藤田実の発言 (予算委員会公聴会)
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○藤田公述人 おはようございます。桜美林大学の藤田と申します。
こういう機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
私は、産業と労働に関する経済学を研究してきた、そういう立場から、日本経済の現状と成長戦略の問題点について意見を述べたいと思います。
まず初めに、この一年間の日本経済の現状について、主としてGDP統計に基づきまして意見を述べたいというふうに思っています。お手元の資料をもとにして、図表も若干つけてありますので、参考にしながら説明したいと思います。
まず、経済循環構造から見て日本経済は今どういう問題点を抱えているのかという話をしますと、家計最終消費支出の問題からいきますと、これが、まあ堅実によくなってきているというのは事実でしょうけれども、私の見方では、やはり弱々しいのじゃないか。
といいますのは、この間、成長率で見ると、実質で〇・七、〇・二、〇・五という数字でありまして、特に、この十月から十二月期というのは、消費増税前の駆け込み需要があるんじゃないかと言われておりましたし、それから株高ということで、高額消費が続いているという話がありましたので、そういう意味では、消費マインドは少し前向きになっている、そういうマスコミ報道が結構あったと思うんですね。しかし、実態的には、国民の広範な消費にはまだ結びついていないというふうに感じています。
それは一体なぜかというと、株高といっても、日銀の資金循環表に基づけば、株式の割合というのは八・五%程度なんですよね。投資信託を合わせても一三%程度ですから、株高の直接的な恩恵にあずかれる国民といいますか家計というのは、それほど私は、直接的な恩恵ですよ、多くはないんじゃないかと考えています。
それに対して、やはり駆け込み需要的な住宅投資がふえているということがありますので、これが全体的な景気を支えている、そういう感じがいたしております。
もう一つは、この間、政府は、補正予算と合わせると約十兆円近い公共事業に予算をつぎ込んできたというふうに思います。それで、この十兆円規模というのは、恐らくはバブル崩壊後の数年間、それから九七年からのいわゆる金融危機以後の数年間で行われた規模に匹敵するということですから、二〇〇〇年以後ではかなりまれなケースといいますか、そういうことだと思うんです。
そういうことで、一定程度、公的需要の部分では伸びてきてはいたんだけれども、それが民間需要にどう展開するかということが自律的な経済循環を考えるときには絶対必要なことなんだけれども、この動きは、民間需要が私はそれほど強くないと思っています。この直近の期でいうと、公的需要が〇・九で民間需要が〇・八ですから、逆転をしているということで、構造的な違いがあるんだというふうに政府は述べていますけれども、これだけで状況を見ることはまだできないんじゃないか、民間需要がどれだけ今後伸びていくかということを考えなければいけないだろうというふうに思っております。
それから、それ以上に私は問題だと思うのは、輸出の問題でございます。
これに関しましては、幾つか報道されていますように、輸出が伸びない。輸出金額を二図表という形で入れておきましたけれども、一進一退という状態ですよね。それで、レジュメに書いておきましたけれども、二〇一三年三月に六兆二千七百九億円がいわば直近のピークで、これをいまだ超えていない、こういう現状でございます。
それから、金額以上に私は問題だと思うのは、輸出数量が依然として伸びていない。これも二ページ目の三図表に書いてありますけれども、二〇一〇年を一〇〇とすると、ほとんど二〇一〇年を超えていないという現状がございます。
というと、どういう問題が起きてくるかというと、輸出数量が増大しないと、当然ながら生産が増大しない、雇用が増大しない、賃金が増大しない、こういうことになってくる。結局は、一体どういうことを意味していくのかということを考えますと、輸出金額が一定程度伸びても数量が伸びないということを考えると、恐らく、輸出品目が変わってきている。つまり、付加価値の高いものに変わってきている可能性は十分ある。
そう考えると、つまり、普及品等は海外に行くという状態、海外生産が続いて、付加価値の高いいわゆる高級品が国内生産で輸出に回っていく、こういう状態を考えていくと、今後とも輸出が大きく伸びるという可能性は僕は少ないんじゃないかなというふうには考えています。もちろん、海外の経済状況、新興国の経済がどうなるかに大きく左右される側面はあると思いますけれども、今のところ、そういうふうに感じている。
そうしますと、いわゆる内需が停滞していたのを輸出が補って、輸出主導で景気が回復していった、これがいわゆるあの二〇〇二年から二〇〇八年までのイザナミ景気のいわば実態だったんじゃないかなと思うんですけれども、こういうイザナミ型の景気回復の道というのはたどれるのかどうかということは、私は疑問には感じております。
それからもう一点は、設備投資における変化です。
