橘幸信の発言 (憲法審査会)
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○橘法制局参事 衆議院法制局の橘でございます。
大畠会長を初め幹事会の先生方の御指示によりまして、このたび、日本国憲法全十一章百三カ条の検証が行われるに当たりまして、お手元配付のような資料を憲法審査会事務局の方々とともに作成させていただくことになりました。あわせて、先生方の御意見の表明に先立って、その概要の御報告をさせていただくことになりました。どうかよろしくお願いいたします。
本日は初回でございますので、冒頭、簡単に資料の御説明をさせていただきたいと存じます。
お手元に二種類の資料を配付させていただいてございます。
まず一つは、A3一枚紙の「憲法に関する主な論点」と題する論点表でございます。この論点表の作成に当たりましては、幹事会等で御示唆いただきました方針を私なりにそんたくすれば、大要、次のようなものであったと認識してございます。
一つは、二〇〇五年、平成十七年四月に取りまとめられました中山調査会の衆議院憲法調査会報告書、これをまず第一の基礎的データベースとした上で、さらに、この間に発表されました各党各会派の憲法提言や憲法改正草案などによってその論点を補充しながら、現時点における国会での憲法論議の概要を示すようなものとすること。
二つ目といたしまして、明文改憲の御主張と、改憲は必要ないという典型的な護憲の御主張との二項対立的な意見の整理のみならず、あくまでも現行憲法の検証であるという枠内において、現行法体系のままでよいわけではないが明文改憲によらずとも立法措置での対応でも可能だ、そのような御意見を含めて、ABC、三つに類型化しながら整理すること。
以上の二つでございます。
もう一つの資料は、この論点表に基づいて、作成の基礎となった各会派の御提言や先生方のこれまでの御発言及びこれらに関する、大変拙いものかもしれませんが、用語解説などの基礎的事項を取りまとめた詳細な資料、衆憲資第七十六号と題する参考資料でございます。
これらの資料は、時間的制約あるいは私どもの能力的な制約のために、決して網羅的なものとはなっておりません。至らない点が多々あるとは存じますが、あらかじめ御容赦をお願い申し上げる次第でございます。あくまでも、先生方の御意見表明に当たっての御参考というふうに御認識いただければ幸いでございます。
それでは、早速ですが、日本国憲法第一章天皇の章の主要論点につきまして、この一枚紙の論点表に基づきまして、ごく簡潔に御報告をさせていただきたいと存じます。
まず、冒頭の米印でありますけれども、現行の象徴天皇制につきましては、衆議院憲法調査会の最終報告書でも各党の憲法提言等においても、今後とも維持されるべきものであるとして、その存廃を当面の憲法問題としようとする意見はございませんでした。日本国憲法によって象徴という形で定式化された我が国の天皇制は、国民から支持され、確実に定着していると評価されているものと理解されているように存じます。
その上で、この象徴天皇制を前提とした上で、天皇の章について議論されているのは次の大きな三つ、三点であるかと存じます。
すなわち、天皇の地位に関する論点、皇位の継承に関する論点、天皇の行う行為に関する論点の三つでございます。
まず第一の、天皇の地位に関する論点でありますが、これは、天皇が象徴であることを前提として、さらに元首であることを憲法上明記するべきか否かという論点でございます。
論点表Aの欄の、明文改憲が必要とするお立場からは、我が憲法のもとにおいて、学説上、誰が国家元首であるか疑義があるような状態がある、これはよくない、明確に天皇が国家元首の地位にあることを明記すべきであるというお立場でございます。
これに対して、現行憲法の象徴のままでよい、天皇が元首であることをわざわざ明記する必要はないというCの立場ももちろんございます。
なお、このCの立場には大きく二つの異なる見解があるように見受けられます。
一つはC1でありまして、現行憲法上天皇が元首であることは明らかであるから明文改憲は必要ない、こういうものでございます。
さらに、この見解の中にも二つの異なる理由づけがあるように存じます。
一つは、単に、元首であることを憲法改正までして明記する必要はないというものでありますけれども、しかし、もう一つの理由づけにも御留意される必要があるかと存じます。すなわち、元首などという法的表現はヨーロッパの国王、君主についていうものであって、我が国の天皇は、一時期を除いて一貫して、権力の象徴ではなく権威の象徴であった、その意味では、元首以上の存在であり、象徴という表現こそふさわしい、象徴天皇のままにしておくことこそ、その本来の地位にふさわしいものであるとする理由づけであるかと存じます。
他方、現行憲法の象徴のままでよいというもう一つの御意見はCの2でありまして、天皇を元首と認識するのは難しいし、また、元首と呼ぶのは適当でないというものでございます。
すなわち、従来の学説上、元首という法的概念は一般に、外交を通じ国を代表し、行政権の全部または一部を有する国家機関という意味に用いられてきたものであり、その意味では、国事行為しか行わず、国政に関する一切の権能を有しない天皇は元首たり得ず、これを元首というのは用語法として間違っている、このような理解を背景にするものであるかと存じます。
