駒村康平の発言 (予算委員会公聴会)

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○駒村公述人 慶應義塾の駒村でございます。
 こういう機会をいただきまして、大変ありがとうございます。私は、経済学、社会保障論を専門にする立場から、一般会計予算について意見を申し上げたいと思います。
 お手元に私の資料が配られていると思いますので、これに基づいてお話しさせていただきたいと思います。何分、資料は三十ページ近い大量なものでございますので、大変細かくお話しすると一学期分の授業に相当するようになってしまいますので、大変速くお話ししますけれども、御容赦いただければと思います。よろしくお願いいたします。
 まず最初に、予算もしくは政策に対しての全般的な評価をさせていただきたいと思います。
 最初に、現在、グローバル経済の中、あるいは雇用規制緩和、小さい政府、社会保障カットへの圧力強化という中で、世界的にも、企業あるいは資本の国際移動が非常に激しくなっていく、そういった動きを背景に、企業側に良好な社会資本にフリーライドしようという動きがあったわけです。これに応じてしまった前政権によって、社会保障制度はかなり圧縮された傾向に向かっていたわけですけれども、そういう流れをとめていくということが今回の予算では一つ重要なことではないか、こういうふうに思っております。
 もう一つは、日本全体が高齢化が進んでいきます、そして、社会保障制度のうちの年金制度も極めて不安定になり、貧困高齢者も増加傾向にあるということ。それから、非正規労働者の増加によって格差の拡大がある。それから、格差の拡大がさらなる世代間の連鎖、低所得者に生まれた子供がさらに不利な状態に置かれるという格差の連鎖というものも世代間で起きているのではないか。
 さらに、団塊ジュニアというグループ、これは三十代半ばまで来ているわけですけれども、このグループが非常に経済的には不利な状態に置かれたまま今日まで来てしまって、出生率も低く、家族も形成できない状態のまま今日を迎えてしまった。このボリュームの多い人口に対してサポートして出生率の逆転上昇を図るラストチャンスが近づいてきているのではないか、こういうふうに思うわけです。
 こういった中で、今回の予算については、与党の中の選挙公約でもありました、人や生活保障に重点を置くということで、社会保障分野に資源配分が強化されたということは大変評価できるのではないか、こういうふうに思っております。グローバル経済、少子高齢化社会への対応を明確にするということも、これは、政権交代があってからわずか数カ月でありますので、完全とは私も評価できませんけれども、そういう方向が出てきたのではないか。小さい政府路線の弊害への対応、それから未来への投資としての社会保障の位置づけ、そして新しい社会保障制度へ向けての方向性というものは一定出ているのではないかと私は評価しております。
 一方で、社会保障制度をどのように設計していくのか、どのような社会モデルをつくっていくのか、これは後ほど少し触れたいと思いますけれども、そういう理念についてはまだ不明確な部分もあるだろう。社会保障、雇用、税制の一体改革というものが余りまだ明確になってはいない。これは、国家戦略室というものに私は大変期待をしていきたいと思います。
 さらには、高齢化社会を迎えるに当たっては負担がどうしても不可避になりますので、これに対する説明、説得、それがきちんと実行できるような、歳入庁、社会保障、税関連の共通番号による所得捕捉というもののシステム設計もこれからますます重要になるのではないか、こういうふうに思います。
 人口減少、高齢化社会に向けての新しい社会システムの開発、あるいは、日本が工夫する社会システムの発明みたいなものもこれから必要になってくるのではないか、こういうふうに思っております。
 次のページをざっと。
 これは数字の問題でございますけれども、OECD各国の年金と生活扶助と課税最低限と最低賃金の上下関係でございます。縦軸は平均賃金に対する比重、次のページに細かい注は出ておりますけれども、これがそれぞれどういう位置にあるのか。
 ポイントとしては、日本が、最低賃金が先進国の中では相対的にかなり低い位置にいますねということと、最低賃金と公的扶助と課税最低限と基礎年金が非常にごっちゃにくっついてきている、中には逆転現象が生まれているものもありますという点も、これからこれをどう整合性のあるような形に見直していくのかというのが大変重要になってくるだろう、こういうふうに思うわけです。
 次のページはそれの説明、出典でございますので、これは省かせていただきたいと思います。
 次に、非常に暑苦しい表がございますけれども、これは、先ほど、どういう社会モデルを目指すのかということを申し上げたわけでありまして、先進国の社会モデルというのは、大きく、コーポラティズム型、それから北欧普遍型、アメリカのような自由主義型というものがございます。日本は、どちらかというと、今まではコーポラティズム型と自由主義型の中間型をとっていたわけですけれども、このグローバル経済、高齢化社会の中で、日本は、それぞれこういう特徴を持った社会システムのうちのどれに近い社会システムを選んでいくのかというのを決めなければいけない時期に近づいたのではないか、こういうふうに思います。
