方で、公的な任務を果たしながら黒字を計上しています。独立採算制の下、常勤職員二十六万人の人件費はもちろん、一円の税金も投入されることなく健全な経営が行われている郵政三事業は、国民から親しまれ、また国民生活に大きな貢献を行っていることは間違いありません。大方の評判は郵便局は良くなったと前向きで、日本郵政公社は確実に成果を上げつつあるように見えます。
 私には、日本郵政公社が発足後わずか二年目で、四年間の第一期中期経営計画の途中であるにもかかわらず、その結果も見ないうちに本法案を提出し、日本郵政公社を廃止しようとするのか理解できません。総理は、この間の生田総裁の努力と日本郵政公社の成果をどのように評価されているのでしょうか。
 小泉首相は、構造改革の本丸は郵政民営化と位置付け、異常なまでの執念を持ち、本法案の成立を最優先に今国会に臨んでおられることは十分に承知しておりますが、小泉内閣挙げての大キャンペーンにもかかわらず、郵政民営化問題が国民的な関心を集めているとは言えません。最近の各種世論調査の傾向は一致して、小泉内閣の取り組んでほしい課題として、多い順に、年金や医療の社会保障、景気対策、財政再建などを挙げ、郵政民営化と答える人の数は驚くほど低い数字しか出ていません。
 また、本院での郵政民営化法案の審議に関しては、今国会での成立にこだわらず議論を尽くすべきとの回答が、圧倒的に賛成論、反対論を上回っています。この国民の声に対する総理の見解をお聞きいたします。
 私は、第一に、国民は日本郵政公社に引き継がれた郵政三事業のサービスに満足し、おおむねこれを受け入れている現状であること、第二に、国民は小泉首相の進めようとしている郵政民営化については関心が薄く、その内容は理解されていない現状であるとの認識に立ち、以下、本法案の内容について伺います。
 第二次橋本内閣の下で設置された行政改革会議の最終報告に基づき、中央省庁等改革基本法が成立し、平成十三年より一府十二省庁制が採用され、今日に至っております。
 大蔵省が財務省と金融庁に分離され、建設省と運輸省が合併して国土交通省となる等の大幅な省庁再編の一環として、自治省、郵政省、総務庁の一部が新たに総務省となりました。郵政事業は国営の公社が担うこととなり、その際、中央省庁等改革基本法第三十三条一項六号で民営化等の見直しは行わないことと規定され、平成十五年の日本郵政公社の設立をもって一連の中央省庁改革は完成を見たのであります。
 今回の小泉内閣の郵政民営化関連六法案の提出は、これまでの流れと真っ向から対立するものです。国の機関の配置を変える必要があるというのなら、まず中央省庁等改革基本法を改正すべきであります。重大な欠陥を生じたわけでもないのに国の機関をいじくり回すのでは、朝令暮改のそしりを免れることはできません。なぜ、改革が行われて日が浅いにもかかわらず中央省庁改革の枠組みを変更しようとするのか、また、郵政事業を民営化しようというのであれば、中央省庁等改革基本法第三十三条一項六号の改正をなぜ国会に諮らないのか、その理由を御説明ください。
 次に、根本的な問題として、なぜ郵政事業の民営化が必要なのかについてお聞きします。
 総理はこれまで、官から民へ、民間でできることは民間でと短い言葉を繰り返してきました。また、随意契約の在り方が問題となった政府広報では、大量の郵貯・簡保資金が民間に流れる、コンビニのような郵便局になる、公務員が三割も減ると説明しています。しかし、これで日本じゅうの町と暮らしが元気になると言われても、国民の多くから理解が得られないのも無理のないところであります。
 まず、資金の流れに関してですが、日本の景気は一時期に比べて緩やかな回復をしつつも、いまだに明るい展望は描き切れておりません。長期間のゼロ金利にもかかわらず民間の資金需要は停滞しており、貸出し先不足のため民間金融機関も大量の国債を購入し続けている有様です。
 百四十兆円もの国債を保有している郵便貯金、簡易保険が民営化されたとしても、財政政策上、今後も国債の増発や借換えが必至と思われる中で、従来同様、郵貯・簡保資金による国債の大口引受けが期待されている状況は変わりありません。仮に、民営化によって、国債を自由に売却し、新規購入を停止する事態となれば、国債価格に悪影響を招くことになります。国債管理政策の上から、これを避けなければならないのは当然のことで、結局は、景気とともに民間の資金需要が回復し、同時に国債の発行額を減らせる経済情勢をつくり出さない限り、資金の流れを民間に変えることにならないのではありませんか。
