神津里季生の発言 (予算委員会公聴会)

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○神津公述人 おはようございます。御指名いただきました、連合事務局長を務めております神津里季生と申します。どうかよろしくお願い申し上げたいと思います。
 本日は、このような機会を与えていただいたことにまず感謝を申し上げたいというふうに思います。
 働く者の立場から、取り巻く現状、課題、そういったことについての私たちの問題意識を述べさせていただきたいと思います。
 お手元にレジュメをお配りさせていただいております。四点にわたって発言をさせていただきたいというふうに思います。
 まず一点目でありますが、私たちを取り巻く環境、そしてそのもとで今なすべきことということであります。
 日本経済は、金融緩和による円高是正をきっかけとして、輸出型産業を中心に高収益が相次いでおる、景気は回復局面にあると言われております。しかしながら、日本全体を見れば、地方への波及はまだまばらということでありますし、私たち働く者、生活者にとっては、足元の物価上昇からも家計が圧迫されているのが現実であります。そして、この二十年間に不安定な雇用形態が増大をしたということも相まって、国民の多くは景気回復を実感できる状況にはないと言わざるを得ないと思います。
 このような中、私ども連合は、組織を挙げて、目下、春闘の取り組みに邁進をしております。ことしは、さまざまな形での前宣伝が効いておりまして、マスメディアの臆測報道も頻発をしておりますが、肝心なのはこれからであります。一つ一つの労使の間での真摯な交渉、その一つ一つの真摯な交渉の壮大な積み重ねであります春闘において全体が納得のいく回答を得ていくことは、極めて重要と認識をしております。
 ことしの春闘は、いわば、四十年前の超インフレの抑制に労働側が極めて重たい決断をいたしました、そのことの裏返しであると認識をしております。当時、私ども労働側の先輩方は、かんかんがくがくの議論を経て、労働側として要求を抑制いたしました。今回は、経営側が、合成の誤謬に陥ることなく、全ての働く者への成果還元に向けて月例賃金の引き上げをしていくことがデフレ脱却には不可欠だと認識をしております。
 大半の経営者の方々は、依然として、収益の向上を報酬で還元するという言辞に終始をしておるのかなと思います。税制の恩典につきましても、年収全体の引き上げに呼応したものとなっておるわけであります。
 しかしながら、収益が向上したところが一時金を引き上げるということは、ある意味で当たり前のことであります。結果として、この春闘、大企業正社員の一時金増だけで幕が引かれるとなれば、一体これまでと何が違うのかとなってしまうわけであります。そんなことでは、経済の好循環などは絵に描いた餅にしかなりません。私ども連合は、あくまでも月例賃金の引き上げにこだわり、交渉を展開しておるところであります。
 そして、私どもとして、もう一つのこだわりが底上げであります。全ての働く者、とりわけ二千万人を超える非正規労働者、あるいは働く者の七割を占める中小企業で働く労働者、この方々に対する処遇改善、格差是正を進めなければ、賃金デフレからの脱却は到底できないと思います。非正規労働者、あるいは中小企業で働く労働者、そしていわゆる低所得の方々の層を置き去りにすることは、将来の経済あるいは社会保障の担い手の不足にもつながるわけでありまして、日本社会そのものがさらに疲弊をしていくことになります。これでは、持続可能な経済の好循環は到底実現できないというふうに思います。
 また、大手と中小企業の格差是正のためには、取引関係における不当な買いたたきなどの行為を許さない取り組みも重要であります。そのためには、適正な取引関係の確立、公契約基本法、公契約条例の制定に関する取り組みを強化する必要があります。加えまして、消費税率の引き上げに伴う転嫁拒否など、悪質な取引の抑制を図り、中小企業労働者の生活や労働条件等を確保する必要があります。
 連合といたしましても、ホットラインを開設しております。具体的な取り組みとして展開をしております。政府としての一層の取り組み強化を要請しておきたいというふうに思います。
