鈴木宣弘の発言 (国際・地球環境・食糧問題に関する調査会)

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○参考人(鈴木宣弘君) 鈴木でございます。よろしくお願い申し上げます。
 私の方は、お手元に御配付いただいております「貿易自由化と食・農・環境(その一)」という資料に基づきましてお話しさせていただきます。
 ほかの三人の参考人の皆さんとはちょっと私の方のお話は違いまして、私は水の専門というより食料需給とか貿易問題の専門でございますので、そのような視点からお話をさせていただきたいと思います。
 それから、その二という資料につきましては、TPPの問題に関連する部分も非常に多く含まれておりましたので、後ほど配付ということにさせていただきました。
 さて、このその一の資料の十四ページまで飛んでいただきまして、まず、事務局の方からバーチャルウオーターの概念について少し話してからという指示を受けておりますので、まず、十四ページの一番下から七行目の部分でございますが、バーチャルウオーターという概念は東大の沖大幹先生が提唱されておる概念かと思いますが、輸入している農産物を仮に日本で生産したとしたらどれだけの水が必要かと、こういうふうな仮の水の量を計算したものでございます。
 具体的にこれを使ってイメージを考えるために、十六ページの表の七というのを見ていただきますと、これは日本が米の関税を完全に撤廃した場合にどのようなことが起こるかというのを試算したものですが、一番右端のWTOと書いてある部分、世界全体に米関税を撤廃した場合には、米の自給率が、上から五つ目、一・四%とほぼ壊滅的な打撃を受けると。そういう状況の中でバーチャルウオーターはどういう変化を示すかというと、現状の米輸入について計算すれば一・五立方キロメートルのバーチャルウオーターの量になりますが、米の消費量をほとんど輸入で賄うことになりますので、それが三十三・三立方キロメートルまで大幅に増加すると、二十二倍に増加するということでございます。
 これがどういう意味を表すかといいますと、十五ページに戻っていただきまして、上から十行目ぐらいですか、バーチャルウオーターが一・五から三十三と、二十二倍に増加すると。これは二十二倍の水が日本で節約できるということを表しますが、世界的に見ますと、水の比較的豊富な日本で水を節約しまして、既に水が足りなくなっておるカリフォルニアとかオーストラリアとか中国の東北部等で環境を酷使するということになりますので、世界の水収支から見てこれは非効率であると、水収支を逼迫させるという要因になるということを示しております。バーチャルウオーターは、このような形でシミュレーションの中で食料の貿易自由化の問題と絡めても議論することができるということでございます。
 私の方からは、次に、この資料の一ページまで戻っていただきまして、今後の食料需給全体がどうなるかということについても触れるようにということでございましたので、その点を次にお話ししたいと思います。
 まだ記憶に新しい二〇〇八年の食料危機を思い出していただきますと、図の3—2と書いてございますが、ここに穀物の在庫率と価格との関係が示してございます。在庫が少なくなれば価格が上がるという関係で、このように大体右下がりの線が引けるわけでございますが、二〇〇八年というのはこの経験則で説明できないような激しい価格上昇、つまり、この右下がりの線から飛び出して上の方に行っております。
 そこで、需給で説明できないこの危機が起こったということでございますが、この要因を考えてみますと、図の3—2の下にありますように、実は米については在庫水準は前年よりも改善していたわけでございますが、ほかの穀物の高騰で米にも影響が出るという不安心理が増幅されまして、自国優先で、米を輸出しないという国が増えました。そこで、ハイチやエルサルバドルやフィリピンで起こったように、高くて買えないどころか、お金出しても米が買えないという状況が広がりまして、そこで、もう関税を削減しろということで、どんどん穀物の関税を下げて米生産が縮小してしまっていた途上国が多くなっていた中で、主食が手に入らないということになって死者を出すようなことまで起きたということでございます。
 そういうふうな状況を踏まえまして、今後の食料需給の逼迫についてどういうふうに考えるべきかという点での私の見方は、一般に挙げられているその食料需給の今後の逼迫要因というものはもうちょっと冷静に見ておくべき側面も多いというふうに考えております。
 そういう点では、一方的に今後、食料需給が逼迫を強めて、価格がもう上がり続けて高止まりするとかいうようなことはないと。価格の上昇と下落は繰り返して、それが需給を調整していくというのが基本的な流れだと思うんですけれども、今回の経験で問題にしなきゃいけないことは、特にアメリカですが、アメリカはIMFの融資をする条件として、いろんな、各国に米の関税を撤廃しろとか三%まで下げろとか、非常に貿易自由化を条件としてそういうふうな融資を認めるというような形でたくさんの国の穀物、基礎食料の関税を引き下げさせてきました。それによって、基礎食料の生産をたくさんの国が減らしまして、逆に、少数の生産国、アメリカ等のですね、に食料を依存する国が増えてきたと。
 こういう状況が広がってきておりますので、需給にショックが生じますと価格が上がりやすくなる状況になっております。それを見まして、高値期待から投機マネーが入りやすいと、不安心理から輸出規制が起きやすいということで、価格高騰が増幅されやすくなっていると。これによって、先ほどの図の3—2で見ていただきましたような需給要因で説明できないような価格高騰が起きたということでございますので、一番の問題はこの部分にあると。
