植野大作の発言 (予算委員会公聴会)

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○植野公述人 ただいま御指名いただきました野村證券の植野と申します。本日は、このようなところにお招きいただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、現在、弊社金融経済研究所におきまして、内外の経済金融情勢をもとに、為替相場及び国際資本移動に関する調査、分析、予測に携わっております。平たい言葉で言ってしまえば、あなたは為替レートの予測をやりなさいということで、恐らく世の中で一番当てるのが困難な仕事だと思いますが、それを仰せつかって、ここ八年ばかり、野村グループの中で為替の調査について責任を持ってやっているものでございます。
 したがいまして、私、本日は、そういう立場にございますので、我が国が現在取り組んでいる財政再建、これを進めていく上で、必要不可欠あるいはチェックしていかざるを得ない環境として注目されております日本経済の現状と為替変動のリスクについて、私どもの見解をお話しさせていただきたいと思います。
 まず、日本経済に関しましては、御用意いたしました資料の表紙をめくっていただきまして、一ページ目をごらんになっていただけますでしょうか。
 結論から最初に申し上げますと、現在は、マクロ経済全体としては、比較的順調な回復、拡大過程にあるというふうに考えてございます。一ページ目の左に載せてございます二〇〇五年から二〇〇七年度の日本経済見通し、こちらが二月二十二日に私どもが公表いたしました経済見通しでございます。
 ポイントは大きく分けて三つございまして、一番最初は、上の水色のラインのところをごらんになっていただきたいんですけれども、民間内需主導で、日本経済は回復持続の蓋然性が非常に高くなってきているということでございます。
 私どもの予測に基づきますと、二〇〇五年度は三・三%成長、それから二〇〇六年度は三・一、二〇〇七年度は二・六ということで、比較的安定的なプラス成長を実質ベースで確保すると考えております。
 うち、その下の緑のところに赤い丸で囲ってあるところ、こちらがその成長率のうちどれぐらいが民間内需によるものかというものでございますが、民間内需主導という特徴が極めて鮮明になっております。すなわち、二〇〇五年度は三・三%成長のうち二・七%は民間の内需によるもの、二〇〇六年度は三・一のうち三・二というのが内需によるもの、それから、二〇〇七年度についても二・六のうち二・八ということになりますので、基本的には、二〇〇五年度、二〇〇六年度ともに三%台の成長を見込みつつ、民間内需主導でこういった成長が達成されるということが予想されております。
 すなわち、近年の景気回復の特徴としては、九〇年代、いわゆる失われた十年の特徴でよく言われているように、外需、つまり輸出ですとかあるいは公共投資、これに頼った成長というよりは、民間の活力を背景とした経済成長ということを見込むということですね。
 ポイントの二番目は、こういった環境の中で、長らく日本経済を悩ませていた宿痾と考えられていたデフレ、これも徐々に克服され始めているということですね。表の中では黄色い部分になりますけれども、赤い丸をつけてあるところが消費者物価の中から変動の激しい生鮮食品を除いたものでございますが、おおむね、グラフで御確認いただいてわかりますように、小幅ながらもプラスの伸び率に転じてくるというふうに考えております。したがって、今年度以降、徐々に日本経済はデフレからも脱却ということが見えてきていると考えております。
 この結果、現在のような景気拡大が続けば、恐らくことしの十一月には、戦後最長の景気拡大記録として現在残っております、五十七カ月続きました一九六〇年代のいざなぎ景気、これを上回って、戦後最長の景気拡大ということになるかと思います。
 したがいまして、今回の景気回復の特徴を三つのキーワードで示すとすれば、一つは民間内需主導、二番目はデフレ克服元年、それから三番目は戦後最長の景気拡大、こういったところになるかと思います。
 もちろん、経済は生き物でございまして、日々変動している内外の金融環境や政策変化によってさまざまな影響を受けます。その中には、よい影響を及ぼすものもあれば悪い影響を及ぼすものもあると思いますが、我々が注視すべきはやはり悪い影響を及ぼすもの、すなわちリスクだと思います。
 その中で、日ごろ為替相場を見ている私の立場としては、やはり気になるリスクは為替円高のリスクになると思います。先ほど田中先生も御指摘しておられましたが、なぜなら、このように日本経済に対する内外の評価が高まったり成長率が高まりやすい局面においては、円に対する評価も高まって、結果として円高になる可能性があるからです。この円高も、行き過ぎますと、企業収益を圧迫し、デフレ圧力を発生する源となりますので、この点には注意が必要、過去何度も我々が経験してきたことだと思います。
 この点について次にお話ししていきたいんですが、ページをまためくっていただきまして、二ページ目をごらんになっていただけますでしょうか。
 ただし、結論から申しますと、私は、日本経済を再び奈落の底に突き落とすような強烈な円高というのは起きにくいのではないかというふうに思っております。もちろん、数カ月、半年あるいは一年単位等で見れば、時々の循環的な要素によってある程度の円高、ある程度の円安という振れが起きる可能性はありますけれども、ここで私が強調しておきたいのは、非常に長い長期的な視野で見れば、ドル・円相場の変動は過去に比べて抑制され始めていると考えられるからです。
 二ページ目の左側のグラフをごらんになってください。こちらは、ドル・円三百六十円から出発した一九七〇年代以降、過去三十七年間ぐらいのドル・円相場の動きでございます。グラフはドル・円相場でございまして、上に行きますと、これは目盛りを逆にしておりますので、円高というものですね。
