中山太郎の発言 (日本国憲法に関する調査特別委員会)

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○中山委員長 これより会議を開きます。
 日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件について調査を進めます。
 この際、欧州各国国民投票制度調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。
 初めに、私どもは、昨年の十一月七日から十九日まで、オーストリア、スロバキア、スイス、スペイン及びフランスの国民投票制度について調査をいたしてまいりました。
 この調査団は本特別委員会のメンバーをもって構成されたものでありますので、一昨日、議長に提出した報告書を、本日、委員各位の机上にも配付させていただくとともに、恒例によりまして、団長を務めさせていただきました私からその概要について口頭で御報告をし、委員各位の御参考に供したいと存じます。
 議員団の構成は、私を団長に、自由民主党から保岡興治君及び葉梨康弘君、また民主党から枝野幸男君及び古川元久君、公明党から高木陽介君、日本共産党から笠井亮君、社会民主党から辻元清美君がそれぞれ参加され、合計八名の議員をもって構成されました。なお、この議員団には、衆議院事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員のほか、二名の記者が同行いたしました。
 まず、第一の訪問国であるオーストリアでは、去る十一月八日、最初の訪問地であるウィーンにおいて、オーストリア国民議会のコール議長を表敬訪問の後、憲法裁判所のコリネック長官、内務省のフォーグル第三総局長らと懇談いたしました。
 以下、その概要について御報告いたしますと、まずコール議長との懇談で特に印象に残っているのは、コール議長が、ナチス・ドイツによる併合の際の不正常な政治状況のもとで行われた不正な国民投票などオーストリアにおける国民投票の歴史を振り返りながら、国民投票が民意の正確な発現方法として正常に機能するためには、まず国民投票の議題となっているテーマについて国民に対して正確な情報を提供し、これを理解してもらう努力をすることが何よりも重要であることを強調しておられた点です。
 その実践例として、一九九四年のEU加盟の是非を問うた国民投票が挙げられ、コール議長自身、このときは二年間にわたって、年金生活者、学生、医師、ロータリークラブ等に働きかけ、五百五十回もの関連行事を実施したとのことでした。他の議員たちも同様のことを実行したとのことですが、国民投票にかけられる議案の内容について、国会議員が率先して周知広報することの重要性を思い知らされた次第です。
 コリネック憲法裁判所長官からは、世界最古の憲法裁判所であるオーストリア憲法裁判所は、その権限の一つとして選挙や国民投票に係る審査権限を有していること、しかし国民投票に際してのメディアの行動に関する規制の是非などについては、言論の自由や報道の自由があるので、憲法裁判所といえどもこれをコントロールすることはできない、その意味において憲法裁判所は手続上の公正さのみを確保するものである等について説明を受けました。
 続いて、内務省のフォーグル局長ら四人の専門家との懇談におきまして、オーストリアには直接民主制の制度として国民投票のほか国民諮問、国民請願という三つの制度がありますが、国民投票は戦後になってからはわずか二回行われただけである、最近新設された国民諮問はその実施例はなく、また国民の評価が高いとされる国民請願もなかなか法律制定にまでは結びついていないのが現状であるとの説明を伺いました。
 冒頭のコール議長の懇談も踏まえた上で考えますと、国民投票を含む直接民主制の制度は、重要であるけれども、議会民主制のもとにおいては劇薬であって、その発動に当たってはかなり慎重さが必要であるという実態をかいま見た気がいたしました。
 スロバキアであります。
 翌十一月九日に訪れたスロバキアのブラチスラバにおける話し合いでは、スロバキア国会の憲法及び法務委員会のドゥルゴネツ委員長、大統領府のチーチ長官らと懇談するとともに、クカン外務大臣を表敬訪問いたしました。
 以下、その概要について御報告をいたしますと、まず、憲法及び法務委員会のドゥルゴネツ委員長らとの懇談では、欧州憲法条約を国民投票に付さずに国会の議決だけで批准したことについて憲法裁判所に異議が申し立てられたことが話題となりましたが、興味深かったのは、スロバキアでは、憲法改正それ自体については国民投票が要件とされていないばかりでなく、逆に基本的権利及び自由は国民投票の対象とすることはできないということが規定されている点でございました。
