藤森克彦の発言 (経済・産業・雇用に関する調査会)
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○参考人(藤森克彦君) みずほ情報総研の藤森でございます。本日は、このような機会を与えていただきまして心からお礼を申し上げます。
最初に、簡単に私の自己紹介をさしていただきますと、私は民間のシンクタンクで社会保障を中心に研究をしております。そして、九六年から二〇〇〇年まで、イギリスの方に弊社の駐在員としまして研究員として駐在をしておりました。本日御報告しますイギリスのワーク・ライフ・バランスにつきましては、私が帰国するちょうど三か月前の二〇〇〇年の三月に、ブレア政権で仕事と生活の調和キャンペーンを始めるんだということで発表がありました。それで、それから非常に興味深く見てまいりました。
本日は、イギリスのワーク・ライフ・バランスにつきまして、最初にイギリスのワーク・ライフ・バランス、一体何で、見る意義がどこにあるのかと、意義を申し上げたいと思います。それから、ワーク・ライフ・バランスの実態。それから、企業が自主的に両立支援策を導入しているんですが、その背景は一体何なのか。それから、その両立支援策が企業に与えた影響。そして最後に、政府の取組を見まして、イギリスと日本の違い等々につきまして御報告していきたいと思います。
私の方、紙の方のレジュメで発表を進めてまいりたいと思います。
それでは、早速二ページをお開きください。イギリスのワーク・ライフ・バランスを考察する意義につきまして御報告していきたいと思います。
まず三つ、イギリスのワーク・ライフ・バランスを考察する意義があると考えておりますが、実はイギリスはワーク・ライフ・バランスという点では先ほどのスウェーデンと違いまして後れている国だというふうに言っていいかと思います。欧州の中でも労働時間は長時間労働として有名な国です。それから、男女の役割分担という点におきましても非常に根強く残る国だというふうに言われております。それからさらに、公的な保育所を見ましても、この整備は後れています。日本よりも後れているというふうに考えております。
なぜかというと、これまでイギリスは、このワーク・ライフ・バランスという仕事と生活の調和、これは労使間で考えるべき話であって、私的領域の問題だと、国が口出すところじゃないという考え方がされておりました。それから、保育所の整備につきましては、この保育所を整備することによって受益を受けるのはだれかといったら、これは企業だろうと。とすれば、受益者負担の考え方から企業が負担すべきじゃないかと、こういった考え方もされてきております。しかし、近年、企業や政府がこのワーク・ライフ・バランスに積極的に取り組み始めておりますので、こういう発展途上の国というか、後れた国が試行錯誤をしながらワーク・ライフ・バランスを進めるという点において日本にとっても示唆するところがあるのではないかと考えております。
それから二点目としましては、出産、育児につきましてイギリスでは柔軟な就業形態を活用しながら就業を続ける女性が多いということであります。この点はまた後ほど見ていきたいと思います。
それから三点目、これは、ワーク・ライフ・バランスは企業業績の向上につながる、企業にとってもプラスになるんだという、そういう見方がイギリスはされております。ブレアさんが二〇〇〇年三月にワーク・ライフ・バランスキャンペーンを始めるときに、こういうことを言っております。ワーク・ライフ・バランスは、企業にとって競争力を高めて業績向上につながり、従業員にとっては生活の質を高めると。
私は、企業にとってもプラスになるんだというこの視点が日本にとっても非常に重要な示唆ではないかというふうに考えております。どちらかというと、日本はこの両立支援策というのは企業にとっては負担だという考え方をされております。それに対してイギリスは、これは企業にとってもプラスになるんだと。で、働き方を変えるというのは、どうしてもこれ企業の協力を得なかったらできないだろうと思います。企業の協力を得るには、それが企業にとってプラスになるんだというメッセージが、自主的にそこに企業が積極的に活動にかかわっていくために必要なところではないかと思います。方法論としても必要なところでありますし、しかもこれから日本の向かっていく労働力人口が減少する社会という中においては、実はこれはワーク・ライフ・バランスをうまく使うことによって企業にとってもプラスになるんだということが実際にあるのではないかと。イギリスは今模索している段階なんですが、その辺を見ていくところは意義があるところだというふうに考えております。
以上、三つの意義を申し上げました。
それでは続きまして、イギリスにおいて柔軟な就業形態は一体どうなっているのかということを見てまいりたいと思います。
