橘幸信の発言 (憲法審査会)
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○橘法制局参事 衆議院法制局の橘でございます。
二〇〇〇年一月の憲法調査会発足以来、衆議院の憲法調査会及び憲法調査特別委員会におきまして、中山会長初め各先生方の御指導をいただいてまいりました。そのような事務方の立場から、ただいま中山先生から御指示がございました事項につきまして、お手元配付のレジュメに従いまして、簡単に御説明をさせていただきます。時間が押しておりますので、一部説明を省略させていただきます。
まず、最初に御指示がございましたのは、二〇〇五年四月に取りまとめられました衆議院憲法調査会の最終報告書の編集方針及びその概要でございます。
まず、編集方針ですが、これにつきましては、会議録を抜粋する形で一切の加工をしないよう求める強い意見もございました。しかし、国民一般の方々にも読んでもらえるように、恣意的な評価を排しながらも、できるだけ簡潔な形で、衆議院憲法調査会の議論の縮図を示すような報告書にすべきものとされ、次の三つの編集方針が確認されました。
すなわち、一つ、委員の多様な意見を偏ることなく公平に、かつ、類型化した上で、要約して記載する、二つ、多く述べられた意見についてはその旨を記載する、三つ、議論の全貌をわかりやすく提示するため、総論、総括的な部分を設ける、この三つの方針でございました。
このうちの二番目の多く述べられた意見の明記、いわゆる多数意見の明記が衆議院憲法調査会報告書の最大の特徴であると言われております。
この多数意見の判断基準につきましては、一つ、少なくとも二十人以上の先生方が発言したテーマであること、二つ、そのうち発言した委員の三分の二以上の先生方が賛成したテーマであることとされました。
次に、このような編集方針でまとめられました意見の概要ですが、お手元に、最終報告書の「あらまし」と題された要約部分を資料四として抜粋してまいりました。
この資料四、三十ページの「あらまし」こそが、総ページ六百八十三ページに及びます最終報告書のエッセンス中のエッセンスともいうべき部分であり、今ほど申し述べました編集方針の第三番目、総論、総括的な部分に該当するものであります。
ただ、時間の関係もありますので、資料五として、この中からさらに、多く述べられた意見のみを抜粋した資料を作成してまいりました。これをごらんいただきながら、幾つかの論点について簡単に御紹介させていただきます。
まず、前文につきましてでありますけれども、我が国固有の歴史、伝統、文化などを明記すべきとする意見が多数意見でございました。
次に、憲法第一章「天皇」の章の象徴天皇制につきましては、全体として、現行憲法の規定を堅持すべきとの意見が多数意見でございました。
次に、最も激しく議論されました憲法第二章、戦争放棄の章の九条に関する論点につきましては、まず第一に、自衛権、自衛隊に関する論点につきましては、これを法的に認知するために何らかの憲法上の措置をとることを否定しないとする意見が多数意見でございました。
また、集団的自衛権行使の是非の論点につきましては、一つ、無限定にこれを認めるべき、二つ目、限定的に認めるべき、三つ、一切認めるべきではない、このような意見に三等分されました。
この三等分されたという整理の仕方自体が、報告書取りまとめに当たって激しく議論された論点でもありましたが、これは一方では、一つ目と二つ目の意見をくくって、集団的自衛権容認の意見が多数意見であったとする読み方を可能とするものであると同時に、二つ目と三つ目をくくって、集団的自衛権全般は認めるべきではないとする意見が多数意見であったとする読み方も可能となる、デリケートな論点整理だったと認識されておりました。
次に、第三章の国民の権利義務につきましては、環境権などのいわゆる新しい人権を憲法に明記するべきとする意見が多数意見でありました。
なお、人口に膾炙されております環境権に関しましては、その具体的な規定の仕方について、権利として規定するのか、それとも環境保全の責務として規定するのか、両論ございました。