 二点目の論点でありますが、デフレの元凶は何であったのかということ、これを真摯に振り返る必要があるということであります。
 足元の雇用情勢、直近十二月の完全失業率三・七%ということで、全体の数値は改善をしておると思います。しかしながら、若年層の完全失業率に着目する必要があります。十五歳から二十四歳は五・九%、それから二十五歳から三十四歳の層においても四・七%ということで、相対的に失業率の水準が高い。その中身も含めて、直視をしておく必要があります。
 全雇用者に占める非正規労働者の比率、先ほども触れましたが、依然として増加傾向にあります。雇用労働者全体の三八・二%、二千四十三万人に上る非正規労働者、これは、割合も人数も過去二十年において最大ということであります。産業間で多少のばらつきはあるにいたしましても、民間あるいは公務ともに、非正規労働者が占める割合は増加の一途にあります。
 そしてまた、非正規労働者の処遇に目を向けますと、私ども連合の調査によれば、半数近くの非正規労働者が、実は、内容としては正社員と同じ業務内容であったり、あるいは責任や勤務状況についても正社員と同様である、そういった実態にあるにもかかわらず、賃金あるいは福利厚生といった処遇面においては正社員との格差が存在するところが多く、私ども連合として目指している均等待遇原則とは全くかけ離れた現実があります。
 また、非正規労働者の約二割あるいは派遣労働者の四割が、みずから望まずしてその職についているいわゆる不本意非正規であります。一部の調査では、派遣の方々の六割が正社員として働きたいという回答もあるわけであります。
 厚生労働省が調査をしたことは御存じのとおりであります。若者の使い捨てが疑われるいわゆるブラック企業に対しまして過重労働重点監督を集中的に実施し、対象とした五千百十一事業場の実に八割以上の職場で法令違反が発覚したことは御承知のとおりであります。
 私たち連合といたしましては、二〇〇七年から非正規労働センターを立ち上げております。そして、本日に至るまで、非正規労働の組合員の仲間をふやし続けてきております。現時点でおよそ八十万人程度の組合員数となっておりますが、さらに、私ども連合として、広範にカバーをしていくべく、取り組みを強化しております。
 そしてまた、ここ直近では、新たな取り組みとして、各地方連合会で、古賀会長との直接の非正規労働の皆さん方との対話集会、これを開催してきております。その中ではさまざまな悲鳴が上がっております。
 一端を御紹介したいと思いますが、十年間同じ職場で働いているけれども時給が一円も上がらない、あるいは、低賃金もつらいけれども、それよりも心の安定が欲しい、そして、契約を切られる、いつ切られるかという不安を抱えながら仕事をしている、そういった悲痛な訴えに連日直面をしている状況であります。
 そして、このような中で、御存じのとおり、年収二百万円以下のいわゆるワーキングプアと言われる労働者は増加の一途をたどり、現在約一千九十万人となっております。生活保護の受給者についても、二〇一三年十一月に二百十六万四千八百五十七人、受給世帯数は百五十九万世帯を超えて、ともに過去最多を更新し続けているわけであります。そして、働ける世代の受給者が急増している。そしてまた、将来を考えますと、不登校だとかニート、引きこもりなど、就労につながらない懸念のある若者も、今後、生活保護に至るリスクを抱えておるわけであります。
 こういった働く者一人一人にとって悲鳴の上がる状況であるということとともに、その現象が、同時に、税や社会保険料の担い手を減らし、超高齢社会のもとで増加する社会保障給付費に対応できずに、社会保障制度への不信や将来不安を高め、結果として負の構造をさらに悪化させているわけであります。
 日本の経済社会を縮小均衡の世界に追いやった、このいわば悪魔のスパイラルこそ長引くデフレの元凶であったことを直視しておかなければならないと思います。
 安倍政権は、大企業の賃上げをターゲットにした発言を目立たせる中で経済の好循環の実現を図っておられますが、本当の意味で、この間、長きにわたったデフレの元凶は何だったのか、その点を踏まえた施策の展開がなければ、今後の経済運営は空回りに終わってしまうのではないかという懸念を持ちます。
