榊原英資の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(榊原英資君) まず、予算の議論に入る前に今の経済状況の話から始めたいと思います。
景気回復、少なくとも数字の上ではかなり順調にしているということでございまして、リーマン・ショックで、二〇〇八年の十—十二月、二〇〇九年の一—三月が年率でいうと二けたの減速、二けたの減少であったわけでございますけれども、去年の四—六からプラス成長に転じて、去年の十—十二月は、最近データが出ましたけれども、年率で三・八%、改定値で三・八%の成長ということでございます。
民間シンクタンクの見通しですと、来年度も、平均でいいますと大体来年度の実質成長率が一・六%ぐらいということで、景気回復が去年の夏ぐらいから順調に進んでいるということではあるんですけれども、実感としてやっぱり景気回復感が余りないというのが実は実態でございまして、なぜ実感として景気回復感がないかといいますと、実感はむしろ名目で感じるわけでございますね、実質というのは後からつくり出された数字でございますから。名目でいいますと、去年の十—十二月も前期比で〇・一%ですから、ほとんど成長していないということでございますね。ですから、一方で実質GDPは伸びているんだけれども、デフレが進行していることによって景気回復感がないということが現状でございます。
今のデフレというのは、通常デフレというのは貨幣的な現象だというふうに言われているわけです。インフレもデフレも金融政策によってある程度コントロールできるということでございます。インフレのときには金融引締めをし、デフレのときには金融の緩和をすれば、ある程度物価上昇率はコントロールできるということでございますけれども、現在のデフレは貨幣的現象でない部分が極めて大きいと、むしろ構造的であるというふうに言えるんではないかと私は思っております。
実は、アメリカもヨーロッパもデフレにはなっておりませんけれども、ディスインフレーションにはなっているわけですね。アメリカ、ヨーロッパも、かつては四%、五%消費者物価が上昇したのが一、二%になっているということでございます。
先進国の中では独り日本だけがデフレになっているわけでございますけれども、実はこれは理由がありまして、日本の場合には東アジアとの経済統合が非常に進んでいるということでございます。中国なんかと非常に密接になっているということでございまして、実は経済統合というと普通ヨーロッパのことを考えるわけでございますけれども、ヨーロッパの場合には制度的、政治的に経済統合が進んだわけでございますけれども、東アジアの場合には、私は市場主導の経済統合というふうに呼んでおりますけれども、企業が先導して経済統合が進んでいるということでございます。
例えば、東アジア域内の域内貿易比率というのが大体五八%から五九%になっているんですね。一九九〇年には四〇%でしたから、域内貿易比率が非常に増えていると。恐らくあと五年から十年のうちには六〇%に達するだろうと。EU域内の域内貿易比率は六五%ですから、実はEUにかなり近いところまで東アジアの経済統合が市場主導で進みましたよと、こういうことなんですね。
こういうことになってきますと、やはり東アジアの中で一番大きな国というのは、GDPでいいますと中国と日本でございますけれども、中国と日本の間にある程度裁定が働いてくるということですから、そういうことで、要するに日本ではデフレーションが起こるということですね。中国で製造して日本に持ってくると。ユニクロ現象ですけれども、ユニクロのように中国で製造して日本に持ってくれば安くなるというようなことで、実はグローバリゼーション、特に日本の場合には、東アジアとの経済統合によってデフレが進んでいる、物価も上がらない、賃金も上がらないというようなことでございますね。
ですから、デフレとかあるいは賃金の下落、あるいは雇用問題などに対して、もちろん政治的に対応するというのは必要なことではありますけれども、政策でコントロールできる余地はそれほど大きくないと。構造的に中国との統合が進んでいるわけでございますから、もし雇用についてかなり厳しい条件を国内で付けるとすると雇用が逃げてしまう、つまり中国へ行ってしまうというようなことが実は起こるわけでございまして、非常にある意味では難しい状況になっていると。