 こちら、ごらんになっていただいてわかりますように、例えば、十年単位でドル・円相場の変動をごらんになっていただきますと、一九七〇年代は、三百六十円が安値、高値が百七十五円五十銭ということですから、値幅は、赤いところに書いてございますが、百八十四円五十銭もあったわけですね。その間、変動率六五%近く。八〇年代は、これが少し縮小してまいりまして、値幅に直しますと百五十八円五銭、変動率約八〇%。九〇年代は、さらにこれが一段と縮小いたしまして、安値百六十円ぐらいから高値七十九円七十五銭ということで、八〇年代の約半分、変動率にしても六九%ぐらい。
 今世紀に入って、この傾向がさらに一段と縮小いたしまして、値幅は、二〇〇〇年代に入って、今のところわずか三十三円六十四銭、変動率にいたしましても約三〇%弱という形で、一九七〇年代初頭の変動相場制への移行後、各年代におけるドル・円相場の変動幅と変動率は、一貫して抑制される傾向にある。かつ、今世紀に入って、ドル・円相場、下値はまだ切り上がっているように見えるんですが、高値がようやく切り下がってきたようにも見えるということで、世界最強通貨円という状況が徐々に終わりを迎えつつあるのかなというような傾向すら見えるということですね。
 この原因は一体何であろうかということが非常に重要になってくるわけですが、考えられる理由としては三つぐらいあると思います。
 一つは、変動相場制移行後三十数年を経て、日米経済の格差がかなり縮小してきたということだと思うんですね。すなわち、変動相場制に移行した当初というのは、日本はまだ高度成長期から安定成長期に入る手前でございまして、世界の先進国を圧倒的に凌駕する高い成長ポテンシャルを持っていたわけですけれども、現在、人口の減少とともに徐々に日本の潜在成長率なるものは下がってきておりまして、その他の先進国に比べて圧倒的に日本が高い成長を遂げるというような状況ではなくなってきている。格差が縮小すれば、それの表現の場である為替の変動も縮小してくるんじゃないかということですね。
 それと、もう一つ言えますのは、この変動相場制移行の初期段階というのは、ドル・円三百六十円からスタートした当初というのは、恐らく当時のドル・円相場というのは、今の中国人民元のように、のっけからすごくプライスのミスマッチというのがあったと思うんですね。つまり、当時の日本は、世界的に見ても非常に競争力のある製造業を抱えていながら、黒字も稼ぐ、しかしながら、輸出産業が為替固定相場の中で保護されていたわけですね。ほとんど今の中国と似たようなところ。
 したがって、変動相場制に入った用意ドンの初期の段階というのは、当初から本当にもう埋めていかなきゃいけない価格のミスマッチというのがあった。それを埋めていくためには、十分な値幅も必要であったし、かつ相場は円高傾向である必要があったと思うんですが、三十数年も変動相場をやっていくと、初期に発生していた大幅なミスマッチというのは徐々に解消されているのではないかということですね。これが一番目です。
 それから、二番目は、経済金融統計の整備と拡大によって正しい情報がマーケットに伝えられるようになった結果、過剰な、間違った価格のつけ方というのが起きにくくなってきているんじゃないか、あるいは規制緩和によって市場参加者の厚みが増してきている、こういったことが変動を抑制しているのではないかというようなことも言われております。
 それから、最近の、今世紀に入ってというところで私が大きいと思っておりますのは、情報技術革新による情報の共有化ですね。
 すなわち、これまでは多分、内外の投資家、海外の投資家と国内の投資家は、持っている情報に相当な格差が時間的に見ても内容的に見てもございました。しかしながら、現在は、インターネット取引等の普及によって、例えばアメリカの金融政策の情報などについても、英語さえ読めれば、夜更かしする覚悟があれば、ほとんど海外の投資家とリアルタイムで我々は情報を入手することができるというような状況になってきております。
 したがいまして、内外の投資家の情報格差が埋まる。あるいは、インターネット取引が普及すれば、各官公庁が発表しているさまざまな経済データあるいは詳しい内容についても、アマチュアの投資家だって、すぐにプロと同じ時期に見ることができるわけですね。恐らく、価格の変動というものが、いわゆるいい情報を持っている人といい情報を持っていない人の差によって発生しやすいというふうに考えれば、それがなくなることがこういった過度の変動の抑制に寄与しているという面もあると思います。
 それから三番目には、過去の試行錯誤を経て、日米ともに金融政策が市場との対話を重視し、時宜を得た運営のあり方を模索されてきたということで、マーケットを驚かす、つまりびっくりさせるような政策の変更というのが、過去に比べると総体的には起きにくくなってきているというようなことも背景としてはあろうかと思います。
 いずれにいたしましても、ドル・円相場は昔に比べると派手な変動が抑制される傾向にございますので、今後、数年単位で恐らく円高、円安への循環というものは起き得ると思いますが、昔のように、一たん円高になってしまうともう二度と返ってこないような非常に強烈な円高、あるいは日本経済の体力を急速に奪ってしまうような過度な円高というのは、現局面においては私は起きにくいのではないかというふうに考えております。
 経済の環境が民需主導で比較的よい状況にあるということも踏まえて考えますと、現局面というのは、我が国が長く取り組んでまいりました財政再建、これに取り組むべき絶好の機会が訪れているのではないか、このように考えております。
 以上でございます。(拍手)

発言情報

speech_id: 116405262X00120060224_006

発言者: 植野大作

speaker_id: 2919

日付: 2006-02-24

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会