 まして、伝えられるような雇用労働分野でのルール改悪の方向は、アクセルを踏み込む前にブレーキを踏んでいくようなものでありまして、自己撞着も甚だしいものと言わざるを得ないと思います。
 産業競争力会議や規制改革会議では、総理の就任以来、日本を世界で一番企業が活躍しやすい国にするために、雇用労働分野の規制改革が議論をされています。ほかの経済規制、参入規制などと同じ次元でこれらを岩盤規制と称し、扱うこと自体が私はミスリーディングだと思います。まず政府がなすべきは、デフレの元凶となった雇用の非正規化、不安定化をどのように反転させるかという視点での検討であると思います。ブラック企業の横行をストップさせることがまず先決であると思います。
 現時点では、むしろ、総理主導で労働政策の基本施策を策定、検討する形をさらに強化される方向にあるようですが、ILOの三者構成原則を無視した進め方という問題点はもとより、本当に雇用の現場で何が起きているのか、そしてデフレの元凶は何であったのか、こういったことを深掘りしないままの議論で基本的な物事が決められる、決められようとしていること自体に、私どもとしては重大な危機感を持たざるを得ません。
 三点目でありますが、将来世代への負担先送りをやめていかなければならないという点であります。
 二月の六日に補正予算が成立をいたしましたが、その中身の多くは二〇一四年予算の前倒しといった色合いが濃いと思います。
 低所得者対策あるいは待機児童の解消に向けた子育て支援など、国民生活に直結する緊急な支出と認められるものが相対的にわずかであったというふうに認識をしています。一方で、公共事業については、いまだに執行されていない予算があるにもかかわらず、約一兆円の積み増しとなったわけであります。
 政府は、本補正予算につきまして、持続的な経済成長につなげるとされたわけでありますけれども、公共事業頼みの景気回復は限界があります。むしろ、財政面においては将来世代へ負担を先送りすることとなって、持続的な経済成長につながらないということは明らかではないかと思います。
 さらに、二〇一四年度の予算案においても公共事業費は増額が図られようとしています。一般会計総額は当初予算として過去最大の九十五・九兆円というわけでありますが、消費税率の引き上げにより国民負担を求める一方で、公共事業のさらなる積み増しを盛り込むことは、全体のバランスを欠いており、問題だと思います。
 また、社会保障と税の一体改革が進められていますが、抜本改革の道筋はいまだ示されておりません。貧困、格差の拡大につながる生活扶助基準の引き下げの継続、医療保険制度における患者、被保険者の負担増となる診療報酬のプラス改定、そして安易なリストラを誘発しかねない労働移動支援助成金等の拡充、雇用調整助成金の厳格化、こういった、国民生活の底上げや将来不安の解消とは逆行する内容も多く盛り込まれているのではないかと認識をしております。
 デフレからの脱却、経済の好循環をなし遂げるためにも、質の高い雇用の創出あるいは社会的セーフティーネットの強化、安心して子供を産み育てられる環境整備、信頼の医療・介護・年金制度の再構築などに重点的に予算配分を行う必要があるのではないでしょうか。国会での十分な議論を通じた見直しを求めるものであります。
 私たち連合は、いわば最大の納税者集団であります。そしてまた、源泉徴収制度により、最も明確に納税義務を果たしている集団でもあります。
 私ども働く者一人一人が汗水垂らして働いて得た賃金から払っている税金が一体どのように使われているのでしょうか。オイルショック以降の年々の特例公債による借金がここまで積み上がってしまっていることに対して、私どもは、そういった集団として、重大な問題意識を持たざるを得ません。将来世代の負担を今から目に見えて減らしていかなければならないのではないでしょうか。予算審議のあり方そのものにも改善を図っていただきたい、このようにも思うところであります。
 最後、四点目でありますが、二〇五〇年を見据えてまいりたい、こういうことであります。
