小峰隆夫の発言 (社会保障と税の一体改革に関する特別委員会)
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○小峰参考人 おはようございます。法政大学の小峰でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、当特別委員会におきまして私の意見を申し述べる機会をいただきまして、大変ありがとうございます。
お手元に、「財政再建と日本経済について」という二枚紙のペーパーをお配りしておりますので、これに基づきまして説明をさせていただきます。
この点につきまして私が申し上げたいポイントは、ここにまとめております五つでございます。
まず第一は、財政再建は国民福祉の向上という観点からも急務であるということです。
財政再建は、言うまでもなく、財政赤字をコントロール可能な範囲に、サステーナブルな形に保っていくということで大変重要な目標なんですけれども、これは最終目標ではなくて、最終的には国民生活の安定、国民福祉の向上を実現するための中間目標であるという位置づけが必要であるというふうに思います。
しばしば指摘されておりますように、現在の日本の財政事情というのは、フロー、これは毎年の財政赤字の規模、それからストック、これは政府債務残高の規模、どちらを見ても先進国の中で最悪の状態にあって、非常に深刻な状態にあるということは、これは誰でも知っていることだと思います。大変問題なのは、政府の債務残高のGDP比率というのが、ずっと上昇し続けているカーブに乗っているということです。
したがって、このままいきますと、政府の債務残高比率が無限に上がるということはあり得ないことですので、どこかで必ず財政が破綻する、つまり、マーケットが日本の国債を信用しなくなるという局面が必ず来る、それは不可避だというふうに思います。要すれば、現在のギリシャのような状態になるということです。
そういうことになりますと、そのとき具体的に何が起きるかというのは、想定するのは非常に難しいんですけれども、いずれにしても国民生活に相当大きな打撃が及ぶということは間違いないということですし、また、日本ほどの経済大国が仮にギリシャのような状態になったら、これは世界経済全体に相当大きな影響を及ぼす。我々自身がギリシャの混乱から相当大きなマイナスの影響をこうむっているわけですけれども、今度は日本が世界に大変大きなマイナスをまき散らすことになる。
したがって、財政を再建するということは、日本の国民のために、また、将来世代のために、また、世界経済全体のためにもどうしても必要であるということであると思います。
それから二番目は、その財政再建のために残された時間が急速になくなってきているということであります。
現在、先ほど申し上げましたように、日本のフロー、ストック、いずれも財政事情は世界の中でもかなり深刻だ、数字だけを見ますとギリシャよりも深刻だということなんですが、日本の国債が依然として安定的に消化されている、市場の信頼を維持しているというのはなぜなのかということを、もう一度よく考えてみる必要があると思います。
これは三つの背景があるということですが、一つは、国内の投資が非常に少ない、したがって、お金が余っているということです。
これは、国内の銀行が、貸出先が非常に少ないので、喜んでというわけではないと思うんですけれども、やむを得ず国債をどんどん買っている。ほかに買うものがない、投資先がないということで国債をどんどん買っている。これは、ある意味では、国内の投資が不活発であるというありがたくない恩恵を国債が受けているということだと思います。
それから二番目は、日本の経常収支が依然として黒字を維持しているということであります。
貿易収支は昨年赤字になったんですけれども、投資収益の受け取りが非常に大きいものですから、経常収支全体としては依然として黒字である。経常収支が黒字であるということは、全体として日本の国内の貯蓄が余っている、お金が余っているということですので、簡単に言えば、外国に国債を引き受けてもらわないでも済む状態であるということになります。
三番目は、これは先ほども五十嵐さんのお話にもありましたが、マーケットは、日本はまだ消費税を引き上げて自力で財政を改善する余地が大きいというふうに判断をしている。これも大変大きいというふうに思います。
こういった条件に支えられて、今のところ日本の国債は信用を維持しているということなんですけれども、ただ、これは、先ほど申し上げましたように、いつまでもは続かないということになります。
