後藤千恵の発言 (国民生活・経済・社会保障に関する調査会)
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○参考人(後藤千恵君) ただいま御紹介にあずかりましたNHK解説委員の後藤千恵と申します。(資料映写)
今日は、雇用とセーフティーネットの問題につきまして、これまでの取材を通じて、感じ、考えてまいりましたことを個人の意見として述べさせていただきます。
私が今最も深刻だと考えていますのは、現役世代の中に、働いても食べていけない、働きたくても働けない人たちが増えているということです。働いても食べていけない、これは、非正規雇用の広がりなど、いわゆる雇用の劣化によるものです。この問題につきましては、樋口先生が後ほど詳しくお話しくださるかと存じます。
今日、私は、こちらの、働きたくても働けない人たち、いわゆる就労困難者をめぐる問題にポイントを絞ってお話をさせていただきたいと思います。
働きたい。働けないのではない、働けるのに働かないんじゃないか、そんな意見も聞かれます。中にはそういう人もいます。でも、私のこれまでの取材実感では、圧倒的に多くは働きたいのに働けない人たちです。そうした人たち、実際にどのくらいいるのでしょうか。
生活保護を受けている世帯のうち、支援があれば働ける可能性のある人は、厚生労働省の推計で三十万人とされています。数は重なりますが、一年以上の長期にわたって仕事を探し続けている長期失業者、百二十万人です。ニート、引きこもりの人、七十万人に上ります。
例えば、この長期失業者百二十万人、このうち、二十代、三十代の若者が半数以上を占めます。そして、その六割は正社員の仕事を求め続けている人です。企業が正社員の採用を控え、抑え、非正規雇用を増やそうとする一方で、正社員の仕事を求める人は増え、こうして失業が長期化しているんです。
ニート、引きこもり、実は不登校から引きこもりになった人は一割ほどです。一方で、職場になじめなかった、就職活動がうまくいかなかったという人が四四%、半数近くの人は実は仕事がきっかけで引きこもりになっている。四人に一人は三十代で引きこもりになっています。引きこもりだから働けないんではない、働けないから引きこもっている人たちが少なくないんです。大学を出た新卒の人たちでも就職は難しい現状です。こうした人たちが安定した仕事に就くにはかなり高いハードルがあるんです。
このまま行くとどうなるんでしょうか。結婚したくても経済的な理由でできないという人が増えて、少子化は更に進みます。二〇三〇年には生涯未婚率が男性で三〇%、女性で二三%になるという推計があります。貧困の連鎖も心配されています。既に日本の子供の六人に一人が貧困状態にあるとされています。子供を産み育てることが当たり前ではなくなっているんです。社会保障費、誰が担っていくんでしょうか。
自殺者が急増した九〇年代後半、中高年の男性の自殺が多かったんです。でも、二〇〇〇年代後半から増えているのは三十代の男性です。内閣府は、長期失業など失業要因による影響が大きいと分析しています。三十代前半までの若者で死因の第一位が自殺となっている国、先進七か国で日本だけです。現役世代の多くが病み、働けずにいる社会が力を持ち続けることができるのでしょうか。就労困難者を放置したツケはこの社会全体、私たち一人一人が負うことになります。
では、実際に働きたくても働けない就労困難者をどうやって支えていけばいいのでしょうか。政府は、生活保護に至る前の支援、第二のセーフティーネットの重要性を訴えています。しかし、十分に機能しているとは言えません。
例えば、その政策の柱とされる求職者支援制度です。この制度は、御存じのように、失業手当を受けられない失業者が月十万円の生活費を受け取りながら無料の職業訓練を受けられる制度です。期待を集めた制度ではありますが、実績は余り上がっていません。制度が始まった二〇一一年度は、予算ベースでは十五万人の利用を見込んでいました。しかし、利用者は五万一千人。一二年度は、二十四万人の見込みに対して去年十一月の時点で六万八千人です。来年度は十四万人分の予算しか確保されていません。
背景の一つは、まず、利用者にとって、無断欠席が許されないなど要件が厳しく受講のハードルが高いことです。そして、訓練機関にとって、就職率が低くなると次の年に認定を受けられない仕組みになっておりますので、就職につながりそうな人を選別してしまっているということがあると見られています。働くことに困難を抱えている人たちを支える制度なのに、そうした人たちが最初から排除されてしまっているという厳しい指摘もあります。
