宮家邦彦の発言 (国家安全保障に関する特別委員会)
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○宮家参考人 おはようございます。宮家邦彦でございます。
本日は、NSCの設置法につきまして、私の立場からお話を差し上げます。個人の立場として、個人的には非常にいい法案ができたと思っておりますが、この内容それから意義については、過去、もう既に委員会でもいろいろ議論をされておられますので、私は、それを繰り返すことなく、私の個人の立場でどのように感じているか、そして、どのような問題点があり得るかということを十五分程度でお話しさせていただきます。
まず、必要性なんですけれども、どこまでしゃべっていいかはわかりませんが、私が少なくとも一九九八年に日米安保条約課長であったころの話と、それから現在、この法案ができた後のことを考えると、やはり隔世の感があると私は思っております。
昔は、こんなことを言っていいのか本当にわかりませんが、信じられないことが起きていて、防衛省は防衛省で政策をつくる、外務省は外務省で政策をつくる。防衛、外交もしくは安全保障問題、それについて、個別に、総理、官房長官に上げていくケースがある。もちろん一緒になったこともありますけれども、ばらばらのケースが多かった。それはそれでいいのかもしれませんけれども、大きな問題点があります。それは、もし話の内容が同じであれば、どっちかは不要でございます、時間がもったいないですから。もし両者が違えば、これは大問題であります。
つまり、防衛政策それから外交政策というものが、事前にちゃんと連絡をとって連携をする、その上で総理に一本化して上げていくということが、実は必ずしも十分確保されていなかったわけであります。
現在、東アジア地域では巨大なパワーシフトが起きております。我々はこのパワーシフトを生き延びなきゃいけないわけであります。
冷戦時代は確かに不安定な時期だったかもしれませんが、今に比べればはるかに安定しておりました。しかし、最近は特にそうですけれども、不測の事態がいつ起きるかわからないような状態にある。昔のように、のんびりとばらばらに省庁が官邸に入ってきては、それを総理、官房長官に御説明し、そして了承を得るというような時代ではもうないんじゃないかと私は思います。
その意味で、もしこの法案ができるということになれば、恐らく日本で初めて制度的に、外交政策そして防衛政策、この重要なものについて、つまり国家安全保障問題について重要と思われる事項について、組織的に連携、調整が行われた形で政治レベルの意思決定ができるシステムができ上がるという、これは本当に一昔前であれば信じられないことが起きようとしている。これは非常に重要なことだと思っています。
特にここで御指摘申し上げたいのは、常駐のスタッフができるということであります。
今までは、どちらかというと、何か事件が起きる、そしてその対応をその場で考える、十分な事前の準備もしないまま、もしくは、していても必ずしも関係省庁と連携をとらないままに事態が起きていく。しかしながら、現在は、常駐スタッフができ上がりそうであります。それが定期的な議論をし、そしてあらかじめ幾つかの政策オプションというものを考え、そして場合によってはリハーサルもして準備をしておく。これは極めて重要なことであります。
なぜ重要かというと、決定が早くなるからであります。もちろん、何時間も何十時間も何日もかけて決定をすることは今のシステムでもできるでしょう。しかし、何十時間も待ってくれないのです。事態というのは本当に時間がないのであります。
私も、幸い、現役でありましたときにはそういう事態には必ずしも遭遇いたしませんでしたが、私は、アラビア語でありまして、中東のことはある程度知っております。中東の地域のことが、もし同じようなことが日本で起きたとしたら、そんなに時間はないのです。場合によっては数時間で、そして、もしミサイルが飛んでくれば十分で物事を決めなきゃいけないわけであります。そのときに今のシステムで本当に決められるんだろうか、実は非常に不安がありました。
それを、恐らく、今回この法案が通ることによって、相当程度改善されることが期待されるわけであります。やはり、迅速な決定をして、そして機動性を持った政策決定をする、これが私は重要だと思います。
このNSC、もしくはこれに似たようなシステムというのは主要国どこも持っております。むしろ、逆に日本だけがないのであります。やはりこのようなことが続くということはもう考えられない。特に最近の東アジアの情勢に鑑みれば、こういうシステムが必要である、当然であろうと思います。
これに反対される方がいらっしゃるとは私は個人的には思っておりません。もちろん、内容的にいろいろ御意見がある方はあると思います。私も、幾つか注意しなければいけないと思う点がありますので、それを少し御紹介したいと思います。
まず最初に、屋上屋を架するのではないかという議論があります。しかし、屋上屋というのは屋根の上に屋根を建てることでございますが、もともと屋根が一つないのであります。屋根のないところに屋上屋は架せないのであります。
今は、危機管理について屋根があります。しかし、国家安全保障問題については屋根がないのです。屋根がないから各省庁が直接上に上がっていく。そこで連携ができないわけでありますから、屋上屋を架するのではなくて、もう一つの屋根をつくるのであります。それを屋上屋というふうな形で表現するのは、私は違和感がございます。
しかし、NSCがもしできた場合に、危機管理監との関係もしくは危機管理の活動との関係というのが当然問題になると思います。この件についても、私も随分考えておりますが、今回提出された法案を見ておりますと、そこそこのバランスのとれた解決をされているなという気がいたします。
その理由は、全ての世の中の事象というのは、全てを危機管理監が処理できるわけでもありません。それから同時に、全てをNSCの局長が処理できるわけではありません。危機管理と国家安全保障問題というのは同一ではありません。