 そういう意味で、そういう理念、社会モデルを明確にしていただいて、今後の予算の議論もしていただきたい、こういうふうに思うわけです。
 次に、雇用を中心にした社会保障の議論に入らせていただきたい、こういうふうに思います。
 従来型雇用というのは、図として出ておりますけれども、学校を卒業したら働いて、そして女性は一部家庭に入る。男性は、一部、失業した人が労働市場に出入りするということがあって、最後には退職していく。こういう非常に単線型の雇用システムだったと思いますけれども、これが大きく変わってきているということだと思います。
 諸外国は、雇用の不安定化が進む一方で、しかし社会保障制度はきちんとつくろう、あるいは、教育システム、雇用、職業訓練システムをきちんとつくるということで、デンマーク型のような、黄金の三角形と言われていますけれども、労働市場は柔軟化を進めていく一方で、所得保障制度はきちんと行う、積極的労働政策で訓練給付はきちんと行うという、相互補完的につくっていくというモデルをつくっている国もございます。これはデンマーク型。次のフレキシキュリティーモデルというのもデンマーク型でございまして、こういうスタイルを選ぶという選択肢もあろうかと思います。
 ただ、これもなかなか難しい問題があると思います。後ほどこれもお話しさせていただきたいと思いますけれども、結局、新しい雇用システムというのはどういう構造になり得るのかというのが、次の、「新しい雇用システムと教育、社会保障制度」の関連というものがございます。
 私は、この図を見ながら、一番左に職業と教育の連携システム、仕事と暮らしを両立させるようなシステム、退職時の所得保障システム、それから失業時所得保障システム、この四つのシステムが人間の生活を支えるんだと。このそれぞれのシステムから要請されていく、真ん中に雇用システムを置いてありますけれども、そのすき間を、それぞれの政策、例えばジョブカードというものもあるかもしれませんし、訓練・生活支援給付、あるいはこれを諸外国では失業扶助というのかもしれませんけれども、求職者支援の制度を恒久化するような仕組みをこれから考えていく必要があるのではないか、あるいは失業した人に対する住宅手当、これが今後必要になっていくのではないか、こういうふうに思っています。
 こういう雇用を中心とした社会システムをどのようにつくっていくのか、このすき間をどうやって埋めていくのかというのは今後重要であり、予算においてもそういう視点で議論をしていただきたいなと思っております。
 次に、具体的な数字を見ながら、日本の社会保障、所得保障の問題点を見ていきたいと思います。「所得保障制度(格差・貧困問題)について」というところの次のページを見ていただきたいと思います。
 これは、全国消費実態調査、二〇〇四年のデータでございます。最新データでございます。四万世帯ほどのサンプルを使って、一戸一戸、世帯に、生活保護の水準を下回っていながら生活保護を受けていない人が何%いるのか、これを世帯主年齢を横軸にとって分析した結果でございます。生活保護水準としては、一級地の一を一応目安として置いているわけです。
 これを見てわかるように、九九年から二〇〇四年の間も、貧困率は特に若い人を中心に上昇傾向にある。つまり、貧困、格差の現象が、高齢化社会によって高齢者のウエートが上がったから貧困、格差がふえているんだという話ではなくて、実際、水平方向に貧困率が上がっているということがこれによってわかるわけです。これは個票データという四万ものデータを詳細に分析した結果ですので、こういう結果がわかるわけです。
 次のページは、これにさらに、世帯主が就労しながら生活保護水準を下回っている世帯がどのぐらいいるのか、しかも生活保護をもらっていないのはどのぐらいいるのか。これも世帯単位の、ワーキングプア世帯というものです。
 日本の政策のタームの中には、ワーキングプアという言葉はございません。ワーキングプアという言葉がないから、統計もございません。そこで、私がその統計をかわりにつくったということでございまして、これは若干、先ほども少し触れられたOECDの国際比較のためにつくられた貧困率とは数字が異なっております。
 そういう意味で、こちらは、真ん中の人の何%の生活というよりは、生活保護という国が定めたミニマム保障を下回っていながら生活保護にたどり着けない人がどのぐらいいるのかというのを見た数字でございます。かなり深刻な状態だと思います。特に若い世帯主のところが厳しい状態になっているということを押さえておかなければいけない、こういうふうに思っております。
 この次のページが世帯類型別貧困率でございます。これも世帯類型別に、先ほどと同じデータ、こちらの方は一応推計でございますので、一級地の一、つまり都市レベルの生活保護制度を適用した場合と、三級地の二、地方都市のを適用した場合で二通りの数字が出ておりますので、若干の差がありますけれども、これは恐らく半分、ちょうど真ん中あたりが真実だと思いますけれども、母子世帯の貧困率は非常に高いということで、生活保護水準を下回っていながら生活保護をもらっていない母子世帯が約四〇から六〇%近くいる。
