西村かつみの発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(西村かつみ君) 住友電工に勤務しております西村です。本日はこのような機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、職場における男女の賃金格差の是正を求めて、均等法に基づき、当時の労働省婦人少年室に調停申請をいたしましたが、比較を求めた男性とは採用区分が異なると却下されました。最後の手段として、やむなく会社と国を相手に裁判をいたしました。しかし、ここでも採用区分の壁を切り崩すことはできませんでした。
本日は、この十年にわたる経験に基づき、今回の均等法改正案について参考人として意見を述べさせていただきます。
私は、高校卒業後、住友電工に事務職として入社いたしました。労働省、現在の厚生労働省へ調停申請をいたしましたときには既に勤続三十年近く経過しておりました。同じ高卒事務職で入社した男性たちは全員が年功によって昇格し、管理職の課長クラスになっておりましたが、女性は平社員のままで、賃金では月額二十四万円以上の格差になっておりました。
このままでは納得できないと上司や労組に昇進昇格について相談し、改善の要求をいたしましたが、当社には男女差別はない、コースの違い、能力の違いだとして全くまともな対応はされませんでした。まるで息子のような年齢の男性がどんどん仕事を与えられ鍛えられる姿を見て、人間としての尊厳を深く傷付けられました。仕事の幅も広がらず、昇進もできない、悔しさと焦りでとてもつらい日々が続きました。多くの女性たちは、結婚した後まで将来が見えない仕事は続けたくないと退職していきました。
差別の是正は会社内では解決できない、外に出すしかないと思いながらも、働いている会社を相手に争うことについては非常に悩みましたが、均等法に希望を託し、勇気を出して当時の労働省婦人少年室に調停申請をいたしました。
しかし、婦人少年室長は、比較対象の男性は異なる職種で採用区分が異なる、募集、採用区分の違いによる雇用管理上の差異は均等法の対象外だとして、調停不開始という決定を受け、本当に愕然としました。
このように大きな男女格差があるのに、雇用管理区分の違いという理由で均等法はむしろ差別を正当化したのです。やむなく、会社だけでなく、均等法における男女平等とは何かを問うために当時の労働省をも相手に提訴いたしました。
裁判の中で、会社も国もコースが違うから格差があっても違法ではないと主張しました。そして、五年後の二〇〇〇年七月の大阪地裁による一審判決は私たちの全面敗訴でした。判決の主な内容は、著しい男女差別があった、原因は、男性は幹部候補生のコース、女性は女性であるという理由だけでそのコースに就けなかった、それは憲法十四条の趣旨に反する、しかし会社が効率の悪い女性を低いコースにしたからといって公序良俗に反するとまでは言えないというものだったんです。またもや雇用管理区分によって私たちの訴えは却下されたのです。
憲法十四条の趣旨に反するにもかかわらず、公序には反しないという余りにも矛盾した判決だったこともあり、新聞やテレビでは判決を批判的に大きく取り上げ、当日夜のニュースステーションでは十分以上の特集で放映され、全国からも大きな反響がありました。
このような会社、国の主張や、それを是認した司法を許していては日本の男女差別はなくならない、この判決を覆したい、そのためには国内のみならず国際機関の力をかりたいと考え、ジュネーブの国連社会権規約委員会にて裁判で明確になった日本の男女差別の実態について発言いたしました。二〇〇三年には、ニューヨークの国連女性差別撤廃委員会、CEDAWの日本政府レポート審議に参加し、NGOレポートを提出するとともに審議会で発言する機会を得ました。また、CEDAW委員に均等法の指針やILO総会の資料を示し、均等法指針の雇用管理区分がコース別制度を容認し、間接差別を温存していると説明をいたしました。
日本レポート審議の当日、委員からは厳しく的確な質問が続出しました。とりわけ、ドイツのショップシリング委員は、間接差別は事実上の差別であり、コース別人事制度及びパートタイム労働者に圧倒的に女性が多い現状は間接差別に当たる、異なった雇用管理のカテゴリーを均等法の指針が許容しているのは問題である、低い賃金、昇進できにくい分野に女性が集中しているのも先進国では間接差別とされている、雇用管理区分という比較の仕方は間接差別ではないかなど鋭い追及をされ、私たちは非常に感銘を受けました。
この審議を経てCEDAWからの勧告が出されたのです。
資料一、CEDAW勧告をごらんください。資料を配らせていただいております。
その二十二で、委員会は、直接及び間接差別を含む女性に対する差別の定義が国内法に取り込まれることを勧告する。三十三で、委員会は、主に職種の違いやコース別雇用管理制度から生じている男女間の賃金格差の存在及び機会均等法に関連する政府のガイドラインに示されている間接差別の慣行と影響についての認識の不足に懸念を有する。三十四で、委員会は、締約国が均等法に関連するガイドラインを改正することを勧告するという非常に具体的で厳しい内容のものです。
原告の私たちは、この勧告を係争中の大阪高裁に提出しました。そして、裁判の本人尋問で、私は国連で発言しました、この裁判は世界じゅうに注目されています、是非とも世界に恥ずかしくない判断をお願いしますというふうに訴えました。