 この理由について、次に訪問しました、前の憲法裁判所長官でありスロバキアの現行憲法の起草者の一人でもあるチーチ大統領府長官が次のように述べておられたことが強く印象に残っております。
 すなわち、国民投票の対象とならない事項というのは、法的な問題というよりも人間のエチケットや倫理により近いものであり、欧州や国連の中で生きていくためのスタンダードとなっているものだ、我が国の国民は何がそのようなものに当たるのか十分には理解していないので、これを国民投票により変えるなどということは考えられないということでした。
 続いて、スイスのチューリッヒに入り、まず十一月十日にノイエ・チュルヒャー新聞社のアシュバンデン編集委員、スイス国営放送局のハルディマン編集長、スイス国営放送の国際部門であるスイス・インフォに記者として勤務しておられる佐藤夕美氏と懇談いたしました。
 また、翌十一日にはベルンに移動し、司法警察省のマーダー法務部次長らと懇談した後、内閣府のフーバー・ホッツ長官を表敬訪問し、さらにベルン大学においてリンダー教授と懇談するなど、精力的な調査活動を行いました。
 以下、その概要について御報告をいたしますと、まずアシュバンデン編集委員ですが、ノイエ・チュルヒャー新聞社の日曜版の編集委員であるアシュバンデン氏との懇談において、同氏は、スイスの直接民主制の中でメディアは非常に重要な役割を担っており、報道に関しての政府による規制は何もないと述べた上で、年四回ほど行われる国民投票について、メディアは国民投票に至る過程から投票テーマの分析、評価まで逐一報道し、投票期日の一週間ほど前には社説で賛成か反対かの意見を明らかにすると説明されました。また、スイスにおいては、テレビ、ラジオにおける政治的な広告は完全に禁止されていますが、新聞においてはそのような規制はないとのことでした。
 質疑応答の中で、虚偽報道等への対処に関しては社内におけるチェックのほかにメディア代表による自主組織による救済手段があること、報道機関への圧力や買収については自分の知る限りそのようなことはないといった説明を伺いました。
 なお、そのやりとりの中で同氏が示された、新聞各紙の自由な報道こそが全体として正しい情報を国民に提供することになるというマスコミ人としての認識は印象的でした。
 スイス国営放送局のハルディマン編集長との懇談において、同氏は、スイス憲法においてテレビ局やラジオ局は政治的に中立でなければならないことが定められていることを受けて、スイス国営放送局は中立公平な放送機関としてどの政党の影響も受けない独立した組織として運営されていることを力説されました。
 質疑応答の中で、そのような放送局の公正中立性と権力をチェックするジャーナリズムの使命との関係はどう考えているかとの質問に対し、ハルディマン編集長は、憲法は放送局の中立性と同時に、その自治、自律性を強く保障している、したがって、特定の事案なり事象について多様な観点から視聴者に情報を提供することによってジャーナリズムが果たすべきチェック機能を十分果たしていると考えている旨述べられました。
 民間放送がほとんどなく、いわばガリバーのような国営放送局の影響力が図抜けているスイスの放送事情を考えるとき、このような国営放送局の中立性及び独立性に対するハルディマン編集長の強い自負心については、むべなるかなと感じた次第であります。
 スイス・インフォの記者である佐藤夕美氏とのワーキングディナーにおいては、和やかな雰囲気の中で、歴史的にも、また経済的理由からも、スイスにおいては国営放送局の存在が大きいことや、民族や言語で国民を統合することの困難なスイスにおいて国民投票制度が頻繁に、しかも生活に密着したテーマで行われていることにより国民統合の作用を果たしていると考えられることなど、現地に住む日本人ならではの観点から有益な指摘をちょうだいすることができ、これを話題に活発な意見交換が行われました。
 司法警察省のマーダー次長との懇談においては、スイスではテレビ、ラジオなどの放送メディアが新聞などの印刷メディアよりも厳しい規制に服している点が議論されました。
 マーダー次長は、その理由について、第一に、同国では歴史的に印刷メディアが国民の政治的意見の醸成の重要な担い手となってきたこと、第二に、印刷メディアの方が放送メディアに比べて格段に安い費用で大きな影響を与えることができること、第三に、印刷メディアは民間経営で多種多様であるのに対して放送メディアは最近まで国営放送局だけだったことを指摘されました。
 しかし、メディアの区別なく平等に取り扱われるべきものであるという意見もあり、放送メディアの規制を緩和する動きもあるようであります。