図表の一をごらんになっていただきたいんですが、イギリスの柔軟な就業形態、大きく言って、労働時間を短くするという時短型と、それから働く時間帯や働く場所を変えるという裁量型に分けることができます。
どんなものがあるかというと、例えば時短型では学期期間労働というのが、学期間労働というのがございます。これは子供の学期中のみ労働する就業形態、だから子供が夏休みになれば親も一緒に休むという非常にうらやましい形態がございます。それから期間限定時短制度、これは一定期間のみ労働時間を短くして、その後通常の労働時間に回復していく就業形態です。それから、少し下がりまして、集中労働日制、これは週当たりの総労働時間を減少させずに一日当たりの労働時間を増加させて、週五日勤務だったら四日勤務にしていくと、こういうものでございます。
こういった様々な柔軟な就業形態を活用できるようにしておるんですが、じゃ、企業は一体どの程度こうした就業形態を提供しているのかというのを見たのが図表の二であります。
全体というところが、これが提供している企業のパーセンテージ、割合を示したものですけれども、パートタイム七四%、それからフレックス二四%と、この辺は多いんですが、ところが、学期間労働とかあるいはその他のものにつきましては大体一割弱から二割弱といった水準ですので、そんな大したことはないわけですね。ところが、従業員規模別に見ますと、五百人以上の企業を見ますと、ほとんどの形態で五割以上の企業がこうした形態、柔軟な様々な形態を提供しているということであります。ですので、イギリスは大企業が中心となってこうした柔軟な就業形態を提供しているという状況でございます。
それでは次のページに移りまして、では、こういう状況、企業が提供しているんですが、その提供しているものを使わなかったら意味はないですので、従業員は一体どの程度、労働者の方はどの程度活用しているのかという点を図表の三で見ていきたいと思います。
これは柔軟な就業形態を活用する雇用者の割合を見たものですけれども、フルタイム、これは週三十時間以上働いている労働時間の方々をフルタイムというふうに定義付けておりますが、男性ではこういった柔軟な就業形態を使う方々というのが一八%、それから女性は二八・五%、全体では二二・一%という形になっております。その下に括弧書きで付いているのが九九年の割合なんですが、特にフルタイムの女性を見ていただきたいんですが、九九年から二〇〇五年にかけまして五%ポイント柔軟な就業形態を使う方が増えております。イギリスはパートタイム労働者が多いんですけれども、近年はフルタイムでありながら柔軟な就業形態を使って働き続ける女性が増えております。
それから、図表の三の方には記してございませんが、在宅勤務は大体イギリスでは六%程度というふうに言われておりますので、それを足しますと、大体全体でフルタイムの中でも三割の方々がこうした柔軟な就業形態を使っているということであります。日本でこうした柔軟な就業形態を使う方というと、これは非正規社員という形になっておりますね。ところが、イギリスではフルタイムで働く方々も使っているというところが一つの特徴だというふうに思います。
それからもう一つ、図表の四、じゃ一体どういう方々がこれを使っているのかと。柔軟な就業形態を企業が提供しているという中でどういう方々が使っているのかという、利用可能と回答した中で実際に使っている方々はどういう方々かというのを見たのが図表の四でございます。
特に管理職、専門職を見ていただきたいんですが、裁量型、ここを見ますと、この網掛け部分が平均よりも高いところになっておりますが、フレックスで六割等々、平均よりも高く使っております。かなり管理職、専門職の方々でも使っているということが言えるのではないかと思います。
実際、イギリスでは、フルタイムの女性が子供を産んで、子育て期にパートタイムになりまして、それからまた子供が小学校上がるぐらいになってからフルタイムで働き出すといった事例ですとか、あるいは金融機関のシステム部門で働く部長が、修士号を取るために二年半、先ほど言った集中労働日制、週四日勤務に変えて勉強してキャリア形成に励むといった、こういった使い方もされているんですね。日本だと、ややもするとワーク・ライフ・バランスというと子育てということを目的にしたものというのが多いんですが、イギリスではこういった使い方がされております。
それから、これまでワーク・ライフ・バランスという言葉はファミリー・フレンドリーというような言い方がされていたことが多いかと思いますけれども、しかしワーク・ライフ・バランスという言い方になったのは、子供がいようがいまいが、それから既婚であろうが未婚であろうが仕事と生活の調和というのは重要だろうと、そういった問題意識からワーク・ライフ・バランスという言い方に変わっております。
それでは、続きまして、じゃ一体どうしてこういった形態が広がってきたのかという点を次のページで見ていきたいと思います。
イギリスでは、九〇年代半ばから大企業が自主的にこの柔軟な就業形態を入れ出したというところが特徴があります。一体なぜ入れ出したのかと。二点指摘できるかと思います。