実は、もう東アジアには国境を越えた、プロダクションネットワークと言われていますけれども、生産のネットワークができているというふうに言われておりまして、タイで例えば自動車部品を作り、それを中国に輸出してアセンブルすると、それを欧米に輸出するとか日本に輸出するとか、そういうことでございまして、まさに東アジア全体、日本と中国を中心とした東アジア全体が世界の工場になっているという、そういう状況でございます。
こんな中で一体政府が何をすべきかということになってくるわけでございますけれども、例えば平成二十二年度予算を見ますと、税収が八・七兆円減少しているわけでございますね。その分、国債の発行が十一兆円増加しているということで、子ども手当あるいは高校の授業料の無償化というようなことをやっておるわけでございまして、社会保障予算が九・八%増大、文教予算が五・二と、その代わり公共事業が一八・三%減少しているということでございまして、私は、これは適切な方向感だというふうに感じているわけでございます。
こういう形で経済がグローバル化して、デフレあるいは賃金が上がらないというような状況では、政府がやっぱり福祉の拡大をしていくということが必要じゃないかと。今まで日本というのはかなり福祉の部分も企業が担っていたわけですね。企業が従業員の面倒を見るということをやって、それが福祉というようなことになっていたんですけれども、いよいよ企業が面倒見れなくなったというようなことでございますから、これは政府がやはり福祉を拡大するという方向が必要なんじゃないかと。今までの社会保障というのは大体年金と医療が中心だったわけでございます。これをやはり雇用とか育児を含めた方向に拡大するのかどうかというのが今問われていると。
今の政権の方針は、むしろ拡大するという方向に向かっているんではないかと思います。これはヨーロッパ型の福祉社会への道だというふうに私は思っているわけでございますけれども、日本でも子ども手当始めましたけれども、フランスは育児手当がいろんな形であって、十から十一ぐらいあるわけですね。ですから、女性が育児をしながら働くということが非常にたやすくなっているということで、最近、パリの女性は産んでいるという本が出ていますけれども、育児をしながら子供を育てるということがフランスでは非常に容易だと。これは、やはり育児ということに社会保障が拡大されているわけでございますね。
ですから、そういう意味で、ヨーロッパ型福祉社会を目指すのかどうかということが実は今の政権に問われていると。私は、そういう方向を目指すべきだと思っております。今までの自民党政権は、どちらかというとアメリカ型で、小さな政府を目指してきたと。今の民主党は、どちらかというと大きな政府を目指していると。これは、どちらがいいかということはいろんな議論があるところでございます。議論があるところでございますけれども、私は大きな政府を目指すということは必要なのではないかと。つまり、企業福祉が後退しているわけですから、フランスやあるいはドイツのようにその分を国がカバーするということが非常に必要ではないかというふうに思っております。
そういう議論をするときに、そんなことを言っても当面財源がないじゃないかということですね。子ども手当も今度の予算では半分しかやらなかったということでございますが、私は全額やるべきだというふうに思っておるわけでございますけれども。なぜかと申しますと、実は財源がないというのは財務省に余りにも説得され過ぎた議論だというふうに思っておりまして、私も財務省出身でございますけれども、財務省は金がないないと言うのが商売でございますからこれはしようがないんですけれども、それを余り信用することはないというふうに私は思っておるわけでございます。
なぜかと申しますと、確かに日本の国債残高、特に地方と国を合わせますと八百六十二兆円ですね。GDPでいうと一八一%あると。これは大体、アメリカやイギリスやフランスもこのごろ財政出動していますから増えていますけれども大体八〇%から九〇%ですから、アメリカやイギリスの倍じゃないかと、これはもうとてもどうしようもないんだ、財源がないんだというのが財務省の言い分ですけれども、これはバランスシートの片側しか見ていないんですね。バランスシートの負債の項目だけ見ているわけでございまして、実は日本の場合には個人の金融資産が千五百兆円近くあるんですね。しかも、個人の借金を引いてみても、ネットで見ても百十兆円の個人の金融資産がある。
