水野和夫の発言 (経済・産業・雇用に関する調査会)

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○参考人(水野和夫君) 水野です。どうぞよろしくお願いいたします。(資料映写)
 それでは、お手元の資料に基づきまして、最初に私から経済及び所得格差問題というテーマについて御報告させていただきたいと思います。
 本日申し上げたいことは、お手元の資料の表紙の、一番、二番、三番と示してありますが、主に二番のグローバル化と格差拡大、このところを中心に御紹介申し上げたいと思います。二番のところに四つほど、四行ほど示してありますが、こういった格差が今生じているんじゃないかなと思いますので、それを具体的に御報告申し上げたいと思います。
 それでは、最初に一ページ目をごらんいただきたいと思いますが、今起きております問題というのはおよそ九〇年代半ばから少しずつ、格差もそうだと思いますし、それからその他のいろんな経済の構造変化というのは九五年前後から、今までと大きく違って表面化してきているだろうと思います。特にこの一ページ目の三つ、①番、②番、③番と示してありますが、これはイギリスのスーザン・ストレンジという国際政治学者の方が、九六年の段階で既に二十一世紀の、二十一世紀というのはこういう三つの問題が起きるだろうというふうにおっしゃっていました。その後ちょうど十年たって振り返ってみますと、正にこの三つの問題で、特に②番のところに示してありますが、雇用あるいは所得、そういった問題が非常に顕在化してきているということだと思います。この問題は、したがいまして、二〇〇〇年とかから急に生じたわけではなくて、九五年からの問題だというふうに考えております。
 で、その九五年というのは何があったかといいますと、グローバル化が進展し、そして同時にIT革命が起きたということだと思いますので、かなり構造的な変化によって格差問題が表面化しているというふうに考えています。
 二ページ目になりますけれども、それでは具体的な変化というのはどういうことかということですが、IT革命とグローバル化というのが九〇年代半ばから非常に強まってきたと思います。その結果、経済的には、今まで格差というのは先進国と途上国の間の格差問題、豊かな先進国と貧しい途上国ということだったと思いますが、経済的な国境がかなり低くなりまして、この右上の二重の四角で囲ってありますような、日本や先進国の製造業が途上国の近代化と一緒になって成長するようなメカニズムが生じたと思います。
 今の日本の製造業というのは、一九六〇年代の高度成長、日本の高度成長のときとほとんど変わらないような成長率になってきております。高度成長が復活しているセクターが日本に存在するということでありますし、一方、中国やアメリカの非常に高い成長率に基本的には連動することが難しい非製造業というのは、九〇年からもう既に十五年たってほとんどゼロ成長が続いております。これだけ長期にわたってゼロ成長が続いたというのは、ほとんど例を見ないという現象であります。日本だけではなくて、諸外国におきましても、十年以上にわたって低迷するというのは非常にまれな、一世紀に一回起きるかどうかというような非常に珍しい現象であります。
 九五年以降の特徴がこの下半分のところに示してありますが、グローバル化とIT革命の背後にある問題だと思いますが、先進国の投資に対するリターンが非常に低くなってきたというのが九五年以降から見られるようになりました。したがいまして、投資機会を極力途上国に求めるという動きが先進国で起きたと思います。いわゆる海外生産比率を上げたり、海外での直接投資を行うということだと思います。
 そうなりますと、②番のところに書いてありますように、今までは、いろんな指標がいったん上がれば、再び一つの景気循環、おおむね四年のサイクルの間にはまた元に戻るという現象が起きていたんですが、最近、九五年以降、いろんな指標がずっと上がり続けるという現象が起きるようになりました。
 例えば、その具体的な例がここに示してありますが、アメリカの個人消費の対GDP比率が上昇基調、もう十年近く上昇し続けております。中国の設備投資も、これもまた十年近く上昇し続けております。これはGDPの内訳項目ですから、普通は一つの景気循環の中で上がったり下がったりしてまた元の水準に戻るという傾向があるんですけれども、全くそういう傾向が見られなくなりました。日本の輸出もほとんど同じであります。
 さらに、今の景気回復というのは、企業収益、あんまり雇用者所得が増えませんので、景気がいいか悪いかは企業収益に表れるようになりました。その企業収益も、すべての企業収益で好調であるわけではありません。とりわけ大企業、製造業の利益がシェアをどんどん高めている、そういう現象があります。
 それから、原油価格も同じでありまして、今までは、期近物の値段が五十ドル、六十ドル、あるいは二十ドルから四十ドルへ上がっていくというときも、七年先物の値段は常に二十ドルで安定していましたが、二〇〇〇年以降、七年物、七年先の原油先物価格が、七十ドルと書いてありますが、済みません、これ今六十四ドルでありますけれども、非常に高い水準で、全く元の二十ドルの水準に戻らない、そういうような現象が起きております。