 なお、質疑応答の中で、次のような興味深いやりとりがありました。
 それは、郵便投票制度における不正防止措置に関する応答の中で、先方の不正防止措置の具体的な説明に対して、当方が本当にその程度の方法で不正が防止できるのかと再度質問しましたところ、マーダー次長は、確かに御指摘のとおり論理的には不正投票が発生する可能性はあるかもしれない、しかし、それでも我が国では大きな不正は存在しないと考えている、それは政府の不正防止措置がすぐれているからではなくスイスの政治的文化によるものだと述べられたことです。
 すべての制度の根底にはそれぞれの国の政治文化や社会的背景が横たわっていることを改めて認識すると同時に、そのような諸条件が異なっている場合には、それを踏まえた制度設計をする必要があることも改めて痛感した次第であります。
 フーバー・ホッツ内閣府長官との懇談では、物腰穏やかな長官が自信たっぷりに、スイスでは民主主義は我々が発見したものだという自負心がある、皆さんはこれまでの調査の中でスイスが民主主義をつくったのではなくスイスそのものが民主主義なのだということを理解されたことと思う、それは直接民主制がスイス国家の存立基盤であることの証左であり、また徴兵制のような制度もこの直接民主制に深く根差したものであると述べられたことが印象的でした。
 その後、ベルン大学のリンダー教授を訪問して、スイスの直接民主制の制度についてデータ分析の観点から説明を受けました。
 その質疑応答の中で、当方から、マスコミによる虚偽報道等から国民投票運動の公正さを保つための規制の必要性について伺いましたところ、リンダー教授は、何が真実で何が虚偽であるかを判断することの困難さを指摘した上で、結局は真実性の判定は有権者である国民一人一人の理性にゆだねるしかないのではないかと述べられました。言論の自由市場における討論こそ民主主義社会の基盤であるとの教授の主張に、改めて感銘を覚えた次第です。
 スイスにおける充実した調査を終えた後、私どもはスペインのマドリッドに入り、十一月十四日に政治憲法研究所のフンコ所長、スペイン国会下院のバレーロ第三書記、日本・スペイン財団の理事長であるガリーゲス法律事務所長らとの懇談を行いました。また、翌十五日にはスペイン国会下院憲法委員会のゲラ委員長と懇談をいたしました。
 以下、その概要について申し上げますと、まず、政治憲法研究所におけるフンコ所長らとの懇談において特に私どもの興味を引いたのは、国民投票運動における政府の中立性でした。スペインでは、政府の行う広報活動は中立的なものでなければならず、投票率を上げるための広報活動しか認められないこと、したがって、例えば与党の党首である首相が公の場所で賛成のキャンペーンをするのは、首相としてではなくあくまでも政党の党首として、かつ政党の資金で行わなければならないということでありました。
 なお、懇談の最後に、私が、これから国民投票法制を構築しようとする我々に対して何か有益な御助言がありますかと尋ねましたところ、全国民に特定の政策の是非を訴える国民投票においては、そこに至る前段階で異なる政党間の合意が不可欠である、この議会における合意形成のプロセスこそが最も大事であるとの答えが返ってきたことが強く印象に残っております。
 下院のバレーロ第三書記らとの懇談においては、レオノール王女誕生に伴う王位継承順位変更のための憲法改正が話題となりました。その中で、仮に王位継承権に関する国民投票が行われた場合に重要なことは、結果的に賛成が反対を上回ればよいということではなく、高い投票率のもとで、かつ賛成が反対を圧倒的に上回ることが必要である、そうでないと王制に対する信頼を揺るがせ、王制の権威の問題になってしまうと述べられた点は、洋の東西を超えて深い共感を覚えた次第であります。
 次に、職員千五百人を擁するヨーロッパ最大の法律事務所であるガリーゲス法律事務所を訪ね、ガリーゲス所長らと懇談をいたしました。
 日本・スペイン財団理事長でもあるガリーゲス氏とは旧知の仲でありましたので、そこでの話題は国民投票制度に限らず我が国の憲法論議の状況などにも及びましたが、その懇談の中で、民主主義の社会というのはすべての国民が一致している社会というものではなく、国民の中で意見の不一致がありながらもお互いが共存する社会であると理解しているとのガリーゲス所長の言葉には、大いにうなずかされたところであります。
 スペイン最後の訪問先となったゲラ委員長は、ゴンサレス社会労働党政権において長らく副首相を務めた政界の重鎮であり、現行の一九七八年憲法の起草者の一人でもあります。
 この懇談の中で、ゲラ委員長は、スペインでは二世紀もの間、政権をとった勢力がすぐに自分たちに都合のいいように憲法を改正してきた歴史に触れつつ、現行憲法が政権交代によっても容易に変更されない硬性憲法とすることができたのは、意見の異なる政党間の大いなる合意によるものであると指摘されました。
