岡崎トミ子の発言 (厚生労働委員会)
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○委員以外の議員(岡崎トミ子君) ただいま議題となりました子どもに係る脳死及び臓器の移植に関する検討等その他適正な移植医療の確保のための検討及び検証等に関する法律案につきまして、発議者を代表して、その趣旨及び内容の概要を御説明申し上げます。
現行の臓器の移植に関する法律は、一九九〇年から議論されたいわゆる脳死臨調を経て、一九九四年に議員立法として衆議院に提出され、最終的に一九九七年、参議院において、当時の先輩諸氏の英知を集め、臓器提供をする場合に限り脳死を人の死とする、生前に法的脳死判定を受け入れる意思表示をした場合に限り法的脳死判定を実施する、脳死判定には二人以上の医師が立ち会う等、幅広く国民的な合意を得られる形に修正し、成立いたしました。法律の施行後十二年がたとうとする中、衆議院においてこれまでに四つの改正案が提出され、六月十八日の衆議院本会議でいわゆるA案が可決されたところであります。
しかしながら、臓器の移植及びこれに使用されるための臓器の摘出は人間の尊厳の保持及び人権の保障に重大な影響を与える可能性があります。小児の脳死判定、臓器の摘出及び臓器移植については、長期脳死児の例が知られるところとなり、中には数回の無呼吸テストを経てもなお長期間にわたり心臓が拍動を続け成長する例が報告されるなど、その脳死判定基準などについて専門家の間でも大きく意見が異なっております。また、被虐待児からの臓器提供の防止についても、虐待を行った親が証拠を隠し、虐待の事実が発覚しにくいなどの事情があり、多くの小児科医から、臓器摘出までの短い時間で正確な判断ができるかどうか、また虐待を隠すために臓器提供を行うことはないか等の不安の声が寄せられております。
日本小児科学会が二〇〇七年に実施したアンケート調査では、小児のドナー候補が被虐待児であるか診断が適正に行えるかという問いに対して、はいと答えた医師は一二・三%にすぎず、いいえが三三・八%、分からないが四九・九%という結果となっています。さらに、新生児を含む小児の脳死診断は医学的に可能と思うかとの問いに対しては、はいが三一・八%、いいえが一五・八%、分からないが四八・二%という結果となっています。さらに、臓器提供は提供する側の小児にとって有益な医療行為ではないことから、臓器摘出に関し親による意思表示の代理、あるいは親の関与がどこまで認められるものかという問題もあります。
こうした問題意識を背景として、拙速な小児の臓器移植の拡大については、医師や専門家のみならず、国民の間からも、懸念の声が聞こえております。このような状況の中で、小児の特異性を踏まえた脳死判定及び臓器移植に関する課題について対応策を確立しないままに小児の臓器移植が開始されるとなると、大きな社会的問題が生ずるおそれがあります。
また、生体移植等の在り方について、いわゆるA案においては全く触れられておりませんが、非常に重要な点であることは間違いありません。一九九一年にWHO、世界保健機関の総会で議決されたガイドラインでは、人権を侵害する可能性が高い生体ドナーについて許容される場合を限定しておりますが、来年二〇一〇年の総会で議題となる予定の決議案及びガイドライン改定案は、弱者の犠牲の上に成り立ちかねない生体ドナーを保護する観点を更に鮮明にするものであります。生体移植については、ドイツを始めとする多くの国では法律で規制されているところ、我が国においては厚生労働省のガイドラインレベルで規制されているのみです。諸外国に比べ生体移植に対する依存度は高くなっているにもかかわらず、生体移植の在り方について十分な検討がなされてきたとは言えません。脳死下における臓器提供が八十一例にとどまる一方で、腎臓移植においては、生体間移植への依存率が八四・一%と、スペインの二・九%、アメリカの四二・七%に比べ突出した数字になっており、本来、移植医療のあるべき姿ではないはずの生体移植が行われているという実態があります。こうした環境が続く限り、脳死下の臓器提供の是非についての真剣な議論が阻害され、脳死移植は増えないといった指摘もされているところであり、生体移植の在り方について早急な検討が求められております。
さらに、国民の脳死下臓器移植に対する理解を深めるとの目的の下に設置された脳死下での臓器提供事例に係る検証会議については、八十一例の実施例に対して報告書が公開されているのは三十四例にとどまり、この三月にようやく五十五例目の検証が実施されたところです。関係者のプライバシーを理由に情報開示が制限されるなどの運用から、国民への情報提供が進まない一因となっているとの懸念もございます。