 さらに、これとは別に生活保護をもらっている方がいるわけですけれども、その生活保護をもらっている母子家庭の方というのは、障害があったり傷病を持ったり、さらに二重のハンディを持っていて初めて生活保護を使えるようになっているということでございます。極めて深刻な状況が起きているというのが現状だと思います。
 こういった上で、先ほどのフィンランドのようなモデル、フレックスとセキュリティーを混合するような一つのモデルを御紹介しましたけれども、では、日本ではどうするのか。
 日本では、一方では、コーポラティズム、正社員という形の日本型雇用システムというのが一部ではきちんと、非常に面積は小さくなって対象者も小さくなっていますけれども、残っています。
 そして、次第にふえている非正規の労働者の方をどういうふうに処遇するのかというのは、これからの大きなテーマになってくると思います。こういう方たちもきちんとした、安心した生活ができるような仕組みをつくっていかなきゃならない。こういう人たちも安定して家族を形成できるような社会保障システムをつくっていかなきゃならない。
 そのためには、一つは雇用保険の適用の拡大、あるいは雇用保険が切れた後の失業扶助的なもの、さらには、流動性はあるんだけれども、経験がきちんと評価されて、キャリアが評価されながら賃金に上乗せされるような新しい雇用システム、これを専門職労働市場と言っていますけれども、これを規制をきちんとしない状態で単に市場に任すと小泉改革のような結果になりますので、ここにきちんとしたルールをつくって、新しい雇用システムをセットでつくっていくということを行って、部分的なフレキシキュリティーみたいなものを日本でも考えていったらどうなのかというふうに提案したいと思います。
 次に、年金の問題に入りたいと思います。
 これも、年金記録の問題、それから年金機構の問題等、非常に大きな問題を抱えております。今回は年金制度については大きな議論が行われない、財源としては、基礎年金の二分の一の部分の問題、この安定財源確保の問題が今後出てくると思いますけれども、一方では制度改革というのも非常に重要になっている。
 ここで年金についてポイントを申し上げておきたいと思いますけれども、年金制度改革の評価のポイント、どういう点で今の年金制度がいいか悪いかを評価するのかというのは、三つのポイントがあります。これは世界で共通した切り口でございます。
 一つは、制度の持続可能性。経済的、財政的、政治的に安定するのかということ。すべての国で高齢化が進むため、この問題はいずれの国も共通して大きな課題になっている。二つ目は、社会状況の変化に対応できているのかどうか。職業形態の変化、特に非正規労働のような形によって厚生年金から抜けてくる人はふえている、この結果、空洞化につながったという問題がございますので、こういう社会構造の変化に対して年金制度は対応できているのかどうか。それから、最低の保障というものも絶対必要だということ。
 この三点から、日本の年金制度はよくできているのかどうなのかということを評価しなきゃならない。となると、今の年金制度はいずれも大きな問題を抱えているだろうと言うべきだろうと思います。
 この三点は私が別にオリジナルで考えたわけではございませんで、次のページに「諸外国の年金改革の目標」というのがございます。
 これは、世界銀行が各国の、先進国の年金改革を行った専門家に対してアンケート調査した結果、あなたの国では何を一番重視しましたかというのに答えた結果でございます。一番重点を置かれたのが財政的安定性、二番目が低所得者の生活安定、それから三番目が労働者保護の適用拡大、多くの労働者をなるべくカバーするというのがございますので、こういうのがこれから重要な改革になるだろうと思います。
 その上で、日本の年金制度が諸外国の年金との関係でどういう位置にあるのかというのを見たのが、次の「各国の年金制度のイメージ図」というものでございます。
 十文字の絵が出ておりまして、諸外国の年金制度が相対的に位置づけられておりますけれども、縦軸には、賦課方式の所得比例年金、いわゆる厚生年金の大きさ、横軸には、税方式をとっているか、一階部分の保険方式をとっているかという位置づけでございます。
 日本は保険方式で所得比例の厚生年金を持っていた国ですけれども、これが若干、二〇〇四年改革で小さくなっている。もう一方、フィンランド、スウェーデンというのはどういうスタイルをとっていたかというと、全額税方式の基礎年金を持っていましたけれども、九〇年代後半からの改革によって、全額税方式の年金はやめて最低保障年金に動いているということで、この第二象限にある日本を右の方に持ってくるというのはかなり大きな改革になってくると思います。
