石破茂の発言 (本会議)
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○石破茂君 自由民主党・無所属の会を代表して、平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)、平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)及び平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)につき撤回のうえ編成替えを求めるの動議に関して提案理由を申し述べる。(拍手)
北海道五区の補欠選挙に続く、一昨日の福岡市長選挙における民主党候補の大敗は、一体何を意味するか。内閣支持率は、なぜこのように急低下し、危険水域とも言える二〇%台に突入したのか。それは、国民の間に横溢する民主党政権への不信と怒りの発露以外の何物でもない。
民主党が、政権交代以来、ただただ自民党政権との差異化を図るべく行ってきたさまざまな試みは、何ら国民に利益をもたらすことがなかった。国民の抱いた希望は失望へと変わり、今や、絶望から大きな怒りとなって、うねりのごとく全国に高まりつつあるのである。
内政にとどまらず、外交、安全保障における無策、無能、無定見、無責任ぶりは、今や目を覆わんばかりの惨状である。今や国民の九割が外交・安全保障政策に不安を感じているという、かつて一度もなかったこの事態を一体どのように考えているのか。
学べば学ぶほど、沖縄におけるアメリカ海兵隊の果たしている抑止力の意味がわかった、鳩山前総理のこの言葉に、日本国民も海外政府も、ただ唖然としたのである。抑止力の意味も理解していない者がこの国の政権を担っていたという、そのような事実に対し、愕然とし、慄然たる恐怖を覚えたのである。
普天間問題の迷走から始まった稚拙な外交は、我が国の領海である尖閣諸島海域における中国漁船との衝突問題とその後の映像流出問題、これが北方領土問題にも飛び火するなど、日米同盟には大きな亀裂が生じ、日中、日ロ関係は悪化するばかりであり、この回復には数十年を要するとすら言われている。
APECにおいて幾つかの首脳会談が行われたが、日米同盟は何らの深化も見せなかった。今回合意を見た民間交流事業の推進は、同盟強化の本質では決してないのである。やがて示される新防衛大綱に今回の教訓はどのように反映されているのか。マニフェストにも書かれていないインド洋における補給の中止を無理やりに強行し、テロとの闘いの責任を放棄して諸外国の失望を招き、最大の懸案である普天間基地移設問題は、何の具体的な努力もしないままにその対応を沖縄県知事選挙後に先送っておきながら、何が日米同盟の深化なのか。
外交に重大な影響をもたらす判断を、権限も能力も有しない検察に押しつけることの一体どこが政治主導なのか。政治は関与していないというのが本当に真実であるなら、それは、外交権は内閣に属し、処理すべき外交関係を所掌するのは内閣であるとの日本国憲法の趣旨に反するものであるし、実際は関与しておきながら、あくまで関与していないとするのなら、国民に対する重大な背信である。刑事訴訟法の起訴便宜主義を都合よく勝手に拡大、歪曲的に解釈しており、この何が法治国家なのか。
国民に必要な情報の提供もせずに、一体どこが、国民一人一人がみずからのこととして考える外交なのか。政府・与党の中には、日露戦争後のポーツマス条約に臨んだ小村寿太郎の例を引き、真実を伝えれば国民世論が激高しかねないとして映像の非公開を正当化する意見があるやに聞くが、これこそまさに笑止千万である。当時の国民が激高したのは、時の政府が国民に伝えるべき真実を明らかにしてこなかったからにほかならない。歴史に学ぶとすれば、映像をすべて公開し、中国漁船の不当性と我が国海上保安庁の対応の正当性を内外に訴え、国論を統一した上で外交に臨むことが当然なのである。
証拠を公開しないことによって守られる利益が、公開することによって得られる利益より大きい場合には、公益上、公開しないことが許される、これが刑事訴訟法第四十七条の趣旨である。この判断は内閣として行うべきものであり、内閣はその説明責任を有する、私はそのように予算委員会で何度も指摘をしてきた。公開することによって得られる利益を上回る利益とは一体何なのか、政府は何一つ説明しようとしていない。そのようなものがあろうはずがないから説明しないのだとしか私には思われない。