 じゃ、輸出規制を規制すればいいんだというような意見もありますが、本当に自国の国民が飢えるようなときに、それをさておいて海外に売ってくれる国はございませんので、そういうふうな甘い議論はできないと。ですので、今後の食料需給につきましては、一方的に逼迫していくという悲観的な見方をする必要はないですが、需給に逼迫が生じたときにこの価格暴騰が起きやすい市場構造を踏まえますと、数年間、輸出規制等によって米さえも輸入ができないような状況が続く可能性がありますので、それに備えなきゃいけないということではないかというふうに思われます。
 二ページの注のところに、冷静に考えておくべき視点ということで、食料需給逼迫の要因についていろいろ言われている点については、もう少し違った見方というか、冷静な見方が必要だという点は、そこに小さな文字で書いてある部分、これは後で参考にしていただければと思います。
 それで、じゃ、食料需給が逼迫して穀物が輸入できないような状況というものについてやはり我々は相当危機感を持って考えなきゃいけないという点で、その二ページの六行目ぐらいに、やはりアメリカは非常に戦略的に食料を考えているという点で、そこに事例が挙げておりますが、ウィスコンシン大学の教授が授業で、食料は武器であると。直接食べる食料だけじゃなくて畜産物の餌が重要だと。まず、日本に対して、日本で畜産が行われているように見えても、餌を全てアメリカから供給すれば完全にコントロールできると。これを世界に広げていくのがアメリカの食料戦略だから皆さんも頑張ってくれということを授業でも言っていたと日本の留学生の方が著書に書いております。原文では、君たちはアメリカの威信を担っている。アメリカの農産物は政治上の武器だ。だから、安く品質の良いものをたくさん作りなさい。それが世界をコントロールする道具になる。例えば、東の海の上に浮かんだ小さな国はよく動く。でも、勝手に動かれては不都合だから、その行き先を餌で引っ張れということですね。
 御案内のとおり、ブッシュ前大統領も必ず食料関係の皆さんに演説するときに、ここには書いてございませんが、こう言っていました。食料自給はナショナルセキュリティーだと。それが常に保たれているアメリカは何と有り難いことかと。それに引き換え、どこの国のことか分かると思うけど、食料自給のできない国を想像できるかと。それは国際的圧力と危険にさらされている国だよねと。まあ、そんなふうにしたのも我々だけどな、もっともっと徹底しようということを必ず演説で言っていたと。
 しかも、日本が貿易自由化を更に進めて、そういうふうな、こういう危機的な状況が起こったときに国民の命にかかわる問題が生じるということとともに、十六ページの先ほどの表の七をもう一度見ていただきますと、それはいろいろ付随的な問題も生じますよと。それが、一つは水問題であり、先ほど申し上げましたとおり、世界の水需給の逼迫を強める要因になって世界の人々を困らせますよと。
 それから、例えば窒素の収支の問題でも、日本が輸入ばかりになって自国で生産しないということは、でき上がった食料における窒素分だけを輸入して自国でそれを循環できる農業が縮小しますから、窒素の過剰問題が深刻になりますよと。今でも、農地が受入れ可能な窒素量に対する窒素供給量は二倍に達してきております。一九二・三、約二倍。それが、水田が崩壊しただけでも三倍ぐらいまでなりますよと。
 それから、環境の問題でいえば、カブトエビやオタマジャクシやアキアカネとか、そういうものが四億匹も死んでしまいます。
 それから、フードマイレージの議論もよく行われますが、これも十倍に増えますよと。これでCO2の排出が米に関して十倍に増えてしまいますよと。
 このような要因、金額換算しにくい部分はありますが、そのような要因、要素も考えますと、貿易自由化による問題というのはこういうふうな総合的な評価が必要だということがここで分かります。
 それから最後に、この資料の二十四ページになりますが、食料の安全保障を確保するためにどうすべきかということで、よく、今、この前のような食料危機が起きたのは貿易の自由化が徹底されていないからだ、農産物の貿易量が少ないからこういうことになったんだから、もっともっと自由化を徹底すれば食料安全保障は確保されるんだ、価格は安定するんだという議論が一方で盛んに行われておりますが、それは現実に起こったことからすると間違いじゃないかと。食料貿易においての自由化の行き過ぎが、先ほど申し上げましたとおり、作れない国を増やし、いざというときに価格が高騰しやすく、それを見て輸出規制や投機マネーが入りやすい状況をつくり出したわけですから、これ以上の貿易自由化の行き過ぎというものはやはり食料安全保障を崩すと。
 その二十四ページの一番下に書いてありますように、でも、関税は撤廃しても直接支払で補填すればいいんだから関税に頼る必要はないという議論がその次に出てきますが、経済学的には関税よりも直接支払の方がロスが、損失が少ないという議論は確かにありますけれども、実際問題として、じゃ、例えば米の関税をゼロにして直接支払で補填しようとしたら、毎年米だけで二兆円近い財政負担が掛かるかもしれないと。そのようなことは日本であってもほとんど不可能に近いわけでございますから、軽々しく関税を撤廃して直接支払に変えればいいという議論も現実的でないということかと思います。
 ですので、ある程度の関税を維持して食料需給の逼迫時に備えるということがどうしても合理的であるというふうになろうかということでございますので、私の方からは、少し視点がほかの方とは違っておりましたが、御参考になればと思います。
 ありがとうございます。

発言情報

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発言者: 鈴木宣弘

speaker_id: 2992

日付: 2013-03-07

院: 参議院

会議名: 国際・地球環境・食糧問題に関する調査会