大庭三枝の発言 (科学技術・イノベーション推進特別委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○大庭参考人 このように、原子力委員会全体としての見解ではなく、原子力委員個人それぞれの見解を聞いていただくという貴重な機会を与えてくれたことに対して感謝申し上げたいというふうに思います。
福島原発事故を踏まえて、原子力政策についての私の見解を述べたいと思います。
まず、このたびの東日本大震災で被災なされた方々に改めてお悔やみとお見舞いを申し上げます。また、福島第一原子力発電所の切迫した状況下で避難を余儀なくされている方々に改めてお見舞い申し上げますとともに、この事態が、国民の皆様のみならず国際社会に与える多大な影響を深く憂慮し、重く受けとめております。
また、避難されている方々へのさらなる支援体制の充実、及び補償の枠組みの構築が急務であると切に感じております。加えて、現場や対策本部で事態収拾に向けて懸命に努力されている皆様、また、海外からの支援組織及びその関係者の方々に敬意を表したいと思います。
私は、国際政治を専門とする研究者であり、二〇一〇年一月の就任以来、原子力の知見を得つつ、委員としての業務を行ってまいりました。その際、私の役割は、特に二つあると考えてまいりました。
一つは、国際社会の構造の変化を踏まえ、日本が今後どのように国民の利益を確保しつつ、近隣諸国や緊密な協力関係にある国々と利益増進を図り、かつ国際社会の公益に寄与していくかという、より広い観点から原子力政策の方向性を検討し、意見を述べるということです。
それからもう一つは、原子力専攻ではない有識者として、原子力村のありようを客観的に考察し、いわば外からの視点を忘れず意見を述べるということです。本日も、そうした立場で見解を述べたいと思います。
私は、原子力推進政策は、安全性の確保が大前提であるというふうに考えてきました。よって、今回の福島の事態を大変重く受けとめるとともに、この事故原因の徹底究明が必要であると考えています。
先日、枝野官房長官が記者会見の際に、事故調査委員会を設置するという考え方を示されましたが、女川、東海第二と十分な比較も含め、技術的な原因を明らかにすることが重要だと思います。さらに、きのうの合同会見で細野総理補佐官も言及されましたが、危機対応に関し、特に初動態勢における意思決定がいかになされたのか、政府、事業者及び地方自治体も絡む意思決定プロセスについて十二分に切り込んだ詳細な原因究明が必要であると考えています。これらは、日本の今後の原子力のあり方の議論だけではなく、国際社会への信頼回復に向けた情報提供という意味でも、必ずやらねばならないことです。
今回の福島原発の事故を受けて、多くの国で、原子力の廃止論も含め原子力政策についての議論が活発になされていることは承知しています。しかしながら、政策として原子力の撤廃の方向に明確にかじを切った国は、今のところ多くはありません。
フランス、ロシア、アメリカは、安全性の担保について十分な対策をとる前提の上で原子力発電を維持していく方向です。また、中国、インドを初めとする国際社会の構造変動を牽引する役割を果たしている新興国、途上国においても、日本との協力も含め、今後も原子力の推進を継続する姿勢を示している国は少なくありません。現実にBRICS諸国は、原子力は将来の新興国のエネルギー構成で重要な役割を占め続けると、原発推進姿勢を鮮明に示しております。
エネルギー需要の拡大が見込まれる中で、各国の原子力への期待が消滅する方向には簡単には向かわないと思います。すなわち、仮に日本が原子力発電の即時撤廃という政策をとったとしても、国際社会の多くの国は原発を持ち続けるということになります。
日本の今後の原子力政策のあり方いかんにかかわらず、原子力発電導入国に対して、この福島原発の事故はなぜ起こったのか、また、事故の収拾を図るプロセスで、何が具体的な問題として関係者の前に立ちはだかり、それに対してどのような対策をとったのか、このようなことについての十分な知見を提供することは、我が国の国際社会に対する義務であろうと考えています。
また、日本のエネルギー政策の中での原子力のあり方を見直すべきであるという意見がさまざまな場で出されています。このことに関しては、三つの点を踏まえた冷静な議論が必要であると考えています。一つは、エネルギーの安定供給の確保、二つ目は、国際社会全体として地球温暖化対策を進めていこうとする中で日本が掲げるべき目標、三つ目は、再生可能エネルギーの供給能力についての現実的な評価です。
