有光健の発言 (総務委員会)
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○参考人(有光健君) 今日はお招きをいただきましてありがとうございます。
私自身は、一九五一年、サンフランシスコ講和条約の年に生まれておりまして、抑留当事者ではもちろんございませんが、この間ずっと多くの全国の元抑留者の方々と一緒に当時のことを勉強させていただき、そしていろいろな問題を提起をさせてきていただいております。今日、傍聴席の方にも同じ団体に所属をしておられる多数の元抑留者の方が来てくださっております。
衆議院の総務委員会のやり取りも傍聴させていただきました。与党の方から主張されている、野党が提出をしている戦後強制抑留者特別給付金に反対をされたという理由が大きく二つございました。一つは、この法案は恩給欠格、引揚者との公平性に問題があるということと、二番目に、戦後処理に早く幕を引きたいという御主張がポイントであったかと思いますが、この点に重点を置きながらお話をさせていただきたいと思います。
このシベリア抑留というのは、お手元にカラーのコピーが配られているかと思いますが、地図がございます。ユーラシア大陸、カムチャッカ半島から、いわゆるこのシベリアだけではなくて中央アジア、モンゴル、そしてモスクワ近郊、北極圏まで、大変広範な地域に、約六十万と言われておりますけれども、元日本軍の兵士、軍属、そしてその中には若干民間人も含まれておりますけれども、が一九四五年の八月二十三日以降に移送されて、そこで大変なシベリア三重苦という過酷な歴史を強いられたわけでございます。食料がない、大変厳しい寒さ、そして過酷な労働という結果で、残念ながら約一割、六万人前後の方が亡くなられたということでございます。
最初に申し上げたいのは、平和祈念事業特別基金が一九八八年にスタートしておりますけれども、そのスタートした時点から、いわゆるシベリア・モンゴル抑留と恩給欠格と引揚げの三つの課題を一括して取り扱おうとしてきたわけでございますが、その辺りにそもそもちょっと無理があったというふうに考えております。したがって、基金の速やかな廃止ということに関しては私も賛成でございます。シベリア抑留と恩給欠格と引揚げの問題というのはそれぞれ問題の次元と申しますか、筋が違うというふうに考えております。
まず第一に、シベリア抑留は、先ほども申し上げましたが、一九四五年八月二十三日に発せられたスターリンの秘密指令によって始まったことでございます。戦後の大事件であり、戦時中の様々な戦争被害や戦闘中の犠牲とは異なっております。
第二番目に、シベリア抑留はポツダム宣言あるいは国際人道法違反の重大な人権侵害でございまして、恩給欠格、先ほど元島参考人のお話ございましたが、は敗戦に伴う戦後処理の中での不公平感への対応でございまして、いわゆる重大な人権侵害という範疇のものとは少しレベルが異なるというふうに考えております。ルールをつくりますとどこかで線引きをしなければならないわけで、その結果、ぎりぎりのところで不公平感を持たれる方というのは、これは必ず出てまいります。例えばこの戦後強制抑留者特別給付金支給法案でも、二年と十一か月の方と三年の方との間では、一週間の差があってもそこで金額的には大変大きな差が出てまいりますので、それをどうするかというレベルの問題と、その格差をもって国際人道法違反の重大な人権侵害という範疇の問題と一緒に議論するということにはちょっと無理があると思います。国際人道法違反、国際法違反については時効もないわけでございまして、法的なレベルも異なるということをまず申し上げておきたいと思います。
それから、シベリア抑留の場合は更にその労働の対価が支払われていないために、南方の捕虜との間で大きな差が生じたままになっております。これは明白な差別であろうかと思います。これに当事者の多くが大変大きな憤りを感じ、そして裁判にまでなって、いまだに解決をしておりません。
平和祈念事業特別基金やその総務省が使っておられる表現で非常に私ども違和感がございますのは、労苦という言葉を使われます。労苦を伝える、労苦を心に刻むというふうによく表現されておりますが、何かまるで津波とか地震の被災者に同情しているような印象を受けます。シベリア、モンゴルの抑留者というのは、これは拉致あるいは国家犯罪の被害者なわけですね。一九九三年に来日をしたエリツィン大統領も全体主義の犯した罪について謝罪するというふうに明確に述べておられますけれども、被害者側の日本の社会で、抑留者は犯罪被害者であるという視点が、そういう観点が非常に弱かったと思っております。もっともっと不正に怒り、冷静にその犯罪の全容を明らかにし、ただしていく必要があるのではないかというふうに考えております。
被害者の被害回復に必要なことは、真相究明、それから補償、救済あるいは社会復帰やリハビリの支援、責任者の処罰、再発防止、これは北朝鮮の拉致の例でも全く同じでございますが、そのいずれを取っても極めて不十分、あるいは全く手付かずでございます。基金を廃止するとともに、こういった拉致被害対策と同じように、官邸かあるいは内閣府に一本化した対策室をきちんと新たに設けていただいてしっかり対応すべきであるというふうに考えます。現状の厚生労働省、総務省、外務省あるいは内閣府に、言ってみればたらい回し、あるいは縦割り行政でばらばらでやっているというふうな方式はやめていただきたいというふうに考えます。
三番目に、そもそもその真相究明がほとんどできていないということが大変大きなことでございます。
全体で一体何人が拉致、抑留され、何人が亡くなったのか、あるいはその後に北朝鮮に約、これは二万七千人とも言われておりますが、逆送されたのは本当は一体何人で、その中の何人の方が途中で亡くなったのか、あるいはなぜこんな惨事が起きてしまったのかというふうなことが、今現在も一万三千人もの死亡者名簿がないということを含めて、その辺りの解明が情けないほどできていないということでございます。遺骨収集に関しても、あと何年やったら終わるということになるのか、あるいは厚生労働省の四階にたくさんの御遺骨が保管されていますけれども、DNA鑑定にあと一体何年掛かるのかという、実はそういうその先の見通しというのがこれだれにも見通せていない。ひたすらぽつりぽつりとロシア側から資料が時々もたらされるのを待っていると、そういう状態でございます。本気でやるには人も予算も不足をしております。その辺りのことを是非改善をしていただきたいと思うわけでございます。
そういった意味でのこれらの問題についての積極的な意思あるいは国家戦略というものがないんではないかということを、当事者、遺族は痛感をしておりまして、大変納得をできない。亡きがらを現地に残したまま帰ってきた元抑留者も、戦友や遺族の方々に本当に申し訳が立たないという気持ちが大変強うございます。
そして四番目に、恩給欠格・引揚者の問題もしかしながらきちんと再検討されるべきではないかと思っております。そして、その中でのそのバランス、公平性ということを言われるのであれば、その際、併せて考慮しなければならないのは、例えば中国残留邦人とか日本国内の民間空襲被害者らの問題です。またさらに、戦後補償あるいは援護政策の中での旧軍人軍属と民間の戦争被害者、いわゆるこの官民の格差の問題、それから旧軍人軍属の中でも日本国籍所有者と植民地出身、外国籍の被害者の間の格差の問題、そういったことについても併せてお考えをいただかなければならないと思います。ほかの国のことを余りよく知らない、関係ないという言い方はちょっと暴論過ぎるという感じがいたします。国際的な水準への配慮や検討が必要であるというふうに考えております。
時間になりましたので、また後ほどの質疑の中で少し補足的に申し上げさせていただきます。
以上でございます。