郷原信郎の発言 (行政監視委員会)
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○参考人(郷原信郎君) 郷原でございます。よろしくお願いいたします。
私、名城大学で組織のコンプライアンスの問題を中心とする研究活動をしておりますとともに、弁護士としても企業等のコンプライアンスに関連する業務を中心に仕事をしております。また、総務省の顧問とともに、年金業務監視委員会の委員長とコンプライアンス室長という立場で仕事をさせていただいております。この委員会で、行政としての検察の在り方についていろいろ御検討、調査をなさったというふうにお伺いしております。私、昨年の十一月から今年の三月まで立ち上げられておりました法務省の検察の在り方検討会議の委員もしておりました。
ということですので、今日は、検察の行政としての性格と司法としての性格、その辺りの問題と、行政一般についての監視の在り方についてお話をしたいと思います。
先ほども申しましたように、私はコンプライアンスというのを専門分野にしております。まず、この組織のコンプライアンスというのをどのようにとらえるのかということからちょっと簡単にお話をしたいと思うんですが、しばしばコンプライアンスが法令遵守などと訳されますが、私は、少なくとも日本の社会においてコンプライアンスをそのようにとらえることは誤りだと、適切ではないと思っております。社会の変化が激しくなればなるほど、法令を単純に遵守するというような考え方で組織が社会の要請にこたえ信頼を得ていくことはできないわけでありまして、私は、官庁、企業を含めて、組織の在り方として社会の要請にこたえていくということを正面から行っていかなければいけない、そして、とりわけ変化が激しい状況においてはそういう社会の環境変化に適応していかなければいけない、それがコンプライアンスだと考えております。そういう観点から、組織の不祥事というのは、社会の変化に適応できず社会の要請に反してしまうということがまさに顕在化した場合と言うことができると思います。
そういう観点から、行政機関に対する監視というのもそういうコンプライアンス上の問題を中心にチェックをしていくということだと理解しておりまして、まさにここで検討されている行政監視の在り方というのもコンプライアンスと相通ずるものだと考えております。
そこで、お手元にお配りしております資料の後ろの方に、まず、検察の行政としての特殊性に関連する資料を配付していただいております。後ろから二つ目に「検察の使命・役割について」というペーパーと、その後に「検察の組織の特殊性と法的枠組み」というペーパーを付けております。詳細はこの後の方の法的枠組みというペーパーの方に書いておりますが、まず、この一枚紙の「検察の使命・役割について」というペーパーに基づいてお話をしてみたいと思います。
検察という組織は行政組織であることは疑いのないところですが、しばしばこれが司法的な作用を担う組織のように考えられます。そういう意味で、この行政官庁としての検察というのは非常に曖昧な面があります。
どうしてそうなっているのかと申しますと、まず、検察庁という組織の形が非常に特殊であるということが言えます。このペーパーに書いておりますように、検察庁というのは検察官の事務を統括する官庁です。一般の行政庁が大臣の権限をそれぞれの組織内で分掌していくというようなやり方であるのに対して、検察庁は検察官個人個人が捜査とか処分という権限を行使することになっていて、それを上司、上級庁が指導監督するという、そういう仕組みになっています。
そういう意味で、役所の意思決定の在り方が、上の方が権限を持っているのか、下の方が権限を持っているかというところについて大きな違いがあります。そして、そういう建前の下で、権限自体は検察官個人に属するとしながらも、上司の指揮監督によって組織としての統一性を保っていくという建前が取られていて、まさに独立性と一体性がうまく融合していくような、そういう仕組みになっています。それが結局のところ、検察の組織というのは、そういう組織としての独立性が保たれていくこと、維持されていくことが組織としての目的であるような考え方を生むことになります。
実際に、検察庁の事件についての判断、処分等については、外からの介入が行われることがもう極端に批判されるというのが検察の特徴です。それに対する唯一の例外は法務大臣との関係で、検察庁法十四条に規定されております法務大臣の指揮監督権、要するに法務省の中にある組織ですから、法務省のトップである法務大臣が基本的に指揮監督権を持っているということはある意味じゃ当然のことなんですが、個別の事件については検事総長を通してのみ指揮できると書かれていて、実際には、歴史的に見ますとあの造船疑獄事件によってこの指揮権発動が大変な批判を受けたこともあって、封印されているというのが実情です。
ということで、検察という組織は、行政組織でありながら、外からの介入、干渉を受けないというところに正義があるというふうにとらえられてきたことに特徴があります。こういうとらえ方をされている行政庁というのは非常に珍しいわけでして、本来、裁判所というところが独立して判断をすること自体が目的であるようにとらえられていますが、それは検察も、あたかも司法機関としての裁判所と同じように独立して権限を行使すればいいというふうに考えられてきたことが、その組織の性格が行政機関であるのに司法機関であるように考えられてきた一つの要因ではないかと思います。
しかし一方で、そのような性格の組織というのは、どうしても外の環境に適応していくことがなかなか難しいということになってきます。独立して判断する、内部だけで全て決めてしまうということになると、昔と同じようなことをやっている状況であれば問題ないんですが、端的に申しますと、殺人とか窃盗とか放火とか、そういう誰が考えても明らかに犯罪だというような行為の処罰をやるということだけを淡々とやっている世界であれば、別にその時代が変わってもそれほど大きく変わることはありません。しかし、世の中がどんどん変化し、法執行機関として法律を適切に執行していくことに関して罰則の適用というのが大きな意味を持ってくる、そこに大きな効果が期待されるようになってくると、検察も様々な社会の状況の中でそれに適応していかなければいけないということになると思います。