一方、就職率、およそ七〇%と公表されています。しかし、正社員などの無期雇用に就いた人はおよそ半数です。問題は、その仕事をどのくらい継続できているのか、定着率についての調査は行われていません。就職後のフォローをする制度もありません。就労が困難な人たちを、働いて自立につなげ、第二のセーフティーネットとして機能させるのであれば、就職率という短期の目標ではなく、その後の定着率を含めた長期にわたる検証が必要です。また、採用企業と連携して質のいい就労につながる訓練の在り方を模索するなど、制度の再構築が必要だと思います。
実は今、各自治体も、生活保護を受けている人たちの就労支援に力を入れています。でも、なかなかうまくいっていません。そんな中で、一つ、例えば川崎市が去年から面白い取組を始めています。人材派遣会社と連携してコミュニケーションのスキルを高めるための講座を始めたんですが、ポイントはグループをつくって受講することです。何かといいますと、生活保護を受けていらっしゃる方というのは、やっぱり地縁、血縁、社縁がなくて社会から孤立しがちなんですね。そうした受給者の仲間づくりをする、そこに力を入れようということなんですね。
すると、採用試験に失敗しても、やはり失敗することは多いんです、ここに戻ってきて仲間に話をします。そうか、今度は頑張ろうと声を掛け合える。そんな仲間ができたことで働く意欲が高まってきた。実際に就職につながる人も出てきています。この講座は午前九時半から始まるんですけれども、午前八時半から、一時間も早く集まってくる受給者が何人もいるそうです。
とはいえ、こうして職業訓練を受けて力を付けましても、実際に働く場がなければ解決にはなりません。特に今、コミュニケーションが苦手な若者が増えています。人間関係うまくつくれないんです。一方で、企業は即戦力となる人材を求めます。働く人を守り育てていく余裕がなくなってきている。少しでも能力が欠けると安定した仕事にはなかなか就けない。働く場を見付けられない人は増える一方です。
では、どうすればいいのでしょうか。
ここで、社会の課題に果敢に挑戦する新しい企業群の事例を紹介します。これまでとは逆の発想で、従業員を大切にすることで収益を上げようとしている二つの事例です。
一つは、東京赤坂に本社のあるISFネットグループ、IT関連の仕事を主体とする企業です。従業員は二千五百人なんですが、そのうちおよそ千人が就労困難者とされた人たちです。元ニート、フリーター、七百人です。知的、精神、発達障害などの障害者、三百人です。
この企業の採用方針、とてもユニークです。履歴書は参考にしません。募集要項にありますのは、無知識、未経験、そして意欲のある人という言葉です。そして、こちらに書いています二十の要因、ニート、フリーター、引きこもり、障害、いろいろな要因ありますが、こうした二十の要因、通常であれば、こういう要因があるから就職ができにくい。だけれども、ここでは、就職に当たってこの二十の要因について、あえて採用、不採用の理由にしないということを宣言しています。
あるとき、精神に障害のある人が面接に来て、人事担当者がその人が気にしている言葉を言ってしまった。その人はかっとなって、目の前にあった筆箱を担当者に投げ付けたそうです。その人はどうなったか。採用です。頑張って働きたいという意欲があったからです。筆箱を投げ付けたのは、精神障害からくる一種の病気の症状です。だから、採用の判断材料とはしなかったというんですね。
では、実際にこうした人たち、どんな仕事をしているのでしょうか。
私が先週取材させていただいた職場は、日本で最先端の仕事の現場でした。町中のお店や駅など人の集まる場所につくる無線LANのスポット、そのWiFi基地局に設置する機械の設定とこん包の仕事です。知的障害のある方、精神障害のある方、元引きこもりの方、生活保護を受けている方、いろんな人たちがここで一緒に仕事をしていました。皆さん研修を受けた上で、やり方を細かく書いた手順書に沿って作業を進めています。一つの作業が終わるごとにグループのリーダーにチェックしてもらいます。そして、納品の段階でも最終チェック、二重のチェック体制ですので、安心して働ける仕組みになっています。ノルマはありません。自分のペースで仕事ができます。多めに人を配置していますので、急な休みにも対応できます。