映像を見た予算委員会理事の一部は、公然と報道にその内容を語っている。この状況の中で、一体映像のどこが秘密なのか。政府における情報の危機管理体制も、委員会の秘密保持体制もずさんなままにしておきながら、保安官に守秘義務を課し、厳罰に処すべきだとする主張はおかしいとは思わないのか。
いわゆる西山事件についての東京高裁判決は、国家利益のためにではなく、時の政府の政治的利益のためになされる秘密指定は、これを疑似秘密として、国家公務員法の罪が成立しない場合があり得ると述べている。秘密の指定権者も明確に定められていなかった事実から考えても、今回の映像の秘密指定も、今の民主党政府の政治的利益のためになされたものではないかとの思いを禁じ得ない。
やることなすことすべてがずさんであり、無責任である。これで、国民が外交、安全保障に不安を持たない方がおかしいのである。
映像流出問題の陰に隠れた感があるが、警視庁外事第三課のテロ捜査資料の流出も極めて重大な問題であり、民主党政権の稚拙な外交、ずさんな危機管理は、我が国の国益を大きく損ないつつあるのである。
政治資金問題をめぐり、我が党は、昨年来、小沢一郎元幹事長に対して国会の場での明確な説明を求めてきたが、いまだに実現を見ていない。この間、菅総理は、議員みずからの判断にゆだねる、岡田幹事長の努力を見守るなどとひたすら傍観者の姿勢に徹し、何らのリーダーシップも発揮していない。民主党代表として、小沢元幹事長に対して、あなた自身が定めた政治倫理綱領に従って、国会に出て説明をせよ、代表の指示に従えぬなら党を出よと言えばいいだけの話なのに、なぜそれができないのか。
企業・団体献金の廃止こそが政治と金の問題を断ち切るとあれほど言っておきながら、なぜそれをいともあっさりと撤回したのか。これまで民主党の言ってきたことは一体何だったのか。民主党には国民の政治不信を解消しようとする気が全くないのだと断ずるほかはない。
リーダーシップを全く発揮せず、言ってきたことには何ら責任を持たない、これが民主党の政治姿勢そのものなのである。このような内閣には、そもそも、補正予算を提出する資格など全くないのである。
これまでのこうした政府・民主党の内政、外交への対応ぶりを強く糾弾しつつ、以下、政府より提出されている平成二十二年度補正予算に対する問題点及び組み替え提案について申し述べる。
第一の理由は、民主党政権が推し進める温室効果ガス二五%削減や製造業への派遣禁止、最低賃金法改正など、雇用空洞化政策がいまだ撤回されていないことである。これらの政策を今後も推し進めた場合、国内で事業を継続し、雇用を維持することは極めて困難となる。
多くの企業が工場等の海外移転やその準備を進めている今になってなお総理は雇用、雇用と叫んでおられるが、雇用は一体だれがつくるのか。製造業への派遣を禁止した場合、一体何が起こると考えているか。皆が正社員になり、高い賃金を受け取り、幸せな社会が実現されるとでも思っているとしたら、それは大いなる幻想である。稼がなくても、働かなくても、利益を上げなくても雇用が守られる人々とは異なり、日々生き残りに必死な民間企業は、決してそのような選択をしないのである。
製造業への派遣禁止が行われれば何が起こるか、考えてもみよ。企業は安価な労働力を求めて海外に移転する、派遣を望む労働者は雇用市場から締め出される、企業が仮に日本に残ったとしても、正社員には過重な負担が生ずる。このような現実は、民主党の諸君には想像もできないことかもしれない。
政府は、企業の悲痛な叫びに一切耳を傾けることもなく、偽善と自己満足によって、国民を大きな不幸に陥れようとしているのである。雇用は、企業が、産業がつくるのであり、政府がつくるものではない。企業が国内で事業を行い、収益を得ることで雇用を生み、賃金を生み出すのである。
我が日本国は社会主義国家ではない。自民党は、今後の経済対策の大前提として、このようなアクセルとブレーキを同時に踏むような雇用空洞化推進政策の即時撤回を求めるものである。
第二の理由は、補正予算の規模である。
政府案では総額四兆八千億円規模としているが、これには地方交付税の増額分約一兆三千億円が含まれている。この地方交付税の増額分は、本来、景気対策の実施の有無にかかわらず計上されるべきものであり、これを除けば、政府の景気対策としての補正予算の規模は三兆五千億円程度にしかならない。この交付税分を計上していることは規模の水増しであり、この規模の考え方自体、撤回すべきものである。