一つは、企業と労働者のニーズが合致したということであります。企業側の事情としましては、九〇年代中ごろからイギリスはずっと景気がいいものですから、労働需給が逼迫して労働力不足という状況になってまいりました。他方で、労働者側は、八〇年代から共働き世帯だとか一人親世帯というのがかなり増えてきております。そういった方々は、時間や場所に縛られない働き方を望んでいたと。そこで、この両者のニーズが合致して柔軟な就業形態を導入していったということが挙げられます。
それからもう一つは、土日の営業を求めたり、あるいは二十四時間営業を求めるといった、こういった消費者ニーズの変化という点も指摘できるところであります。
それでは、こういった柔軟な就業形態が一体企業にどういう影響を与えたのかと。先ほど、ブレア首相は、これは企業にとってもプラスになるんだと、良い影響を与えるんだということを言いましたけれども、これは本当なのかという点を見てまいりたいと思います。
図表の五をごらんになってください。これは実際に両立支援策を導入した事業主に対しまして意識調査をしたものですが、これはどういう影響があったか、良い影響か悪い影響かというのを聞いたものですが、従業員との関係、従業員の労働意欲、従業員の定着、それから生産性等々、こういった点で良い影響と答える事業主が五割以上となっております。それから、悪い影響と答えた割合と比べますと圧倒的に良い影響と答える方々が多いということでございます。
それから、図表の六をごらんになっていただきたいんですが、これは縦軸にその企業、事業所が幾つの両立支援策、調和策を導入したのかという数を並べまして、それから今度、横軸の方に平均よりも業績がいいのかどうなのかといった点を並べたものです。
それを見ますと、図表の六では、より多くの両立支援策を導入している企業ほど業績がいいというふうなことがここからは示されております。そういうふうに読み取らせたいんだろうと思います。しかし、これはそんな単純には読めなくて、実は業績のいい企業だからワーク・ライフ・バランス施策という両立支援策を入れられるという逆の因果関係があるわけですね。ですので、これはもっと個別の企業から、ミクロの視点から見ていかなきゃいけないということであります。
次のページに、実際、じゃ導入した企業はどうなったのかという点を見ました。五ページをお開きください。
図表の七なんですが、これは英国の大手電信電話会社の事例であります。この会社は九万四千人ですので非常に大きな会社でありまして、女性従業員の比率が二四%ということであります。何をこの会社は両立支援のためにやったかというと、IT化による在宅勤務を進めたということであります。それによって在宅勤務の利用者が全従業員の七%になったということであります。
メリットは一体何なのかというと、真っ先に挙げられているのは、優秀な人材を採用できるようになったということであります。それから、離職率が、英国平均では年平均一六%の離職率なんですが、これは三%まで低下していったということ。それから、出産休暇後に職場復帰率が九三%。これによって募集・採用コストが五百万ポンド、この会社は規模が大きいですので、日本円で、一ポンド二百円で計算して約十億円削減できたということでございます。イギリスは特に今景気がいいですので、こういった募集・採用コストも非常に掛けているところであります。それから、二十四時間対応や土日営業にも対応できるようになって顧客満足度が八%増加した。それからさらに、在宅勤務によって、これを利用している社員の生産性が一五%から三一%向上したということであります。それからさらに、在宅勤務によりましてオフィスのスペースが削減できると、それによって一人当たり日本円で百二十万円程度削減できたということであります。
これは非常に英国では成功事例としてよく紹介されている事例なんですが、今イギリスではこういった個別企業の、ワーク・ライフ・バランスを導入した結果どうなったのかという研究が今一生懸命やられているところであります。そこから一つ言える、企業のためにも従業員のためにもなるワーク・ライフ・バランスというのは、やはり従業員と企業のニーズをジグソーパズルのピースを組み合わせるように、一つ一つ丁寧に組み合わせる作業が非常に重要だということが指摘されております。
それから、続きまして、じゃ今度政府は、英国政府は一体何をやったのかということを見てまいりたいと思います。
政府は二点やりました。一つは、先ほど申し上げましたワーク・ライフ・バランス・キャンペーンでございます。これは二〇〇〇年三月から取り組んで、この目的としては、従業員にも企業にもメリットのある両立支援策を広めていこうと。イギリスの特徴は、単なる啓発ということをやるわけじゃなくて、具体的な事例から両立支援策の効果、メリットというものを出して、それを企業に伝えていくということをやっております。