ここで、生活保護を受けて三年、五十社近く応募したけれど、どこにも採用されなかったという男性も働いていました。四十八歳、お話ししますと大変しっかりした方なんですけれども、採用のときにはもう年齢だけではねられてしまったそうです。会社としては、彼にリーダーの仕事を任せたいと考えていると言っていました。この職場には、精神、知的の障害者が多いので、実は生活保護の受給者は何度も就職試験に失敗して自信を失っている人が多いんですけれども、ここで自信を取り戻すきっかけになるというんですね。
この企業では、ハンディのある人のために支援者を増やすのではなく、ハンディのある人自身をリーダーとして育てていく方針を取っています。就労困難者自身がリーダーになっていくことで、特別に支援員を配置する必要もなくなってくるんですね。全盲の二十代のNさん、今は関連団体の事務局長として活躍しています。三十二歳までフリーターをしていたHさん、入社六年目で二百五十人の部下を束ねる中部エリアの責任者になりました。
会社設立から十二年、十一期連続で黒字を続けています。渡邉社長は、社員の雇用を守り抜く、切らずにいると会社は固く結ばれる、就業困難者の雇用を成長につなげるんだと話していました。
なぜ就労困難者を雇って黒字経営ができるんでしょうか、それが成長につながるんでしょうか。ポイントをまとめました。まず、就労困難者を戦力にしていることです。いろんな仕事を切り出して細分化して、就労困難者でもできる仕事にしています。さらに、ステップアップの仕組みをつくってリーダーを育てていく。できないところはみんなでカバーし合って、できるところを伸ばしていきます。次に、新しい仕事を次々につくり出すということです。IT関連の仕事にこだわらず、障害者が働けるカフェをつくったり、地域のクリーニング店や飲食店など、働く人が集められずに経営難に陥っている零細事業者と組んで、そこを就労困難者の働く場として復活させています。また、就労困難な人を雇っているということを知った取引業者がわざわざ仕事を回してくれるようになってきている、もう自然と仕事の依頼が増えているというんですね。そして、最後、何があっても雇用を守る、辞めさせない。雇い続けてくれる安心が社員のやる気につながり、生産性を高めているというんですね。
次に、もう一つ民間の取組の事例を紹介します。
働きたいけど働けない、いろんな事情を抱えた人たちの雇用の受皿として今注目されているものの一つにコミュニティービジネスがあります。これは、食の問題、エネルギーの問題、高齢者、子育て、教育の問題、そうした地域の課題を解決することをボランティアではなくビジネスにしていくというもので、今各地に広がりつつあります。
例えば、藤沢市にあるNPO法人ぐるーぷ藤、七年前、総工費五億円を掛けて自前の福祉施設を建設しました。地域住民からも一億円近い出資を受けています。この建物の中には、高齢者住宅、通いの介護施設、精神障害者のグループホーム、地域住民の相談窓口にもなっている地域レストランや幼児の施設まであります。地域の課題を全部解決しようというんですね。
運営は全てスタッフの意見を反映しています。新たな事業展開からボーナスの査定まで全てスタッフの話合いで決めます。働きたくても働けないいろんな事情を抱えた人が来ます。どうすれば働けるようになるのか、みんなで考えます。考える中からいろんな多様な働き方を生み出してきました。
例えば、大学時代から三年間、家に引きこもっていた男性。昼夜が逆転していましたので、最初は週に一回の夜勤、夜は得意ですから、夜勤から始めました。そうして徐々に仕事を増やし、一年掛けて昼の生活に戻しました。ヘルパーの資格も取って、今お年寄りに人気の介護士となっています。イケメンなんですね。
生活保護を受けていた六十代の女性。ここで働きながらホームヘルパーの資格を取って、一年後に生活保護から抜け出すことができました。
障害のある子供さんのいるシングルマザーの女性。夜勤を中心にしたシフトを組んで、非常勤ですけれども、月に二十万円を超える収入を得て家計を支えています。
子育て中のお母さんも好きな時間帯に好きな時間だけ働けます。学校が休みのときには子供と一緒に仕事ができるように、子供たちにはその近くでお年寄りのボランティアをしてもらう、それを制度としてつくりました。
高齢者もここでは貴重な戦力です。常勤、非常勤スタッフ百四十五人、このうち六十代、七十代が五十一人です。ここで働くにはホームヘルパー二級の資格が必要なんですが、七十二歳のときに資格を取って生き生きと働いている女性もいました。
