2009-04-21
衆議院
田中英高
厚生労働委員会臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会
田中英高の発言 (厚生労働委員会臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会)
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○田中参考人 大阪医科大学の田中英高でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
お手元の資料、ちょっと確認お願いしたいのですが、小児科専門医から見た小児脳死臓器移植云々、パワーポイントのようなもの、これが一つ。それから、小児の長期脳死自験例五例という田辺の論文ですね、これが一つ。それから、脳死小児から被虐待児を排除するという、これが一つあります。
全部で三つですが、今から、小児科専門医から見たというこのパワーポイントのような図、資料に従ってお話しさせていただきます。
私は、日本小児学会の専門医であり、倫理委員会の会員でございますが、実際、現場で働いている小児科医でございます。難しいことはわかりません。ただ、小児科の現場ではこうなのだということをお話しして、御理解いただけたらと考えております。
二番のところを見てください。
ことしの二月に、小児科学会は移植推進の方向に進むという報道がなされたかと思いますけれども、三日前に日本小児科学会の総会がございまして、そちらではこのようなコンセンサスに落ちついております。「臓器移植を必要とする子どもが移植を受けられずに亡くなることは心情的に耐えられないが、現時点では脳死臓器移植推進に賛成か、反対かの結論は出せない。これまでの日本小児科学会が提起した三つの問題を含めて、再度、会員全体の意見を集約し、速やかに検討する。そのための委員会が作られることが確認された。」
翌日の十九日、倫理委員会がございました。私も委員でございますが、子供の人権を守るという立場からこの委員会は動いております。
そちらでは、脳死臓器移植に関する議題が検討され、以下のようなコンセンサスがほぼ得られております。これは非公式でありますが、公開してもよろしいということでございます。「二〇〇五年四月で提言した見解は現時点でも」生きており、今後、解決に向けたアクションが必要である。「小児脳死判定基準(二〇〇〇年)を用いて脳死と判定しても、一〇〇%の症例で脳機能が戻らない、とは医学的には断言できない。意見表明できない子どもにとっては人権が損なわれる恐れがあるので、」二〇〇五年、二〇〇六年、両方の「見解以上の脳死臓器移植適応拡大には危惧の念を表す。したがってA案には賛成できない。」ということでございます。
三番に行きますが、これは小児科学会が二〇〇五年と二〇〇六年に出した臓器移植に関する見解であります。この中で、もし基盤整備がなされたらB案でいきましょうということでございますが、ただ、親族への優先項目については問題があると言っております。
この基盤整備三つ、何かと言いますと、一つは被虐待児からの臓器摘出防止に関する基盤整備、二番は小児の脳死の判定基準の検証並びに再検討、三番は小児の意見表明権の確保に関する基盤整備であります。これを一つずつ、今からお話ししたいと思います。
四番を見てください。QアンドAにしてあります。
Qの一、被虐待児の紛れ込みを防げるか。これは、約一割の小児科医にしか適正に行えないというのが今の小児科医の考えであります。それは、二〇〇七年の日本小児科学会の調査、これは回答が四千百八十七人でしたが、そこにデータがございます。小児ドナー候補者が被虐待児であるか診断が適正に行えるか、これは、はいと答えたのは一二・三%であります。
なぜ行えないのか。理由は簡単です。親が隠ぺいするからです。虐待した親が自分の犯行を隠ぺいするからです。これは、二〇〇四年の日本小児科学会の調査で明らかになっております。この調査では、過去五年間に身体的虐待を受けた症例が千四百五十二例ありましたが、この中で脳死や重度障害を残した者は百二十九例です。その中で、虐待だと診断が確定するまでに要した日数が七日以上、一週間以上要したものは一割以上の十九例あります。さらに、二カ月以上、六十日以上要したのは九例もあるわけですね。これほど見つかりにくいということです。そちらの表の右の方に破線で丸く囲んでありますが、実際にそれぐらいの症例が、大変見つかりにくかったということです。