第二の論点は、皇位継承に関する論点でございます。
現行憲法は第二条で、皇位は世襲のものであるとだけ定め、これを受けた法律である皇室典範第一条において、皇位は皇統に属する男系男子が継承すると定めております。
この点について、皇室の現状に鑑みて、今後とも皇室を維持するためにも、女性天皇、さらには女系天皇を認める必要があるのではないのかという立場が一方にございます。これを、憲法改正をして認めようとするお立場が論点表のAの2のお立場であり、同じことを皇室典範という法律改正で対処すればよいのではないかとする御主張がBの2のお立場です。
ただし、このいずれの立場にも、女性天皇を認めるにとどまるのか、それとも女系天皇まで認めることとするのかについては意見の相違があるように見受けられます。
これに対して、現行の男系男子による皇位継承を維持すべきであるとする御主張もございます。
この見解の中には、女性天皇や女系天皇の主張を明示的に否定するためにも、憲法上、男系男子による皇位継承を明記すべきであるとするA1の立場がございます。
また、先ほどのA2やB2の主張の背景にある、今のままでは皇統の維持、皇位継承者の確保が難しくなってしまうのではないのか、これを確保する必要があるという趣旨に鑑みて、男系男子による皇位継承のもとにおいてもこのような趣旨を確保するために、皇室典範の改正によって、旧皇族の皇籍復帰や旧皇族の男系男子を養子に迎えることができるようにすべきとの意見もございます。これがBの1でございます。
もちろん、現在のままでよい、一切さわる必要はないとするCの御意見もございます。
第三の論点は、天皇の行為についてでございます。
これには二つの小論点が含まれております。
一つは、現行憲法において、天皇の国事行為は、内閣総理大臣の任命、最高裁長官の任命のほか、憲法第七条において、法律などの公布や国会召集、衆議院解散など十個の行為に限定されているところでありますけれども、このほかにも、宮中祭祀などは我が国の文化的伝統であり、明文改憲によって国事行為に追加するべきとする見解であります。これに対しては、政教分離原則などの関係から、そのような宗教的色彩を帯びる行為は国事行為として位置づけるべきではなく、現行のままでよいとする見解がございます。
もう一つの論点は、天皇の公的行為についてでございます。
現行憲法では、第四条で、天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しないと定めるとともに、その国事行為については、今申し上げましたように、憲法に限定列挙されておりますが、しかし、これらの国事行為以外の天皇の行為は全て私的な行為かというと、そうではございません。先生方御承知のように、現実には、天皇陛下は、国会開会式でのお言葉や外国訪問、被災地でのお見舞いや地方への行幸や各種行事への御臨席などをしておられます。そして、これらについては、一般的な運用解釈では、天皇の象徴性に基づく象徴行為とか公的行為などと呼ばれて、国事行為でも私的行為でもないと位置づけられているところでございます。
このような実際の憲法運用を前提に、天皇の象徴としての性格を強固にするとともに、これに対する内閣の助言と承認という責任政治を明確にするためにも、憲法に公的行為を明確に位置づけるべきだとする御意見がございます。これが明文改憲を主張するAの欄の御意見でございます。
これに対して、憲法改正を要せずとも皇室典範等に明記すれば足りるとするのがBの欄の見解でございます。
そして、そのようなことは必要なく、現状の運用のままで全く支障ないではないかとするのがCの1でございます。
これに対して、Cの2の見解は、現在の公的行為のような運用自体がおかしいのであって、天皇が国政に関する権能を有しないとする現行憲法の規定を厳格に守るべきであって、公的行為として整理されている先ほどのような行為は、あくまでも憲法の条文に忠実に、私的行為として考えるべきであるとするのがCの2の見解でございます。
以上は、天皇制に直接に関連する論点でございましたが、憲法冒頭の第一章に規定されるべき事項としてそのほかに御議論がなされている論点として、国旗・国歌や元号の御議論がございます。
これについては、諸外国の憲法、例えばフランスの現行憲法であります第五共和制憲法第二条の第二項や第三項の規定によりまして、国家の表象、国旗のことでありますが、これは青、白、赤の三色旗であるとか、国歌はラ・マルセイエーズであるといった規定などに準じて、我が国の国旗は日の丸、日章旗であり、国歌は君が代であること、さらには、元号についても憲法に明文規定を置くべきとするAの欄の明文改憲の御主張がございます。
これに対して、既に国旗・国歌法が制定され、元号法も制定されているのだから、わざわざそのようなことをする必要はないとするCの欄の御意見もございます。
そのほかにも、第一章天皇の章に関しては幾つかの明文改憲の御主張がなされている論点もございますが、大きな論点は以上であるかと存じます。
ちょっと早口で拙いものでございましたが、御指示による御報告を終わります。ありがとうございました。