池田学の発言 (内閣委員会)
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○池田参考人 私は、熊本大学の神経精神科を担当しております、精神科医の池田と申します。よろしくお願いいたします。
私は、平成十五年から三年の間、前任地の愛媛大学の精神科において、厚生労働科学研究費補助金をちょうだいし、認知症高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究の主任研究者をさせていただいておりました。この班研究を申請させていただいた当時は、認知症の患者さんで自動車運転免許を保有する人が全国で三十万人前後いらっしゃると見積もられておりました。
そして、平成十四年の改正道路交通法の施行により、認知症が運転免許取り消し要件として取り上げられたものの、実際の運転能力評価や運転中断の方法がはっきりしなかったため、運転継続を望む認知症患者と、中止させようとする家族や中止を指導する医師、警察官との間に関係の悪化が見られたり、危険を承知の上で、交通手段のなくなる家族が認知症患者の運転を黙認し続けたりと、臨床現場では大変な混乱が起こっておりました。
しかし、班研究としての三年間とその後の研究活動を通じて、多くの行政関係者、現場の医師や警察官、認知症の患者さんの御家族、マスメディアの方々がこの問題に関心を持ってくださり、ようやく具体的な法律改正案が提出されたことに対し、関係各位に敬意を表したいと思いますし、認知症の自動車運転の問題における大きな第一歩であると評価しています。
その上で、長年この問題を研究してきた精神科医並びに研究者の立場から、何点か改正案に対して私見を述べさせていただきたいと思います。
その第一点は、七十五歳以上の更新時に認知機能検査を受けなければならないという年齢制限の規定です。
我々の研究では、若年性認知症、すなわち、六十五歳までに発症する若い認知症に多い病気の方が重大な事故や違反を起こす確率が高いことが明らかになっています。したがって、コストの問題もあるかと思いますが、今後、新しい法律が施行された後もデータをぜひ収集していただき、必要であれば、認知症の検査を実施する場合の年齢を引き下げていただきたいと思います。認知症患者の運転による重大な事故を防ぐためには、少なくとも五十歳以上くらいまでは年齢を引き下げる必要があると考えております。
第二点は、今回導入予定の認知機能検査で異常と判定された場合、すなわち認知症が疑われた場合で、半年以内に事故を起こしていた人に対して公安委員会から医師の診断書の提出を求めることになるようですが、最終判断はぜひとも免許センターでの実車運転検査で下していただきたいと思います。
なぜなら、今回の認知機能検査や我々専門医の診察では、認知症かどうかは判定できたとしても、その人の運転が本当に危険かどうかはわからないからです。もちろん、我々の研究でも欧米の研究でも、中等度以上に進行した認知症の運転では事故のリスクが極めて高いことが示されています。
したがって、ある程度進行した認知症の患者さんの場合は医師の診断書で免許更新を認めなくてもよいと思いますが、ごく軽度の認知症の場合は、あくまでも実車運転、実際の自動車運転の能力で運転の専門家が最終判断すべきです。欧米諸国でも、ごく軽度の認知症の場合は、最終判断は路上運転で運転のプロが見きわめるシステムになっています。そうしないと、まだまだ安全に運転できる人の運転の権利を奪ってしまったり、逆に、認知機能の障害は軽いけれども、運転行動は極めて危険な認知症の患者さんを見逃してしまうリスクが高くなると思われます。
第三点目は、この改正案が可決された場合には、ぜひ国民への啓発を積極的に進めていただきたいということです。
平成十四年の道路交通法改正後に、千七百名の都市部に住む高齢者と千名の山間部の高齢者にアンケート調査を実施し、認知症患者の運転免許が取り消しになる可能性があると法律で新たに定められたことを知っていますかという質問をしたところ、二〇%前後の高齢者しかこの改正案の内容を知りませんでした。高齢者の生活を直撃するような重要な問題ですから、ぜひとも啓発活動を行って国民に周知徹底を図りコンセンサスを得ておくことが、今後の改正案の円滑な運用にも重要かと思います。
最後に強調しておきたい点は、運転中止を余儀なくされた認知症高齢者やその家族に対する支援を強化する施策をぜひ打ち出していただきたいということです。
今述べました一般高齢者へのアンケート調査では、確かに九〇%前後の人が、認知症になったら運転をやめるべきだと答えてくださいましたが、その一方で、自分が運転を中止させられたら非常に困ると答えた免許保有者は、都市部で四〇%以上、山間部では八〇%以上に上り、地域による意識の差もとても大きいことが明らかになりました。
どちらの地域も、運転の目的は買い物や通院、家族の送迎という答えが多かったのですが、さらに、山間部では、毎日仕事に使うという答えが多数ありました。例えば愛媛のミカン農家では、山のミカン畑に出勤するにも、農協にミカンを出荷するにも自動車運転が欠かせません。通院や買い物にしても、公共交通網が年々貧弱になっている地域では、高齢者は自動車を手放せない状況に追い込まれています。認知症患者の運転を中止させるだけでは、本人のみならず、その配偶者までが社会から孤立し、その多くが施設入所に追い込まれ、結果として地域社会が崩壊してしまうことは簡単に予想できます。
これは認知症だけの問題ではなく、高齢者の運転全体の問題でもありますので、ぜひ、地域社会資源の整備あるいは地域の町づくりという高い視点から、行政の支援を御検討いただきたいと思います。
確かにコストがかかる問題ではありますが、認知症高齢者が重大な交通事故を起こしてしまったり、あるいは運転を中止してすぐに入所してしまったりするコストに比べればはるかに低いコストだと思いますので、介護保険などを使った、買い物や通院のサポートなどもぜひとも御検討いただければと思います。
特に最後の点をお願いして、私の意見陳述を終わりにさせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)