ところが、先ほどから申し上げております独立性の枠組みの下で検察が社会の環境変化に適応しにくい組織であることが、検察において様々な問題が相次いで起きてきた根本的な原因ではないかと考えております。大阪地検で昨年秋、大変な不祥事が起きました。私は、その根本的な原因も、やはりそういう検察の組織としての特殊性、社会の環境変化になかなか適合できないというところに根本的な原因があると考えております。
しかしながら、そういう刑事事件について独立性を持って判断するという、ちょっとややほかの官庁とは違った行政組織としての特徴があるというところに、検察に対する監視の在り方も一般の行政官庁とはちょっと違った配慮をしなければいけないということが言えるわけでありまして、そういったところを、今後、検察が社会の変化に適合できるような組織になっていくために、それに対する行政監視の在り方をどうしていくのかということを考える上で重要なんではないかと考えております。
次に、一般的な行政機関に対する監視の在り方につきまして、私は、先ほど申しましたようにコンプライアンス室長という立場で仕事をさせていただいております。その活動について、ちょっと資料の中に総務省のホームページのコンプライアンス室のコーナーのところの写しを用意していただきました。
このコンプライアンス室というのは、以前は法令等遵守室という名称で、それまでにも総務省にあった公益通報、内部通報の受付窓口としての機能を果たしていた組織でした。私がこのコンプライアンス室の室長という立場になったのが一昨年の十一月ですが、私は、先ほどから申し上げておりますような、組織が社会の要請に適応することがコンプライアンスであるという考え方から、総務省のこの室もコンプライアンス室という名称に変えて、広く総務省の行政が社会の要請にこたえていけるようにするための機能を果たすべきだと考えまして、大臣の御理解をいただいて名称をコンプライアンス室というふうに変えていただきました。
そして、それまでは省内からの通報を受けて必要に応じて調査をするという機能を果たしておりましたが、省外からも総務省の行政が社会の要請にこたえるという意味で問題があると考えられる場合には積極的に申告、通報を行ってほしいということでホームページで呼びかけをしているわけであります。
このコンプライアンス室からの呼びかけに応じて様々な情報がもたらされました。実際には、私の事務所で私の下で働いております弁護士をコンプライアンス担当顧問ということで非常勤職員で抱えてもらっておりまして、そちらの方で通報を受け付けることにしております。
とりわけ、ここに「補助金等に係る予算執行の適正化確保について」というペーパーと、その次に総務省の新たな取組についての資料をお配りしておりますが、五月の十三日にこのコンプライアンス室で行った補助金の予算執行に関する調査結果を公表いたしました。
これは、あるコンプライアンス室への通報に基づいて、平成二十一年度二次補正で実施されましたふるさと元気事業というICTに関連する補助金の事業において、不適正な予算執行が行われるおそれがあるというような情報に基づいてコンプライアンス室で調査を行ったものです。当然、その所管課の方にも協力をしてもらって共同で立入検査なども行いつつ、調査を実施してまいりました。
調査結果の詳細はこのペーパーに書いてあるとおりですが、この二枚目を御覧いただきたいんですが、四つのNPO法人に対して補助金と、そしてその翌年度に委託事業費という形で多額の公的なお金が流れておりました。それに関してコンプライアンス室を中心に徹底して調査いたしましたところ、交付決定等の額が当初四億六千万円程度であったところを約二億五千万円を減額をいたしました。半分以上減額いたしました。
これなどは、恐らく従来の所管課の考え方でこの手続を行っていたら、法令上は一応ぎりぎり問題はない、このような形で予算を執行してもいいと考えられていたものだと思います。それが、今回、コンプライアンス室に対して、これはちょっと社会の要請という面から考えるとおかしいんではないかということに気が付いた通報者からの通報を受けてそういう観点から調査をしてみたところ、これだけ大きな額を減額すべきだという結論に至ったわけであります。
私は、今後の行政の監視の在り方として、従来のような官公庁の業務が単純にその法令どおりにやられていればいいという時代ではなくて、本当に社会の要請、国民からの要望にこたえられるものかどうかということを常に考えていかないといけないと思いますし、そういう面で様々な枠組みが考えられるべきだと思います。
ただ、私の経験から申しますと、まず、このコンプライアンス室のような省内に第三者の弁護士等を配置して、そういう別の観点から、省内的な常識とは別の観点から調査を行っていくという方法をもっと積極的に試みていくべきではないかと考えております。今回の調査の結果を公表した際に、片山大臣からも閣僚懇談会で、第三者的立場から調査、検証を行うコンプライアンス室を活用し、予算執行の適正化を行うべきであるという意見を述べていただきました。
その際に、各省庁でこのようなコンプライアンス室がどのように活用されているのかということを調査してみましたが、お配りしている表です、残念ながらまだ総務省以外では三つの官庁でコンプライアンス室、第三者が室長になったコンプライアンス室が設置されているだけで、他の官庁ではまだ設置されておりません。こういった仕組みを活用していくことがまず大事、重要ではないか。それを踏まえて、その結果を踏まえて、その状況を踏まえて、更に様々な行政監視の在り方が検討されるべきではないかと考えております。
以上です。