三浦有史の発言 (政府開発援助等に関する特別委員会)
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○参考人(三浦有史君) 日本総研の三浦と申します。よろしくお願いします。(資料映写)
今日私がお話ししようと思っているテーマは、そこに書いてあります主に四点であります。最初は、東アジアと日本のODA、これは下村先生もさっきおっしゃいましたので若干重複しますが、簡単なおさらいです。二点目は、東アジアにおける経済統合、これも現状のおさらいでございます。三点目が、そうした経済統合が進む東アジアに我が国日本としてどういう視点を持ってこれに臨むべきかということを、そこに書いてあります四点で整理をしてみました。最後に、この四点を受けて若干の提言を申し上げたいというふうに思います。
最初に、東アジアと日本のODAでございますが、よくこの円借款、経済インフラ、東アジア、これが日本のODAの特徴というふうに言われます。例えば、一番上の円借款中心というところを見てみますと、日本と、このDACと書いてありますが、DACの平均値を意味しますが、九四年から九五年で日本は援助のうちの借款部分が三割、DACが九%でした。これが二〇〇五年に、日本は随分減りましたけれども九%で、DACは返済が多くて新規が出ていないということでマイナスになっている。以下も同じような見方で見ていただけると、日本のODAの特徴というのがお分かりいただけるかと思います。
このODAがつぎ込まれた東アジアがどのような経済発展を遂げてきたのかということをODAとの関係も含めまして見ますと、一点目に、世界の開発途上国をアジア、アフリカとか中南米とかそういう形で地域別に特徴を出してみますと、東アジアの特徴の一つとして、ODA依存症からの脱却、先ほどもおっしゃいました卒業ということが言えると思います。
これはどういうことかといいますと、一人当たりGDPの高まるのに伴い、ODAのもらう額、経済と比べたときの相対的な額がどんどん落ちていっていると、成長とともにODAの額は減っている。あるいは、ODAをもらってもそれが政府の消費支出、これは公務員の給料とか借金の返済に充てられるお金ですけれども、そういうのが増えていない。逆に言うと、一部の地域では、ODAをもらうんだけど、そのもらうことによって政府の消費支出が増えるということが起きているわけです。東アジアはそういうことはなかったということです。
ODAと離れて見ますと、開放的な経済体制をつくってきたということです。世界経済に占める東アジアのシェアの拡大というのは改めて言うまでもありません。
この上の二つを可能にしたのは民間資金による開発であると、つまりODAではないというふうに見るべきであろうと思います。やはり雇用、貿易、イノベーションを促進し、経済を活性化させるのは民間資金であります。政府は、この民間資金を活性化させるために、自らがこぎ手となるのではなくて、市場経済をうまく機能させるかじ取りとなっていったというのが東アジアの経済発展のポイントであろうと思います。
これを具体的に見たのが図表の一でございます。青いドットが東アジアでございますが、東アジアの民間投資を中心に投資がなされてきたということがお分かりいただけようかと思います。
それで、ODAの役割ですが、民間投資とODAの関係を見ますと、東アジアではODAは民間投資を触発するあるいは促進する呼び水としての機能があったというふうに評価をできるというふうに思っております。
二点目は、経済統合についての簡単なおさらいです。
経済統合にはいろんな段階がございます。左から右がいわゆる統合の形として深化をしていっているということになりますが、例えば日本が今目指しております、アジアと二国間で結んでおりますEPAというのはFTAにプラス、FTAプラスというふうに位置付けることができるかと思います。つまり、FTAに労働力の移動とか、あるいは制度の協調化を含んでいるという点でプラスであると。ASEANが目指しておりますところはコモンマーケットマイナス、ここから幾つかの要素を取り除いたところが当面の目標であるというようなことをASEANの人は言っております。御承知のように、EUは一番進んだ経済統合というところに行っておるわけでございます。
世界のそのFTAの数と、地域別にそれがどういうふうに動いているかというのを見たのが図表三と四でございます。FTAがどんどん世界的にいろんなところでなされてきておると。それに参加しないことは著しく国益を損なうということになって、FTAが次なるまたFTA、あるいはその参加国の拡大を招くという循環が九〇年代に入って、WTOの交渉の挫折というのもありますが、そういう動きが世界で顕在化してきて、日本もそれに乗り遅れまいということになったということだと思います。