具体的には、チャレンジ基金プログラムというものを導入しております。これは図表の八の方に記しておきました。
これは何なのかというと、両立支援策の導入を検討する事業主、企業に対しまして無料のコンサルティング機会を与えていくというものであります。ですから、このコンサルティングの費用は政府で持つということであります。コンサルタント、これは民間のコンサルタントなんですが、従業員と企業のニーズを掘り下げて、その企業の実情に合った最適な両立支援策の導入を検討していく。約一年間この企業に入っていくようであります。コンサルティング機関としては、政府が民間から二十四機関を事前に選定しまして、そこの企業にノウハウというものを蓄積させていこうということを考えております。そして、最適な両立支援策について具体的な事例から情報を収集していって、しかもそれを他の企業に伝える。これは貿易産業省の方でやっておりますけれども、そこで報告書を作って上げるということをやっております。
利用手続は、事業主は申請書を貿易産業省の方に提出して、同省の方で審査をすると。業務領域や、コンサルタントから便益を受ける方法、それからプロジェクトに充てられる人材や時間、プロジェクトから図られる測定可能な効果、こういったものを審査基準にしているんですが、特に業務領域を基準の一つに設定しているのは、様々な業務、業種からこういったワーク・ライフ・バランスのノウハウを蓄積していこうということで、ある程度ばらつきを持たせようということを考えております。
それから、この利用状況は、チャレンジ基金プログラムには日本円にして約二十三億円が二〇〇〇年から二〇〇三年に入れられまして、この期間内に四百四十八企業が支援を受けました。で、百二十万人の従業員が影響を受けたということになっております。イギリスの方は、こういった政策取りますと政策評価のレポートが出されているんですが、八割ぐらいの事業主が、実際に利用した方々がこれは良かったということを答えておりまして、そこそこ成功したと言える政策ではないかというふうに考えております。
このポイントは、やはり個別の企業のワーク・ライフ・バランスを助けるということのみならず、そこの企業の実際のワーク・ライフ・バランスの具体的な経験からその成功の要因を抜き出してほかの企業にも伝えるということをやっているところですね。こんなところがイギリスの取組の一つであります。
それから、続きまして、もう一点ですが、六ページ、次のページに行きまして、ワーク・ライフ・バランスの下支えをするための条件整備ということをやっております。
図表の九に記しましたが、労働規制、それから出産・育児休暇、経済的支援、保育所整備といった総合的な対策を取っております。ここでは時間の関係もありますので労働規制だけ見てまいりたいと思います。
イギリスの方で労働規制やったのは、一つは、これはEUの労働時間指令の影響を受けて九八年に労働時間規制を設けました。国内法を設けました。これは週四時間労働時間規制などのものですが、イギリスの場合、例外規定、オプトアウトが設けられておりまして、労働者の同意があったならば四十八時間以上働けるというふうな例外規定が設けられております。
それから二点目、パートタイム労働規制というものが二〇〇〇年に入れられました。これもEUの指令の影響でございます。これは何かといいますと、パートタイムは比較可能なフルタイム労働者よりも不利な扱いを受けてはいけないというものであります。時間比例という観点から均衡処遇を求められておりまして、時間当たりの賃金、ですから、同一労働同一賃金の原則というのはここで挙げられています。それから、企業年金、有給休暇等々のものが時間比例という観点から処遇が均衡じゃなきゃいけない。週三日勤務の方でしたら有給休暇も五分の三与えられなくてはならないということであります。
それから、柔軟な働き方への申請権というものが二〇〇二年の雇用法で入れられました。これは、六歳以下の子供かあるいは十八歳以下の障害者を持つ親は柔軟な雇用形態で働くことを申請する権利を持つということであります。ただし、事業主の方にはこの申請を拒否できる理由というのは非常に幅広く認められておりまして、例えば追加的な費用負担が必要になること、顧客対応能力への悪影響、既存の従業員間で調整ができないこと、業績への悪影響、まあこういったことを挙げちゃうとほとんど申請は通らないんじゃないかというふうに思いますけれども、そういった声は実際にあったんですが、ところが、実際のところでは、こういったものを入れたところ、八割ぐらいはその申請の一部あるいは全部が承認されているということでございます。
それでは最後に、イギリスと日本の同じところと違うところを申し上げて、私の報告を終わりにしたいと思います。