次に、第四章、第五章の「国会」「内閣」の政治部門につきましては、二院制や首相のリーダーシップなどさまざまな論点が議論されましたが、特に特徴的であったと外部から評価されているのは、オンブズマン制度、特に議会オンブズマン制度の導入など国会の行政監視機能の強化が多数意見であったことだと言われております。
次に、第六章「司法」に関しましては、最高裁判所による違憲審査権行使の現状に関しまして、多くの先生方からかなり批判的な意見が述べられていたように思われます。先ほどの中山先生の御報告でも海外調査に言及されておられましたが、諸外国のような憲法裁判所の制度、これを導入すべきとする意見が多数意見でございました。
一つ飛ばして、第八章「地方自治」の章に関しましては、最近の地方分権の進展の現状にかんがみて、地方自治に関する規定をより充実させるべきとの意見が多数意見でありました。
最後に、現行憲法に規定のない非常事態に関する何らかの規定を設けるべきとする意見も多数意見でございました。
次に、第二点として、国民投票法案の主要論点に関する自民、公明、当時の与党案と、民主党から提出された法案との違いについて説明せよという御指示でございましたが、時間が押しておりますので、これについてはお許しをいただいて省略させていただきます。実は、その主要論点のエッセンスが、最後に中山先生から御指示いただきましたいわゆる三つの宿題につながってまいる論点でございますので、これに関する御報告でかえさせていただきます。
これは、いずれも憲法改正国民投票法の附則に、検討項目として規定された三つの検討条項でございます。
お手元配付の資料七をごらんいただければと存じます。
一つは、附則三条に定められております十八歳選挙権実現等のための法整備であります。
すなわち、憲法改正国民投票法の本則では、憲法改正国民投票の投票権者は十八歳以上とされました。しかし、同じ参政権であるのに、国民投票は十八歳以上、国政選挙などの選挙権は二十歳以上というのでは、立法政策としての整合性がとれていないのではないか、さらには、成年年齢一般を定める民法などもこれに合わせる必要があるのではないのかとの観点から、附則三条一項が設けられました。
すなわち、国は、この法律が施行されるまで、この法律の施行というのは、公布後三年を過ぎる日とされましたから、時期的に言えば、平成二十二年五月十八日までということでありますけれども、この法律が施行されるまでの間に、十八歳選挙権が実現すること等となるよう、公選法や民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講じなさいと法律をもって命ずるものであります。
これらの関連法律の整備法は、附則三条一項の規定によって、国民投票法の本格施行までの三年間の準備期間内、先ほど中山先生の御発言にもございました、赤松先生が特に御主張されて設定された三年間の準備期間内に法整備を行わなければいけない、法律を制定しなければいけないとされていたものでございます。この点については、自公案も民主案も全く同じでございました。
ただ、成立した自公案の附則三条には二項の規定が設けられ、前項の法制上の措置が講ぜられた後、それらの改正法律が実際に施行されるまでの間には、ある程度時間的余裕、周知期間が必要なことが当然に予想される、なぜならば公選法とか民法とかいったような重要な基本法案の年齢要件を改正するものだからだ。したがって、法律が、法制上の措置が講ぜられるのは当然として、施行までの間の経過的な期間において、万が一憲法改正国民投票法を実施することになった場合には、二十歳の投票権で実施する、これが附則三条二項の意味であります。
なお、この法整備には多くの省庁の所管法律が関係すると想定されていたため、法案提出者の先生方におかれましては、この整備法は基本的に閣法で提出されるべきだということが想定されておられました。したがって、憲法改正国民投票法を所管される憲法審査会におかれましては、そのような内閣による法案提出を監視し、督促するもの、そのように理解しておられたことでございます。
これをイメージ図にしたものを資料七の四枚目に添付しておりますので、御参照いただければ幸いでございます。
二つ目の宿題は、附則十一条の公務員の政治的行為の制限に係る法整備でございます。