東アジアにおけますFTAの構図は、皆さんよく新聞等でごらんになるものをまたここに転写してきたわけですが、このとおりでございます。
次に、経済統合にいかなる視点で取り組むべきかということを考えるときに、地球上で展開されてます大きな経済統合を目指す組織といいますかエリアとして、東アジアだけではなくて、ヨーロッパにはEUがあって、アメリカ、中南米を含むところではFTAAというのがあります。それを三つを比較して見てみたいと思います。
この最初にEUの図を出してありますが、縦軸は一人当たりのGDPを取って、横軸に経済規模、丸の大きさは人口規模だとお考えください。横に千ドルを超えたところに線が引いてありますが、これは日本のODAにおいて無償援助を卒業するラインだというふうにお考えください。
EUと、次、これがFTAA、米州自由貿易協定、その次、東アジア、今三つを見てまいりました。時間がないのでざっと過ぎて恐縮なんですが、この三つをよくよく見比べて言えることが幾つかあります。
一つは、東アジアにおいて経済統合は一体だれが主導するんだという問題が出てきます。つまり、経済規模が大きいからその地域をリードするのか、あるいは成長率と人口規模を掛け合わせたものが大きければその国を、リードするのかと。まあ大ざっぱに言って二つの考え方が、まあ政治力の話を除外するとあるわけですが、この二つで考えると、東アジアにおいては日本と中国がやっぱり出てきてしまって、ヨーロッパのドイツ、フランス、あるいは米州におけるアメリカというような明確なリーダーシップが存在しないということです。
東アジアのもう一つの特徴は、東アジアの中には既にFTAで先行して共同体を目指しているASEANが存在すると。この東アジアの経済統合はASEANが実際にはキャスチングボートを握るだろうと。これは、ASEANプラス3の枠組みがどうやってできたかということを見てもそういうことが言えようと思います。
ASEANは、キャスチングボートを握ることによって、右手に中国、左手に日本を置いて両てんびんに掛けてより有利な条件を引き出すということができるわけですが、これによって、一方で、東アジアではASEAN、ここで紹介した以外にもASEANは各国独自にいろんな国とFTAを結んでおります。そうやってそのFTAが重層的に重なることによってASEANは相対化をしてしまう危険性があります。この危険性をなくすためにはASEAN自体が東アジアで最も進んだ統合体であるということを示さなければなりませんので、統合のスピードアップを図らなければいけないと、しかしそれが本当にできるんだろうかというASEANの問題が浮上いたします。
日本はASEANのこの全方位外交に揺さぶられることになるわけですが、それよりもより深刻な問題としては、ASEANがスピードアップを図るんだけど、それによって統合の質が逆に低下をしていって、東アジアにおけるASEANの求心力が低下して、ひいては日・ASEAN連携が弱体化していくというシナリオもあり得るのではないかと、そういうことを懸念をしておる次第です。
もう一つは、ASEANは開発途上国が域内に非常に多く、しかも経済格差が大きいので、ODAに対する需要が強いということが言えます。その一方、ASEANは経済協力の枠組みを持っておりませんので、この地域でODAをするということ、ODAが重要だということになりますと、当然日本がその役割を担わざるを得ないわけであります。
日本にとっての課題は、一つの地域でマーケットメカニズムによる競争、FTAは基本的にそういう性格を持つものですが、それとODA、財政資金を通じてその開発を支援するという行為ですが、これをどうやってバランスを保つのかと。両方がうまく補完的に動けばいいのですが、場合によっては、その原加盟国、ASEANのオリジナルのメンバーは競争をASEAN内でどんどん促進するんだけれども支援はできないので、ASEAN内で不協和音が高まると、日本を見てどうぞお願いしますということになりかねない。あるいは、新規加盟国はそうした構造に不信感を高めて、弱い者同士で集まって弱者連合を結成して、日本、ASEANの原加盟国あるいはアメリカ、中国も視野に入れて揺さぶりを掛けようとすると。これは、ASEANにとっても、あるいは日本にとっても好ましくない方向であろうというふうに思っております。
我が国のODAの課題としては、そこに挙げてあります信頼関係の醸成、ASEANの求心力の維持、あるいは各国の自助努力をいかに誘発するかという問題が課せられておりまして、これを要約すれば、ASEANの経済統合の一層の深化を促す、それによって日・ASEAN標準を東アジアのスタンダードにしてそれをその他の地域に広げるということをODAの一つの目標にする必要があろうというふうに思います。