この流れの中で、裁判長から、和解勧告前文とともに和解条項が提示されました。資料二の和解勧告を是非ごらんください。
和解勧告文の主な内容は、国際社会においては国連を中心に平等に向けて着実に進んでいる、日本国内では大きな問題も残っている、しかし差別是正の運動の中で一歩一歩前進している、その成果はすべての女性が享受するもの、最後に、また間接差別についても十分に配慮されなければならないとされています。そして、和解条項として、二枚目にありますが、会社に対して、住友電工に対しては、私たち二人の、原告二人の管理職への昇格、国に対しては、労働大臣は、コースが違っていても性別の管理となっていないか十分注意をし、種々の施策を行うものとするとされました。
この和解の結果、私は課長クラスの主席に昇格いたしました。男性たちは既に十数年前にその資格に昇格しています。主席になって、その与えられる情報量の違いにまず驚きました。また、権限が格段に広がります。情報が与えられ、判断することが多くなり、責任は重くなりますが、やりがいがあります。判断していくことによって自信も付いてきます。もちろん、賃金も増え、退職金にも影響し、年金にも影響するわけです。昇格とはこういうものなのか、もう少し若いときに昇格しておればと、改めて差別の残酷さを感じました。
この勝利和解について、CEDAWの委員たちには機会あるごとに報告しました。韓国のシン委員は、良かったですね、裁判の勝利聞いていますというふうにおっしゃいまして、感激しました。
今回の均等法改正も国際的に非常に注目されており、特に間接差別についてどのように規定するかが問われています。しかし、現在提出されているこの法案でCEDAWが勧告している間接差別の定義が入ったと言えるのでしょうか。何度読んでも不明瞭です。英文にどのように翻訳し、CEDAWに報告されるのでしょうか。是非とも、建議に記載があった間接差別の定義を明記した上で、間接差別を禁止することを明らかにしていただきたいと思います。
しかも、間接差別の禁止の範囲を省令にゆだね、しかもその省令が三つの限定列挙、すなわち募集、採用における身長・体重・体力要件、総合職の募集における全国転勤要件、昇進における転勤経験要件の三つの項目とされている法案の枠組みでは、私たちの差別は解消されません。
この十年間賃金差別是正の裁判が続いたことや、九七年の均等法改正などに対応して、企業の中には、総合職、一般職のコース別を廃止して新たな人事制度を導入した例は少なくありません。例えば、複数の商社においてはコース別制度を廃止して、三ランクか五ランクから成るヒエラルキー型の職群に社員を配置する制度を導入しました。しかし、従前の一般職の女性たちは全員入社二、三年目の男性とともに一番下のランクに配置されました。また、これらの会社においての新卒女性の採用は、事務職として三年から五年の期間限定の契約社員としてしか採用せず、まるで若年定年制度の再現となっています。このように、雇用形態や処遇の仕方を変えて男女差別は生き延びています。今回の限定列挙でこのような職場で働く女性たちを現実的に救済することができるのでしょうか。
さらに、限定列挙を判例等を基に見直すと言われておりますが、今述べましたように、裁判は非常に時間が掛かります。その間の精神的、経済的負担は大変大きいものです。また、立証のために必要な賃金などのデータはすべて会社が持っており、証拠資料を作るのは非常に困難です。私たちの裁判も十年も掛かりました。この限定列挙の縛りの下でどれだけの女性が裁判に立ち上がれるのでしょうか。それを考えると暗たんたる思いです。そのような犠牲を女性たちに強いることのないような法律が制定されることを切に望むものです。そのためには、均等法においては間接差別の定義及び禁止をもっと明確にして、事例を限定することなく原則禁止にしていただきたいと思います。具体的な間接差別の例示は、省令で限定列挙するのではなく、指針で例示する方法を取っていただきたいと思います。
また、資料三、日経の記事をごらんください。均等法の指針で、募集、採用、配置、昇進等において雇用管理区分ごとに女性を男性と異なる取扱いをすることを均等法に違反する措置として決めていますが、このことが、雇用管理区分さえ違えておけば、コースさえ違えておけば男女差別は問えないことになり、間接差別を容認するものです。私たちもこの雇用管理区分に苦しめられてきました。CEDAWの勧告にもありますように、是非この雇用管理区分ごとの枠組みを廃止していただきたいと思います。
さらに、資料四をごらんください。十九日の代表質問で、民主党の和田ひろ子議員が、均等法に同一価値労働同一賃金の原則を質問され、川崎厚生労働大臣から労基法第四条に記載という回答がありました。しかし、この資料四にありますように、最高裁が裁判官協議会にて、実定法上、同一労働同一賃金を定めた規定は見当たらないと見解を発表しています。私たちにとって非常に大切な賃金の問題がこのようにあいまいに扱われていることは、大変困惑いたします。女性差別撤廃条約に基づき、均等法に同一価値労働同一賃金原則の導入の御検討をお願いします。また、激しく流動的な職場の変化に対応すべく、早期に見直しをしてくださいますようにお願いいたします。
以上をもちまして、私の発言を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。