現行の国家公務員法や地方公務員法、裁判所法など一般職、特別職のさまざまな公務員に関する法令の規定では、その政治的行為の制限に関する規定が幅広く設けられております。それぞれの法律によってややばらつきはありますけれども、一般には、公務員が政治的な事件に関して、みずからの意見表明をするような場合はよいけれども、それが他者に対する投票の勧誘などに至ってはならないというようなことが、ざっくりですが、そういうことが規定されております。
しかし、そのような公務員制度の土台ともいうべき憲法論議の場面におきましては、公務員といえども一人の国民であり、もちろんその地位利用を伴うようなものは禁止しなければいけませんが、その地位利用を伴わないような、一人の国民として他者に対する勧誘をする、純粋な他人への賛否の勧誘行為まで、これを禁止する必要はないのではないのか、そのような方向で法整備を行うべきであるというのがこの附則十一条の規定であります。
すなわち、国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他の意見表明が制限されることとならないようという一定の縛りをかけた上で、法整備をゆだねているわけであります。
この条項による法整備は、一般的な国家公務員法制の改正というのではなくて、あくまでも憲法改正国民投票に限定したものですので、法制度設計論としては、憲法改正国民投票の一部改正法で立案されることが提出者の先生方においては念頭に置かれております。その意味では、さきの十八歳選挙権実現のための法整備が閣法で立案されることが想定されていたのとは異なり、この二つ目の宿題である改正法案の立案、審査は、この憲法審査会の所管事項となるものと考えられていたところであります。
このイメージ図につきましても、資料七の四ページ目に添付しておきましたので御参照願います。
以上の二つは、三年間の準備期間の間に結論を得て法整備まで済ませるべきとされた、いわば締め切りつきの宿題でございましたが、これに対して最後の三つ目の宿題、これは締め切りのない宿題でございます。
すなわち、附則十二条に規定されております憲法改正以外の国民投票制度の導入の検討であります。これは、民主党案が憲法改正以外の一般的な国民投票の導入を最後まで主張しておられたことに配慮したものと解されておりますが、その検討範囲については少々異なっております。
資料七の三ページの下のところに、民主党の最終的な修正案の一般的国民投票の範囲が書いてございますが、民主党の最終修正案では、当初案のように国政上の重要な問題一般を対象とするということはやめられたようでありますけれども、しかし、国政における重要な問題のうち、一つ、憲法改正の対象となり得る問題。例えば女性天皇問題などは、法律的には皇室典範の改正でも済むわけですが、憲法問題ともなり得るわけです、このような問題。二つ、統治機構に関する問題。これは、憲法改正が国会議員からの発議を契機として行われるわけですが、必ずしも国会議員の先生方からの発議が機能しない可能性があるものと想定されていたため、統治機構に関する問題というものが挙げられたものと推察されます。三つ目、生命倫理に関するような政党政治を超えた国会議員お一人お一人、国民お一人お一人の死生観に関するような問題。この三つを例示にされつつ、その詳細は、国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める、これが直近の民主党のお考えでございました。
これに対して、成立した法律の附則十二条の検討の範囲は、一つ、憲法改正を要する問題。憲法改正を要する問題は当然に九十六条、憲法改正の対象となり得るわけですが、最終的には九十六条を発動するとしても、予備的にあるいは事前に民意の動向を探ろうとする場合、そのために国民投票を活用する場合があるのではないのか、こういう問題でございます。二つ目、民主党の最終修正案と同様に、憲法改正の対象となり得る問題。この二つのみを例示とし、憲法改正関連問題、関連事項、これに検討対象の範囲を限定されているわけであります。
いずれにいたしましても、この国民投票の対象範囲の検討は、国会法におきまして憲法審査会の所管事項と解されているところでございます。
以上、時間を超過してしまいましたが、中山太郎先生の御指示に従いまして、事務的な補足説明をさせていただきました。
ありがとうございました。(拍手)