 そういう意味では、次のページで、最後の年金改革であるということであるならば、今後も長期的に信頼される年金改革を目指す。ただ、それをやった場合、軸を大きく解体することになりますので、世界最大級の改革になりますので、これは人口と規模、計算も含めてかなり大きい改革になりますので、拙速な議論というのは回避しなきゃならない。最初に問題点の洗い出し、なぜ改革するのかというコンセンサス、新制度に向けての基本理念、哲学、社会的な合意の形成に向けてのプロセスの整備といったものも重要かと思います。
 最後に、残された時間で、次世代育成について若干の意見を申し上げたいと思います。
 次世代育成の役割というのは、政策目的としては、子育て世帯の経済支援と少子化、それから仕事と暮らしの両立支援というものがあるかと思います。その背景としては、子供、人々の可能性、生き方の可能性を広げていく、社会保障制度を維持するというものがあろうと思います。政策手段としては、現金、保育、両立支援、雇用政策というものがあると思います。複数の政策目的を達成するためには、当然、複数の政策手段が必要でありまして、現金給付とともに現物給付が必要になってくるだろうと思います。
 次のページに、諸外国で現金給付を行うことによってどういう政策効果があるかを紹介しております。
 これはOECD各国のデータでございますけれども、横軸に現金給付の対GDP比をとっております。つまり、これが大きい国であればあるほど、子ども手当等の現金給付が大きい国ということです。縦軸は子供の貧困率をとっております。日本はこれが小さかったわけですけれども、これが小さい国は子供の貧困率が高くなるということになります。子ども手当を充実することによって子供の貧困率を下げるという政策効果が期待できてくるのではないかと思います。
 先ほど申し上げたように、勤労世帯、特に若い世帯で子供を持つような世帯の貧困率が上昇しておりますので、そういう世帯へ向けてこういう支援を行うというのは有効な政策だ、こういうふうに思っております。
 この一方で、もう一つ、現物給付というものも充実して、保育サービスを充実していくという必要があると思います。
 社会保障制度が持続可能であるためには、出生率の上昇と女性の就業率の上昇というのが前提となってきますので、それをどう引き上げていくのか。これができなければ、社会保障給付は不安定になり続けて、人々は不安にさいなまれることが続くわけでございます。そういう意味では、今後、次世代育成支援の強化をしていただきたいと思っております。
 最後に、次世代育成支援政策強化のポイントを申し上げさせていただきたいと思います。
 子供たちに良好な育成環境を、特に不利な世帯の子供への保障というのは、再分配政策上も成長政策上も大変コストパフォーマンスのよい政策であるということが確認されています。投資収益率で一五%から一七%あるんだという研究もございます。出生率の回復と両立の確保こそが、社会保障の維持にも不可欠でございます。
 この上で、国と地方の役割分担が今後進んでいくと思いますけれども、重要な点を四点ほど申し上げさせていただいて、終わりにさせていただきたいと思います。
 一つは、やはり人口政策、社会保障政策にかかわる点でございますので、長期的な国家戦略の視点が必要かと思います。目の前の待機児童だけではなくて、本来であったらば働きたいというお母さんたちがいて、それが八十万人近い待機児童を潜在的に持っているわけですから、それにいかに取り組んでいくのかというのは国の責任で行うべきだと思います。
 それから、地方分権に任す部分も大事だとは思いますけれども、しかし、有権者の中に判断のバイアスがあるというのも気をつけなければいけないと思います。子育て期間というのは過ぎてしまえば関心が終わってしまって、次は介護だ、医療だ、こういうところに重点が移っていきます。結局、子供への関心は有権者の中の一部の人しか持てなくなり、後手後手に回るということになります。しかし、子育て支援がきちんとできなければ、高齢者は不安になるという悪循環が実は続くわけですね。そういう意味では、この有権者のバイアスをどう回避するかというのも大事。これは政治家の説明力を求めたいと思います。
 それから、地域間格差の問題もあるかと思います。特定の自治体が頑張っていくということを行っても、結局、サービスに地域差が生まれてしまえば、子育て世帯の地域間移動が発生するだけで、日本全体の底上げにはなりません。
 そういう意味では、分権化とともに、国がきちんと関与していく新しい保育システム、これは先ほど新しい社会システムを発明、発展させなければいけないと申し上げて、先ほど連合の方から子供基金というアイデアも出されたと思いますけれども、こういう仕組みを今後考えていく。そこには当然、安定財源というものもつながってくるだろうと思います。
 大変早口で恐縮でございます。また後ほど質疑でお答えしたいと思います。
 どうもありがとうございます。(拍手)

発言情報

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発言者: 駒村康平

speaker_id: 9252

日付: 2010-02-24

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会