山口二郎の発言 (内閣委員会)

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○山口参考人 おはようございます。北海道大学の山口です。
 私は、どちらかというと、この規制緩和路線に対して疑問を呈する側から、幾つか問題点をお話ししたいと思います。
 第一の問題は、この特区法の根本にあります、いわゆる第三の矢、成長戦略に関する疑問であります。
 既にいろいろな人が指摘しておりますが、この成長戦略、成長路線というものは、二〇〇〇年代に展開されました小泉政権下のいわゆる新自由主義的な構造改革の再現ということになると思います。その時代、確かに景気は戦後最長の拡大を続けましたが、同時に、労働者の賃金は下がり続ける、企業収益は上がるが賃金は下がるという現象が起こったわけであります。
 その分配の仕組み、あるいは雇用に関するいろいろなルールをそのままにしておいて、また今回、企業収益が改善しているとしても、一時金、大企業のボーナスはふえるかもしれませんが、普通の人々の生活に富が還元されるということは期待できないと思います。
 今回、安倍政権のもとで成長戦略がさまざまに議論されておりますが、この議論の仕方そのものについても私は大きな疑問を持っております。規制緩和はすなわち善なのかという疑問であります。
 特定の人の名前を挙げて恐縮ですが、産業競争力会議の委員をしていた三木谷さんという方、薬のネット販売の解禁について、一〇〇%解禁じゃないといって、委員を辞すると気炎を上げておられます。
 私は、楽天イーグルスの優勝には非常に拍手をしていまして、ああいう形のチャレンジ、競争というのは大いに結構だと思います。しかしながら、三木谷さんの言い分というのは、あたかも、楽天イーグルスはピッチャー中心のチームだから、楽天が勝てるように、ストライク三つでアウトじゃなくて、ストライク二つでアウトになるようにルールを変えろと言っているようなものであります。
 審議会の委員というのは、自分の企業、自分の利益をただふやすための道具なのか。これは、極めて根本的な問題です。医療、労働等の審議会においては、あらかじめ立場が異なることを前提として、それぞれの立場の代表者を入れ、それに中立、公益を代表する人が入り、全体として国のために何が必要か、公益とは何かという議論をする仕組みになっておりますが、今回の競争力会議等は、もう露骨に自分たちの利益を追求するということが展開をされております。これは、はっきり言って、公の解体あるいは国家の私物化とでも言うべき現象であります。
 戦後教育が私的な権利ばかり主張する人間を育てていって、公を尊重する気持ちが低下しているという批判が特に保守的な立場の議員の方々からよく聞かれますが、それに照らして言うならば、ああいう審議会であられもなく自分の利益を追求する人々こそ、戦後教育のもたらした所産だ。これに対して保守的な先生方はなぜ批判をしないのか。深谷隆司先生がネットでこの点については的確な批判をしておられましたが、そのような見識のある声をぜひ聞きたいと私は思っております。
 二つ目の問題として、今回の特区法案そのものについて特にきょうのほかのお三方とは違う観点から、すなわち、法律的な観点から少し疑問を申し上げたいと思います。
 憲法第九十五条では、一つの地方公共団体のみに適用する法律に関しては、その地方公共団体の住民投票による合意がなければ法律は制定できないと規定してあります。この九十五条の立法の趣旨は、国の法律によって特定の地方公共団体の自治を剥奪する、あるいは特定の地方公共団体の住民に対して法のもとの平等を侵害するということを防ぐという点にあります。
 今回の特区法案は適用する地方公共団体がまだ具体化されておりませんから、この特区法案そのものについて九十五条に基づく住民投票が必要だと主張するのは、やや無理があるだろうとは思います。しかしながら、その特区法ができた後、具体的に地域指定をして、雇用とか医療とか建築等々といった分野についてほかの地域とは違う基準を当てはめるということになりますと、いわば行政の意思決定によって特定地方公共団体の住民が本来持つべき権利を侵害するという危険があるわけであります。
 したがって、特区の地域指定あるいはその特区の中身でどのような規制緩和を行うのかということについて、地方からの意見を述べる機会を保障する、あるいは地方の側の同意を得るという手続を課すといった点でもう少し議論を深めていただきたいと思うわけであります。現状では、上からの主導で特区を指定する、そして特定地方公共団体について、ある人にとってはそれはビジネスチャンスの拡大かもしれないけれども、違う立場の人にとっては権利の侵害であるような事態が生じ得るわけであります。
 一国多制度という理念、これは、私自身もかつて論文の中で日本にも必要なアイデアではないかということは主張しました。
