枝野幸男の発言 (本会議)

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○枝野幸男君 ただいま議題となりました消費者権利院法案について、提出者を代表し、その趣旨及び概要を説明します。
 近代以降、消費者を取り巻く環境、特に消費者と事業者との関係は著しく変化しました。商品、製品やサービス等の高度化と複雑化、事業や流通過程の大規模化などが進み、事業者と消費者との間では、情報や経済力の点で非対称性が著しく拡大しています。
 明治三十一年、一八九八年に施行された現行民法は、契約当事者の双方が対等な関係にあることを前提に組み立てられ、行政による民事不介入を原則として運用されてきましたが、この民法制定時には全く想像のできなかった状況となっています。本来であれば、この百年余りの間に、こうした社会環境の変化に対応して、法制度と行政とを大きく転換し、消費者と事業者との間に生じた非対称性を適正に補うことのできる制度をつくり上げてくる必要がありました。
 ところが、製造物責任法や消費者契約法等が順次制定されてはきたものの、民事消費者法の整備はいまだ不十分です。それでも、裁判所は、判例の蓄積によって実質的公正の確保に努力してきました。が、司法だけで、広がる一方の非対称性を補い、消費者の権利を確保することは到底不可能です。
 また、多くの国民にとって、裁判所は大変遠い存在です。時間的にも費用的にも、何よりも心理的にも、司法を通じてみずからの権利を守り得る消費者はごく一部に限られます。
 特に、個々に見ると被害が少額な事案の場合、裁判というコストのかかる手段で救済や権利確保を図ることは著しく困難です。このため、多くの被害消費者は泣き寝入りを余儀なくされてきました。そして、加害者はやり得となり、不当に得た利益を確保できることから、抑止力が働かず、同種の被害が繰り返される原因となってきました。
 さらに深刻なのは、行政の対応です。
 そもそも近代日本の行政システムは、富国強兵、殖産興業を主たる目的としてつくられました。このため、産業振興を第一に置き、事業者との深い結びつきが形成されて、つい最近まで、消費者行政という意識が決定的に欠如していました。最近でこそ、表面上は消費者を重視する姿勢が見え始めていますが、それでも、百年以上にわたる事業者とのかたい結びつきと産業振興という長年の習性が一朝一夕に変わるものではありません。消費者の観点に立った権限行使には極めて消極的です。
 長年にわたる民事不介入原則がしみついていることもあって、行政が被害救済に積極的になることはほとんどありません。国民生活センターによる被害救済ですら、原則として、当事者の自主的な合意を促すにとどまります。事業者が受け入れを拒否したり、そもそも初めから行政を相手にする姿勢のない、いわゆる悪徳業者であったりした場合は、ほぼお手上げの状態です。
 さらに、日本の場合、省あって国なし、局あって省なしとやゆされるほど行政の縦割りによる弊害が大きく、中央政府と地方政府との間でも、その役割分担が明確ではありません。このため、消費者が行政の対応を求め、あるいは消費者被害情報が行政に届いても、省や局の間の壁、中央と地方の壁によってたらい回しされ、あるいは情報がたなざらしされる例が後を絶ちません。
 これらの結果として、消費者の生命、身体や財産を脅かす事件が続発しながら、司法や行政が十分に対応できず、被害救済や再発防止が十分に図られない事態が繰り返されています。
 経済産業省が事故情報を把握しながら適切な対応がとられず多くの命が奪われたパロマ湯沸かし器一酸化炭素中毒事故、法律に定められた表示の基準が守られず消費者の利益が損なわれた食品偽装や建物の耐震強度偽装、自治体と厚生労働省との連絡が適切に行われなかったために初動におくれが生じ原因究明に支障を来した中国産冷凍ギョーザ中毒事件、すき間事案であるがゆえに迅速な行政措置がとられなかったコンニャクゼリー窒息事故、相次いでいる生命保険やFXなど金融商品をめぐる消費者紛争やエル・アンド・ジーによる巨額詐欺事件、住宅リフォーム詐欺などなど、例を挙げれば切りがありません。
 これらの事態を受けて、自民党内閣においても、おくればせながら、消費者行政の重視を掲げ、消費者庁の設置に動いたことは、当然のこととはいえ、一定の評価をいたします。