日本のエコノミストの間では、今しばしば議論されているのは、日本の財政が破綻するかしないかということではなくて、このままいったらいつ破綻するのかということがかなり真剣に議論されております。これは、マーケットの信認がいつ崩れるのかという非常に難しい問題ですので、なかなかいつというふうに特定することはできないんですけれども、今行われている議論では、幾つかのメルクマールからこれを判断しようということで、例えば、今申し上げました経常収支の黒字がなくなるのはいつかという計算があります。
これは、日本の高齢化の影響によりまして日本の貯蓄率がどんどん下がっていきますので、やがては日本の経常収支の黒字は赤字に転ずるだろうというのがエコノミストの常識なんですけれども、いろいろな見方がありますけれども、二〇二〇年度前後には相当経常収支の黒字が赤字に転ずる日が近くなる、その辺がかなり危なくなってくるんじゃないかという意見が強い。
それからもう一つの見方は、家計の貯蓄が全部国債になってしまうという日がいつかということなんですけれども、これも、家計貯蓄を、ある前提を置いて、それで、このまま国債がふえていくという前提で考えますと、やはり二〇二〇年度前後に家計貯蓄を全部国債に充てないと間に合わないということになる。
もちろん、こういったメルクマールを過ぎると突然日本国債の信用がなくなるというわけではないんですけれども、ほかになかなかメルクマールになるものがないものですから、そういった計算をしている。
一方、日本の政府の今の計画では、二〇二〇年度にプライマリーバランスを黒字にするというのが目標になっております。したがって、二〇二〇年度前後に至るまでのいわば競争になっている。つまり、日本がみずからの力で財政再建に筋道をつけることができるのか、マーケットの信頼を失ってしまうのか、どちらが早いかという競争を今やっているということでございます。
三番目は、消費税の引き上げは今の段階ではもはや当然というふうに考えられますけれども、それでもまだ財政再建には不足であるということであります。
財政再建の基本はいろいろありますけれども、基本中の基本は、基礎的財政収支、プライマリーバランスをゼロまたは黒字にするということで、これは、我々、過去からの負債をたくさん負っているわけですけれども、それを処理しようとするときに我々自身が新しい借金をしてはいけない、それのメルクマールが、プライマリーバランスがゼロまたは黒字になるということですので、これをまず達成する必要があるということは当然のことだと思います。
ただ、今の計算では、仮に、消費税を予定どおり一〇%まで上げ、かつ名目成長率が三%というかなり理想的な経済成長が実現したとしても、なおかつ二〇二〇年度の基礎的財政収支は相当な赤字が残るということですので、今しきりに議論されております消費税を引き上げるということは第一歩にすぎない、引き続き真剣な対応が必要であるということなんですが、そのとき、どうしても歳出の見直しというのが欠かせないというふうに思います。
歳出の中では、これは小塩先生のお話にもありましたけれども、社会保障関係費の増分が非常に大きい。高齢化を踏まえて、これからもふえていくということを考えますと、この社会保障の見直し、合理化というのがどうしても必要だというふうに思います。社会保障について安定的な制度を築くということは、国民の将来に対する安心感を築くという点からも大変重要なことだというふうに思います。
しばしば、歳出の削減というふうに言いますと、無駄を省く、無駄を省いてから増税をお願いするべきだということがあるんですけれども、この無駄を省くという響きの中には、国民は迷惑をこうむらない、国民に痛みは及ばないというニュアンスがあるように思われます。これはしかし、その程度の無駄では恐らく財政再建には全く不十分。したがって、国民に痛みがある程度出るような歳出削減でないと、真の意味での財政再建はできないのではないかというふうに思います。
それから四番目は、これまでの参考人の方々の意見にも出ております、消費税の引き上げが景気にどういう影響を及ぼすかという点でございます。
私の判断は、これは当然、増税なんですから景気にマイナスである、これは否定できない。しかし、それが耐えがたいほどひどいマイナスの影響かというと、それほどでもないというのが私の判断でございます。
二ページ目に行っていただきまして、そういうふうに申し上げても、何らかの数値的な目安がないとなかなか理解が難しいということだと思いますので、二ページ目の真ん中に表を掲げております。これは、内閣府の研究所の計量モデルを使いまして、一%消費税を上げると経済にどういう影響が及ぶかということを計算した結果でございます。