二点目は、開発課題の多様化、視点として、開発課題の多様化の問題であります。これは東アジアに限ったことではありませんが、グローバル化に伴って、社会不安が拡大する現象がいろんなところで起きております。グローバル化というのは資金とかマーケットで対外依存を必然的に高めますので経済発展のチャンスを得ることはできるんですが、それに伴うリスクも高まると。ミクロレベルで見ても、所得格差が拡大して、貧困層はよりそのショックに対して脆弱になるというような傾向が見られます。開放的な経済体制、例えばWTOに加盟すれば無条件で経済発展をするかというと、そういうことでも当然ないわけであります。
ここに、東アジアにおける幾つかの事例ということで紹介をしております。直近のタイのクーデターだけをここで取り上げてお話ししますが、いろんな見方があるとは思いますが、いわゆるタクシン政権下で市場経済にのっとって成長重視だということでいったその揺り戻しが今回のクーデターととらえることはできないだろうかというふうに私は思っております。
そういう東アジアで起きておりますいろんな摩擦、揺り戻しは、いろんな要因があろうかと思いますが、やはり共通点として、グローバル化によってその所得格差が拡大して貧困層の脆弱性が高まり、それによってナショナリズムが高揚するというメカニズムが働いているというふうに私には思えてならないわけです。
一方で、一橋大学の南先生という方が、第二次大戦前の我が国における著しい不平等が軍部の台頭を招いたという著書で指摘をなされておりますが、この指摘は、東アジアにおけるナショナリズムの高揚とか、あるいは、それが市場統合に与える影響を考える上で重要な示唆を与えるというふうに思うわけであります。
これは、図表九は、先ほど申し上げたWTO加盟によって必ずしも所得が伸びるわけでもないし、貿易が伸びるわけでもないということを確認したものであります。
開発課題の多様化として、もう一つ、グローバル化に伴い、標準モデル、つまり、こうすればこの問題は解決できますよという課題が非常に増えてきたということを申し上げたいと思います。
アジア通貨危機の後に、企業統治はどうあるべきかと、あるいは、資本の自由化どうあるべきだという議論は盛んに行われましたが、マニュアルが完成したわけではありません。あるいは、アジアで進む高齢化に今後アジアはどう備えるべきかという問題も正解のない問題であります。
我が国のODAの課題としまして、上の、さっきも述べました問題を受けると、開放経済体制及び社会変動に伴うリスクをいかに最小限にし、その成長の持続性を高めるかと、そのための政策はどうあるべきか、あるいはその政策をつくる能力をどう支援するかという、より高度な課題にODAは取り組まなければいけないのではないかと。
要約しますれば、従来、基本的には相手国の要請に基づいて我が国ができることを選択して援助してきたわけですが、開発国のニーズを見据えてすべきことに迅速に対応すると、そういう体制が我が国のODAに求められているのではなかろうかというふうに思っております。
三点目でございますが、視点の三点目は、国際的な援助潮流の変化にどう対応するかということであります。
国際的と申しますのは、ここに挙げているのは特に北欧諸国を中心とする援助潮流ですが、重視される点は、そこに書いてありますように、社会セクターを中心に無償援助で、地域としてはサブサハラアフリカを中心にして、相手国のガバナンスを見ながら援助ドナーが協調してこれに当たりましょうということであります。
この援助協調というのは、協調という言葉は美しいんですが、実態上は、最も進んでいる地域では、相手国の長期開発計画と援助計画を整合させて各ドナーが協調してこれに開発に取り組むと。その結果として、援助の目的、手続、手法の共通化がどんどん進んでくると、現場で進んでくるということがあります。更に進みますと、相手国の法制度もそうした援助国のワンボイスの下に変わっていくということが起きます。
これはどういうことを意味しますかというと、金額が大きいからといってドナーコミュニティーあるいは受取国における援助国の存在価値が規定されないということです。協調は実質的には競争にもうなっておりまして、競争に敗れるあるいは参加しないということは我が国のプレゼンスの低下を招くということであります。
じゃ、どうするかということですが、日本としての課題としては、受取国及び他のドナーの支援を得られる包括的、効果的な援助戦略を出して、その成果を積極的に示していくということが今まで以上に必要になってくるというふうに思います。
