樋口美雄の発言 (経済・産業・雇用に関する調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(樋口美雄君) 私は三つほど御質問いただいたんじゃないかというふうに思います。
 まず一番目に、日本において、正社員と非正社員の違いにおいて、なぜそういったものが起こってきているのか。これ、先ほどから出てきます給与体系と、それと会社における役割、あるいは会社が何を期待しているのかというようなことに基本的にやはり違いがあるんじゃないかというふうに思っております。
 正社員の場合に、これまでの生活給とかあるいは先ほどから出てきます年功賃金、一体この制度はどのように考えればいい制度であるかということを思いますと、例えば、その人の仕事に給与を払うというよりも、むしろその人の背負っている生活に給与を払うというような側面が非常に強かった。言うならば企業が家父長的な役割、お父さんの役割というようなことで、社員の生活まで面倒見ていくんだというようなことがあった。その代わり、今度は代償という形で拘束を掛けるよということで先ほどのような残業の話ですとかあるいは転勤というようなものがあったんだろうというふうに思います。その一方で、非正社員というのはこれは保障の対象にならないというような扱いがなされてきた、そこが基本的な私は違いであったんだろうというふうに思います。
 これについての均衡化をどう図っていくかというようなことをいろいろ我々も検討してまいりました。
 まず最初は、やはり検討しなければならないのは、そういった給与の決め方が、もう入口の段階で、この人は正社員だから保障します、この人は非正社員だから保障しませんというような入口の段階における違い、こういったものを是正していく必要があるんだろうというふうに思います。そのためには、生活に給与を払うというよりも、やはり仕事に給与を払う、その人の行っている職務でありますとかあるいは職責、そういったものに対して身分の違いである雇用形態の違いを脱却して払っていくというようなことで、ともかく給与の決め方を一本化するというようなことが必要だろうというふうに思います。
 例えば、正社員について職能資格制度を取っているというようなことであれば、パートの人たちについても、パートだから時給八百円ねということじゃなく、その人のしている仕事に応じて、あるいはその人の能力に応じて決めていくというようなことがない限りフェアな競争が行われない。これでは正に企業の活性化というものも進まないわけですし、身分制度になってしまっているというのが現状の問題としてあるのではないだろうかというふうに思います。
 その点につきましては、今度は法律の中で、これまでもパート労働法の中では均衡処遇をするということが企業の努力義務ということで課せられてきました。問題は、何をもって均衡というふうに言うのかというようなところが明記されていない。それについては、指針において、大臣指針という形で給与の決め方の一本化というようなことはうたっているわけでありますが、それは一切企業に対して義務化していないというようなことがあります。
 現在議論しているところが正にそういったところでありまして、給与の決め方についての一本化ということを今度はパート労働法の中で法律として格上げするというようなことが考えられるんではないかというふうに私は思っております。そうでなければ、これは身分であって、どんなにパートの人が頑張ろうと登用されないと、給与は安いままですということになってしまえば、これはパートの人のやる気が起こってこないというようなことでありまして、企業にとっても損ではないか。こういうところを見て、例えば流通業界でも、ここのところ大手の流通業界を通じて給与体系の一本化というものを志向している企業が増えてきているということだろうというふうに思います。
 二番目の、基本法についての考え方ということで、御指摘の、現行法においても法律が守られていないようなところがあるじゃないかと。私はこれは論外だというふうに思っておりまして、やはりフェアな競争をする上では一定のルールというものが必要なんだと。その雇用のルールというものを決めた以上は、その中においてどこの企業であろうとそれを守ることによって初めて公正な競争というものがなされるわけでありまして、それを守らない方が得だなんというような社会というのはこれやはりおかしいんじゃないかというふうに思いますので、そこについては厳格に適用していくというようなことが必要ではないだろうかというふうに思います。
 そしてまた、それを今度はルールをちゃんと守るよというようなことを強化する上でも基本法といったものが必要ではないかというふうに思っておりまして、例えば、先ほどから出ております厚生年金の問題、労働時間、一般労働者の四分の三以上というのが加入要件でありますが、一九八六年にこれは第三号被保険者というような形で、夫が、相手が、配偶者の方が厚生年金へ入っていればその被配偶者の方については保険料を払わずに基礎年金が給付受けることができるというような制度をつくったわけであります。これは、ある意味では、女性が例えば四分の三以上働いてしまうと今度は年金も保険料払わなくちゃいけないよというようなことになりますし、企業としてもその分保険料を払わなくちゃいけないよということで、ある意味では女性が働くことに対してブレーキを踏んだんじゃないかというふうに思います。
