森信茂樹の発言 (社会保障と税の一体改革に関する特別委員会公聴会)
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○森信公述人 中央大学法科大学院の森信でございます。よろしくお願いします。
私は、今回の法案に基本的に賛成の立場から意見陳述を行いたいというふうに思っております。お手元に資料もございますので、それを参照しながらお話をしたいと思います。
今回のこの一連の議論のメーンテーマ、これは、税と社会保障を一体的に見直していこうということでございます。そこで、なぜ税と社会保障を一体改革する必要があるのか、もう一度原点に返って、私の立場から述べさせていただきます。
税制の役割というものを考える場合には、大きく分けて二つあると思います。
一つは、必要な財政サービスの財源を確保する、公共サービスの財源を確保するという機能でございます。
もう一つは、税制というツールを使いながら、今問題になっているいろいろな経済問題あるいは社会問題をどうやって解決していくかという問題でございます。具体的には、所得再分配をどうするのか、それから、経済の活性化をどうするのかという問題でございます。
前者の財源調達機能としての税といいますのは、今、受益と負担のバランスが崩れておりますので、こういった中では、歳出削減を行うとともに、税収の増加を図って受益と負担のバランスを回復していく、そういうことが必要だと思いますので、消費税率を引き上げて社会保障という公共サービスを持続可能なものにし、あわせて財政を再建するということは必要だというふうに考えております。
とりわけ、国際的な投機筋が先進諸国の財政状況を材料にしてさまざまな仕掛けを始めている今日、彼らの材料にされない財政政策をとることの重要性は言うまでもありません。
それから次の点でございますが、冷戦後の世界では、法人税とか所得税の税率を引き下げて、自国に工場や資本を引き入れるという税の引き下げ競争が激化しております。そういう中で、所得税率や法人税率を引き上げますと、企業や資本、あるいは貯蓄が海外に逃避する可能性があります。そうなると、大規模な税収確保はどうしても消費税に頼らざるを得ないということがあると思います。
私の資料でいえば、三枚目の資料が、法人税の先進国における引き下げ競争の現状を描いております。
税制の第二の機能、つまり、現在の経済社会情勢に見合う税制をどう構築していくかという問題でございますが、現在の我が国に生じております問題は、何といっても、一つは格差、貧困問題、それからもう一つは経済活力の喪失だと思います。これに対して税制をどう構築していくのか、これが問題になります。
冷戦後の世界を見ますと、BRICS等の台頭によりまして、彼らから低価格製品の輸出、日本にとってみれば輸入ですが、これが急増しております。また、人、物、金が自由に移動するようになりまして、経済のグローバル化という事態も生じました。これに対しまして、我が国など先進国の企業は、どうしても、賃金を切り下げたり、非正規雇用化によって対応せざるを得なくなりました。そこで、若者を中心にした所得格差は世界的にますます拡大をしておりまして、貧困の問題を生じさせてきております。
我が国の所得格差の状況につきましては、四枚目につけてございます。
このような格差、貧困問題に対しては、税制として、所得再分配機能を強化するための所得税増税というのが本来はあるべき姿かもしれません。しかし、勤労者だけが負担する所得税を大きく引き上げれば、勤労意欲の低下を引き起こすとともに、高所得者層の税率の引き上げは、高度に国際的な資金移動が可能な今日、資本の国外への流出を招く可能性も大いにあると思います。
そこで、税制と社会保障を一体的に設計することによって、低所得者層への所得再分配を厚くするという政策が考えられます。実は、欧米では早くからこのような考え方、つまり、一方では経済の効率性を維持しつつ、他方で経済の公平性を追求するという政策を導入しております。今回の改革でも、消費税率の一%分が社会保障の充実に向かうということにつきましては、こういった方向の一つのあらわれではないかというふうに考えております。
これを税制に置きかえますと、まさに所得控除から税額控除へ、さらには給付つき税額控除へ、そして給付へという流れが言えると思います。つまり、高所得者層に有利な所得控除を税額控除に変える、さらにこれを、税金を払っていない方にも対応できるように給付あるいは給付つき税額控除に変えていく、こういうことによって所得の低い人への所得再分配機能を中心に高めていく、こういう政策でございます。これは、今日の我が国においても非常に効果のある政策だというふうに考えております。