これはどういうことかというと、その個人の金融資産のかなりの部分が国債の購入に向かっているわけです。ですから、日本の国債というのは九四%日本の国民が持っているわけです。政府というのは国民の総体ですから、政府が借金していて、国民が借金していて国民がその借金をカバーしているわけですから、国全体としては借金していないということになるわけです。
ですから、先進国の中で日本は一番の債権大国ということになります。対外的に見ると非常に債権が多いということでございまして、国債の金利にしても先進国の中で一番低いと。十年債が一・三%から一・四%というような非常に低い水準でございます。ですから、当面国債の消化には問題がない。まあ四、五年のことでございますけれども、国債の消化には実は問題がないということでございますから、私は例えば今回の予算で子ども手当二万六千円付けてもよかったと思っております。
国債四十四兆円というのは多過ぎるという批判があるんですけれども、私は六十兆円出しても大丈夫だと。つまり、消化できるということです。消化できるということでございますから、消化できるということは国民が買ってくれると。直接買わなくても、個人が直接買わなくても、個人が預金をし、個人が保険を掛け、機関投資家が買っているということでございますから、間接的に言うと国民が国債を買っているという状況があるわけですから、その状況が続いている限りは国債発行がある程度大きくなっても問題はないと。ですから、少なくともこの四、五年はかなりの国債発行をして福祉を増大する、あるいは景気を回復させると、その余地は十分あるというふうに思っております。
もちろん、中長期的な財政再建というのは必要だと思っております。今の余裕というのは、恐らく個人の金融資産といっても今、日本の貯蓄率はそれほど高くございませんから、今個人の金融資産が高いのはかつての貯蓄が多かったということでございまして、今、日本の貯蓄率というのは五%を切っております。それから、財政の赤字というのはそれ以上に増えておりますから、実は今相当国債市場に余裕があるというのは、恐らくこのまま行くと、三、四年、四、五年しか続かないということでございます。ただ、当面余裕があるということは十分意識しなければいけない。ということは、当面は国債をむしろ大量に発行してもいいわけでございます。
それで、景気の回復をするのでございますけれども、中長期的には財政再建計画を立てなきゃいけないと。特に、私が申しましたように、ヨーロッパ型の福祉社会をつくるということですね、育児手当、子ども手当なんかを充実すると。あるいは、子ども手当だけではなくて、雇用とか育児とかそういうところに政府が入っていって社会保障を拡大するということをもしやるとすれば、これは当然のことながら、当面は国債発行できるとしても、五年、十年のスパンで考えると財源が必要になってくるわけでございます。
当然、ヨーロッパ型にするということであれば、歳入の方もヨーロッパ型ということでございますから、五年、十年の間には、やはり消費税増税ということを考えなきゃいけないと、そういうことでございますね。大きな政府というのは当然ファイナンスしなきゃいけないわけでございますから。
今、日本の財政赤字が非常に大きいのも、過去、実は増税をしなきゃいけなかったのに政治的にできなかったと。消費税増税というのは、実は五年前にやっておかなきゃいけなかった、十年前にやっておかなきゃいけなかったんですけど、いろんな政治的な条件があってそれができなかったということでございますから、当然五年先には、あるいは六、七年先には消費税増税ということを考えてヨーロッパ型の福祉社会を目指すというのが私が好ましいと思っている姿でございます。
そういう意味で、今回の予算は私は評価しておりまして、子ども手当あるいは農家の戸別補償あるいは高校の授業料の無償化というのはヨーロッパ型福祉社会への第一歩だと思いますから、それを更に進めるということが必要なんではないかというふうに思っております。
先ほども申し上げましたように、当面国債の発行に十分の余裕があるわけでございますから、子ども手当などは初年度から二万六千円付けてもよかったんではないかというふうに思っておりまして、選挙もあることですから、本当は全額付ければよかったんだと思いますけれども、そういうことで、二十分にはなりませんですけど、私の陳述は終わりにさせていただきます。
どうもありがとうございました。