 しかし、百年以上にわたって放置されてきた消費者行政を相次ぐ事態に十分対応できるレベルにまで整備するには、単なる行政組織の組みかえでは不十分です。行政組織を幾ら組みかえても縦割りの弊害が取り除かれないことは、例えば直近の内閣府設置の結果を見ても明らかであります。
 内閣府は、縦割り省庁から超越した立場で、横断的に総合調整を行うことを期待されて設けられました。しかし、調整をするべき内閣府の経済財政担当大臣が調整を受ける側の財務大臣と兼任をしているという、この一点を見ても、その総合調整機能は絵にかいたもちになっています。
 長年にわたって産業振興を担ってきた規制権限を有する各省庁は、これからも、規制を適切に実施する必要から見ても、事業者との強い結びつきを持たざるを得ないでしょう。そんな中で、新設官庁の消費者庁が、霞が関における力関係の中で、こうした古い規制官庁の抵抗を払いのけるような強い指導力を発揮できるとは思えません。
 また、たまたま現在の野田消費者行政担当大臣は総裁候補にも名前の出る大物大臣ですから、野田大臣が今後もずっと消費者行政担当大臣を続けるのならば別かもしれませんが、他の大臣を歴任したキャリアの長い大物の政治家が就任することの多い規制官庁の大臣に対し、消費者担当大臣が本当に影響力を行使できるのでしょうか。
 また、多くの消費者がその被害を相談し救済を求める窓口となるのは、地域に設けられた消費生活センターです。しかし、その権限や法的位置づけがあいまいな上に、現に相談に当たっている相談員の身分が、多くの場合不安定で、官製ワーキングプアの一つとなっています。それでも、相談センターが身近に設置されている地域は、まだましな方かもしれません。厳しい財政状況に置かれている多くの地方政府では、消費生活センターの設置、維持自体がますます困難になっています。この点の抜本的な解決がなされない限り、消費者被害に適切に対応することは不可能です。
 私たちは、新しい消費者のための統治システムとして、以下申し上げる三つの条件を備える必要があると考えます。
 第一に、消費の現場に近いところで、多種多様な直接の相談に適切に対応できるシステムを国の責任として整備する必要があります。
 このシステムは、問題事案の情報を把握するという意味では、行政のアンテナ役を担います。相談、あっせん等を通じて被害救済を図るという意味では、裁判所だけでは十分に機能しない紛争解決機能、つまり司法を補うものであります。
 アンテナ役を担うには、全国どこで生じた情報でも漏れなく一元的に把握される必要があります。また、司法を補うものである以上、全国どこにいても格差なく救済を求めて利用できる仕組みになっている必要があります。したがって、このシステムは国の責任で整備することが重要になります。
 第二に、相談窓口から集められた情報に基づき、各省庁が有している規制権限を適正に行使させることで、消費者の利益を実現させるシステムを構築する必要があります。
 各省庁の有している消費者保護に関係し得る法令は、少なく見ても二百本以上に上ります。多種多様な消費者問題の態様に応じてこれらすべての権限を適切に行使させることが可能でなければ、消費者行政の一元化とは到底言えません。
 しかし、例えば薬事法や銀行法、電気事業法など、これらをすべて消費者関連官庁で所管することは現実的ではありません。世の中の大部分の問題は最終的には消費者とつながっており、関係し得る法律をすべて消費者関連省庁で所管するなら、外務省、防衛省を除いて他の官庁の大部分は必要なくなり、超巨大な消費者省だけで足りるということになってしまいます。
 したがって、規制権限そのものは各省庁に残しながら、必要に応じて消費者行政の観点からその適切な行使を求めるという、一種の行政監視機能を持たせることで、どんな事態にも対応できる現実的な消費者行政を目指すべきであります。
 第三に、相談窓口から集められた情報等を集約、分析することで、必要となる政策を消費者の視点から企画立案するシステムを構築する必要があります。
 現場の情報を最も多く、しかも直接に把握する機関の意見ができるだけストレートに立法府たる国会に届くことが、適切かつ迅速な政策推進のために重要です。