このNPOでは、常勤、非常勤のスタッフに均等待遇を保障しています。一時金は非常勤の人を含めて年三回。非常勤の人にも有給休暇を必ず取らせます。毎年ベースアップも続いています。
理事長の鷲尾さん、こう言っています。スタッフが笑顔でいられるように常に考える。スタッフが笑顔でいられるとサービスの質の向上につながる。利用者が増え、収益が増える。スタッフの報酬を上げられる。いい循環につながるんだと、このように話していました。
コミュニティービジネスは、いろんな事情を抱えている人たちがこのように柔軟に働くことのできる地域の雇用の受皿になっていく可能性があると思います。ただ、経営がうまくいっているところばかりではありません。中には、行政の下請のような仕事を担ったり、経営がうまくいっていないところもあります。地域に根差したこうしたビジネスをどう広げていくのか、課題です。
政府は、生活困窮者の就労支援の一環として、来年度から中間的就労と呼ばれる働き方を促進する事業に取り組みます。まさに今御紹介した二つの事例のように、一般の企業ではすぐに就労の難しい方に対して訓練を兼ねた温かい就労の場を提供していく、そんな事業者を増やそうというんです。そのために、事業者の認定制度を設けた上で税制優遇措置をとったり、事務所の経費など立ち上げに掛かる費用を支援する方向で今検討を進めています。こうした取組、重要だと思います。ただ、事業者の自由度を損なわないような形での支援が必要だと思います。目指すところは良くても、制度になると使い勝手が悪くなってしまう、そんな事例多いんです。
例えば、地域で高齢者ケアなどを行うためのNPOなどを立ち上げる際の費用を助成する厚生労働省の地域支え合い体制づくり事業というものがあります。ニーズはあるんですけれども、使われていません。余り使われていません。二百億円の事業費、今年度末まで期間を一年延長したんですが、それでもなお半分の自治体が使い残しています。自治体のチェックが厳しくてたくさんの書類を整えなければならず、すごく使いづらいんだという声を聞きます。例えば、自治体から直に交付するんではなく、中間支援団体を通じて交付するなど使いやすい制度にしていけるかどうか、そこがポイントだと思います。
これまで、働きたくても働けない人たちが働けるようにする、その受皿づくりの重要性をお伝えしてきました。ただ、同時に欠かせないのは、雇用対策と社会保障政策に車の両輪として取り組んで安心して働ける環境づくりを進めていくことです。こちらにつきましては樋口先生からお話があると思いますけれども、雇用対策としましては、多様な正社員を広げていく、非正規から正社員への転換を促す制度、そして将来的には、同じ仕事をした人には同じ待遇を保障する同一価値労働同一賃金の実現に向けて一歩を踏み出すということが大事です。
さらに、働いて得た収入では生活できないという人たちのために給付付き税額控除、また困窮している人たちに住宅を提供していく。住まいさえ何とかなれば生活できるという人が実に多いんです。これらはいずれも長く必要性が言われ続けてきたことです。重要なのは、政労使の合意で実現に向けた一歩を踏み出すこと、本気の取組です。
私たちは今、時代の大きな転換期にいるんだと思います。グローバル化、人口減少、超高齢社会の到来、この避けて通れない大きな課題を乗り越えていくためにどんな新たな社会像を描くのか、まだはっきりとした答えは見えていません。参考になるのは、EUの二〇二〇年を目標年度とする新しい成長戦略です。
この中でEUは、経済成長率を直接の目標とはせず、多面的な三つの成長を目標に掲げています。知的な成長、持続可能な成長、そして注目されるのが包摂的な成長です。就業率を上げ、人々の技能を高め、貧困を克服することによる成長です。具体的な数値目標も掲げています。就業率を今の六九%から七五%に高める、貧困ライン以下で生活する人の数を二五%減らして二千万人を貧困から脱却させることなどです。
日本でも今求められているのは、単にGDPの拡大を目指すことではなく、グローバル化や高齢化がもたらす経済や社会の変化によって排除されやすい人たちを再び社会に包み込む、それを成長への原動力としていく、そうした戦略ではないでしょうか。グローバル競争に勝ち抜くと同時に、誰もが安心して働ける多様な働く場を広げることで内需を高め、成長につなげていけるかどうか、それが問われているように思います。