我々は、交付税分以外で五兆円規模への上積みを提案するものである。
第三の理由は、財源についての考え方が異なることである。
政府は、我が党が撤回を求めている、子ども手当、高速道路無料化、農家への戸別所得補償制度、高校無償化のいわゆるばらまき四K政策を続行する方針であるが、厳しい財政状況を勘案するならば、こうしたばらまき四K政策は直ちに撤回し、我が党が以下に主張する、緊急性かつ即効性のある施策の財源とすべきである。
我が党の一昨年来の経済対策の効果による税収増二兆円や、国債費償還における利率が下がったことによる返済差額の一兆円という予想外の収入を財源としていることも看過できない。政府が発表した月例経済報告では一年八カ月ぶりに経済動向を下方修正しているが、このような下半期の経済状況が極めて不透明な折、本当に二兆円を超える税収増があるのか、それ自体が疑わしく、慎重な財政運営が求められる中で、見込み税収を財源として計上することは極めて問題である。政府案は、財源に対する哲学、理念がないと断ぜざるを得ないのである。
第四の理由は、政府案には地方への配慮が大きく欠けていることである。
真の景気回復には地方経済の活性化が不可欠である。政府案では、地域が自由に使える地域活性化交付金の規模を三千五百億円程度としているが、緊急性及び即効性にかんがみ、さらに厳しさを増す地域の現状に対応するには全く不十分な規模である。
自民党は、地域経済・雇用対策として、地方が自由に活用できる交付金を一兆五千億円に上積みすることを提案するものである。
第五の理由は、地域の主要産業である農業、農村、漁村、山村に対する配慮が足りないことである。
我々は、早期の米価下落対策として五百億円、さらに、中長期的に足腰の強い農業をつくる視点から、執行停止となった農業基盤整備事業費三千億円の復活を提案するものである。
一口に農業を守ると言うが、農村をどのように守るか、農家をどのように守るか、それらの政策手法はおのずから異なるものであり、産業政策と社会政策は、これを混同すべきではない。財政負担は、いかなる理由に基づき、どこまで許されるのか、関税率はどこまで下げられるのか、そもそもそのような交渉は可能なのか、これらについての展望を全く示さないまま、ただ来年の六月までに考えるというのでは、TPPに対する農家の不安が高まるのは当然であり、極めて無責任な姿勢と断ぜざるを得ないのである。
第六の理由は、家計を支えている者に対する配慮が不足している点である。
家計を支えている女性や高齢者に対して、就業機会を提供し、その社会参画を推進することは、不況下において家計全体の収入を上げる手段として有効であり、さらに、失業者のいる世帯に対する児童、学生への就学支援は、貧困の連鎖を断ち切る意味からも、今こそ実行すべき政策である。我が党は、合わせて二千億円規模を提案する。
第七の理由は、経済対策の名称を、円高対策、デフレ対策と標榜するには、余りにも対応が遅過ぎる点である。
こうした国民経済の厳しい現状をとらえることなく、単なる数字合わせの補正予算案には全く説得力がないのである。
我が党は、一昨年から昨年七月までに、四度にわたり緊急経済対策を間断なく実行した。しかるに、政府は、今回の補正予算において、平成二十一年度第一次補正予算において一部執行停止を行った施策、例えば、地域医療再生基金、緊急人材育成支援事業等を、補正予算の項目として、憶面もなく復活させている。一度執行停止したものを再び予算項目として入れ込むことについて、深く考えることもなくただ執行停止したことへの反省、謝罪の弁も、説明も全くないままに予算計上することは問題であり、かかる説明できない予算には到底賛成しかねるのである。
第八の理由は、補正予算案は財政規律の意識の欠如が強く見られることである。
補正予算と本予算とは別との考え方を我々はとらない。補正予算においても財政健全化の思想は生かされなくてはならないのである。
我々は、衆議院に提出した財政健全化責任法案の早期成立を強く求めている。財政規律のある確かな社会保障制度の確立があってこそ、経済対策はその効果を発揮するものである。信頼性のある持続可能な財政構造を一刻も早く確立することこそ急務である。
我が党が提出している法案と、政府が六月に閣議決定した財政運営戦略との間に基本的な考え方の相違はないが、幾つかの重大な差異点がある。五年後の平成二十七年度までにプライマリーバランスを平成二十二年度比で半減させるとの目標を実現させるためには、財政健全化の中期計画は、政府閣議決定で示された三年ではなく、自民党の提案する五年を一期とするのが当然である。