四点目は、民間投資とODAの関係でございます。
ODA大綱には国益ではなく国民益と書いてありますので国民益というふうに言いますが、直接投資を促進することもODAの役割の一つであるというふうに書かれております。実際、ベトナム、インドネシアでは、そこに書いてありますようなイニシアチブ、行動計画が立ち上がって、進出日系企業から投資上の問題点を聞いて、それを二国間政府の首相同士の合意の下で解決を図っていくというような動き、新しい動きがあります。これは、私は今までにないものとして大変評価をしたい。日系企業も高く評価をしているし、現地の政府からも高く評価されているというふうに思います。
しかし、これはどこでも通用するやり方かというと、そういうわけでもありません。企業の要望に基づくものですから、近視眼的で対象範囲も限定されがちですし、相手国政府と企業との対話の枠組みができれば、日本の政府がそこにいつまでもとどまる必要はなくて退出をしていくというシナリオが妥当であろうと思います。
課題の四つ目として、日本の政府がODAをどう活用すればいいんだろうということで、市場経済の主役である民に聞く、企業に聞くということは非常に重要であります。しかし、官の本当の役割はそこにとどまらず、より幅広い国民益を反映してプロジェクトを作ることではなかろうかというふうに思うわけです。
以上の課題を今三点挙げましたが、一点目の課題、ASEANの経済統合の深化、日・ASEAN標準を広げるということについて具体的に何をしたらいいかということですけれども、これは、ODAの議論とは別のところにあります問題を解決しなければならない。つまり、ODA云々を語る前に、ASEANとの質の高いEPAをまず締結すべきだということを申し上げたいと思います。
二点目は、韓国、タイとか、ODAを卒業したあるいは今後卒業する国とどうやって連携を組むかということが重要になってきます。かつ、これらの国と政策対話と相互モニタリング、お互い経済改革をどう進めているのかというモニタリングも機能させながら、小泉首相、前首相がおっしゃった、ともに進み、ともに歩む率直なパートナーであるというふうにASEANを位置付けられたわけですが、これを具現化していくということが必要なのであろうというふうに思います。
課題の二と三で指摘した点につきましては、新生JICAが誕生しますが、その部分、そこの頭脳部分を拡充して、日本はもちろんなんですが、日本以外のリソースも日本の援助戦略に取り込むような頭脳の拡充が必要であると。それに伴って、ODAの関係組織として海外経済協力会議とかODA戦略会議、各省庁いろんな組織がありますが、あるいはその一方で、日本・ASEAN行動計画とか政府内でいろんなイニシアチブ、構想が発表されております。そういうものをきちんと整理して、新JICAをそこにどう位置付けるんだという議論も必要ではないかというふうに思っております。
そして、下村先生もおっしゃいましたけれども、やはり新JICAは巨大な組織になるわけです。そこで生まれたいろんなノウハウをやっぱり蓄積して発信する能力を高めるというのが一番合理的だと思いますので、現地機能を強化するとともに、日本においてそれを支援する。権限を強化させるんだから評価体制もきっちりとつくるというような体制をつくっていくということが必要であろうと思います。
図表十は、先ほど申し上げました援助協調について若干のイメージを持っていただくために作ったものであります。左が援助協調前、右が援助協調後です。
コア業務の大きさ、つまり予算を遅滞なく執行するというその基本的な業務は、海外の日本の援助機関においてこの業務が全体業務に占める割合というのは非常に小さくなっております。つまり、それだけ周辺業務が大きくなって、先ほど申し上げた課題にとても対応できる体制になっていないと。ゆえに、その図の部分を拡充をしていくということが重要であるというふうに申し上げたいと思います。
四点目の提言は、幅広い国民益を想定したプロジェクトの創造ということでございますが、既存の取組としてはそこに挙げてあるものがもう既に発表されております。しかし、それ以外にも、そこに書いてありますアジアバロメーター、詳しくは申し上げませんが、そういうものとか、東アジアの少子高齢化にどう向き合うかというようなことについても我が国のODAを活用する範囲があろうと。あるいは環境もそうであります。必要なことは、できること、我が国はこの分野に比較優位があるんだからこれをやりますということではなくて、相手側のニーズに立って知の蓄積と統合を図るということが重要なのであろうというふうに思っております。
時間の関係で補足ははしょらせていただきます。
以上でございます。