なぜ見抜けないのかということなんです。これは、いまだに警察も虐待を見抜くのは大変難しいと言っております。
今から十五年前の話です。私自身の経験でございますが、五歳の女の子がアレルギー性紫斑病という病名で入院してまいりました。これは足の方に小さなあざができるものでありますが、アレルギー性紫斑病という病名がつきまして、それで治りましたので退院いたしました。そのときに、ちょっと心配だねと言っているドクターもいたんです。親の言動がちょっと心配だと言っていたんですけれども、みんなで協議した結果、大丈夫ではないかと。今から十五年前ですから、通報する義務とかその辺の法律はまだなかった時代です。でも、私たちは非常に心配しておりましたが帰しまして、非常に残念でした。一週間後、そのお子さんは虐待で死亡いたしました。
これは私の非常につらい経験であります。法律の中に文言を盛り込んだといっても、そう簡単に済む問題ではございません。失礼いたしました、ちょっと興奮いたしました。申しわけございません。
五番目に参ります。
これは二つ目の問題であります脳死判定の問題でございますが、新生児を含む小児の脳死診断は医学的に可能と思うかという質問に対して、小児科医の約七割は、不可能か、わからないと回答しております。これは、小児科医は今の脳死判定基準は不安なんです、みんな。不安なんですよ、大丈夫なのかと不安なんです。これについては後でちょっとお話しいたします。
三つ目の問題、子供の意思表明権ですが、子供の意思表示なく、親の了解のみで臓器提供できるかという質問に対しては、十二歳から十五歳の子供では、それでも構わないと答えたのは一七%。やはり八割ぐらいの人は、子供の意思表示を重視してくださいと小児科医は考えています。六歳未満の子供は親の承諾だけでいいというのは五五%、半分ですね。ただ、六歳未満がドナーとなるのは不適当と答えているのは三分の一います。
さて、二つ目の問題、子供の脳死の判定がこれでいいのかどうかということですが、六番目を見てください。
小児脳死判定による診断は、結論的に言いますと、一〇〇%完全とは言い切れない。先ほども申しましたが、そのとおりです。我が国の小児脳死例の百二十一例の検討結果から、このように結論できます。この論文は、先ほど言いました小児の長期脳死自験例五例の中に詳しくありますので、後で御参考ください。
結論的に言いますと、一九八三年から二〇〇五年、これは二〇〇六年の間違いですが、二十三年間の医学文献を医学中央雑誌より検索し、三十七文献を解析しました。脳死体の実態、脳死判定後に脳機能が回復する例があるのか、検討いたしました。その結果、脳死症例は全部で百二十一例ありました。この脳死というのは、ほとんど臨床的脳死であります。その下に書いてありますように、無呼吸テストはたった九%しかしていません。
要するに、何でこんなに無呼吸テストを小児科医はしないんでしょう。皆様方、無呼吸テストというのは何分間息をとめるか御存じでしょうか。一分ですか、二分ですか。違います。前のマニュアルでは十分間です。十分間呼吸をとめるんです。皆様方のお子様あるいはお孫様がすやすや寝ているときに、十分も呼吸をとめられますか、そのような検査を受けられますか。だから小児科医は無呼吸テストができないんです。普通です、それが。済みません、またちょっと興奮しました。
続きですが、下の方に脳死判定後の脳機能の回復例というのが、わずかですがそこに書いております。
七番目、ここに脳死判定後に脳機能が回復した例がございます。
これは三つありますが、一番目、十一歳、この子は、無呼吸テストは一回だけしかしておりませんが、その後、自発呼吸がわずかながら出ております。脳死診断後、約一年以上生存しておると聞いております。これは実際に報告があったものです。
二番目の三カ月の乳児ですが、これはかなり厳しい診断基準で、判定で、二回無呼吸テストをきちんとやりましたが、脳の血流が戻った、あるいは聴覚脳幹反応という脳波がわずかに回復したということが報告されております。意識は戻っておりません。自発呼吸も戻っておりません。
この表にあります十一歳を少し詳しく見ていくのが次の八でございます。
無呼吸テストから三百三日目に自発呼吸が再開した十一歳の男子ですが、真ん中ほどに、第十七日目、無呼吸テストで脳死を確認しております。これは、無呼吸テストを十分間やっております。ただ、一回しか無呼吸テストをやっておりませんので、二〇〇〇年の脳死診断基準ではございません。ただ、この症例でも、第八十病日に刺激により反応性の脳波があった、三百三日、不規則ながら自発呼吸が出現したということでございます。