 こうした認識に基づき、私たちは本法律案を提案しました。
 以下、本法律案の内容を具体的に申し上げます。
 第一に、消費者基本法の理念にのっとり、消費者の権利利益の擁護と増進を図るため、内閣の所轄のもとに、すなわち、内閣から一定の独立性を有する機関として、消費者権利院を置きます。
 行政監視機能を十分に発揮させるためには、何よりも内閣からの高い独立性を確保する必要があり、会計検査院のように憲法上の機関として位置づけることが、本来ならば望ましいと考えます。
 しかし、相次ぐ消費者被害に迅速に対応する観点から、人事院や日本銀行など現行憲法下で認められている独立性の高い行政機関を参考に、憲法改正を要することなく設置できる最大限の独立性を有する機関として位置づけました。
 第二に、消費者権利院の所掌事務及び権限として、次の諸事項について定めています。
 一つは、消費生活に関する相談、苦情の処理のあっせん、消費生活に関する情報提供、消費者に対する啓発及び教育などの、幅広い消費者の窓口としての事務です。
 二つ目に、消費者問題による被害の発生、拡大の防止や救済のために必要がある場合、行政庁に対して資料の提出要求や調査の要求を行えるものとしました。
 同時に、行政機関や地方公共団体の長には、消費者問題の発生等について広範な報告義務を課し、一元的に情報が集約される仕組みとしています。
 さらに、事業者に対しても立入検査を含む直接の調査を行えるものとしています。
 なお、本法律案に言う消費者問題とは、取引、安全、表示などを問わず、事業者の行為に起因する消費生活における問題であって、多数の消費者の生命、身体、または財産を不当に侵害する一切のものと定義し、幅広くとらえることとしています。
 三つ目は、行政庁に対し、期間を定めて消費者問題に係る処分を行うことなどを勧告することができると定めています。
 また、勧告を行った場合には、その旨や勧告に係る事業者の名称等を公表することができるとしています。
 四つ目は、消費者問題が発生し、または発生するおそれがある場合において、その被害の程度が著しく、緊急の必要があると認めるときは、消費者権利官が裁判所に申し立て、裁判所は事業者に対する一月以内の行為の禁止または停止の命令を発することができるとしています。
 政府案では、いわゆるすき間事案について、内閣総理大臣が事業者に対し直接に勧告、命令を行うこととされています。しかし、その要件が抽象的で、どのような行為が対象になるのか明確でないにもかかわらず、この命令の違反に対しては一億円以下の罰金が科せられます。行政に対して余りにも大きな裁量権限を与えるもので、濫用防止の歯どめがありません。
 民主党案では、省庁ごとの所管に限定されることなく、ありとあらゆる分野の消費者問題について対象とする一方、裁判所のチェックという適正手続をかませることで恣意的な権限行使を防ぎ得る制度となっており、政府案よりもはるかに現実的であります。
 消費者権利院の所掌事務及び権限の五つ目は、消費者問題によって多数の消費者に生じた損害賠償請求権等について、強制執行が不可能あるいは著しく困難となるおそれがあり、緊急の必要があると認めるときに、消費者権利官の申し立てによって、裁判所が財産保全命令を発することができるとしています。
 政府案の致命的な欠陥は、消費者被害の救済のための仕組みが一切導入されていない点です。消費者行政を幾ら強化したからといって、消費者問題の発生を完全に防止することは不可能です。消費者被害の回復を図り、消費者に被害を与えた事業者の違法収益を剥奪するための制度が不可欠です。
 私たちは、この財産保全命令に加えて、訴訟援助等の規定を設け、後ほど小宮山議員から提案理由を御説明申し上げる消費者団体訴訟法案による損害賠償請求と相まって、違法収益の剥奪と消費者被害の救済に向けた実効的な制度を提起しています。
 六つ目は、国会の要請による特定事項の調査、報告に関する規定を設け、国権の最高機関として幅広い行政監視機能を有する国会との連携について定めています。
 また、国会及び内閣に対する法令の制定、改廃に関する意見の申し出の規定を定めることによって、消費者行政に関して幅広く立法提言を行うこともできるとしています。
 第三に、消費者権利院の組織に関して、次のとおり定めています。