設備投資、若干伸びてはいるということにはなっておりますが、確かに、今期では一・三%という形で、一定程度、公共事業もやりましたし、それから民間の住宅需要もあるという点で、伸びているということはあると思うんですけれども、先ほども話がありましたけれども、その中身、私は中身が問題じゃないかなと思います。
三ページの四図表に、日本政策投資銀行の設備投資計画調査から、投資動機のウエートの推移というのを引いてきました。二〇一三年度はまだ計画段階ですけれども、これを見て一目瞭然だと思うんですけれども、基本的に、以前は能力増強投資が最大であった、設備投資の中で能力増強投資が多かった。ところが、これが徐々に下がってきていて、現在は、二〇一三年度の計画段階の数値ですけれども、維持補修の部分が上回ってくるということになっております。
この維持補修という設備投資そのものというのは、日本の平均機械年齢が、たしかもう十年を超えていると数値的には言えると思うんですね。だから、そういう意味では、機械装置が古くなっていますから、維持更新するというのは、それはそれで重要なことである、日本の生産力を維持していくためには、これは絶対必要なことだというふうに思うんです。
しかし、問題は、やはり能力増強投資が大きく伸びていくという状況をつくらないと、つまり、能力増強投資ですから、生産能力を高めていく。つまり、生産がふえてくる。そうすれば、当然それを通じて雇用もふえてくる。雇用がふえれば、マクロ的に賃金もふえてくる。こういう形の好循環が成立するはずだけれども、こういう好循環がどこまで成立していくのかという点については、これは今年度の計画段階ですから、これが今後も続くかどうかという点は、ちょっと時間を追って見ないといけないところはあるけれども、私は危惧の念を感じているということでございます。
それからもう一つは、海外設備投資がこの間、増加しております。これは、同じく五図表で、海外設備投資比率を出しておきました。自動車等に関して見れば、単体と連結の比較ということではございますけれども、一・八倍から二倍近く、海外に設備投資が流れていく、こういう状態になっている。
そうなりますと、結局、私は、円安転換しても、以前のように輸出が増大して、それによって生産が増大して、それがまた設備投資を拡大していく、雇用増と賃金増をもたらしていく、そういういわば循環が弱いんじゃないか、弱い状態のまま推移していく危険性があるんじゃないか。つまり、日本の経済構造あるいは産業構造がこの間大きく転換してきている、そういうことを前提に考えなければいけないのではないか、こういうふうに考えてはいます。
こういうことを考えますと、結局、金融財政政策ということで、第一の矢、第二の矢ということでアベノミクスがやってきましたけれども、これの限界というものが出てきているのじゃないかなという感じがしております。
といいますのは、やはり、無制限の金融緩和をして、いわばインフレ期待を高めて国民の消費マインドに火をつけていくというのが、まあ物価は一定程度上昇はしていて一定程度最終消費支出も伸びてはいるけれども、これが大きく伸びるという現状にはなっていないということがございますし、それから、先ほど言いましたように、円安転換しても輸出が伸びてこない、輸出数量が伸びないという状態を考えると、それから、設備投資に関しても能力増強投資の割合が少ない、こういう状態を考えると、好循環にはほど遠い状態になっているというふうに考えています。
そう考えますと、やはり成長戦略が重要だという点は私も同意見です。やはり成長戦略をしておくことが必要だ、きちんと考える必要があるというふうに考えております。
ただし、私は、現在の成長戦略というのは、企業部門中心の成長戦略であるということで、極めて問題が大きいんじゃないかと思っています。
五ページのところに、日本再興戦略の概要ということで、閣議決定と当面の方針を私なりにまとめたものがございます。民間企業の活力というところから具体的な成長産業と考えているというところまで含めて、どういう目標を決めているのか、どういう内容を持っているのかというのをまとめてみました。
これを見ますとわかると思うんですけれども、基本的には、グローバル競争力をいかに強化するかという観点に貫かれている。例えばビジネス環境の整備だと、ビジネス環境ランキングで先進国十五位から三位以内を目指すとか、アジアナンバーワンの市場を構築するんだとか、インフラ受注額を伸ばしていくんだというような、基本的には、グローバル競争の中でいかに勝ち抜くかという観点になっている。
それからもう一つは、産業政策では、ターゲティング政策を重視している。エネルギー産業とか健康医療産業とか農林水産業。
ただ、これは、もうここ十年近くさまざまな政府の成長政策みたいな中で出てきたものであって、私自身は、ほとんどかわりばえしないという印象は持っています。もともと経済学的には、ターゲットを決めてそのとおりいくというのは、市場経済を前提にする限りはそういうことはあり得ないという意見がやはり強いという中で、産業政策だけをやっても、恐らく成長戦略にはなかなかなり切れないというふうに考えております。
その上で、企業部門中心の成長戦略の問題点でございますけれども、グローバル化にいかに勝ち抜くかということを考えたとしても、グローバル化で日本の所得収支は、この間、特にイザナミ景気のときに日本の所得収支は増加したんだけれども、実は賃金増加には結びついていないということがございます。これは六図表です。