 商業統計によれば、コンビニエンスストアとは、主として飲食料品を中心とした各種最寄り品をセルフサービス方式で小売する事業所で、売場面積が三十から二百五十平米、営業時間が十四時間以上の店舗とされています。一店舗で三千種類以上の商品を扱うフランチャイズ方式で、幾つものコンビニチェーンが競争でしのぎを削っていることは広く知られています。
 一方、切手、はがきや為替、貯金、保険を始めとした金融商品を扱い、個人情報の取扱いに細心の注意を払いながらワンストップ行政サービスを担っているのがごく普通の郵便局の姿であります。将来は乗車券やチケット類の販売など堅実に業務範囲を広げていこうという話なら理解できますが、郵政民営化準備室が作成した採算性に関する試算によると、二十四時間営業で民間業者並みの一店舗当たり販売額年間二億円を確保と皮算用しております。これが可能な立地条件の郵便局が全国に幾つあるのでしょうか。郵便局のコンビニ化とは、具体性の乏しく、余りにも現実離れした乱暴な説明なのではありませんか。
 日本郵政公社で現在二十六万二千人、非常勤職員を含めれば三十七万九千人が働いています。公社職員は国家公務員の身分ではありますが、郵政三事業の事業収入ですべての人件費は賄われており、税金は一円も使われておりません。したがって、郵政民営化が実現しても国の財政支出が減らないことは明らかです。しかし、政府は、郵政民営化で国家公務員の三割削減ができる、小さな政府が実現できるとの説明をいまだに繰り返しています。事実を誤って認識させるおそれがある説明を政府が行うべきではありません。
 なぜ郵政事業の民営化が必要なのか、正確な事実を国民に提供することがなければ、議論が深まることも、その是非が正当に判断されることもありません。これらの論点について、誠意ある答弁を求めるものであります。
 今回の郵政民営化をめぐる議論の中で国民が一番心配しているのは、郵便局がなくなるかもしれないという問題であります。郵便局は減らさないと公言されてきた総理も、衆議院の審議では都市部の郵便局の統廃合の可能性を認めています。
 また、民間企業の店舗となった過疎地の郵便局を将来にわたって閉鎖しないように設置基準や規則で縛ることが本当にできるのでしょうか。今後、人口減少が確実な中で過疎地ではより顕著な傾向が予想され、民間企業としては柔軟な店舗戦略を取るようになるのがごく自然の流れのように思われます。民間企業の発想ではなく、国民共有の財産としてのネットワーク維持の観点から郵便局の設置を考えるべきではないでしょうか。
 郵便局の多くでは、郵便、郵便貯金、簡易保険の三事業を効率的に提供することによって経営が成り立ってきました。本法案では、郵便局の営む業務は郵便窓口業務と印紙の販売のみであり、銀行業や生命保険業はあくまでも営むことができる業務とされています。郵便貯金銀行、郵便保険会社との安定的な代理店契約が終了すれば、郵便局で郵便貯金や簡易保険のサービスが提供される保証はなくなります。仮に、利益が上がらないという理由で安定的な代理店契約が打ち切られれば、郵便局ネットワークの崩壊に直結する事態となる危険性があるのではないでしょうか。
 地域貢献基金と社会貢献基金については、いまだにその内容が明らかではありません。特に、過疎地を中心に展開し、末端の郵便局ネットワークを支えている約五千局の簡易郵便局は、最も採算が悪く削減の可能性が高いと心配されています。しかし、基金の算出根拠、対象となる郵便局の数、場所、金額が分かっていません。どうして、これで郵便局はなくならないと言えるのでしょうか。本院における審議では、丁寧な答弁、資料提出を特に求めるものであります。
 現在、全国の郵便局数は二万四千六百七十八局であります。十年前は二万四千五百十七局で、ほぼ同じ水準で推移してきました。民営化されれば、市場競争の中で過疎地や地方の郵便局が閉鎖されるのではないかとの心配は全く薄らいでおりません。果たして、十年後、二十年後に現在と同じような郵便局のサービスが提供されるという保証はどこにあるのでしょうか。政府が民営化の成功例としているドイツでも、民営化によって郵便局数は三万局から一万二千局に減少した実例があります。多くの国民の不安にどのようにこたえられるのか、明確な答弁を求めるものであります。