 しかし、その一方では、同じ年に今度は労働省の方、旧労働省の方で男女雇用機会均等法ができる。こちらは女性の社会進出についてアクセルを踏むというようなことになります。アクセルとブレーキが同時に踏まれる。しかも、旧大蔵省においては配偶者特別控除がこの年にできておりまして、これは従来の配偶者控除の二倍を専業主婦に対しては控除を認めるというような方式で、これもブレーキを踏んだ。それぞれのその役所において、それぞれは最適だろうというふうに思う施策を取っているわけでありますが、全体としてアンバランスが生じてしまっているというようなことでありまして、やはり女性の社会参加をサポートするようなビジョンを出して、その下に各省庁それぞれの役割というものを担っていくということが私は必要なんではないかというふうに思っております。
 もう一つ、三番目の御質問が、これもう氷河期に卒業した人たちに対する対策はどう考えているのか。
 これは、景気が回復してくれば企業は正社員を増やそうと、あるいは正社員に転換しようというようなところが出てくるかというふうに思います。現に幾つかのところでもう既に出てきているというようなことでありますが、ただ、長い間フリーターでやってきた人たちに対して企業がその採用を積極的にするかというと、私は懐疑的であるというふうに申し上げておきます。企業のアンケート調査を見ても、フリーターという経験をどう評価するのかということになると、ネガティブに評価するというようなことで、それであれば就業経験のない新卒者の方がいいというような企業が多い。
 だとすれば、これについてはやはり社会的なサポートというものが必要だろうということでありまして、その方法として、キャリアカウンセラーとか、先ほどの能力開発を社会として応援していくというようなことを申し上げました。これまでその企業においてはやはり正社員が多かったということで、社内教育に全面的におんぶにだっこという形でしてきたところがあります。また、政策的にもそれをサポートするというような形で、その実施に費用が掛かるのであれば企業に対して助成金を出すというようなことを雇用保険からやってきたというようなことがあります。しかし、その対象にならない人たちというのが今非正社員という形で増えている以上は、社会としてその企業を通じないような能力開発の支援といったものも必要になってきているんじゃないか。
 それが具体的に何がいいのかというと、これは先ほどの橘木さんの御意見と全く一緒でありまして、私もイギリスにも行きまして、実際にニューディールどういうふうに進めているのか、職業紹介のところにも行きましたし、その教育訓練のところにも行きました。あるいはフランス、ドイツ、みんな回ってきました。何が有効であるかというと、やっぱりマンツーマンの支援。個人、それぞれの持っている問題点が違うわけでありまして、親身になって相談に乗ってくれるような人、そしてそのアドバイザー、いろいろ知識を持っているわけでありますから、その人のアドバイスを受けながら個人が自立していこうというような気持ちを強めていくというようなことが必要ではないかというふうに思います。
 試用期間の延長という話が先ほどちょっと出ましたが、日本ではトライアル雇用が既に実施されています。三年間の試用期間というのがフランスの例の暴動のところでも大きな問題というような形が提起されまして、私もその後、日本とEUのシンポジウム等々であの仕組みというものをどう考えるのかというようなことを何人かのEUの先生方に話を伺ったことがあります。
 例えば、ソルボンヌの先生、この人はかなりフランスの雇用政策について決定権を持っている先生でありますが、三年というのは長過ぎると。人を見極めるのに三年必要だというようなことは本当だろうか、三年になったらそこでまた使い捨てという問題が起こってくるんじゃないかということで、むしろ今トライアル雇用では半年ということを大体想定したような仕組み、有期雇用という形で採用して、半年たった段階で正社員に登用するのか、要するに直接雇用にするのか、それとも半年ということで契約期間が切れることによってお引き取りするのか、もらうのか。あるいは、今度は会社の中についても、半年働いてみると会社の様子というのが分かって、自分はこれはどうも適当ではないというような判断を下すのかというような、そこの仕組みをもっと活用していくというようなことが私は必要ではないかというふうに思っております。

発言情報

speech_id: 116514061X00220061122_021

発言者: 樋口美雄

speaker_id: 1884

日付: 2006-11-22

院: 参議院

会議名: 経済・産業・雇用に関する調査会