実際、民主党政権のもとでは、年少扶養控除や特定扶養控除を削減して子ども手当に振り向ける、あるいは高校の授業料を無償化にするという改革がとられてきました。子ども手当は、その後、児童手当となりましたが、所得控除から手当へという理念は変わっていないと思います。この結果、高所得者層の税負担は増加し、低所得者層は給付を受けることができて、全体として所得再分配機能は高まったわけでございます。
しかし、一体改革をより進めていくためには、この給付つき税額控除というのを本格的に導入することが必要であるというふうに考えております。
今回の法案には、逆進性対策としての給付つき税額控除が書かれておりますが、この制度は本来、勤労税額控除、児童税額控除という、低所得者の勤労インセンティブを高めながら所得再分配を強化するための政策ツールです。ブレア政権やクリントン政権、あるいはほとんどの先進国は、この制度を活用して、勤労所得者の労働インセンティブを高めながら、みずからが老後の生活を勤労することによって備えていく、そういうふうに変わってきておるわけでございます。それから、失業率の低下という観点でも大きな効果を上げた政策でございます。
五ページの図表でございますが、給付つき税額控除というのは、実はいろいろな形があります。非常に簡素な形からもう少し複雑な形まで、あるいは、イギリスが今現在キャメロン政権のもとで検討しております、ユニバーサルな、本当に全てを統括したような給付つき税額控除もございます。
所得の低い人たちに勤労を条件に支援する、フルタイムで働いても相対的貧困に陥っている、いわゆるワーキングプア層の勤労を促進する、あるいは子供の数に応じて子育て家庭に経済支援し少子化を食いとめる、こういった対策に向けて、本格的な給付つき税額控除を充実させる必要があるのではないかというふうに思います。
今回は、まず逆進性対策として簡素な形、この五ページの表でいいますと、カナダのとっているような、一定の所得以下の方には定額の給付をする、こういった簡素な形での給付、簡素な形での給付つき税額控除を導入して、その後、本格的な勤労促進あるいは所得再分配政策としての機能拡大をしていくというふうなことをお願いしたいと思います。
そのためには、財源として、配偶者控除、私は、この配偶者控除というのは究極のばらまきではないかと思いますが、配偶者控除などの縮減あるいは生活保護の効率化、そういったものを行いながら、その財源をもとに、勤労促進や子育て支援のための制度を構築していくということが考えられると思います。こういった改革こそ、真の社会保障、税の一体改革であるというふうに考えております。
新聞報道によりますと、与野党協議の中で、給付つき税額控除は低所得者の所得の捕捉ができないので反対という意見があるようです。しかし、社会保障というのは、低所得者層の所得を正確に捕捉するというところから成り立っているわけでございます。この原点をおろそかにしますと、国家としてまともな社会保障制度はできなくなるわけです。そのために、マイナンバー、番号制度を導入しながら正確な所得の捕捉に向けて努力をしていく、これが私は国家の責務ではないかと思います。そういう意味では、マイナンバー法も早く成立をさせていただきまして、こういった低所得者層の所得とか資産も的確に把握できるような制度をつくっていく。
したがって、低所得者層の捕捉ができないから給付つき税額控除は無理だという意見は、私は敗北主義ではないかというふうに考えております。
いずれにしましても、給付つき税額控除というのは、税と社会保障をつなぎますグローバルスタンダードな制度で、我が国では逆進性対策から導入していくとしても、勤労税額控除、児童税額控除といった欧米諸国で大きな成果を上げた政策として発展させていく、そういった気概を持って改革を進めていただきたいというふうに考えております。
最後に一言、消費税引き上げに伴う経済効果について申し上げます。
消費税率の引き上げが経済にマイナスの効果を及ぼすことは間違いありません。しかし、あわせて行う社会保障改革や財政再建への筋道が、我々の将来不安を取り除くとともに、金利リスクの軽減という形で経済の大きなリスクを取り除く、こういった効果を持つことを過小評価してはならないと思います。グローバル経済の中で、経済に内在するリスクを最小化することは極めて重要な政策だと思います。そういう意味で、この法案が一日も早く成立することを願っております。
以上です。(拍手)