そこで、本法律案においては、今後我が国が子供の脳死及び臓器移植についてどう対応していくべきか、広い視野から総合的に検討しなければならない問題について、臨時子ども脳死・臓器移植調査会を内閣府に設置して一年を掛けて検討し、必要があると認められたときは措置を講ずることといたしました。あわせて、生体移植に関する制度等の在り方についても、一年を目途に検討を行うこととするとともに、適正な移植医療の確保のための検証等を進めることとしております。
次に、この法律案の概要について御説明申し上げます。
第一に、脳死した子供の身体からの移植術に使用されるための臓器の摘出その他子供に係る臓器の移植に関する制度については、子供に係る脳死の判定基準、臓器の提供に関し子供の自己決定及びその親の関与が認められる場合並びに虐待を受けた子供の身体からの臓器の摘出を防止するために有効な仕組みの在り方を含めて検討が加えられ、必要があると認められるときは所要の措置が講ぜられるものとしております。そして、この検討を行うに当たっては、学識経験を有する者による専門的な調査審議が行われるとともに、広く国民の意見が反映されるよう配慮されなければならないこととしております。
この調査審議のため、内閣府に、この法律の施行の日から一年間、臨時子ども脳死・臓器移植調査会を置くこととしております。調査会は、委員十五人以内で組織し、委員は、子供に係る脳死及び臓器の移植について優れた識見を有する者等の学識経験者のうちから内閣総理大臣が任命することとし、その人選に立法府も責任を持つため、任命については両議院の同意を得ることとしております。そして、調査会は、脳死した子供の身体からの移植術に使用されるための臓器の摘出その他子供に係る臓器の移植に関する制度について調査審議を行い、その結果に基づいて内閣総理大臣に意見を述べることとしており、内閣総理大臣は、当該意見を受けたときは、これを国会に報告するものとしております。
第二に、死亡した者の身体からの組織の摘出及び当該組織の移植に関する制度、生体からの臓器及び組織の摘出並びに当該臓器及び組織の移植に関する制度等については、この法律の施行後一年を目途として検討が加えられ、必要があると認められるときは所要の措置が講ぜられるものとしております。
第三に、臓器の移植に関する法律の一部改正であります。
国は、臓器の移植に関し、臓器を提供する意思表示の有効性、脳死の判定の適正性及び当該判定に関する意思表示の有効性等の調査及び分析を通じて、移植医療の適正な実施を図るための検証を遅滞なく行い、その結果を個人情報の保護に留意しつつ公表するものとしております。
また、脳死の判定等に関する記録の保存期間を二十年とするとともに、国は、移植術を受けた者の適切な健康管理に資するため、その者の健康に関する情報に係るデータベースが整備されること等により、その者その他関係者がその者の当該移植術後の健康状態を的確に把握することができるよう必要な措置を講ずるものとしております。
このほか、死体からの臓器の摘出及び当該臓器を使用した移植術は、厚生労働省令で定める基準に適合する病院又は診療所において行わなければならないこととしております。
なお、この法律は、原則として、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしております。
臓器の摘出及び移植は、臓器を提供するドナー、移植を受けるレシピエントなどの尊厳の保持、人権保障に重大な影響を与える可能性があり、広く国民的な合意を形成していくというプロセスが非常に重要であると考えます。
衆議院では四つの改正案が出され、審議の過程の中で、現行の制度の下において生じている問題点、新たな改正が実現したときに懸念される問題点等、多くの懸案事項が明らかとなりました。
他の医療と移植医療が根本的に異なるのは、臓器を提供するドナーの存在があって初めて成り立つ医療行為であるという点です。多くの課題を解決しないままに強引に結論を導き出すのであれば、ドナーとなろうという方々の理解を得られないのはもちろんのこと、医療の現場等にも大きな混乱を招きかねず、さらに終末期の医療におけるみとりの在り方等に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
懸案事項が多い一方で、早期に結論を出すことが求められております。課題を先延ばしにすることなくしっかりと結論を出せるよう、本法律案では一年間と期間を区切っております。この間に、子どもの脳死臨調の場でしっかりと検討、検証するのはもちろんのこと、政府、国会においても精力的に検討を進め、広く多くの関係者を始めとする国民の声を聴き、議論を重ねていくことが重要です。広く合意形成を図りつつ、すべての命がひとしく尊重されるように、立法府としての結論を出すことが肝要であると考えます。