 そう考えますと、今の格差拡大という問題も、なかなか自然に元に戻る力というのは備わっていないんじゃないかなというふうに思います。何らかの政策的な手段をしませんと、ますます広がっていくだろうというふうに言えると思います。
 三ページ目は、今の製造業の現状と非製造業の現状を示したものであります。
 二つの折れ線が示してありますが、こちらの青い線の方ですね、青い線はおおむね製造業、これはIT産業と自動車産業と鉄鋼産業、主に中国の近代化やアメリカの消費ブームと連動性が高いところの産業を抜き出しました。もう九五年から十年間にわたって年率八%を超える高度成長です。この右側のグラフを見ていただきますと、一九五六年から七三年の日本の九%の成長率ともうほとんど現在でも変わらないという、非常に調子がいいという状況になっております。
 一方、こちらのほとんど水平状況、一人当たりGDPが水平になっている、これが非製造業でありまして、これが十五年間にわたって長期低迷という状況になっております。
 次に、このグローバル化によって格差がどのような形で生じているかということでありますが、最初に、企業利益と雇用者所得がかなり明暗を分けるようになってきました。通常、景気回復といえば、雇用と企業利益両方が増えるということが景気回復の意味だったと思いますが、最近の、二〇〇二年からのこの四年間、もうすぐイザナギ景気を超えるであろうと言われる景気回復におきまして、雇用者報酬はマイナスであります。実質GDPは二・三%成長。特に九〇年代以降、そんなにGDP成長率が悪いわけではありません。
 雇用者所得がマイナスでありますけれども、景気が回復してもマイナスでありますが、すべてのセクター、企業のセクターで雇用者所得がマイナスであるわけではありません。プラスになっているのがこの右下のテーブルの大企業・製造業であります。右側二つの数字を見ていただきますと、上から二番目ですが、二〇〇二年以降、現在の四年間経過した景気回復におきまして、年率でプラス〇・九%。あとずっと下見ていただきますと、全部マイナスであります。それからもう一つ前の景気、二つの景気循環、八年間で計算しますと、大企業・製造業はプラス一%。やはりそれ以外のセクターでは全部マイナスです。
 法人企業統計で雇用者というのは四千五百万人対象にしておりますが、大企業・製造業に従事する人々は六・七%でありますから、六・七%の人たちは所得が、一人当たりの所得が増えて、それ以外の約九三%のところでは八年間にわたって所得が減少しているという傾向が続いております。
 次に、大企業と、それから中小企業の雇用者所得が増えてないというふうに御紹介しましたが、これは利益が増えておりません。特に一番右側のテーブルの個人企業ですね、混合所得と書いてありますところを見ますと、九九年から現在、二〇〇四年にかけまして三〇%も減少しております。そうしますと、こういった個人企業のところでは利益が三割も減少しているわけでありますから、なかなかそこで働く従業員の方に所得を上げるということは難しいということが起きているんだろうと思います。
 で、大企業・製造業への利益の集中度合いを示したものがこのグラフであります。ピンクの太い線、赤い線が、やはり九八年からトレンドが変わりました。全企業部門の中に占める大企業・製造業のウエートがずっと上昇しております。今までは上がれば下がるという一つの景気循環の中で一定の平均値を維持してたんですが、二回の景気循環を経ましてもずっと上がり続けているという状況になっております。いかに今回の景気回復が海外との連動性が高いかということを示していると思います。
 次に、もう一つの格差でありますが、都会と地方でありますが、これの今一番好調なのは東海地区であります。東海地区の工業生産の上昇率が一番高いです。そこで、全国平均の鉱工業生産と東海地区の鉱工業生産の比率を分子、分母に取って計算しましたのがこの赤い、ピンクのラインであります。やはり二〇〇〇年からずっとこの比率が上昇しています。全国平均を上回って東海地区の生産が増えます。反対側に北海道はずっと減少です。今までは一定の範囲で上がったり下がったりするといういわゆる回帰性がありましたけれども、二〇〇〇年以降からそれがなくなってしまいました。
 ある地域が好調だとそれが日本全体に波及するかどうかを見たものが右側のグラフでありますが、〇四年の夏以降、これは踊り場になって、去年の、〇五年の六月から踊り場脱却して景気が回復しているというサイクルで取ってみますと、鉱工業生産全体で一%増えましても、ある地域はマイナス〇・一%になる可能性が出てきました。この上限と下限がどんどん広がってきているということは、全国の鉱工業生産指数はこの青い棒グラフで、ほとんど九〇年代、どの景気回復期におきましても四%から六%ぐらい生産は回復するんですけれども、非常に散らばりが大きくなってきている。で、マイナスになりましたから、ある地域が好調だとそれが全体に波及するという可能性がなくなりつつあるということだと思います。