 目下、外国人受け入れ環境の整備が産業競争力強化の文脈で提起をされておりますが、私どもにしてみますと、外国人労働者をふやすとなぜ産業競争力が向上するのか、率直に言って理解に苦しむところであります。これが、安価な労働力を確保し、企業の雇用コストを低減させるということを含んでいるのであれば、デフレからの早期脱却の最重要課題とは矛盾する政策と言わざるを得ないと思います。
 東京オリンピックに向けて外国人による建設人材確保が云々されていますが、率直に申し上げまして、安直なにおいを感じざるを得ません。むしろ、若年層を中心とした技能の保持、育成、あるいは安全面、環境面を含めた労働条件の向上など、魅力ある産業としての強化策こそ、まず確立すべきではないでしょうか。
 そもそも、外国人受け入れということにつきましては、労働力確保の観点のみで検討されるべきことではなくて、社会での受け入れといった社会統合の観点からの可否検討が不可欠であります。国民的議論を丁寧に行いつつ検討すべきと考えます。欧米先進国で既に見られますような新たな差別感情を生むとか、あるいは無用な民族感情を助長するようなことがあってはならないと思います。足元の苦し紛れで禍根を残すような施策は、厳に慎むべきと考えます。
 まさに、私どもにとって大事なことは、自分たちの日本をどうするかということだと思います。これまでの間、幸せでない日本人労働者がふえてしまった、このことをこのままにして外国人労働者を受け入れるということは、不幸せな外国人労働者をつくり、ふやしてしまうことになるのではないでしょうか。私たちにはその前にやるべきことがあります。この国で働くことがすなわち幸せにつながるという、まず、その姿を全ての働く者の共通軸にしていかなければならないと思います。
 そのためには、社会的セーフティーネットを強化することが必要であります。世界に類を見ないスピードで進展をする超少子高齢社会にあって、社会保障・税の一体改革関連法により実現を目指す全世代支援型の社会保障制度への転換及び制度の充実、安定化に向けた道筋を明確に示すことで、国民の将来不安を払拭する必要があると思います。
 そして、税と社会保障による所得再分配機能を強化することであります。この間に行われたさまざまな施策により、所得再分配機能は弱められてきたと認識をしております。また、何度も繰り返しますが、非正規労働者の増大は、ワーキングプアを生み出し、これは被用者社会保険の適用とならない人を増大させてまいりました。このことが、先ほど申し上げた、悪魔のスパイラルダウンにつながっておるわけであります。今後、累進性の強化、あるいは人的控除の見直し、給付つき税額控除の導入などによって、基幹税である所得税を再構築し、税の所得再分配機能を強めることが急務だと思います。
 こうした底上げ、底支え、格差是正につながる政策の実行は、今後、将来不安を払拭し、個人消費の回復につながり、デフレ脱却、経済の好循環を実現することにつながるのであると思います。
 そして、今後、さらなる持続的な経済成長を実現するためには、労働参加率と生産性の向上が鍵となります。
 私どもは春季交渉に一斉に臨んでいるということは先ほど申し上げましたが、私どものガイドブック、連合白書でも掲げておるんですが、二〇五〇年段階の日本社会を展望しつつ運動を進めよう、これが一つの私どものキャッチフレーズであります。
 もちろん、この一年、そして足元の、目の前の春闘が決定的に重要であるということも論をまたないと思っております。しかし、一年だけでは到底問題は解決し得ないと思います。将来の日本社会を見据えるという観点からも、働く者が中長期的に不安なく生活をし、生き生きと働き、将来を展望できる、そういった安心社会の構築が重要であります。
 私ども連合としても、その役割発揮に向けて努力を重ねてまいる旨を述べまして、以上、発言とさせていただきます。
 本日はまことにありがとうございます。(拍手)

発言情報

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発言者: 神津里季生

speaker_id: 29700

日付: 2014-02-25

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会