 その上で、政治家としての哲学として、各政党間でしっかりとした合意をしておく必要がある事項が三つある、それは第一に国家の基本法たる憲法、第二に国会議員の選出方法を決める選挙法、第三にテロリズムに対する闘いであるとの意見が開陳されたことには、その深い洞察力に感銘を受けた次第であります。
 最後の訪問国フランスにおいては、十一月十六日、国民議会のウィヨン法務委員長らと懇談するとともに、その懇談の場所においでいただいたカンタン仏日友好議員連盟会長から友好のごあいさつをちょうだいし、次いで、元憲法院総裁で現在アラブ世界研究所長をされているゲナ氏と懇談いたしました。また、翌十七日には憲法院のギエンシュミット委員と懇談をいたしました。
 以下、その概要について申し上げますと、まず、ウィヨン国民議会法務委員長らとの懇談では、フランスにおける国民投票運動規制は公的助成を受けてキャンペーンを行う政治団体に関するものであり、それ以外の団体、個人の活動は全く自由であること、またテレビ、ラジオにおいて各政治団体や政治団体に属さない個人の意見を公平に取り扱うことについてはオーディオビジュアル高等評議会という機関が監視をしていることなど、国民投票運動の規制のあり方を中心とした話題をめぐっての質疑応答が行われました。
 次にお会いしたアラブ世界研究所のゲナ所長は、五年前に欧州各国憲法調査議員団として憲法院を訪れました際には憲法院総裁としてのお立場で応接していただいた方ですが、八十三歳となった現在もお元気で御活躍の様子でありました。ゲナ所長からは、先ほども出ましたオーディオビジュアル高等評議会の活動も最終的には憲法院が監視していること、二、フランスにおいて投票権者が十八歳以上となったのは民事上の成人年齢の引き下げに伴うものであったことなどの説明を伺いました。
 最後に、憲法院のギエンシュミット委員との懇談では、国民投票に関する異議申し立ての審査の実態が話題となりました。というのは、議員団出発前の事前の文献調査で、国民投票の効力に関する異議の申し立てについての憲法院の審査は投票日の翌日から三日間で行わなければならないとの情報に接していたわけですが、ギエンシュミット委員に本当に三日間で審査できるのかと確認いたしましたところ、それは欧州憲法条約についての国民投票のときがたまたま三日間で終了しただけであって、異議申し立てが一件もなければその日のうちに結果が確定できるし、逆に膨大な異議申し立てが行われた場合には何カ月もかかることがあるとの回答が返ってきました。
 つまり、事前に読んでいた文献は単なる事実をあたかも法規範であるかのように紹介していたわけで、海外の制度を生半可に聞きかじることの危うさを調査の最後で思い知らされることになりました。
 以上のように極めて多忙な日程でございましたが、私ども議員団は無事にこれを消化し、十一月十九日、帰国いたしました。振り返りますと本当に駆け足で回ってきた今回の調査でありましたが、私は、この議員団に多くの会派から御参加をいただきましたことに改めて感謝の念を表したいと思います。
 そして、その政治的な立場、評価は別として、欧州各国における国民投票制度の実情について派遣議員の先生方の間に共通の認識が形成されたものと確信をいたします。この共通認識をここで委員各位とともに共有しながら、今後の調査がより建設的なものとなっていくことを切望するばかりであります。
 なお、以上の私の報告の足らざるところは、後ほど各派遣議員からの御発言で補充していただければと存じます。
 最後に、今回の調査に当たり、種々御協力をいただきました各位に心からお礼を申し上げたいと思います。特に、駐日欧州委員会代表部のベルンハルド・ツェプター大使閣下には、昨年に引き続き、訪問先のアレンジを含めて大変な御尽力をいただきました。改めて厚くお礼を申し上げたいと存じます。
 以上、このたびの海外調査の概要を御報告させていただきました。ありがとうございました。(拍手)
 引き続きまして、調査に参加された委員から海外派遣報告に関連しての発言をそれぞれ十分以内でお願いいたします。
 発言時間の経過につきましては、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。
 それでは、まず、保岡興治君。

発言情報

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発言者: 中山太郎

speaker_id: 15557

日付: 2006-02-23

院: 衆議院

会議名: 日本国憲法に関する調査特別委員会