 以上の指摘から明らかなように、この法案はごまかしと決め付けの甚だしい法案であります。官から民へというスローガンの下に、税金を使っていない郵政事業を民間の株式会社に変え、これまで国が国民に保証してきた貯金、保険のユニバーサルサービスを二年後の四月から廃止するものです。
 郵便局ネットワークを維持する仕組みをぶち壊しにしながら、国民からの批判を恐れて、これまでどおり大丈夫ですとごまかしの説明に終始しているのです。この法案では、郵便局ネットワークも貯金、保険のユニバーサルサービスも国からは一切保証されるものではありませんが、総理の認識を伺います。
 また、このように官から民へのスローガンの下で公的な仕組みを否定していくと、国民生活や財政を支える公的金融や地方財政を支える仕組み、中小企業や社会的弱者を励まし支援するような仕組みもいずれは否定されるのではないかと不安になります。この不安を増幅させている小泉首相の本法案をめぐる政治姿勢について伺います。
 本法案は、衆議院においてわずか五票差で可決されて本院に送付されました。過半数を大きく上回る議席を確保している与党の中から、三十七人の反対と十四人の欠席を出したショッキングな出来事が政治の潮目を変えたことは明らかです。
 直近の世論調査では、小泉内閣の支持率が軒並み低下しています。この原因の多くが本法案をめぐる総理の言動にあることは疑いありません。本法案の提出や衆議院の審議に当たって、総理本人あるいは与党幹部を通じて、直接間接に解散権行使の可能性について触れる発言を行ってきましたが、こうした強権的な政治手法が大きな反発を招いたとはお考えになりませんか。
 総理は、サミット会場となったグレンイーグルズから、本院審議の結果に介入するかのような発言を行ったと伝えられております。異例の経過をたどった本法案を、二院制の下で本院がより慎重に審議して結論を得なければならないのは当然のことであります。総理はこれまでの姿勢を改め、謙虚な気持ちで国民の声を代表する国会の議論に耳を傾けるべきではありませんか。
 本法案は、衆議院において修正の上、本院に送付されたものであります。すなわち、郵便局会社法案において郵便局の業務範囲について、日本郵政株式会社法案において社会・地域貢献基金について、郵政民営化法案において議決権の面での株式の連続的保有と民営化委員会の見直し規定について、そして政府原案作成の際の技術的な欠陥部分の補正であります。
 この政府原案修正に関し、総理は衆議院の委員会において、単なる字句の修正で、法案の中身は全く変わっていないと答弁されていますが、今もこの考えに変わりはありませんか。
 最後に、本法案は、郵政民営化論を政治的信念とする小泉首相の政治生命を賭したものであります。しかし、その内容は、政治課題の選択を誤り、地方議会の声を無視し、自民党内の意見を受け入れることなく、ごく少人数の手で作成され、強権的な手法で押し通そうとするものです。このため、本法案は大きな欠陥を持っています。最大の問題は、郵政事業の持つ公的な役割と民営化による自由経営という相反する課題について、長所と短所の調整が全く行われていないことです。また、政令、省令や経営判断への委任部分が余りにも多く、具体的な将来像が見えないことです。仮に本法案が成立すれば、郵政事業の現場に多大な混乱が持ち込まれ、取り返しの付かない結果となることは必至であります。
 私は、郵便貯金と簡易保険が廃止され、郵便局ネットワークが崩壊する一方で、新規事業による民業圧迫、個人資産の海外流出を招くような事態を最も心配するものであります。
 本法案は、慎重の上にも慎重に審議されるべきものであります。このことを、所属会派を問わず、本院の同僚議員の皆さんに訴えて、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

発言情報

speech_id: 116215254X03120050713_007

発言者: 伊藤基隆

speaker_id: 4563

日付: 2005-07-13

院: 参議院

会議名: 本会議