いずれの党が政権を担っても、ポピュリズムの誘惑に負けることなく財政健全化は推進されなければならない。民主党の当初のマニフェストを実行するためには、平成二十三年度には十二兆六千億円、二十四年度には十三兆二千億円、二十五年度には十六兆八千億円が必要となる。無駄を省くだけでこのようなお金が出てこないことは、民主党政府自身が証明したとおりである。確かな財源を確保しないままばらまき的な大盤振る舞いを続ければ財政が破綻することは必至であり、民主党のマニフェストは当然修正されるべきものである。
国債が暴落せず、低金利が保たれているのは、まだ日本の財政に一縷の信頼が残されているからである。そのためにも、容易に変更が可能な閣議決定ではなく、法律として政府を把捉し、納税者の代表たる国会も関与することとするのが当然である。
国民の生活が第一などと言って、選挙に勝つためなら何を言ってもいいなどと、すべての民主党議員が考えているわけではよもやあるまい。良識ある諸君はきっといるはずだと私は信じている。本法案にのっとった予算編成を来年度予算から行うためにも、今国会での早期成立を強く訴える。これこそが将来世代への我々の責任であり、議員各位の賛同を切に願ってやまない。
一昨年、当時の小沢一郎民主党代表は、民主党には政権担当能力がないと述べて、自民党との大連立を提唱した。我々は小沢元代表とは政策も政治手法も全く異にするが、小沢氏のこの見立てが実に正しかったことが、あれから二年たった今、確実に立証されたことは、まさに皮肉としか言いようがないのである。
映像流出問題の責任に関して、仙谷官房長官は、政治責任と執行責任は別だと言い放ち、いまだかつて聞いたこともない新見解を披瀝された。はしなくも露呈したこの考え方が、民主党政治を貫く思想なのである。
政治主導を標榜し、格好のいいことは政治が手柄をひとり占めする、都合の悪いことはすべて官僚に責任を押しつける、こんな姿勢で行政が動くはずがない。官僚は国民から選ばれてはいない。国民から選ばれた政治家だけが、そのゆえをもって、国民に対して責任を負える立場にいるのである。官僚機構が何をしようと政治がその責任を負わないのなら、監督責任も任命責任も回避するのなら、これは統治機構の崩壊であり、民主主義の否定である。このような考えの民主党が政権担当能力を発揮することなど、そもそもあり得ないのである。
今回映像を流出させた海上保安官の逮捕が見送られることは妥当な判断であると考える。今後さらに捜査が続けられることになるが、政府こそ、この保安官が、今回の行動は政治的主張や私利私欲に基づくものではない、一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっている出来事を見てもらい、一人一人が考え、判断し、行動してほしかっただけなのだと述べていることを、謙虚に、真摯に政府こそ受けとめるべきなのである。
積み木細工をつくるには、一つ一つ丁寧に長い時間をかけなければならない。つくるには長い時間かかるが、それを壊すのは一瞬で足りるのである。「日本の壊れる音がする 今なら、まだ間に合う!」これは、財政・経済政策や沖縄問題に心血を注いでこられた島田晴雄氏の最近の著書のタイトルである。そう、今ならまだ間に合うのである。
我が国は、今や、財政も、経済も、外交も、安全保障も、まさしく危機管理の段階に入っている。我々に残された時間は極めて短く、とるべき選択肢の幅は恐ろしく狭いのである。今さえよければいいのではない。我々は、将来の人々に、そして、我が日本国を営々と築いてきたいにしえの人々に責任を持たねばならない。日本さえよければいいのではない。日米安全保障条約が、我が国のみならず極東の平和と安定をその目的としているように、我々は世界に責任を持たねばならない。我々自民党は、新綱領に示されたこの精神にのっとり、国民の期待にこたえるべく全力を尽くす所存である。
以上、政府補正予算案について速やかな撤回を求め、組み替え動議を提出する理由を申し述べた。議員各位におかれては、国民の代表としての良識に基づき御賛同賜らんことを願い、提案理由の説明とする。(拍手)
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