 ヨーロッパでは、スウェーデン等で一国多制度が進んでおりますし、イギリスではスコットランドの地方分権など、一つの国の中にいろいろなスタンダードがあるという改革は既にかなり進んでおります。この場合は、やはり下からの参加、提案に基づいて一国多制度が展開されているわけでありまして、そうすると、やはり自治体の創意工夫で多様な政策を展開していくという話になります。
 今回の特区は、いわば上からのリーダーシップの発揮というか、あるいは押しつけというか、住民あるいは地方不在の改革が進んでいくという懸念があります。したがって、特区の運用の中で住民や地方議会の発言権をどのように組み込むか。知事あるいは市町村長が会議に入るだけではやはり不十分でありまして、特区の具体的な中身、効果、予想される危険性等について地方の声をしっかりと取り入れるという工夫をしていただきたいと思うわけであります。
 さて、三つ目の論点として、特に、今回の特区法案の中で争点になりました、雇用をめぐる規制について、少し問題点を述べたいと思います。
 雇用市場の柔軟化、労働市場の柔軟化ということがずっと十数年来主張されてまいりました。その中で、ヨーロッパにおける成功例がしばしば参照されます。例えば、デンマークという国が一つのモデルであります。
 デンマークは、いわゆる社会民主主義の政権がいろいろな改革をする中で、労働市場の柔軟化、これはフレキシビリティーとソーシャルセキュリティーの二つの言葉を合わせて、フレクシキュリティーなどと言われるモデルをつくりました。
 私は、十年ほど前にデンマーク元首相のラスムッセンさんを日本にお招きしてお話を伺いました。その中で、ラスムッセンさんは、デンマークは世界で一番労働者を解雇しやすい国です、社会民主主義系の元首相がそういうことを胸を張っておっしゃるわけですね。ただし、同時に、デンマークは世界で最も国民が失業を恐れない国でありますとおっしゃいました。つまり、柔軟な労働市場の背後には、いわば解雇された、職を失った人が安心して次の仕事を探せるように、その間の生活を支える安定した基盤が存在しているということをラスムッセンさんは強調されたわけです。すなわち、失業給付、住宅、教育雇用訓練、医療、子供の教育等々、人間の生活を支えるさまざまな社会サービスが安定していて、常に必要に応じて供給されるという仕組みがあるからこそ、労働市場の柔軟化は可能になるわけです。
 今回の特区の話を聞きまして、私は、これはデンマークモデルのいいところ取りではないか、特に雇う側にとってのいいところ取りではないかという疑問を持つわけであります。
 雇用に関するルールを地域限定で緩和しますということなんですけれども、では、いわば流動化でもって仕事の安定性を失う、働く側に対するケアはどうなのかと。雇用保険とかさまざまな社会政策というのは、これはやはり国全体をカバーするいわゆるセーフティーネットでありまして、地域限定でここだけ雇用保険の給付金額を上げますとかいう話は、やはり無理ですよね。ですから、いわばルールを変えて労働市場を柔軟化していく、しかしながら、そのために発生する拡大したリスクについては、その特定の地方自治体の住民が背負えというのは、やはり非常に均衡を失した話ではないかと考えるわけであります。
 そういう意味で、仮に、雇用を柔軟化する、いわばデンマークやオランダ等のモデルを日本でも追求していくということであれば、これは、地域限定でできるところからやっていくということではなくて、やはり国全体の社会のモデルというものを考えて、柔軟化に伴うリスクの拡大に対してそれをどのようにカバーするかという国全体のセーフティーネットの議論を同時にしていかなければならないだろうと思います。
 その点で、雇用や医療等、国民の生活に密接にかかわる分野に関して、地域限定で規制を緩和して競争原理にさらす、あるいは利益追求をもっと拡大していくということになりますと、特区というものは、いわば基本的人権を保障しない、法律の保護外の無法地帯あるいは番外地をつくるという結果になるのではないかということを私は大変懸念しているわけであります。
 全体として、もちろん経済の活性化は大いに結構でありますし、私もデンマークモデルについては日本にとっても非常に参考になるものだと。観念的に規制緩和は悪だという議論はするつもりはありません。
 しかしながら、一方で、競争を促進してリスクを拡大するのであれば、やはりそれに対応するセーフティーネットについてもバランスをとって議論をしていただきたいということを再度申し上げて、私の意見を終わりといたします。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 山口二郎

speaker_id: 24305

日付: 2013-11-14

院: 衆議院

会議名: 内閣委員会