斎藤謙次の発言 (厚生労働委員会臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会)

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○斎藤参考人 日本宗教連盟の幹事を務めております斎藤と申します。
 本日は、日本宗教連盟及び宗教界の意見を申し上げる機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
 日本宗教連盟は、昭和二十一年に結成された連合会でございます。宗教団体相互の連絡、宗教文化の発展、これを大きな目的としてございます。現在、教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会、五つの協賛団体によって構成をされております。
 私たちは、脳死臓器移植問題は、個々人の死生観に深くかかわる大変重要な問題であること、そして、人間の生と死に対する考え方に大きな影響をもたらす問題であると受けとめさせていただいております。平成九年五月以来、ちょうど臓器移植法案が参議院で審議をされているときであったかと存じますが、そのとき以来、意見書、声明書を発表し、国会での慎重なる審議を訴えてまいりました。
 私たちは、四月の十七日、意見書をまとめ、衆参全国会議員にお届けいたしましたので、本日は、お手元にございます日本宗教連盟の意見書、これをもとに意見を申し上げさせていただきたいと存じます。A4一枚の意見書でございますので、ごらんをいただければと存じます。
 これから五点ほど意見を申し上げ、その後に、最後に宗教界の意見、見解を御紹介申し上げたいと存じます。
 第一は、脳死臓器移植にかかわる問題は、医療技術の問題に矮小化してはならないということでございます。
 私たちは、臓器移植法の改正は、医療技術、医療現場の状況だけではなく、宗教、文化、法律、倫理などを総合して検討すべきであると考えております。特に、次の世代を担う子供たちを含め、日本人の死生観の形成に及ぼす影響が大きいことから、社会のさまざまな分野の意見を酌み取り、社会的合意を得た後で改正を図られるよう、お願いを申し上げたいと存じます。
 第二に、脳死は人の死ではない、脳死をもって人の死としてはならないということでございます。
 臓器移植法が施行されて約十二年がたとうとしておりますが、脳死状態でありましても、心臓が動き、温かい血液が循環している人間の体を人間の死としてしまうことに、今も多くの国民が疑問と不安を感じております。脳死と判定されましても、汗も涙も流します。妊娠をしておられる女性の場合には、出産をしたことも報告されています。
 日本人は、長い間受け継がれてきた文化の中で、死の三徴候、すなわち、心臓が停止し、呼吸がとまり、瞳孔が拡散したときをもって死を受容してきたわけでございます。臓器移植法では、脳死は脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至った状態、このように規定をされておりますが、心臓が鼓動を続け、呼吸をしている人間の体を、どうしても日本人は人間の死として受容することができないのだと思います。
 具体例を申し上げますと、昨年の六月三日、本小委員会で参考人として出席されました中村暁美さんは、二歳八カ月で脳死と診断されたお嬢さんがその後一年九カ月生き続けられたことを御紹介されました。そして、最終的に、抱き寄せた自分の腕の中で我が子の唇の色が変わり、顔から赤みが失われ、体がだんだんと冷たくなっていく、これを感じて初めて、我が子が死んでいったということを実感されたということを述べておられます。
 年を追うごとに、医学界のみならず、科学者、法律家の中からも、脳死は人の死ではないとする見解が次々と出されております。こうした中で脳死を一律に人の死とみなす改正案は、将来に禍根を残すものと危惧をする次第でございます。
 第三は、本人の書面による意思表示は臓器移植にとって絶対の条件であるということでございます。
 A案では、本人意思が不明であるときは家族の承諾で臓器提供を可能としておりますが、ここには大きな問題が潜んでおります。平成十八年十月、愛媛県宇和島市で生体移植によって臓器が売買されるという事件が起きましたが、これは臓器提供の書面による意思表示がなかったことが大きな原因とされております。将来にわたりこうした問題を二度と起こさないためにも、本人の書面による意思表示は臓器移植を進める上で欠くことのできない絶対条件であると考えております。
 宗教界での例を申し上げます。
 例えば、キリスト教の中では、脳死状態における臓器の提供を愛の行為として位置づけてまいります。これは、本人がみずからの意思で進んで提供を表明しているときに、崇高な愛の行為となってまいります。しかし、その逆に、本人が提供の意思を表示していないときに、脳死を人の死とみなしまして臓器提供が実行されるならば、そこには愛の要素は消えうせてしまいます。そうした行為は、社会の中から広い意味での人間愛をも失わせていくことにつながるものと危惧をする次第でございます。