まず、同じところですけれども、日本におきましても、今後一層ワーク・ライフ・バランスの必要性というものは高まっていくだろうというふうに私は考えております。一つは、今後やはり労働力人口がかなり減少していくということでございます。日本も今少しずつ労働力が不足しているという、こういう声が起こっておりますけれども、本格的な労働者不足というのがいずれ来るだろうというふうに思います。ちょうどイギリスが労働需給が逼迫したというようなのと同じ状況というものが起こるのではないか。しかも、イギリスは景気循環で起こっておりますが、日本は構造的に起こるんではないかというふうに思います。
それからもう一点、既に日本では共働き世帯数は片働き世帯数を上回っております。したがって、家事、育児、介護といった家庭生活で相応の役割を担う労働者というものは男女ともに増加してくるということでございます。ですので、ちょうどイギリスと同じようにワーク・ライフ・バランスの必要性というのは高まっているし、それによって企業にとってもプラスになるという状況も起こり得るのではないかというふうに思っております。
しかし、日本とイギリスはやはり同様には論じられない点というのがあろうかと思います。それは何かといいますと、図表の十で示しましたが、日本における労働者の二極化構造であります。私は、これが日本でワーク・ライフ・バランスがなかなか広がっていかない本質じゃないかというふうに思っております。図表の十に記したのは、これは横軸に企業による保障を取りまして、それから縦軸に企業の拘束を取りました。正社員は企業による保障、例えば雇用保障等々は強いですが、一方で拘束も強いということであります。日本の場合、やはり景気循環に対しましては、雇用保障というものがありますから、イギリスのように解雇するという形の手段というのはなかなか取れない、そうすると何が行われるかというと、残業時間を調整したり、配置転換したり、転勤したりということで調整しているんだろうと思います。ということは、企業は従業員の、正社員の雇用を守るために、そこの部分はがっちり握らなきゃいけないわけですね。この雇用の、企業による保障とこの拘束というのはセットになっているということだと思います。
ところが、ワーク・ライフ・バランスというのは働く時間帯等々を従業員の裁量に任すということですから、この企業の拘束ということを弱める方向に行くものです。とすると、こっちを弱めるとなると、正社員による、企業による保障の方も、セットですから、こっちも弱めなきゃいけないということであろうかと思います。これは非常に日本にとって悩ましいところで、なかなかワーク・ライフ・バランスが普及しない一因じゃないかと思っております。
ところが、イギリスの場合は、正規社員であっても雇用保障というのは日本ほど強くありませんので、イメージからいいますと、この図表の十の真ん中にもっと寄っているんですね。正規社員、非正規社員ということよりも、フルタイム、パートタイムという言われ方のように、働く時間長いか短いかというところの方の違いが大きいですので、真ん中にこう寄っている。そうすると、日本のような、よく言われる身分の違いというものにはならないわけですね、正規社員と非正規社員の違いというものが。だから、ライフステージにおいて、子育て期に一時的にパートタイムになって、またフルタイムに復帰するということが行いやすくなってきているのではないかと、イギリスの方では行いやすいのではないかというふうに思います。
日本の場合、これ非常に悩ましいんですけれども、一体どうすればいいかというと、私は、基本的にはこれ近づけなきゃいけないんだろうというふうに思っております。ただ、近づき方というのは、日本流のやっぱりワーク・ライフ・バランスのやり方というのは考えなきゃいけないだろうというふうに思っております。例えば、企業による保障の中には、年功賃金のような保障もあれば雇用保障のようなものもあろうかと思います。その中で一体何を選んでこっちの保障を低下させていくのかというのはやはり考えなきゃいけないだろうというふうに思います。
それからもう一つは、やはり例えば雇用保障なんか日本にとっては非常に大きなもので、これによって人々の生活がどれだけ安定しているのかというところはあろうかと思います。ですから、もしそこの部分を低下させるのであるならば、一体、じゃほかで、例えば国の社会保障なり、あるいはもっと転職できやすいような労働市場の整備をするだとか、そういった別の手だてによってその部分の人々の安定性というものを担うということはしていかなくてはいけないのではないかというふうに思っております。もちろん、経済成長するんだったならばこの非正規の部分だけ上げるということができるかと思うんですが、低成長の時代だと、やはり非正規の方を上げようとすると正規社員の方も少し下げなきゃいけないということが起こり得るんじゃないかというふうなことを考えておりまして、なかなかイギリスとは同じように論じられないところというのはこの二極化構造というところにあって、これが本質じゃないかというふうに私は考えております。
以上で私の方の御報告を終わりにさせていただきます。