六図表の中で、日本の所得収支と賃金・財産所得の推移という形で調べたのを入れておきましたけれども、明らかに、日本のグローバル化、海外展開の進行に伴って所得収支はかなり大きくなっているということがございますけれども、その所得収支が国内には還元されてこなかったというのが現実だったのではないかと。つまり、グローバル化と国民経済あるいは国民生活は矛盾する側面が出てきているというのは、日本だけではなくて、欧米においても同じような状態なのではないかというふうに思っております。
同じように、この間の、下の七図表でございますけれども、賃金と利益の関係を見ましても、営業純益は増加したけれども、結局は従業員給与には反映されていない、こういう状態が続いてきているということがございます。
この原因については、一般的には、もちろん、非正規雇用労働者の増加で雇用者報酬金額自体が低下したということがあるのは事実であって、先ほども連合の事務局長さんの方からも非正規労働者がふえているというのがありましたけれども、もう三六・七%以上に達している、三分の一以上だし、いわば賃金の低い二百万円以下の労働者も、私も八図表で示しておきましたけれども、一千万人を超えるレベルになってきているということがございます。
こういう現状はあるんだけれども、こうした形で、日本の場合は、低い非正規雇用をたくさん使ったということが賃金を下げていって、いわば名目賃金を下げていく、そのことがデフレを招いていったというのははっきりしているんではないかなと考えています。
それからもう一点、政府の成長戦略の中で、雇用制度改革ということに強く力を入れている。限定正社員制度とか裁量労働制を拡大するという方向が出されています。これについては、日本経済にどういう影響を与えるか、賃金にどういう影響を与えるかという観点からは、九図表で、労働運動総合研究所の雇用制度改革の賃金への影響という、総括表という形で出しておきました。
八ページからは、その総括表のもとになった試算を提示しておりますので、御参考にしてください。
これによりますと、これは最大見積もってということになるので、こういうふうになるかどうかというのはまだよくわかりませんけれども、最大だと四十一・九兆円の賃金減少が起きてくる。つまり、そうすると、労働者の賃金の七割が消費支出に回ると考えると、三十兆円近く消費支出が減少するじゃないか。そうすると、国内生産は消費支出のほぼ一・八倍の影響を受けることになるから、国内生産は五十四兆円も減少してくる。国内生産額のほぼ半分は付加価値と考えることができるから、そうすると付加価値も二十七兆円減少する。二〇一二年度のGDPは四百七十二・六兆円だから、GDPは五・七%減る。数字上はこういう計算ができてくるというふうになるんではないかと思います。
それからもう一つは、新規成長産業という形で、医療、福祉産業とか観光産業ということを考えておられますよね。政府の目標だと、二〇三〇年には三千万人まで訪日外国人をふやしていくということですから、観光産業が一つの成長産業という位置づけが出てくる。
しかし、問題は、福祉とか観光の賃金が低い、そういう問題だと思うんですね。
福祉に関しては、七ページの十図表で、福祉職の所定内賃金の推移を、九七年を一〇〇とした数字で示しておきました。これで見ますと、二〇〇〇年前後から産業計を下回っていく、こういう状態になってきているということがございます。
宿泊業の数字で見ると、二〇一〇年は八九・二です、産業平均を一〇〇とした場合ですね。それから、旅行業を含むその他生活関連サービス業が九四・三です。いずれも産業平均よりも少ない。
こうなると、例えば、成長産業はもちろんこれだけではないわけですけれども、ここが一つのターゲットになっているというふうに考えると、まさにプアな成長産業ではないかというふうに私は考えざるを得ない。したがいまして、新規成長産業における労働条件の向上が必要なんじゃないか、このように考えております。
そう考えますと、私は、最後、もう時間がないですけれども、国民生活重視の成長戦略に転換すべきだと。
需要創出策は絶対必要なんだけれども、それは、健康とか教育、医療、介護、福祉、観光といったところの労働条件をまず改善する、そういう環境をどうつくっていくかというようなことがまず重要なんじゃないか。こういうところできちんと労働条件の改善ができるということは、結局、国民全体に豊かさと安心感を与えて、安定的な内需基盤をつくり出すだろうというふうに思っております。
それからもう一つは、やはり、地方においてはアベノミクスの影響はほとんど出ていないという話をよく聞きますので、そういう意味では、中小企業を中心とした形で地域の経済循環をいかにつくっていくか、そういうところに成長政策の柱をつくっていくべきだろう。
農業の六次産業化というのを掲げておりますけれども、それは一つの方向ではあるけれども、そういう方向に地域経済の循環をうまくどうつくっていくかという、単なる農業の六次産業化という話だけではなくて、そういう方向が求められているんじゃないか、こういうふうに考えております。
ということで、ほぼ時間になりましたので、これで私の意見陳述を終わりにしたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)