日本の近年のエネルギー政策の策定の際、低いエネルギー自給率とともに、高い中東依存度が問題になっていました。特に、中東諸国の情勢が混乱している現在、この中東への石油依存の問題はさらに深刻です。また、アジア諸国を中心に世界のエネルギー需要は急増しており、二〇三〇年には現在の約一・四倍になる見込みです。資源価格も継続的に上昇傾向にあり、また、投機資金の流入によって市場価格の変動幅は拡大しています。
こうした中で、各国は、資源獲得のさらなる強化を目指して戦略を展開しています。また、日本は、ヨーロッパ諸国などと異なり、電力を外国から輸入できないという制約もあります。
従来、原子力は、こうした厳しい状況において、我が国のエネルギー安定供給確保のための重要な手段の一つとして位置づけられていたと理解しています。そして、今回の福島原発の事故後の今現在でも、前述のような日本の置かれた状況は変わっておりません。
また、地球温暖化への取り組みについて、鳩山前首相は二〇〇九年の九月、二〇二〇年までに一九九〇年比で二五%のCO2削減を目指す目標を掲げました。この目標について、現実可能性も含め議論があることは承知していますが、日本の国際的信用の維持は、日本及び日本国民が、グローバリゼーションの進むこの世の中において生きていく上での環境整備であるという観点から非常に重要なことであり、その目標の変更には慎重でなければならないと考えています。
一部報道では、フィゲレス国連気候枠組み変動条約事務局長が、今月初めの記者会見で、日本政府の目標見直しに反対する姿勢を示したとのことです。
いずれにせよ、日本が地球温暖化対策に主導的な立場で貢献せねばならないことには変わりがありません。
先日、環境省が、再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査を発表し、その中では、風力発電で原発四十基分の発電可能性があるなど、再生可能エネルギーの将来に明るい見通しが示されました。
もともと、日本のエネルギー政策は、一つのリソースに頼らない多様性を担保した形で行うべきとされていましたし、私自身、原子力政策大綱の策定会議の席上でもベストミックスの重要性を訴えてまいりました。その中で、再生可能エネルギーが果たし得る役割は大きく、また、現在の情勢を受けて、今後さらにその重要性は高まると思います。
しかしながら、風力や太陽光の性質上の最大の課題である安定供給が難しいという事実は、まだ変わっていません。今後の再生可能エネルギー関連の技術革新には大きく期待をしています。しかしながら、原子力が果たしてきた役割を、少なくともすぐさま代替するとは考えておりません。
これらの点を踏まえると、すべての原子力発電所の即時撤廃は非常に難しいと思います。よって、短期的には、既存の原子力発電所をいかに安全に稼働させていくかということが最重要課題の一つと認識しています。その際、現在の安全基準を見直し、十全の対策を徹底させることが特に重要です。
他方、中長期的な原子力政策については、改めて議論した上で今後の方針を決めるべきであるというふうに考えております。その際、国際情勢も含めた日本のエネルギーの安定供給、地球温暖化対策としての達成目標、そして再生可能エネルギーについての技術的、経済的評価などの情報や知見を国民の皆様に十二分に共有していただく必要があると思います。
さらに、日本社会が目指すべき方向性、すなわち今後の産業構造や社会構造のあり方についての議論やそこでの結論に沿って、原子力政策のあり方も決定されるべきと考えております。
また、原子力行政、事業のあり方そのものも再検討が必要であると考えています。原子力発電は民間事業ですが、他方、我が国のエネルギー安全保障の一環として進めてきた国策でもあります。その性質上、政府が責任及び義務を負うべきであるというふうに考えています。
また、原子力発電は十分過ぎるほどの安全対策が必要な事業です。
これらのことを勘案すると、政府がつくった安全基準のもとで民間事業者が原子力発電を担う体制、経済産業省の外局として原子力安全・保安院というものがあるという現在の姿、そして助言機関としての原子力安全委員会のあり方といった安全規制の制度について、抜本的な議論がなされるべきです。
さらには、総合的な原子力ガバナンスを目指す上で、我々原子力委員会も含めた原子力行政全体のあり方についても、根本からの議論が必要であるというふうに考えています。
最後に、原子力発電所の事故に限らず、緊急時の危機管理にかかわるガバナンス体制について、三・一一以降の日本の経験は大きな課題を突きつけていると考えています。政府関係者、事業者、地方自治体の方々、NPOやボランティアの方々、さらには国際的に支援してくださった諸外国の関係者の皆様が懸命の努力をされたと考えておりますが、この経験を踏まえた上で、緊急時の危機管理に関するガバナンス強化を徹底的に図る必要があるというふうに考えております。
以上です。御清聴ありがとうございました。