 十二年前を思い起こしていただきたいと存じます。臓器移植法の参議院での審議の最終過程におきまして、国内には脳死を人の死とすることに反対する多くの国民がいることを重く受けとめ、本人が臓器の提供の意思表示をしている場合に限り脳死体とすることで、移植への道を開いたという経緯がございます。こうした移植法の成立過程を振り返りますときに、本人の書面による意思表示を廃止することは、臓器移植法の改正ではなく、全く新しい法律を制定することになり、反対を表明せざるを得ません。
 第四は、脳死臓器移植は普遍的医療にはなり得ないではないかということでございます。
 私たちは、医学や科学の進歩を否定するものではございません。しかし、医療技術の発達がもたらした脳死臓器移植という治療法は、生きている他者の重要臓器の摘出を前提としている限り、普遍的医療にはなりがたいものではないか、あくまでも緊急避難的な治療法と言わざるを得ないのではないかと考えております。
 四月四日、長野県安曇野市の県立こども病院は、これまで心臓移植でしか救うことのできなかった一歳以下の乳児の拡張型心筋症に対してペースメーカー治療を五例実施し、四例で成功したことを発表いたしました。まさに、医学の進歩が、これまでできなかったことを可能とした例でございます。
 近年の再生医療の進歩はまことに目覚ましいものがありますが、それだけに、脳死の定義、判定基準をより厳密なものとしていかなければならないと考える次第でございます。また、同様に、臓器移植に対する疑問を取り除いていくためにも、移植の必要性、適正性についての検証機関の設置も必要になってくるものと考える次第でございます。
 年々、救急医療の進歩が明らかになってきておりますが、これは、総体的に、脳死状態になる人の減少を意味しております。こうした状況の中で拙速に人の命にかかわる法律の改正を図ることは、将来に禍根を残すものと言わざるを得ないと考えております。
 第五に、こうしたことを踏まえまして、日本宗教連盟は、第二次脳死臨調の設置が必要であるということでございます。
 改正案のうち、A案は、臓器提供の年齢制限を設けないこと、また、B案は、現行の十五歳以上を十二歳以上に引き下げる内容となっております。
 しかし、社会的に弱い立場にあり、脳死臓器移植に十分な理解を持ち得ない子供の臓器提供と移植は、大人とは別のルールが必要ではないでしょうか。また、親が子供の命にかかわる意思をどこまで代弁することができるかなど、検討すべき多くの問題を抱えております。
 現在でも、脳死状態での子供の蘇生力については十分に解明をされておりません。さらには、虐待を受けた子供から臓器移植を行わないなど、検討されなければならない多くの問題が残されているのが現状でございます。
 こうした現状の中で、日本宗教連盟は、第二次脳死臨調を早急に設置し、多くの専門家による総合的な検討に加え、広範な社会的な議論と意見集約の必要性を訴えたいと存じます。
 これまで日本宗教連盟の見解を申し上げてまいりましたが、最後に、宗教界からの幾つかの見解を御紹介申し上げたいと存じます。
 神道、仏教、キリスト教、新宗教などそれぞれの教団に附置される研究所によって構成される教団付置研究所懇話会というものがございますが、ここでの見解を御紹介申し上げたいと存じます。お手元の資料の中に、一枚の資料としてこの見解を御紹介させていただいております。
 例えば、浄土宗では、人の臓器を資源とみなすことに懸念を表明しております。
 曹洞宗では、日本人にとって、遺体が傷つけられるということについての懸念を表明しております。
 真宗大谷派では、人間の生と死ということについての意見を表明しております。
 また、大本では、平成十二年の十月でございますが、脳死は人の死でないとする八十七万人の街頭署名を集め、厚生大臣に提出をしております。そして、小児脳死を含めた第二次脳死臨調の立ち上げを訴えております。
 このほか、日宗連には参加していない団体の中にも、研究論文の中で意見をまとめているところもございます。例えば、脳死における臓器移植において前提となるのは患者本人の自発的、自由な意思である、したがって、本人が生前に脳死を人の死と認め、脳死における臓器提供の意思を持っていたことが確認できない場合には、たとえ家族にその意向があっても、現段階では直ちに臓器提供に踏み切ることは慎重でなければならない、このような見解を出しております。
 世界では宗教の対立が叫ばれますが、我が日本では諸宗教が協力をして、対話を重ねながら社会の問題と取り組んでおります。日本宗教連盟もその一つでございます。また、先ほど御紹介を申し上げました教団付置研究所懇話会、その活動も一つでございます。
 この臓器移植法の改正は、一歳の乳児から百歳のお年寄りまで、すべての日本人に及ぶ問題でございます。いろいろな問題もございますが、過半数で決するのではなく、社会的合意が成立するまで検討を重ねられますよう強く要望し、意見陳述を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 斎藤謙次

speaker_id: 12512

日付: 2009-04-21

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会