例えば、例を一つ差し上げましょう。この間、一月でありますが、アルジェリアにおいて、邦人保護の案件で、多くの企業戦士の方が亡くなった、とうとい命を失われた。これは邦人保護の世界でございます。これは基本的に、問題が生じ、損害が生じ、その損害をどのようにして最小限に食いとめるか、もしくは事前に予防するかも含めて、危機管理の問題だと思っています。
危機管理、すなわち一種のダメージコントロール、言い方がいいかどうかわかりませんけれども、そのような形で専門の部署を置いて、そして二十四時間対応できる職人芸の世界、これが私の考える危機管理でございます。
それに対して、国家安全保障問題というのは政策の企画立案、実行であります。もちろん、NSCの局長もしくは事務局というのはあくまで総理の諮問機関ということではございましょうが、実質的には、先ほど申し上げたように、関係省庁の政策というものを連携をとった上で総理に上げる機能でありますから、そこは、政策をつくる、そして実行する。
このNSCとそれから危機管理というのは、実は相互排他的なものではありません。場合によっては、両方の問題が同じときに起きることがあり得ます。
先ほどはアルジェリアの例を差し上げましたけれども、例えば湾岸戦争なんかは国家安全保障問題だと思います。
では、例えば朝鮮半島で何かが起きたとしましょう。そのときには、もし有事の動きになった場合には、これは当然国家安全保障問題になりますけれども、同時に、例えばソウルに何万人もの日本の方がおられる、この方々の避難もしくは帰国等の問題、これは危機管理として処理をできると思います。
すなわち、危機管理監と国家安全保障局長というのは、相互乗り入れが可能な、協力し合う関係にあるべきだと思っております。
その意味で、今回書かれております法案には、そこまで詳しくは書いておられませんけれども、そのような意図が感じられており、これは両者をうまくバランスをとったいいシステムであろうと私は思っております。相互乗り入れをし、もちろん独立して、並立しながらも相互で協力し合う、こういうシステムができ上がることを私は望んでおります。
三番目に、よく言われますのは、情報の集約という言葉でございます。
情報につきましても実はいろいろ誤解がございまして、NSCというのは決して情報機関ではないのです。
情報機関というのは、種々雑多な情報を集め、それをプロによって分析し、そして最終的に、これなら正しいだろうというプロダクトをつくる作業であります。その情報機関の作業というのは、実は政策立案ではございません。政策立案を支援する役割はあっても、決して情報機関は政策を提言するものではございません。
それに対して、NSCというのは政策をつくる場でございます。したがって、NSCが、新しい国際情勢に対応するために、新しい政策をつくるために、当然必要な情報というものを情報機関もしくは関係省庁から入手して、それを消費するというのがNSCだと思います。
したがいまして、NSCができたから情報が集約されるとかそういう議論ではなくて、やはり政策を語るNSCと、政策を語らない、しかしそれを支援する情報機関という、デマーケーションといいますか、すみ分け、これが必要だと思っております。
そういうふうな形でNSCを見ていけば、必ずしも今のシステムがおかしくなるということはないと思っておりますので、このような形で進めていっていいのではないかと思います。
特に、もし、もう少しお時間をいただければ、実際にどのような形で情報が使われるかということを再現したいと思います。
例えば、私がもしNSCにいるとします。そして、私は中東屋ですから、中東で何か事件が起きるとします。これはもう一刻を争う話になりますので、当然のことながら、情報機関から情報は直接間接に担当官のところに参ります。それをうまく使いながら、実際にやるのは政策の立案そして実行でございます。この接点にいるのが担当官でございますから、その担当官が使いやすい、仕事をしやすい、そして、短時間の間にできるだけ多くの情報を処理しながら間違いのない政策立案ができるようにシステムがつくられていけばいいなというふうに思いました。
そして、最後でありますが、このNSCもしくは国家安全保障会議について、誰がそれを代表するのかという議論もあり得るわけであります。これも、きのう、過去数日間、いろいろ議論をされておると思います。私の意見だけ申し上げて、お話を締めさせていただきたいと思います。
確かに、NSCというのは、日本のこの法案であれば、事務局があり、その上に局長がいて、それは内閣官房に置かれます。他方、それとは別に、総理補佐官が専任で置かれるということでございましょう。機能について申し上げれば、総理補佐官はまさに総理を補佐する、助言する立場であられると思います。それに対して、諮問機関ではありますけれども、NSCの局長というのはラインに入っておられるということでありましょう。
そういうことであれば、基本的には、やはりラインにいる国家安全保障局長が、諸外国のNSCの例えば補佐官であるとか、もしくはその種のトップと連絡をとり合うというのが普通であろうと思っております。ただし、それは、総理補佐官が何もしないでいいということでは必ずしもなくて、そこは、総理の補佐をする一環として、NSCの局長とも連携をとりながら分業をするということは十分考えられると思います。
最後になりましたけれども、この法案ができることは、私にとっては、日米安保を十年やらせていただきましたけれども、隔世の感がある極めて重要な法案であると同時に、これは間違いなく、日本がこれから十年、二十年、東アジアで起きているパワーシフトを生き延びるために絶対必要なシステムの一部だと思っております。これだけでもちろん日本が強力な国になるとは思いません。これに、秘密保護、それから国家戦略をつくる、いろいろなことの組み合わせで、日本が生き残るすべを整備していくことが必要だと思っております。
時間となりましたので、私の話はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)