 どういう地域にそういう特徴が現れているかということですが、この七ページ目のグラフを見ていただきますと、東海地区との連動性が高いところは上から四つです。中国地方、近畿地方、関東地方、北陸であります。もうこの東海地区が生産がプラスになってもほとんどプラスになるかどうか分からないという、そういう地域が東北、四国、九州。北海道は今逆の相関になっております。東海地区がプラスになると北海道地区はマイナスになってしまう。まあ別にそれは因果関係があるわけではないと思いますが、東海地区に連動していないということになります。上四つの地域はほとんど日本列島の真ん中ということになりまして、今、日本列島がちょうど三つに分かれてしまうような、そういう状況になっているんだろうと思います。
 次に、企業間の格差がグローバル化で非常に広がってきました。そこで、製造業の大企業と非製造業のこれは中小企業の一人当たり人件費を分子、分母に取って一九六〇年から比較したものが青い線です。一人当たり人件費の差というのは今二・三倍まで拡大しました。この比率が急速に上がってきたのがやはり九四年の半ばからです。九四年から二〇〇〇年にかけて非常にこの傾きが急になりました。七一年からも緩やかに所得格差というのは広がっていたんですけれども、七一年から九〇年にかけてのスピードの今は三倍です。三倍の速さで所得格差が広がっております。
 で、分母の非製造業・中小企業の一人当たり人件費は幾らかと計算しますと、三百七十七万円です。働く人が受け取る収入はこの三百七十七万円よりちょっと低いということになると思います。福利厚生費等がこの三百七十七万の中に入っております。九四年からは四百三十三万円でありましたから、もう既に六十万円近く減っています。で、所得が減っていきますと貯蓄を取り崩さざるを得ないという状況が生じてくると思います。それが今、この貯蓄非保有世帯の上昇のテンポとほとんど同じような軌跡を描いております。今の傾向が続く、何らかの対策がないということになりますと、恐らくあと五年後の二〇一〇年には、今二・三倍だった所得格差が二・八倍まで広がって、そのときには恐らく貯蓄非保有世帯は三三から三八%ぐらい、三世帯に一人ぐらいに広がってしまう可能性が高くなってきているという状況だと思います。ちょうど二〇〇〇年、九五年から所得格差が広がりましたが、さらにこの後ろの三年間、二〇〇三年から二〇〇五年にかけては更に格差の広がりのスピードが強まっています。今一番強いという状況になっております。
 ちょうどその辺りから、よく新聞等で報道されております、児童生徒の就学援助率が、平成十三年と十六年では、より就学援助率が高い地域ほどより高くなっているという傾向が見られるようになりました。それが就学援助率とそれぞれ、これは数学と書いてありますが、これは小学生ですから算数ということになって、申し訳ありませんが、算数の平均点と、これは代表的に算数だけ挙げたんですけれども、ほかの国語や理科、社会でやっても同じであります。中学生でも同じ傾向が出ております。そうしますと、機会均等のところも少し今、日本では危うくなってきている。御両親の年収の多い、低いというのはお子さんの努力の結果ではないということだと思いますので、機会均等のところが少し崩れ掛けているということだと思います。
 そうなりますと、それは日本経済にとってどういう影響かということを、最後にこの十ページ目で御紹介を申し上げたいと思います。
 日本は少子化で人口が減り始めました。そうしますと、今、インフレ率をどうするかという議論も経済財政諮問会議等で議論されていると思いますが、実質経済成長率も高めていく必要があると思います。人口が増えないときに実質経済成長率を高めていくには、全要素生産性、いわゆる技術進歩に頼らざるを得ない。で、技術進歩は何で決まるかといいますと、教育で決まる面が多いということでありますから、そうしますと、少子高齢化でまずその潜在成長率を決める人口が増えない。あと残るは資本の投入量と技術進歩でありますけれども、今のままですと、技術進歩のところもどうも中長期的に伸びにくくなってきているということでありますので、あと残るは資本を投入しなきゃいけないということになりますが、その資本はお隣の中国で過大とも思えるぐらい資本を投入しておりますから、非常にやはり資本を投入して成長率を上げるというのは日本はなかなか選択肢は取れないと思いますので、そうしますとやはり教育のところの水準をもう一度引き上げていくということが必要じゃないかなと考えております。
 以上で私からまず御報告、終了したいと思います。

発言情報

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発言者: 水野和夫

speaker_id: 9924

日付: 2006-02-15

院: 参議院

会議名: 経済・産業・雇用に関する調査会