 一つは、消費者権利院の長を消費者権利官とし、国会の議決を経て内閣が任命することとしています。この国会の議決を行うに当たっては、委員会において候補者の所信を聴取することを予定しています。
 二つ目は、消費者権利官は、任期六年とし、再任されることができないこととしています。長い任期を保障する一方、再任できないとすることで、独立性を担保できる制度としています。
 なお、消費者権利官は、キャリア公務員のポストではなく、消費者の権利擁護等に関してすぐれた経験や知識を有する民間人の中から選任することを予定しています。
 三つ目に、消費者権利官を補佐するため消費者権利官補一人を置くほか、合議制機関として消費者権利委員会を置き、一定の重要事項についての審議に当たらせることによって、権限行使の適正さを担保することとしています。
 四つ目に、消費者権利院には、中央の事務総局に加え、都道府県の区域ごとに地方消費者権利局を置くこととしています。
 地方消費者権利局の長は地方消費者権利官とし、地域社会における消費生活の実情に通じ、消費者の権利擁護等について理解のある者のうちから、都道府県知事の意見を聞いた上で任命することとしています。
 なお、現在の消費生活センターの多くは、この地方消費者権利局やその支局、つまり国の機関に移行します。そして、その事務が適正かつ円滑に実施されるよう、地方公共団体の消費生活部局との緊密な連絡を保ち、相互に協力しなければならないことを明記しています。
 地方財政の現状にかんがみると、消費生活センターを初めとする地方の消費者行政について地方公共団体にゆだねてしまう対応は、無責任というほかありません。基金をつくり、数年間は財政支援をするという御提案もありますが、その基金が底をついたとき、地方の消費者行政はどうなるのでありましょうか。
 第四に、消費者行政の第一線で消費者からの苦情相談、あっせん等の業務を担う消費生活相談員を非常勤の国家公務員として法律上明確に位置づけた上で、十年の任期を保障し、再任を原則としています。これによって、現在行われている不当な雇いどめを防止し、消費生活相談員の方々が、その知識と経験を十分に生かしながら安心して職務に専念することができるよう配慮しています。
 第五に、以上の諸事項のほか、消費者権利官と捜査機関等との連携協力の規定など、所要の規定の整備をすることとしています。
 なお、消費者権利院の設置に伴い、国民生活センターは、法律上は発展的に廃止され、その業務を消費者権利院が担うこととなります。
 第六に、この法律の施行期日は、一部の規定を除き、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日としております。
 今から八十年前、一九二九年に始まった世界恐慌は、領土拡大、植民地拡大による経済発展という十九世紀型の古い経済体制を崩壊させました。それ以来と言われる現在の世界同時不況は、二十世紀における大量生産、大量消費型経済体制の終わりの始まりです。事業者が個々の消費者と率直に向かい合い、安心、安全、信用、信頼など、大量消費社会では軽視されてきた価値をもう一度経済システムの中にしっかりと位置づけなければ、これからの経済は成り立ちません。
 私たちは、こうした明確な歴史観に基づき、明治維新以来の我が国の統治システムそのものを消費者視点で抜本的に改革します。
 単なる既存行政組織の組みかえではなく、司法、行政を含めたシステム全体を一から見直さない限り、明治維新以来、つまり、日本の近代以降を通じて積み重ねられてきた富国強兵、殖産興業型の行政を転換できるはずがありません。
 以上が、この法案の趣旨及び概要であります。
 何とぞ、御審議の上、御賛同くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。(拍手)
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発言情報

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発言者: 枝野幸男

speaker_id: 10425

日付: 2009-03-17

院: 衆議院

会議名: 本会議