九番目のところに参ります。これはまた別の報告でありますが、脳の一部が生き続け、身長は八センチ伸びた十一カ月の男児例でございます。
この子の場合には、無呼吸テストは何回もやっておりますが、第百三十九日目に、大泉門といいます、ここの頭皮からどろっとしたものが出てきたんです。それは、脳が腐って出てきたんですね。脳が溶けて、頭の皮膚から流れてきました。しかしながら、この子は、第二百五十三日目に身長をはかってみたら伸びていたんです。入院時より八センチも伸びていた。脳死した期間に八センチ身長が伸びたということです。それで、この十一カ月の間の成長ホルモンをはかってみたら、実際に出ている。成長ホルモンというのは脳下垂体から出ているわけで、脳の機能が一部生きているということです。
脳死になってもこのようなケースがまれにでもあるということを一般国民も知っているんでしょうか。このようなことを広く国民に知っていただいて、脳死の臓器移植の議論を進めていただきたいと切に思うわけであります。
十番、これをまとめております。我が国の脳死例百二十一例から見た脳死診断の限界性ということであります。
小児では、脳死状態から心臓死まで、長期間生存することがまれではありません。脳機能、脳血流や自発呼吸が一時的にでも回復した例が、まあ、まれであります。これは何%かわかりません。きょうのデータでは三%でしたが、もっと少ないかもしれません。ただ、小児の脳神経細胞は、抵抗力があり、代償機能が強く、まだ未知な部分が大変多うございます。二〇〇〇年に出された六歳未満の子供に対する脳死判定基準は、それを満たした十一例をもとに作成されています。この十一例の調査のみで脳死判定の正当性を導くのは科学的でなく、危険ではないかと考えております。小児の脳死診断には限界があるという事実を国民に広くわかっていただくということが重要だと思っております。
なお、この調査の詳細は、今さっき言いました田辺の論文にございますが、この論文でもう一つ重要な論点がございます。それは、表二の中にございます。表二を見ていただいたらよろしいかと思いますが、突然に脳死になった、保護者というのは自分の子供の脳死状態とか死であるということを受け入れられないんですよ。だから、もっと治療してくれと言うんです、もっと長生きしてほしいと言うんです。そして実際、自分の子供が死ぬだろう、だめだろうと思うまでに大変長い期間がかかります。ですから、そのところをよくよく皆様方に御理解いただいて、死に行く子供さんの、グリーフケアといいますが、その辺のことも十分議論していただけたらありがたく思っております。
最後の方ですね、十一番に参ります。
これは、脳死判定基準をおつくりになった武下先生が二〇〇五年に発表された学術報告でございます。武下先生は、もはや脳死は人の死の根拠すら崩壊したとおっしゃっています。
それはなぜかといいますと、これは有名な話ですが、脳死は人の死となる根拠は、線を引っ張っておりますところの統合有機体説、つまり、脳は体の全部の臓器を統合している場所であるから、脳死になればもう体の臓器があちこちばらばらに動き出すので一週間ぐらいで亡くなってしまう、これが統合有機体説であります。ところが、きょうもお示ししましたように、脳死になっても何年も生き続ける子がいるわけです。つまり、この統合有機体説は説得力が乏しくなった。これは武下先生もおっしゃっておられます。
最後になります。先ほどもお話がありましたように、国民は、臓器移植に対する必要性というのは非常に皆さんよく理解しておられます。ただ、脳死の基本的な知識というのは国民の方はほとんど持っておられないわけなんです。先ほどのパンフレットでも全部書いてありません。ここに書いております、十項目ありますが、せめてこれぐらいの基本的知識は皆様方に持っていただけたらと思っております。ペケと書いているのは間違いです、マルは正しいんですが、この程度は皆さんに知っていただけたらと思っております。
本日は、子供の人権を守るという立場から三つのお話をしました。一つは被虐待児の紛れ込みの問題、二番目は脳死判定の検証、三番目は子供の意見表明権であります。
日本小児科学会は、これらの問題がクリアできたらBというふうに言っておりますが、私は個人的に、現場で働く小児科医といたしましては、A、B、Cどれでもなく、何が正しいのかもう一度きちんと検証していただきたいと思います。そうでないと、小児科医は大変不安でございます。
本日は、どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)