これを見ていただきますと、実質GDP、成長率ですけれども、一年目で〇・一五%のマイナスという結果になっております。したがって、三%引き上げますと〇・四五%。先ほど五十嵐さんの方から〇・五%という数字がありましたが、ほぼ近い数字になります。
どうしてこういうことになるかというと、これは当然ながら、消費税を上げますと物価が上がる、しかし所得は上がらないということになりますので、実質的に我々が受け取っている所得が目減りする、それによって消費が減る。この計算でも、消費が一年目に〇・二一%減るということになりますので、簡単に言えば、消費が減ることによって成長率がダウンするということになります。これは避けがたいということだと思います。
それから、この表では下の段に民間消費デフレーターというのがありますが、これが大体消費者物価に相当するというふうに考えていただければいいと思いますが、これが、一%につき〇・七四%物価が上がるということになります。それから、下の段の右の方に、財政収支の名目GDP比が〇・四二%、これは改善するということです。
このように、消費税を上げると、景気にはマイナスの影響がある、物価が上がる、そのかわり財政収支は改善するという、いわば当たり前の結果が出るということなんですけれども、この程度のものだという感覚からしますと、ここに書いてあるようなことが言えるのではないか。
一つは、しばしば、消費税を引き上げると景気が相当悪くなる、例えば九七年の消費税の引き上げの後、あれだけ景気が悪くなったではないかということがありますが、この計算でいけば、あのときは二%引き上げたわけですから、〇・三%程度の影響だったはずだということになって、消費税の引き上げだけで九七年、九八年のような大不況になるということはあり得ないということが言えます。
それから二番目に、これも、消費税の引き上げで景気が悪くなって、かえって法人税とか所得税が減ってしまって税収が減っちゃうんじゃないかという指摘もあるということですが、これは、この計算からいっても、消費税を上げればそれなりに財政収支の改善効果はあるという結果が出ます。
それから三番目に、景気の局面によって消費税をいつ上げるかということを考慮すべきではないかという意見があります。
これは、もちろん、景気がいいときに上げた方が国民の負担はそれだけ軽くなる、景気が悪いときに消費税を上げますともっと悪くなってしまうということは事実なんですけれども、よく考えてみますと、景気がいいときに上げたからといって、国民の負担が減るわけではない。
つまり、簡単に言えば、ここで例えば〇・五%成長率が落ちるというのが国民の負担であるというふうに考えると、これは、景気がよくても〇・五%負担する、景気が悪くても〇・五%負担するということですので、景気のよしあしによって国民の負担が軽くなったり重くなったりするわけではないということが言えると思います。
それから最後に、第五のポイントですけれども、これは、財政再建とともに成長戦略の着実な推進で、サステーナブルな形で成長率を引き上げていくことが必要だということです。
日本の経済を見ますと、二〇一二年度は、復興需要もありますので比較的高い成長が実現するというのがほぼコンセンサスになっておりますが、これはいわば大規模なケインズ政策をやっているようなものですから、大規模な公共投資によって景気がよくなるということがことしは起きるということなんですが、これは明らかにいつまでも続かないということを考えておくべきだというふうに思います。こういった復興需要に支えられている間に次の成長の芽をできるだけつくっていくということがどうしても必要だというふうに思います。
このとき、しばしば、財政再建と経済成長というのが、経済成長をしっかりやってから財政再建をやるといったように、どちらが先かとか、どちらを優先すべきかといったような議論がありますが、私は、これは相反する目標なのではなくて、両方同時に追求すべきものだ。つまり、財政が赤字であっても黒字であっても、なるべく高い成長を実現するということは同じように必要なことだということですので、この二つはぜひ、財政再建だけに目をとられるのではなくて、同時に着実な成長戦略というのも実行していくということが必要だというふうに思います。
私の考えは以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)